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魔導国家、上空にて

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 かつて──この世界を支配せんとした魔王“カタストロ”が神々に選定された勇者“ディーリヒト”と聖女“レイティア”とその仲間たちによって討たれてから十五年。

 勇者と相討ちになり死する間際に魔王が行使した真なる蘇生魔法、【闇蘇《リザレクション》】で現世に復活した魔王と並ぶ力を持つ二十六体の魔族、“並び立つ者たちシークエンス”を討伐せんと旅立った勇者と聖女の血を引く双子は今──。

「──で? 結局、次はどの国にいくんだよ」

「んー……そう、ですねぇ……」

 魔導国家、東ルペラシオを出立してからおよそ一時間、次なる目的地が未定のまま飛び出した事もあってか、それぞれ竜覧船《りゅうらんせん》に擬態済みの神晶竜《しんしょうりゅう》に乗った状態で地図を広げながら色々と話し合っているようだ。

 もちろん決め手となるのは並び立つ者たちシークエンスがいるかどうかであり、どの国にどの元魔族がいるかを双子の妹である“フェアト”がメモで確認し、それを基にして最終的な判断を双子の姉である“スターク”と話し合う事により、どの国へ向かうかを決めようとしていた。

 双子にとっては非常に重要な選択である為、割と真剣な様子で──特にフェアトが──議論を交わす中。

『りゅあ~♪』

『りゅう……』

 双子が駆る竜もまた双子、世界最古にして最強の魔物の転生体の神晶竜の双子の妹である“シルド”は気分良さげに唄に如き鳴き声を上げ、それを聞いた双子の姉である“パイク”は妹の緊張感のなさに呆れている。


 ──風が気持ちいいね~♪


 ──もう、あんまり浮かれないでよ。


 みたいなニュアンスだったかもしれない。


 風が気持ちいいとは言うが、たった今この瞬間にパイクたちが飛んでいるのは一般的な人間では何が飛んでいるのか肉眼で目視する事さえできないほどの遥か上空であり、その気温は低く酸素も限りなく少なく。

 この状況で悠々と飛びながら会話までできているのは、パイクたちが神晶竜の幼体だからに他ならない。

 ちなみに低体温症や酸素の欠乏による昏睡などが起きていないのは、スタークたちが乗る運転席が密閉されながらも、パイクたちが吸う空気が始神晶を通して正常な空気へと変換されているからであり、そうでなければ上述したような症状に襲われていたのだろう。

 尤も、フェアトは凍えるほどに寒かろうが酸素が全くなかろうが命の危機に陥る事はありえないのだが。

 そんな二体の神晶竜をよそに、スタークは運転席のように擬態しているパイクの背中に寝転がりつつも。

「あたしとしちゃあ、やっぱ【美食国家】ってのに興味を惹かれんだよな。 だからよ、次は南の方に──」

 ほんの数日前にも魔導国家の王城で食べた豪華な料理を脳裏に浮かべて、【美食国家】と呼ばれるほどに新たな食材の発見が後を絶たない“南ルペラシオ”へ向かう事を提案するも、フェアトの表情は明るくない。

 だからか、てっきり妹は別に行きたい国があるのではと考えて、スタークが妹の意見を聞こうとすると。

「──私も、そう提案するつもりだったんですけど」

「……んん?」

 どうやら、フェアトとしても次なる目的地に南ルペラシオを挙げるつもりだったらしく、ゆえに妹の表情が曇っている理由が分からなくなってしまったスタークは、あからさまに首をかしげて妹の二の句を待つ。

 すると、フェアトは並び立つ者たちシークエンスの序列一位である“アストリット”から渡されていたメモに落としていた目線を上げてから、ゆっくりと形の良い唇を開き。


「先に、“シュパース諸島”に行きませんか?」

「へ?」


 東に隣接する南でも北でも、ましてや西でもなく。


 この世界で最も有名な観光地として名高い、シュパース諸島へ先に向かわないかと提案した事で、スタークは選択肢になかった行先に疑問の声を上げていた。


 何故、シュパース諸島なのか──ではなく。


 ……シュパース諸島?


 という忘却《やらかし》が理由なのは、もはや疑うまでもない。
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