1,176 / 1,268
第44話
(36)
しおりを挟む
いつも賢吾がしているように、自分の胸元にてのひらを這わせる。まだ冷たい手にざわっと肌が粟立つが、同時に、胸の
突起も反応する。
「んっ」
微かな疼きを発し始めたものを指の腹で撫でると、それだけでゾクゾクするような感覚が背筋を駆け抜ける。賢吾の声を聞いただけで、
どうしようもなく欲情してしまったのだ。
電話越しとはいえ賢吾に痴態を晒したくないと、ほんのわずかに残った理性が引き止めるが、当の賢吾が追い打ちをかけてくる。
『いつも俺がしているみたいに、やってみろ』
何度となく賢吾に抱かれては見せてきた己の痴態が、一気に脳裏に蘇る。どんなに強い欲情に駆られても、決して和彦に乱暴なまねは
しない、堪能するようにじっくりと触れてくる手指の動きは、体に刻み込まれていた。
賢吾の言葉に逆らえず、それどころか積極的に、和彦は自らの胸をまさぐり、すぐに物足りなくなって、スウェットパンツの中に片手
を差し込む。もちろん、声に出して説明したわけではないが、すべてわかっているように賢吾が深く息を吐き出した。
『――もう、熱くなってるな。和彦』
堪らず和彦は小さく呻き声を洩らす。
『意地を張るくせに、体は素直だからな。俺が、そんなふうにした。そうだろう?』
「どう、だろうな……」
長嶺の男がこんな言い方をするときは、当然のようにたった一つの返事しか求めていない。わかっていながら、こんなことを言ってしま
うのは、結局のところ、賢吾に甘えているのだ。
『ほら見ろ。やっぱり意地を張る』
鼓膜を震わせる低い笑い声に官能を刺激され、和彦は掴んだ己のものを緩く擦る。呆れるほど昂っていた。
はあっ、と熱い吐息をこぼすと、賢吾が名を呼んでくれる。その声にすがりつくように、和彦は手を動かす。あっという間に先端が濡れ
始め、指の腹で塗り込めるように撫でると、腰が震える。
『濡れてきたか?』
狙い澄ましたようなタイミングで問われる。和彦は唇を噛んで声を堪えたが、かまわず賢吾は続ける。
『こっちに戻ってきたら、ふやけるほどしゃぶって、飲んでやる』
「……年明け早々、なんでそう、品のないことをっ……」
『興奮するだろう?』
握り締めたものは、賢吾の言葉に呼応するように熱くしなっている。
「こんなこと、している状況じゃないのに……」
『お前一人が深刻な面をして、思い悩んだところで、何もかもがよくなるわけじゃねーだろ。ヤクザ相手に見せるようなふてぶてしさ
を、そっちでも発揮したらどうだ』
「そんなことしたら、ますますここでの居場所がなくなる」
つい苦い笑みをこぼした和彦に、抜け目ない男はすかさずこう囁いてくる。
『おう。そうなったら悠々とお前を引き取れるな。とっくに骨身に沁みてると思うが、大事にしてやるぜ』
こちらの気持ちを解すための冗談――ではないだろう。むしろ、本気であってほしいと和彦は願う。
「ワガママを言いまくって、あんたを振り回せるんだな」
『お前の言うワガママは、いつだって可愛い。控えめで、遠慮がちで。俺を振り回したいなら、もっとがんばれよ』
賢吾との会話によって、沈み込んでいた心は完全に掬い上げられる。一時の情欲は潮が引くようになくなり、賢吾には申し訳
ないが、艶めかしい声を聞かせられそうにはない。
和彦は横たわったまま、乱れた格好を整える。それを気配で察したらしく、賢吾も行為を続けろとは言わなかった。
『――きつくなったら、いつでも電話をかけてこい。迎えに行ってやると言ったのも、本気だ』
ありがとう、と自然に口にできた。あと二、三日で里帰りが終わることを思えば、賢吾のこの言葉は十分すぎるほどのお守りだ。
おかげで、電話を切るのにさほど勇気は必要としなかった。
賢吾の声の名残りがまだ耳に残っているうちに、今夜はすぐにでも眠りにつきたいと、和彦はすぐに寝支度を調え始めた。
突起も反応する。
「んっ」
微かな疼きを発し始めたものを指の腹で撫でると、それだけでゾクゾクするような感覚が背筋を駆け抜ける。賢吾の声を聞いただけで、
どうしようもなく欲情してしまったのだ。
電話越しとはいえ賢吾に痴態を晒したくないと、ほんのわずかに残った理性が引き止めるが、当の賢吾が追い打ちをかけてくる。
『いつも俺がしているみたいに、やってみろ』
何度となく賢吾に抱かれては見せてきた己の痴態が、一気に脳裏に蘇る。どんなに強い欲情に駆られても、決して和彦に乱暴なまねは
しない、堪能するようにじっくりと触れてくる手指の動きは、体に刻み込まれていた。
賢吾の言葉に逆らえず、それどころか積極的に、和彦は自らの胸をまさぐり、すぐに物足りなくなって、スウェットパンツの中に片手
を差し込む。もちろん、声に出して説明したわけではないが、すべてわかっているように賢吾が深く息を吐き出した。
『――もう、熱くなってるな。和彦』
堪らず和彦は小さく呻き声を洩らす。
『意地を張るくせに、体は素直だからな。俺が、そんなふうにした。そうだろう?』
「どう、だろうな……」
長嶺の男がこんな言い方をするときは、当然のようにたった一つの返事しか求めていない。わかっていながら、こんなことを言ってしま
うのは、結局のところ、賢吾に甘えているのだ。
『ほら見ろ。やっぱり意地を張る』
鼓膜を震わせる低い笑い声に官能を刺激され、和彦は掴んだ己のものを緩く擦る。呆れるほど昂っていた。
はあっ、と熱い吐息をこぼすと、賢吾が名を呼んでくれる。その声にすがりつくように、和彦は手を動かす。あっという間に先端が濡れ
始め、指の腹で塗り込めるように撫でると、腰が震える。
『濡れてきたか?』
狙い澄ましたようなタイミングで問われる。和彦は唇を噛んで声を堪えたが、かまわず賢吾は続ける。
『こっちに戻ってきたら、ふやけるほどしゃぶって、飲んでやる』
「……年明け早々、なんでそう、品のないことをっ……」
『興奮するだろう?』
握り締めたものは、賢吾の言葉に呼応するように熱くしなっている。
「こんなこと、している状況じゃないのに……」
『お前一人が深刻な面をして、思い悩んだところで、何もかもがよくなるわけじゃねーだろ。ヤクザ相手に見せるようなふてぶてしさ
を、そっちでも発揮したらどうだ』
「そんなことしたら、ますますここでの居場所がなくなる」
つい苦い笑みをこぼした和彦に、抜け目ない男はすかさずこう囁いてくる。
『おう。そうなったら悠々とお前を引き取れるな。とっくに骨身に沁みてると思うが、大事にしてやるぜ』
こちらの気持ちを解すための冗談――ではないだろう。むしろ、本気であってほしいと和彦は願う。
「ワガママを言いまくって、あんたを振り回せるんだな」
『お前の言うワガママは、いつだって可愛い。控えめで、遠慮がちで。俺を振り回したいなら、もっとがんばれよ』
賢吾との会話によって、沈み込んでいた心は完全に掬い上げられる。一時の情欲は潮が引くようになくなり、賢吾には申し訳
ないが、艶めかしい声を聞かせられそうにはない。
和彦は横たわったまま、乱れた格好を整える。それを気配で察したらしく、賢吾も行為を続けろとは言わなかった。
『――きつくなったら、いつでも電話をかけてこい。迎えに行ってやると言ったのも、本気だ』
ありがとう、と自然に口にできた。あと二、三日で里帰りが終わることを思えば、賢吾のこの言葉は十分すぎるほどのお守りだ。
おかげで、電話を切るのにさほど勇気は必要としなかった。
賢吾の声の名残りがまだ耳に残っているうちに、今夜はすぐにでも眠りにつきたいと、和彦はすぐに寝支度を調え始めた。
41
お気に入りに追加
1,365
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる