2 / 333
双子の日常
しおりを挟む
──ここは、とある世界の。
とある辺境の地──。
「本気でいくぞー!? いいか、本気だからなー!?」
「……御託はいいので、さっさとどうぞー」
ある日、どこにでも居そうな短髪の少女が、どこにでもありそうな平民服を着た状態で、もう片方の一つ結びの少女に対して大声で話しかけている。
髪型や口調どころか、その髪や瞳の色までが違う二人ではあるが、それでも彼女たちは間違いなく双子。
姉である短髪の少女の髪は栗色、瞳は緋色。
妹である一つ結びの少女の髪は金色、瞳は空色。
年齢は十五、身長は平均より少し高い程度。
人間の髪や瞳が色鮮やかになりがちなこの世界においては、まさしく普通の姉妹であると言える。
敢えて、普通ではない点を挙げるとするのなら。
「いい度胸だぁ! じゃあ──いくぜぇ!!」
短髪の少女が立っているのは、飛行手段を持たない魔物が寄り付かないほど高度の断崖絶壁であり。
そんな断崖絶壁から……崖下にいる一つ結びの少女を目掛けて短髪の少女が今、飛び降りた事くらいか。
「うっ──らぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「……っ」
短髪の少女は次第に増していく落下の速度を利用しつつ、その身体が球状に見えるほどに高速で回転しながら見た目にそぐわぬ強靭さを持つ右脚を前に出す。
そして、一つ結びの少女が無抵抗なのをいい事に。
……崖下に立つ彼女の脳天に右の踵を叩きつけた。
瞬間、超巨大規模の爆弾でも投下されたのかというほどの衝撃が発生し、一つ結びの少女が立っていた筈の地面は広範囲のクレーターとなってしまっている。
先ほどまで短髪の少女が立っていた断崖絶壁も、もはや崩壊寸前というところまでひび割れていた。
「っ、どうだ!? あたしの新技、【断頭落とし】!! 流石のお前も擦り傷くらい負って──」
その後、土埃の向こうの一つ結びの少女に対して短髪の少女が咳き込みつつかけた声は、彼女を心配するようなものでも自身の所業を謝罪するものでもなく。
……自らの体術の威力を、誇るものだった。
普通なら間違いなく命を落としている筈なのに。
……だが生憎、一つ結びの少女も普通ではない。
「──ませんよ」
「うおぉっ!?」
一つ結びの少女は、まるで何事もなかったかのように土埃の向こうから姿を現し、それを見た短髪の少女は予想していたとはいえ驚きを隠せないらしかった。
「身体の表面はもちろんの事、骨にも内臓にも異常はなさそうですし。 まだまだ威力不足ですね、姉さん」
「……っ、だぁああああっ!! やっぱ駄目かぁ!!」
その後、身体どころか服にすら傷のない一つ結びの少女が、パンパンと埃を払うように服を叩きつつ自らの健常をアピールすると、短髪の少女は心から悔しそうに大声で叫びながら深く抉れた地面に寝転がる。
──これは。
──天を突くほどの巨大な竜を隙間なく覆う、あまりに頑丈な鱗を拳一つで全身ごと粉砕する長女と。
──海を割ってしまうような威力を誇る竜の息吹の中でさえ、しれっと無傷で生還する次女の。
至って普通の双子の日常風景である──。
とある辺境の地──。
「本気でいくぞー!? いいか、本気だからなー!?」
「……御託はいいので、さっさとどうぞー」
ある日、どこにでも居そうな短髪の少女が、どこにでもありそうな平民服を着た状態で、もう片方の一つ結びの少女に対して大声で話しかけている。
髪型や口調どころか、その髪や瞳の色までが違う二人ではあるが、それでも彼女たちは間違いなく双子。
姉である短髪の少女の髪は栗色、瞳は緋色。
妹である一つ結びの少女の髪は金色、瞳は空色。
年齢は十五、身長は平均より少し高い程度。
人間の髪や瞳が色鮮やかになりがちなこの世界においては、まさしく普通の姉妹であると言える。
敢えて、普通ではない点を挙げるとするのなら。
「いい度胸だぁ! じゃあ──いくぜぇ!!」
短髪の少女が立っているのは、飛行手段を持たない魔物が寄り付かないほど高度の断崖絶壁であり。
そんな断崖絶壁から……崖下にいる一つ結びの少女を目掛けて短髪の少女が今、飛び降りた事くらいか。
「うっ──らぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「……っ」
短髪の少女は次第に増していく落下の速度を利用しつつ、その身体が球状に見えるほどに高速で回転しながら見た目にそぐわぬ強靭さを持つ右脚を前に出す。
そして、一つ結びの少女が無抵抗なのをいい事に。
……崖下に立つ彼女の脳天に右の踵を叩きつけた。
瞬間、超巨大規模の爆弾でも投下されたのかというほどの衝撃が発生し、一つ結びの少女が立っていた筈の地面は広範囲のクレーターとなってしまっている。
先ほどまで短髪の少女が立っていた断崖絶壁も、もはや崩壊寸前というところまでひび割れていた。
「っ、どうだ!? あたしの新技、【断頭落とし】!! 流石のお前も擦り傷くらい負って──」
その後、土埃の向こうの一つ結びの少女に対して短髪の少女が咳き込みつつかけた声は、彼女を心配するようなものでも自身の所業を謝罪するものでもなく。
……自らの体術の威力を、誇るものだった。
普通なら間違いなく命を落としている筈なのに。
……だが生憎、一つ結びの少女も普通ではない。
「──ませんよ」
「うおぉっ!?」
一つ結びの少女は、まるで何事もなかったかのように土埃の向こうから姿を現し、それを見た短髪の少女は予想していたとはいえ驚きを隠せないらしかった。
「身体の表面はもちろんの事、骨にも内臓にも異常はなさそうですし。 まだまだ威力不足ですね、姉さん」
「……っ、だぁああああっ!! やっぱ駄目かぁ!!」
その後、身体どころか服にすら傷のない一つ結びの少女が、パンパンと埃を払うように服を叩きつつ自らの健常をアピールすると、短髪の少女は心から悔しそうに大声で叫びながら深く抉れた地面に寝転がる。
──これは。
──天を突くほどの巨大な竜を隙間なく覆う、あまりに頑丈な鱗を拳一つで全身ごと粉砕する長女と。
──海を割ってしまうような威力を誇る竜の息吹の中でさえ、しれっと無傷で生還する次女の。
至って普通の双子の日常風景である──。
1
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる