血と束縛と

北川とも

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第44話

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 数年ぶりの実家での年越しのために、翌日から和彦は動き始めた。
 大掃除をしようと、トレーナーの袖をまくり上げ、バケツなどを探し出してはきたものの、定期的に専門業者を入れている家は、心配するまでもなく掃除が行き届いている。
 結局、自分の部屋の窓を磨いたり、本棚の上のわずかな埃を払ったぐらいで、掃除は済んでしまった。
 他の家族は何をしているのか、それぞれの部屋に入って物音一つ立てない。もしかして外出しているのかもしれないが、わざわざドアをノックしてまで確認する必要はない。
 和彦が一人暮らしをしていた間も、この家の生活はこうして淡々と続いていたのだなと、奇妙な感慨深さすら覚える。家族という団体で暮らしていながら、家庭内でそれぞれが独立していた。
 それが過ぎて、和彦は孤立感を覚えていたが――。
 すっかり手持無沙汰となったため、着替えを済ませ、財布と携帯電話を持って家を出る。外の空気を吸いたくなった。
 自由に出歩いていいと俊哉から言われてはいるが、門扉を開ける瞬間、和彦は緊張した。自分は今、表の世界に身を置いているのだと、肌で実感できたからだ。
 慎重に周囲を見回してみても、昨日同様、監視がついている気配はない。仮についていたとしても、和彦に近寄ることはできないだろう。あの守光が、いまさら俊哉を相手に事を荒立てるまねをするとは思えない。
 羽織ったカーディガンの前を掻き合わせて、首を竦める。あまり大荷物にしたくなくて、ダッフルコートは持参してこなかったのだが、厚手とはいえさすがにカーディガンでは心もとない。仲のいい兄弟なら、上着の一枚ぐらい気軽に借りられるのだろうが、さすがに英俊には頼めない。
 パンツのポケットに財布と携帯電話を捻じ込んだ和彦は、散歩がてら実家近くの並木道を歩く。
 記憶になかった家が建ち並び、道路の幅が広くなり、街灯のデザインが新しくなっていたりと、意外にしっかりと記憶に残っているものだなと、ささやかな驚きに浸っているうちに、広場に出る。ここも、新たに造られた場所のようだ。
 広場の一角に公園があり、遊具がいくつも設置されている。しかし、この寒さでは、遊んでいる子供の姿はない。重苦しい雲に覆われた空からは、今にも雪が落ちてきそうなのだ。
 人がいないならちょうどいいと、和彦は近くの自販機で温かい缶コーヒーを買い、公園内のベンチに腰掛ける。寒いが、実家で息を潜めて過ごしているより、遥かに気持ちは楽だ。
 いざとなれば、バスで図書館にでも出かけて時間を潰そうかと、ぼんやりと考える。悲壮な覚悟を持って実家に帰ってきたつもりだが、どこか捨て置かれたような今の自分の状況に、現金なものだが心のどこかで安堵もしている。いないものとして扱われることには慣れていた。
 別に、自棄にはなっていない。
 和彦はコーヒーを一口飲んで、唇を歪める。ここで携帯電話にメールが届き、確認する。送り主は、優也だった。

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