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一掃、そして──

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 もう討伐数だけで言えば優に百体を超えている筈だが、それでも磁砂竜《じさりゅう》たちは減っているように見えず。

「──まずは露払いだ! いい加減、雑魚を相手にすんのも面倒臭ぇと思ってたしなぁ!! 突っ切るぞ!!」

『りゅうっ!!』

『『『ジッ……!? ッ、ギュアァアアッ!!』』』

 また、スタークやパイクたちの視界にも核となる個体の姿は分裂体に紛れて映っていない為か、ひとまず分裂体を全て蹴散らす必要があると判断し、パイクを装備した事で背中に携えている四枚の翼で上昇する。

 その速度は音速と同等かそれ以上であり、スタークたちは事もなげに磁砂竜《じさりゅう》の包囲を突破しつつ、より一層の上空へと──ヴィルファルト大陸全土が見下ろせるほどの遥か上空へと舞い上がり、そして停止した。

 包囲を突破しても、どうやらフェアトたちを逃がすつもりはないらしい磁砂竜《じさりゅう》たちは、スタークたちに意識と警戒は向けながらも即座に二人が突き抜けた穴を更なる分裂体で埋めてしまい、そのせいでフェアトたちからは姉コンビがどうなったのかは知る由もない。

「──シルド、【土壁《バリア》】を! 貴女自身を護る為に!」

『りゅっ!? りゅ、りゅうっ!!』

 とはいえ、『露払い』という言葉から単に包囲を突破しただけで終わる筈がないし、そもそも姉の性格を考えれば途中で戦いを放棄する筈もないのだから、このままだと指輪の状態ではないシルドが姉コンビの攻撃に巻き込まれかねないと判断し、【土壁《バリア》】を促す。

 翻って、フェアトの声の必死さを感じ取ったシルドは驚きつつも、ほんの十日ほど前に魔導国家王都を騒がせた通り魔を閉じ込めた【土閉《クローズ》】と同じ極めて透明度が高く、かつダイヤカットされた障壁を展開した。

 本来、土属性の魔法は地面が存在しない空中では発動も満足に行う事はできないのだが、シルドは取りも直さず神晶竜──最古にして最強の魔物であり、それでいて最古にして最高の鉱石でもある為、自分の身体を触媒にする事で【土壁《バリア》】の展開を可能としていた。


 ……ただ、それは矛《パイク》の方も同じ。


 防ぎきれるかは、フェアトとしても博打だった。


『『『ジィイイ……!?』』』

 一方、何とも簡単に包囲を破られた事で一層の警戒をスタークたちに向けていた磁砂竜《じさりゅう》たちは、その強い警戒心ゆえに攻めあぐねてしまっていたのだが──。

『──ジュアァアアッ!!』

『『『!!』』』

 瞬間、包囲の最奥──群れの奥の奥を飛んでいた個体、彼らの核となる属性袋《プロパタンク》を持った個体が大きく吠えて、それを受けた磁砂竜《じさりゅう》たちは各々魔力を充填する。

 ボサッとするな、それでも【竜種】か──と言わんばかりの鼓舞の意が込められていたのかもしれない。

『『『ジ、アァアア──』』

 【土弾《バレット》】、【雷砲《カノン》】、【土拡《スプレッド》】、【渦雷《ボルテックス》】──自分たちの身体を構成する砂鉄を触媒とし属性袋《プロパタンク》を必要としない二属性の攻撃魔法が今にも撃ち出されんと。


 していた──その時。


「もう遅ぇよ! 消し飛べ!! 【竜矛《ヴルム》──」


「──一掃《スイープ》】!!」


『りゅあーーーーっ!!』


 いつの間にか両爪を普段の矛のように変化させろと指示を出していたらしいスタークは、それこそ嵐の如く押し寄せる魔法の数々にも怖気付く事なく、そんな有象無象を屠り尽くす為に身体を横回転させながら二つの矛による極大の波動を纏う一撃を群れに見舞う。

 その波動は、すでに五百を超えようかという群れを全て飲み込むほどの規模を誇り、【竜種】相応の高い威力と広範囲の魔法をあっさりと打ち消してしまい。

『『『ジッ!? ジギャアァアアアア……ッ!?』』』

 その事実に全ての分裂体が驚くのも束の間、分散させられた後の再構成さえも許さない無慈悲かつ暴虐な一撃で、スタークたちの視界に映る範囲を飛んでいた磁砂竜《じさりゅう》の殆どが文字通りに砂となって消えていく中。

 自分の身を護ると同時に真下に位置する海や大陸に被害が出ないようにするところまで指示されていたシルドは、かなり広範囲で【土壁《バリア》】を展開していたのだが、そのぶん強度が僅かとはいえ落ちていたようで。

「……シルド、大丈夫ですか……?」

『りゅ、りゅう~……』

 ぐわんぐわん──という擬音が聞こえてきそうなほど露骨に目を回しているシルドに対し、やはりダメージを受けている様子はないフェアトが心配そうに声をかけると、シルドは何とも頼りない声で返事をする。


 ……あまり大丈夫ではなさそうだ。


(……どこまで破壊的になっていくのかな、あの二人)

 もし、これで大陸に被害が出ていたら──という事など微塵も考えてなさそうな二人を遠目に見て、パイクが段々姉に似ていっている事実に戦慄していた時。

『……! りゅー!』

「え、どうし──あっ!?」

 突如、軽くないダメージを身体が鉱石である事を利用して【土癒《ヒール》】で治していたシルドが回復魔法を中断してまで背中へを向けて一鳴きし、その鳴き声に何かを警戒する意図を悟ったフェアトが辺りを見渡すと。

「っ、姉さん! あれを──」

 そこには、スタークたちの一撃で虚空へと溶けていく砂鉄を【雷球《スフィア》】によって発生する磁力で集め、おそらく分裂する前の姿へと──本来の磁砂竜《じさりゅう》の姿へと戻ろうとしているのだろうと察して姉に伝えんとした。

「言われなくても分かってらぁ! 行くぞ、パイク!」

『りゅうっ!!』

 しかし、フェアトに言われるまでもなく勘づいていたらしいスタークは、パイクありきの四枚の翼を大きく広げて、つい先程まで存在していた分裂体とは大きさも形状も全く異なるその磁砂竜《じさりゅう》へと突撃していく。

「バレてねぇとでも思ったかぁ!? 『群れの長』ってのぁ他の誰より危機に敏くて、そんで誰よりって相場が決まってんだよ! 要は今の一撃で生き延びた個体《やつ》が核だってこった! そうだろ!? お前が──」

 そして、さも最初から全て分かっていたと言わんばかりの物言いとともに、これまたパイクありきの機械チックな両爪を更に鋭くさせつつ、『群れの長』が持つ危機管理能力とはとどのつまり『どの個体より早く逃げられるように備える力』の事だと叫び放ち──。

「──属性袋《プロパタンク》! 持ってんだろ!? なぁ!?」

『ジィイイイイ……ッ!!』

 これでもかというほどの挑発的な笑みと声音を見せたスタークに対して、もはや大陸からも姿を視認できてしまうのではないかという大きさを誇る砂状の巨竜へと変異を遂げた磁砂竜《じさりゅう》は遠目に見ゆる少女に怯える事なく、『核』たるゆえんの器官に魔力を充填する。

 バチバチ、ゴロゴロ──という、まさしく雷鳴の如き音が響き渡るほどの稲妻を纏う雷属性の属性袋《プロパタンク》に。

「……あの雷鳴、そして稲光は……! 姉さん! パイク! 磁砂竜《じさりゅう》が息吹《ブレス》を吐こうとしてます! 一旦──」

 それに真っ先に気がついたのは──いや、スタークもパイクも気がついてはいたが真っ先に警戒したのは間違いなくフェアトであり、その雷鳴と稲光の影響で母親に教わった磁砂竜《じさりゅう》の息吹《ブレス》のを思い出してしまった為、『距離を取って』と警戒を促そうとする。


 しかし、もう全てが遅かった──。


「お前を倒しゃあ終わるんだろ!? これでも──」

 フェアトの必死の叫びは実を結ばず、すでにスタークは充分な助走を取り終えており、【迫撃両爪《モータークローズ》】という爪と化したパイクを装備しての斬撃を放つ必殺技を放つ準備をしていたようで、『これでも食らえ』と。


 極大の斬撃とともに叫び放たんと──した瞬間。


「──……は?」

『りゅ──』

 一般人とはかけ離れた動体視力や反射神経を誇るスタークも、そして最古にして最強の魔物の転生体であるパイクでさえ反応しきれないほどの速度にて磁砂竜《じさりゅう》が、『とある変化』を遂げた事に二人は呆然とする。


 その『とある変化』とは──。


 多少なり異形とはいえ【竜種】としての姿は保っていた磁砂竜が、さも射出機《カタパルト》だとばかりに自らの翼を変異させ、そこから息吹《ブレス》を放たんとしていた事にある。

 通常の【竜種】であれば、おおよそ属性袋《プロパタンク》と口が離れた位置にあるという事もあって魔力の充填から放出まで、そこそこの時間がかかるというのが常であり。

 その間を狙われぬように──または狙われてもいいように魔法を使って牽制しつつ充填が終われば放つ。


 しかし、この磁砂竜《じさりゅう》という種は不定形。


 決まった形を持たない為に、いかなるタイミングであろうと砂鉄で構成された身体を変異させて発射口を作り出し、その発射口と属性袋《プロパタンク》を直結させ放出する。

 そこに一切の時間差はなく、およそ一秒かそれ以下という超短時間にて息吹《ブレス》を放てるのが磁砂竜《じさりゅう》の優位点であり、この種の息吹《ブレス》がと云われるゆえん──。

 もちろん、フェアトと違って磁砂竜《じさりゅう》の名前すら知らなかった──というか覚えておく気もなかったスタークが磁砂竜《じさりゅう》における重要な事を知っている筈もなく。


 ゆえにこその──パイクを巻き込む茫然自失。


 一応、反応から対処しようとするところまではできていたパイクは及第点と言えようが──もう、遅い。


『ジィイイ──……ッ、ジュアァアアアアアッ!!』

「──……!!」

『り"ゅ──」

 少しでも、スタークへのダメージを和らげる為にとパイクは慣れない【盾】へと変形していたが、それで防ぎきれるほど【竜種】の息吹《ブレス》は甘いものではなく。

 魔法の行使どころか魔方陣の展開さえ許さない、そんな超速度にて射出機じみた翼から放出された雷鳴轟く極大の息吹《ブレス》は一瞬にしてスタークたちに急接近し。

「──ね……っ、姉さぁああああん!!」

『りゅーっ!?』

 妹コンビの叫びも虚しく、スタークとパイクは水平線まで届こうかという息吹に呑み込まれてしまった。










 ちなみに【機械国家】──北ルペラシオでは、この種の息吹を発想の起点とした機械兵器があるらしい。


 その名は──“電磁加速砲《レールガン》”。


 ひとたび放つと壊れてしまうのが欠点だが、その一撃で戦場を一変させるほどの威力を誇るとか何とか。
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