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第44話
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完全におもしろがっている賢吾の口調に、かえって確信を深める。千尋には子供がいるのだ。
年齢や、今はどこで暮らしているのかといったことから、母親はどんな人物なのかという質問を矢継ぎ早に浴びせかけると、賢吾が唇の前に人さし指を立てた。
「千尋には、まだ言うなよ。あいつ自身は、自分に子供がいるなんて、知らないからな」
どんな理由があってそんな状況になっているのかと、さらに質問を口にしかけた和彦だが、次の瞬間には大きく息を吐き出す。苦情めいたものをこぼしていた。
「……たった今、ぼくはウソをつくのも、隠し事も下手だと言ったくせに、どうしてそんなことを教えてくれたんだ。これから千尋と、どんな顔をして会えばいいのか……。それでなくても、自分の身に起きたことをまだ整理できてないのに、さらに混乱させるようなことを言うなんて」
「俺は、お前が〈こちら〉に戻ってくるために、なんでも利用する。会ってみたくないか? お前の知らない長嶺の男に」
バリトンの官能的な響きを際立たせるように、賢吾が囁きかけてくる。ゆっくりと目を瞬かせながら和彦は、賢吾の意図するところを懸命に汲み取る。賢吾の頬にてのひらを押し当てた。
「まさか、ぼくが里帰りしたまま、戻ってこないと思っているのか?」
「俺は用心深いし、執念深いんだ。蛇、だからな」
たった一つの単語に反応して、官能に火がつく。堪えきれなくなった和彦は、自分から賢吾に身をすり寄せ、両腕を広い背に回す。そんな和彦を煽るように、賢吾が髪を手荒くまさぐってくる。
「気にはなるだろうが、千尋を無責任だと責めてくれるなよ。あいつは一見真っ当な男に見えるだろうが、あれで、オヤジからしっかり英才教育を施されてる。極道のいろはだけじゃなく、色事でもな。俺も、そうだった」
この瞬間、チリチリと胸を焼いたのは、嫉妬の種火だ。
「……よく、モテただろ。千尋だけじゃなく、あんたも。今だって男盛りだから、さぞかし――」
「ほお。お前の目から見て、俺はそんなに魅力的か? いい言葉だな。男盛りとは」
くっくと喉を鳴らした賢吾に、耳朶に軽く歯を立てられる。それだけでもう、腰が砕けそうだった。心を舐めるように燃え広がる前に、呆気なく嫉妬の種火は消えてしまう。そんな余裕がすでに和彦にはなかった。
「賢、吾……」
切ない声で求めると、賢吾が目を細める。
「お前にクリスマスプレゼントを用意してある。俺と千尋からな。あとで渡す」
「あとで……?」
「もう取りに行ける余裕がない。俺の認めてない男に体を奪われたお前に、早く仕置きをしないといけねーからな。手酷く苛めてやるから、覚悟しておけよ」
賢吾の恫喝は甘く、和彦は小さく喘ぐ。
「――……あんたの、好きなようにしてくれ」
鱗に覆われた大蛇の巨体が、ギリギリと自分を締め付ける光景を想像して、恍惚とする。そんな和彦の唇を柔らかく吸い上げて、賢吾が言った。
「物欲しげなオンナの顔になったな。俺のお気に入りの一つだ」
強引に引き立たされてベッドに連れて行かれる。そこで素っ気なく腕が離れ、和彦はふらついて床の上に座り込む。賢吾は悠然とベッドに腰掛け、両足を開いた。
「来い、和彦」
和彦は賢吾の足元に這い寄ると、もどかしい手つきでパンツの前を寛げる。その間に賢吾はニットを脱ぎ捨て、上半身を露わにする。
外に引き出した賢吾のものは、すでに重量を持って熱くなっていた。和彦は跪いた姿勢のまま、頭を下ろす。
「顔が見えるようにしゃぶってくれ」
頭上からそう指示をされ、従順に従う。ますます身を屈めて、賢吾から見えるように顔だけを上げると、差し出した舌で高ぶった欲望に触れる。
射抜かれそうなほど強い眼差しを向けられて、今度は羞恥によって身の内を焼かれそうだった。せめて視線を逸らしたいのに、賢吾の目に自分が映っていることを確認したくもなる。そうやって、自分の存在価値を推し量る。
自分はまだ、この男に求められていると――。
握った欲望を根本から扱きながら、括れまでを口腔に含む。唇で締め付け、丹念に舌を這わせ、舐め、吸い付く。すると、微かに目を細めた賢吾の片手が頭にかかった。数回髪を撫でられたあと、後頭部を押さえ付けられ、和彦はゆっくりと口腔深くに欲望を呑み込んでいく。
「――南郷には、してやったのか?」
突然の問いかけに動揺した和彦は、首を横に振ることができず、表情で否定する。この瞬間だけは、賢吾の目はゾッとするほど冷たい光を湛えた。
年齢や、今はどこで暮らしているのかといったことから、母親はどんな人物なのかという質問を矢継ぎ早に浴びせかけると、賢吾が唇の前に人さし指を立てた。
「千尋には、まだ言うなよ。あいつ自身は、自分に子供がいるなんて、知らないからな」
どんな理由があってそんな状況になっているのかと、さらに質問を口にしかけた和彦だが、次の瞬間には大きく息を吐き出す。苦情めいたものをこぼしていた。
「……たった今、ぼくはウソをつくのも、隠し事も下手だと言ったくせに、どうしてそんなことを教えてくれたんだ。これから千尋と、どんな顔をして会えばいいのか……。それでなくても、自分の身に起きたことをまだ整理できてないのに、さらに混乱させるようなことを言うなんて」
「俺は、お前が〈こちら〉に戻ってくるために、なんでも利用する。会ってみたくないか? お前の知らない長嶺の男に」
バリトンの官能的な響きを際立たせるように、賢吾が囁きかけてくる。ゆっくりと目を瞬かせながら和彦は、賢吾の意図するところを懸命に汲み取る。賢吾の頬にてのひらを押し当てた。
「まさか、ぼくが里帰りしたまま、戻ってこないと思っているのか?」
「俺は用心深いし、執念深いんだ。蛇、だからな」
たった一つの単語に反応して、官能に火がつく。堪えきれなくなった和彦は、自分から賢吾に身をすり寄せ、両腕を広い背に回す。そんな和彦を煽るように、賢吾が髪を手荒くまさぐってくる。
「気にはなるだろうが、千尋を無責任だと責めてくれるなよ。あいつは一見真っ当な男に見えるだろうが、あれで、オヤジからしっかり英才教育を施されてる。極道のいろはだけじゃなく、色事でもな。俺も、そうだった」
この瞬間、チリチリと胸を焼いたのは、嫉妬の種火だ。
「……よく、モテただろ。千尋だけじゃなく、あんたも。今だって男盛りだから、さぞかし――」
「ほお。お前の目から見て、俺はそんなに魅力的か? いい言葉だな。男盛りとは」
くっくと喉を鳴らした賢吾に、耳朶に軽く歯を立てられる。それだけでもう、腰が砕けそうだった。心を舐めるように燃え広がる前に、呆気なく嫉妬の種火は消えてしまう。そんな余裕がすでに和彦にはなかった。
「賢、吾……」
切ない声で求めると、賢吾が目を細める。
「お前にクリスマスプレゼントを用意してある。俺と千尋からな。あとで渡す」
「あとで……?」
「もう取りに行ける余裕がない。俺の認めてない男に体を奪われたお前に、早く仕置きをしないといけねーからな。手酷く苛めてやるから、覚悟しておけよ」
賢吾の恫喝は甘く、和彦は小さく喘ぐ。
「――……あんたの、好きなようにしてくれ」
鱗に覆われた大蛇の巨体が、ギリギリと自分を締め付ける光景を想像して、恍惚とする。そんな和彦の唇を柔らかく吸い上げて、賢吾が言った。
「物欲しげなオンナの顔になったな。俺のお気に入りの一つだ」
強引に引き立たされてベッドに連れて行かれる。そこで素っ気なく腕が離れ、和彦はふらついて床の上に座り込む。賢吾は悠然とベッドに腰掛け、両足を開いた。
「来い、和彦」
和彦は賢吾の足元に這い寄ると、もどかしい手つきでパンツの前を寛げる。その間に賢吾はニットを脱ぎ捨て、上半身を露わにする。
外に引き出した賢吾のものは、すでに重量を持って熱くなっていた。和彦は跪いた姿勢のまま、頭を下ろす。
「顔が見えるようにしゃぶってくれ」
頭上からそう指示をされ、従順に従う。ますます身を屈めて、賢吾から見えるように顔だけを上げると、差し出した舌で高ぶった欲望に触れる。
射抜かれそうなほど強い眼差しを向けられて、今度は羞恥によって身の内を焼かれそうだった。せめて視線を逸らしたいのに、賢吾の目に自分が映っていることを確認したくもなる。そうやって、自分の存在価値を推し量る。
自分はまだ、この男に求められていると――。
握った欲望を根本から扱きながら、括れまでを口腔に含む。唇で締め付け、丹念に舌を這わせ、舐め、吸い付く。すると、微かに目を細めた賢吾の片手が頭にかかった。数回髪を撫でられたあと、後頭部を押さえ付けられ、和彦はゆっくりと口腔深くに欲望を呑み込んでいく。
「――南郷には、してやったのか?」
突然の問いかけに動揺した和彦は、首を横に振ることができず、表情で否定する。この瞬間だけは、賢吾の目はゾッとするほど冷たい光を湛えた。
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