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番外編 拍手お礼3
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落ち着かない――。
心の中でそう洩らした和彦は、慎重に寝返りを打ち、敷布団の端へと移動しようとする。するとすかさず、背後から伸びてきた両腕に捕えられ、引き戻された。
「そんな端っこにいくと、布団から出るぞ」
室内を覆う闇を震わせるようなバリトンは、わずかに笑いを含んでいるようだった。
抱き寄せられた和彦は、浴衣を通してもわかる賢吾の硬い体に触れる。エアコンによって程よく冷えている部屋にあって、賢吾の体温は熱源そのものだ。確かに人肌なのに、側にいると汗ばみそうなほどの熱いものを感じさせる。
それとも、賢吾を意識している和彦自身が生み出す熱なのか――。
「……やっぱり、自分の部屋に戻る」
「どうしてだ」
そう問いかけてきながら賢吾が、和彦の体に薄手の夏布団をかけてくる。さらに、腕枕まで提供してくれた。
「ぼくがいつまでも寝返りを打っていると、あんたが落ち着いて眠れないだろ」
「なんだ。俺を気遣ってくれているのか」
「そうじゃないっ。……ぼくも落ち着かないんだ」
「俺が怖いからか?」
からかうような口調で賢吾が言うが、どんな顔をしているかまではわからない。月明かりすら入らないほど、この部屋は家の奥にあるのだ。
賢吾の大きな手に頬を撫でられ、うなじをくすぐられる。穏やかな手つきだが、和彦としては、昼間、秦にされた行為を指摘されるのではないかと、気が気でない。また、アルコールのせいで眠り込んでいたわけではないことも。
悠然と身を横たわらせた大蛇の前では、何もかも告白してしまうことが、自分の身を守るもっとも最善の方法のように思えてくる。
「やっぱり――」
和彦が口を開こうとした瞬間、賢吾の手が頭にかかり、引き寄せられた。息遣いを肌に感じたときには、唇の端にキスされた。そして、今度はしっかりと唇を塞がれる。
「……何もしないんじゃなかったのか」
「まだ、ヤクザの言うことを信じるのか、先生」
呆れて言葉が出なかった。それをいいことに、賢吾の唇が顔中に押し当てられる。最初は身構えていた和彦だが、柔らかく唇を啄ばまれているうちに、つい応じてしまう。
舌先を触れ合わせ、それだけでは物足りなくて、唇と舌を吸い合う。すると、熱い腕にしっかりと抱き締められた。思わず吐息を洩らすと、賢吾の唇が耳に押し当てられる。
「子守唄でも歌ってやろうか?」
あまりに似合わない言葉に、たまらず和彦は噴き出す。体を震わせて笑っていると、ポンポンと背を軽く叩かれた。
大蛇は怖いが、その大蛇の側が一番安全なのも、また確かだ。
和彦は片腕をそっと、賢吾の背に回す。浴衣の薄い布越しに、てのひらで大蛇の刺青を慰撫する。
「こいつが恋しいなら、同じものを先生の背に彫ってやるぜ」
冗談とも本気ともつかないことを賢吾に囁かれ、和彦の背に硬いてのひらが這わされる。ゾクゾクするような疼きが、背筋を駆け抜けていた。
「だが、先生に刃は物騒すぎて似合わねーな。やっぱり、絡み合う二匹の大蛇がいい。ギリギリと締め上げるようにして、愛し合っているところだ。先生の背中だけじゃ描ききれないだろうから、尻や腿まで彫ることになるだろうな。胸元まで大蛇の鱗で覆うのもいい」
賢吾のてのひらが背から尻、腿へと移動し、和彦は声を上げそうになる。それでも、賢吾の背に当てたてのひらを退けることはできない。こうしている間に実は、浴衣の下で大蛇が蠢いているのではないかと、現実的ではないことを考えてしまうのだ。それぐらい、てのひらを通して感じる賢吾の体は、力強さを漲らせていた。
「……眺めるだけで十分だ」
「まあ、時間は十分あるから、じっくり口説いてやるよ、先生」
後ろ髪を掴まれて顔を上げさせられ、賢吾に唇を奪われる。本当に人を寝させる気があるのかと思うほど、激しく官能的な口づけだ。
ようやく唇が離されて和彦が息を喘がせていると、ヒヤリとするようなことを賢吾が言った。
「刺青を入れさせたいのは、先生に似合いそうだというのもあるが、一番は――間男除けかもしれないな」
和彦は体を強張らせる。この反応は賢吾に気づかれたはずだが、大蛇のように怖い男は言葉を続ける。
「男を惹きつけて、快感に弱い先生だからこそ、守り神みたいな刺青がいいんだ。半端な奴なら一目見て逃げ出すような、凄絶に艶やかで怖い刺青が」
やはり賢吾は何か感づいているのかもしれないと思うと、声が出なかった。そんな和彦とは対照的に、賢吾は優しい声で囁いてくる。
「俺がここまで言うのは、先生だからだぜ。――大事で可愛い、俺のオンナだからな」
啄ばむようなキスを与えられ、和彦もおずおずと応じる。
「さあ、先生、もう寝ろ。俺がしっかり、守ってやるから」
頭を抱き寄せられ、和彦は賢吾の胸に顔を埋める。
怖いのに、忌々しいほど賢吾の体温は心地いい。背に回したてのひらで感じるのは、大蛇の蠢きだ。
刺青は自分の肌に入れるより、触れ合う相手の肌に入っているほうがいい。そうでないと、こうして愛してやれない。大蛇だろうが、虎だろうが――。
刺青に惹かれつつある自分に気づき、和彦は小さく身震いする。何も言わず、賢吾はしっかりと抱き締めてくれた。
心の中でそう洩らした和彦は、慎重に寝返りを打ち、敷布団の端へと移動しようとする。するとすかさず、背後から伸びてきた両腕に捕えられ、引き戻された。
「そんな端っこにいくと、布団から出るぞ」
室内を覆う闇を震わせるようなバリトンは、わずかに笑いを含んでいるようだった。
抱き寄せられた和彦は、浴衣を通してもわかる賢吾の硬い体に触れる。エアコンによって程よく冷えている部屋にあって、賢吾の体温は熱源そのものだ。確かに人肌なのに、側にいると汗ばみそうなほどの熱いものを感じさせる。
それとも、賢吾を意識している和彦自身が生み出す熱なのか――。
「……やっぱり、自分の部屋に戻る」
「どうしてだ」
そう問いかけてきながら賢吾が、和彦の体に薄手の夏布団をかけてくる。さらに、腕枕まで提供してくれた。
「ぼくがいつまでも寝返りを打っていると、あんたが落ち着いて眠れないだろ」
「なんだ。俺を気遣ってくれているのか」
「そうじゃないっ。……ぼくも落ち着かないんだ」
「俺が怖いからか?」
からかうような口調で賢吾が言うが、どんな顔をしているかまではわからない。月明かりすら入らないほど、この部屋は家の奥にあるのだ。
賢吾の大きな手に頬を撫でられ、うなじをくすぐられる。穏やかな手つきだが、和彦としては、昼間、秦にされた行為を指摘されるのではないかと、気が気でない。また、アルコールのせいで眠り込んでいたわけではないことも。
悠然と身を横たわらせた大蛇の前では、何もかも告白してしまうことが、自分の身を守るもっとも最善の方法のように思えてくる。
「やっぱり――」
和彦が口を開こうとした瞬間、賢吾の手が頭にかかり、引き寄せられた。息遣いを肌に感じたときには、唇の端にキスされた。そして、今度はしっかりと唇を塞がれる。
「……何もしないんじゃなかったのか」
「まだ、ヤクザの言うことを信じるのか、先生」
呆れて言葉が出なかった。それをいいことに、賢吾の唇が顔中に押し当てられる。最初は身構えていた和彦だが、柔らかく唇を啄ばまれているうちに、つい応じてしまう。
舌先を触れ合わせ、それだけでは物足りなくて、唇と舌を吸い合う。すると、熱い腕にしっかりと抱き締められた。思わず吐息を洩らすと、賢吾の唇が耳に押し当てられる。
「子守唄でも歌ってやろうか?」
あまりに似合わない言葉に、たまらず和彦は噴き出す。体を震わせて笑っていると、ポンポンと背を軽く叩かれた。
大蛇は怖いが、その大蛇の側が一番安全なのも、また確かだ。
和彦は片腕をそっと、賢吾の背に回す。浴衣の薄い布越しに、てのひらで大蛇の刺青を慰撫する。
「こいつが恋しいなら、同じものを先生の背に彫ってやるぜ」
冗談とも本気ともつかないことを賢吾に囁かれ、和彦の背に硬いてのひらが這わされる。ゾクゾクするような疼きが、背筋を駆け抜けていた。
「だが、先生に刃は物騒すぎて似合わねーな。やっぱり、絡み合う二匹の大蛇がいい。ギリギリと締め上げるようにして、愛し合っているところだ。先生の背中だけじゃ描ききれないだろうから、尻や腿まで彫ることになるだろうな。胸元まで大蛇の鱗で覆うのもいい」
賢吾のてのひらが背から尻、腿へと移動し、和彦は声を上げそうになる。それでも、賢吾の背に当てたてのひらを退けることはできない。こうしている間に実は、浴衣の下で大蛇が蠢いているのではないかと、現実的ではないことを考えてしまうのだ。それぐらい、てのひらを通して感じる賢吾の体は、力強さを漲らせていた。
「……眺めるだけで十分だ」
「まあ、時間は十分あるから、じっくり口説いてやるよ、先生」
後ろ髪を掴まれて顔を上げさせられ、賢吾に唇を奪われる。本当に人を寝させる気があるのかと思うほど、激しく官能的な口づけだ。
ようやく唇が離されて和彦が息を喘がせていると、ヒヤリとするようなことを賢吾が言った。
「刺青を入れさせたいのは、先生に似合いそうだというのもあるが、一番は――間男除けかもしれないな」
和彦は体を強張らせる。この反応は賢吾に気づかれたはずだが、大蛇のように怖い男は言葉を続ける。
「男を惹きつけて、快感に弱い先生だからこそ、守り神みたいな刺青がいいんだ。半端な奴なら一目見て逃げ出すような、凄絶に艶やかで怖い刺青が」
やはり賢吾は何か感づいているのかもしれないと思うと、声が出なかった。そんな和彦とは対照的に、賢吾は優しい声で囁いてくる。
「俺がここまで言うのは、先生だからだぜ。――大事で可愛い、俺のオンナだからな」
啄ばむようなキスを与えられ、和彦もおずおずと応じる。
「さあ、先生、もう寝ろ。俺がしっかり、守ってやるから」
頭を抱き寄せられ、和彦は賢吾の胸に顔を埋める。
怖いのに、忌々しいほど賢吾の体温は心地いい。背に回したてのひらで感じるのは、大蛇の蠢きだ。
刺青は自分の肌に入れるより、触れ合う相手の肌に入っているほうがいい。そうでないと、こうして愛してやれない。大蛇だろうが、虎だろうが――。
刺青に惹かれつつある自分に気づき、和彦は小さく身震いする。何も言わず、賢吾はしっかりと抱き締めてくれた。
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