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くれてやる理由

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 ──……くれてやる、と言ったのか?

 二十六体中、最弱とはいえ並び立つ者たちシークエンスの一体であった事に違いはない、この刀を?

 およそ数秒ほどの沈黙の中、姉とは比較にならないくらいの聡明さを誇るフェアトの脳内では、ぐるぐると疑問符が巡っていたが。

「──……別に、必要ないんですけど」

 何故それを私たちに、とか──。

 どういう経緯でこれを、とか──。

 フェアトが口にしたのは、そういった抱いて当然の疑問全てをすっ飛ばした拒絶の言。

 それもその筈、彼女たち双子の旅の目的は並び立つ者たちシークエンスを討伐する事にあるというのに、『くれてやる』なんて言われても困る。

 くれてやった後は好きにしろ、もちろん壊すのも自由だ──……という意図が込められているのかもしれないが、そうなるとセリシアが自分で刀を破棄しない理由が分からず。

(……何を企んで──……いや、とにかく)

 まず間違いなく何らかの目論見があるのだろうとは分かるものの、とりあえず聞いてみない事にはと思い口を開こうとしたその時。

「まぁ、くれるってんならもらうけどよ」

「えっ、はっ!? ちょっと姉さん!?」

 そんな妹をよそに、スタークが何の気なしに刀へ手を伸ばしもらい受けようとするのを見たフェアトは、『何やってるんですか』と諌めつつも弱々しい力で何とか姉を止めて。

「これ並び立つ者たちシークエンスなんですよ!? もらってどうするんですか!? 壊すんですか!?」

「壊さねぇよ。 持っとくだけだ」

「壊すって言ってくださいよ、せめて!」

 そんなものを譲り受けてどうするのか、まぁ壊すというなら分からなくも──と口にしたのだが、スタークから返ってきたのは破壊ではなく保有という予想外の答えであった。

 最悪、『ぶっ壊す』と言ってくれれば納得できたものを──とフェアトが叫ぶ一方で。

「うるせぇな、ちゃんと考えがあんだよ」

「……か、考え? 姉さんに? 本当に?」

「お前マジで──……いや、何でもねぇ」

 まさか、この姉の口から『考えがある』などという言葉が冗談でも飛び出てくるとは思っていなかったフェアトの本気の困惑に、スタークは『張り倒すぞ』と言いかけるも、どうせ痛痒は与えられぬ為、言葉を濁しつつ。

「こいつが願いを叶える確率とやらは?」

「……百回に一度ほど。 検証済みだ」

「なるほどねぇ……」

 ふいっとセリシアの方へ顔を向けて、この刀──……というより【大願成就《ウィッシュ》】が願いを叶えてくれる確率を問うたところ、セリシアから返ってきたのは百分の一という決して高いとは言えずとも『願いが叶う』事を考えれば低いとも言い切れない微妙な確率だった。

 それを耳にした彼女は得心がいったと言わんばかりに頷いた後、今度は妹の方を向き。

「って事はだ。 百回に一度はあたしらの願いが叶う可能性があるんだろ? そんなん持っといて損はねぇじゃねぇかと思うんだがなぁ」

「いや、でもそれは……」

 叶う範囲に限界こそあれ、これを所有しているだけで百分の一の確率で願いが叶うというのなら、たとえ元魔族といっても害のないこれを所有する事に損はない筈だと主張するも、やはりフェアトは納得しかねるようだ。

 そもそも、『考えがある』と言う割には随分と短絡的な答えであると言わざるを得ず。

(それ、考えがあるとは言わないんじゃ──)

 そういうのは『思考停止』と言うのではないか、とフェアトが突っ込もうとした瞬間。

「──“魔闘技祭”を知っているか?」

「……? 何です、それ」

 おそらく何らかのイベントの名称なのだろう、セリシアの口から語られたその単語に聞き覚えのなかったフェアトが問い返す中で。

「──お前、魔闘技祭も知らねぇのかよ」

「……姉さんは知ってるんですか?」

「おぉよ、常識だ常識」

「……ふー……」

 さも『非常識だな』と呆れるような表情と声音を以てスタークが溜息とともに話を振ってきた事により、フェアトは少し息をつく。

 一体どこの世界の常識なんですか──と突っ込みたくなる気持ちをグッと堪えてから。

「……はいはい、それで?」

 若干イラッとしながらも、その聞き覚えのない言葉の意味を知識として得るべく、スタークでもセリシアでもどっちともいいからさっさと教えろとばかりに先を促したところ。

「魔闘技祭ってのは、【武闘国家】の伝統的な祭の事でな。 あたしは見た事も参加した事もねぇが、『武術も魔法も武器術も何でもあり、とにかく強いやつを決める』っつー面白ぇ祭だ──って師匠から聞いた事あんだよ」

「やっぱりキルファさん絡みですか……」

 かつて、あの辺境の地で暮らしていた頃に彼女の師匠であるキルファから、キルファの故郷でもある【武闘国家】にて行われる祭典の話を聞いた事があったようで、おそらくそうなのだろうとは分かっていたが、やはり悪い影響もあるなとフェアトは溜息をこぼす。

 決して【始祖の武闘家】に嫉妬したとかそういう事はない──……そう、決してない。

 ちなみに、キルファ自体は魔闘技祭に参加する事はできないらしく──まぁ彼女の実力や立場を考えれば当然なのだが──そういう意味でも愚痴っぽく語っていたとか何とか。

「確か四年に一度とか言ってたような気もすんだけど、もしかして今年がそうなのか?」

「そうだ。 そして──」

 翻って、スタークがどうにかこうにか昔の話を思い出しつつ、その祭典が行われるのが四年に一度だった筈だと口にしたところ、セリシアは肯定しつつ一呼吸置いてから──。










「それをくれてやる代わりに魔闘技祭へ参加してもらう。 どちらかではなく──

「……ん? あたしはともかく──」

「私も、ですか……?」

 元より魔闘技祭に興味を持っていたスタークだけでなく、どういうわけか武術など微塵もかじっていないフェアトにまで参加を強制させようとする【大陸一の処刑人】の言に。

 双子は揃って同じような困惑を示した。
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