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いざ、賭博場へ

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 一方その頃、スタークたち三人──。

 実に五日ほどの時間を経て、ようやく行動に移し始めたフェアトとは違い、スタークたちが主目的を達成する為に動き始めたのは。

 ズィーノにて初めての賭博、上か下かハイアンドローに勝利して店一軒を食い潰してから二日後の事。

 何故、行動に二日も要したのかというと。

「──いやぁ、どの店も美味ぇのなんの。 やっぱ伊達に【美食国家】名乗ってねぇなぁ」

「お、おぉ。 そうだな……」

 ぽんぽん、と店一軒分を遥かに超えるほどの食事をしたとは思えない細いお腹を叩いたスタークの言葉通り、この街の飲食店という飲食店を食い倒していたからに他ならない。

 ……最初に訪れた一軒と同じく、スタークを出禁にした店も決して少なくはなく、ティエントの困惑もやむなしといったところか。

(……もっと早く行動すべきだったのでは?)

(まぁ、そりゃそうなんだがな……)

 それを考えると、もっと早く行動しておけばこんな事には──……と、ポーラは思わずにいられないのだが、ティエントはティエントなりにどうやら思うところがあるらしく。

(あいつは──……スタークは、この世界をから救う英雄になる。 腹減ったってんなら食わせてやるくらいは、なぁ?)

(……そういうものでしょうか──)

 そもそも、スタークとフェアトはかつての勇者と聖女の血を引いており、いつか必ず英雄の再来を世界が知る筈なのだし、これくらいは大目に見てもいいんじゃないかという甘めな意見に、ポーラが不満げにしていた時。

「──……お。 あれか? 賭博場ってのは」

「……えぇ、その通りです」

 結局、飯時はおろか入浴時さえ外さなかった眼帯を付けたまま、その超人的な聴力によって反射してくる音で以て、本来ならば普通に視界に映っている筈の景色を捉えていたスタークが『あれ』と称した建造物に、ポーラは然りと頷きながら少女の言葉に肯定する。

「もう何っ回も言った気がするが……前に来た時と変わりすぎだろ。 微塵も面影がねぇ」

 その建造物は、ただでさえ眩く光る今のズィーノの街の中でも一層強く輝いており、ティエントの言葉にもある通り五年前とは単純な大きさも外観も、その何もかもが異なる。

 生物の欲という欲、全てを集めて形にしたらこうなりました──そう説明されて初めて納得できそうなその建造物に、スタークは。

「ゴテゴテしてんな──……してるよな?」

「ん? あぁ、してるしてる──」

 無駄な装飾がたくさん付いているように見えているが、それが確かかどうかの確かめようがなく──眼帯を外したが最後、失明する恐れがある為──自分と違って普通に見えている筈のティエントに確認をした、その時。

「──あっ」

「あ?」

 何かに気がついた──……というより何かを思い出したような反応を見せた彼に、スタークが僅か一文字で問い返してみたところ。

「……そういやぁ、あん中に入るにはが必要なんだった。 俺は五年前に作ったやつがあるからいいが、お前らはどうすんだ?」

「そんなもん要んのか、じゃあ今から──」

 彼が訪れた五年前の賭博場では会員証なる通行許可証が必要だったらしく、ティエント自体は五年前のものがあるから問題ないものの、このままだとスタークとポーラは入場を許可されない筈だと今更な事に気がついて。

 まぁ、それならそれで今から発行してもらえばいい、幸い金はあるんだからとスタークが提案しようとした、ちょうどその時──。

「──スターク殿、こちらを」

「ん? こいつは……」

「会員証じゃねぇか、どうしてあんたが?」

 一歩後ろに控えていたポーラがスタークに声をかけつつ懐から何かを取り出し、それを会員証だと──自分が持っているものとは絢爛さが違うが──見抜いたティエントが何故ポーラがスタークの分まで手にいれているのか、という抱いて当然の疑問をぶつけると。

「……昨日、私の前にあの序列十三位《もとまぞく》が現れまして。 『Presentするのを忘れていましたよ! いやぁ私とした事が!』と笑いながら手渡されました。 私と、スターク殿の会員証です。 紛失せぬよう、お持ちください」

 何と、スタークもティエントも不在のタイミングで、あの元魔族がポーラに接触を図っていたらしく、さも本当にうっかりしていたとでも言うように、されど明らかに計算されたタイミングで手渡してきたらしいそれを。

 ポーラが、しっかりと少女に手渡す中で。

「今の、そこそこ似てたな」

「……どうも」

「まぁいいや、そんじゃあ行くか──」

 回想中の物真似が割と似ていたという本当に、本っっっっ当にどうでもいい称賛の言葉を投げかけられたポーラが、それこそ真にどうでもよさそうな反応を見せたのにも気づかず、スタークが賭博場へと向かおうとした。

 ──その時。

「……ティエント? どうした立ち止まって」

「何かありましたか」

 ポーラはスタークに追従したのに、ティエントだけが何故か立ち止まって何かを思案しており、それに気づいた二人が揃って彼への疑問を投げかけたところ、ふと顔を上げて。

「いや、何つーか……この街に入った時からずっとそうだったんだがよ、この賭博場はその比じゃねぇくらいに漂ってくるっつーか」

「……? 何がだよ」

 彼が口にし始めたのは、いまいち歯切れの悪い『彼が抱いている違和感』についての話であり、『漂ってくる』と言うからには彼の嗅覚が何かを感じ取っているのだろうという事だけは理解できた為、問い返してみると。

 ティエントは、ふーっと一呼吸置いて。

「──……だ」

「「嘘……?」」

 色濃い虚構の香りだと告げる。

 だが、その一言だけでは正直なところ何が何だか分からず二人は思わず顔を見合わせ。

「……序列十三位の称号、【胡蝶之夢《マスカレード》】でしたか。 それが嘘に関係するものだとでも?」

「さぁな、そこまでは分からねぇが──」

 可能性として最も高いのは、それこそあの元魔族、序列十三位の称号の力の事なのではとポーラが自分なりに推測し、されど匂い以外は何もピンときていないティエントが首をかしげつつも朧げな自論を展開する一方で。

(フェアトあいつなら分かったんだろうが……まぁ居ねぇやつの話なんざしてもしょうがねぇか)

 今や序列一位から手渡されたというメモは双子どちらの手元にもないものの、フェアトはその内容全てを覚えていた為、妹ならとも考えはしたが、『だからどうした』という投げやりな感情の方が惜しくも勝ってしまい。

「……まぁ入ってみりゃ分かんだろ。 ティエント、ポーラ。 もう引き返せねぇからな?」

「……あぁ、覚悟してるよ」

「言うに及びません」

「っし、そんじゃあ──」

 とりあえず足を踏み入れてから考えりゃいいだろ、という彼女らしい意気込みとともに二人に声をかけ、そんな少女からの声に応えてみせた二人を見て満足げに頷いた彼女は。

 そんじゃあ行くか──……ではなく。

「パイク、眼帯《これ》もっと黒くしろ。 目が痛ぇ」

『りゅ、りゅあ?』

 まだ眩しくて目が痛いからさっさと遮光性を上げろという、パイクへの命令を優先し。

(……『行くか』じゃねぇのかよ)

(何故こうも緊張感に欠けて……)

 いまいち締まらない、勇者と瓜二つな少女の動向に振り回されっぱなしな二人だった。
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