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第42話
(33)
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中嶋の顔を見ないまま告げて、なんとか腕を抜き取ろうとしたが、どんどん体重をかけられる。立ち上がるどころか、和彦の体は半ばソファに沈み込もうとしていた。冗談めかしているが、中嶋は本気だ。
相手が相手ということもあり、ムキになって抵抗もできない。逡巡した挙げ句、和彦は深々とため息をつくと、中嶋の腫れていないほうの頬にそっと触れた。
「人恋しいのか?」
中嶋は目を丸くしたあと、ニヤリと笑った。
「いいえ。欲求不満です」
呆れた、と洩らした和彦の唇に、中嶋が吸い付いてくる。少し体温が高いことに気づき、こうして中嶋と触れ合うのはいつ以来だろうかと考える。確か、まだ暑い盛りだった頃で――。
口腔に舌が入り込んできて、余裕ない動きに誘われるようについ応えてしまう。秦に恨まれるかもしれないと、そんなことがちらりと頭の隅を掠める。知らず知らず目元を和らげた和彦に、中嶋が拗ねた口調で言う。
「子供の駄々につき合っている、みたいな顔をしないでください。元ホストとしては、けっこうプライドが傷つくんですが」
「現役ヤクザとしては平気なのか?」
「ヤクザを手玉に取るのは慣れてるでしょう、先生」
「……人をなんだと思ってるんだ」
答えはなく、再び唇を塞がれる。熱い舌に感じやすい粘膜を舐め回され、合間に激しく唇を吸われる。その頃には和彦の体は、完全に中嶋に押さえ込まれていた。ただ、切迫したものは感じない。
自分は今、中嶋に甘えられているのだと察したとき、平気なつもりだった和彦の体に仄かな熱が生まれる。我ながら度し難いと言うべきか、見境がないと言うべきか。
中嶋にシャツのボタンを外され始めたところで、和彦はコートのポケットをまさぐり、なんとか携帯電話を取り出す。車で待っている組員に電話をかけ、申し訳ないがまだ時間がかかりそうだと言っておく。中嶋はこの状況をおもしろがっているのか、いきなり下肢に触れてきたため、危うく和彦は素っ頓狂な声を上げそうになる。
「な、に、してるんだっ……」
「時間、かかるんですよね?」
挑発的な眼差しで見つめられ、返す言葉が見つからない。
今日はあちこち歩いて疲れているのだとか、そもそも今の自分は、お手軽な性欲解消につき合える心理状態ではないとか、言い訳めいたものは浮かぶが、一方で、欲情を煽られているのは確かだ。
綺麗事など、中嶋との間に必要ないのだ。
「――本宅の夕飯の時間には間に合いたいんだ」
「余裕ですよ」
悪びれない中嶋の返答に、和彦は声を上げて笑った。
もつれ合うようにベッドに移動して、互いの服を脱がせ合うと、時間が惜しいとばかりに中嶋はローションを取り出し、和彦に押し付けてきた。〈男〉が欲しいのだと、その行動で理解する。
不思議なものでそれだけで、スイッチが切り替わったように、猛々しい衝動が湧き起こってくる。時間的な余裕がないというのも、その衝動に拍車をかけてくるようだ。
和彦は、中嶋の両足の間に腰を割り込ませると、熱を帯び始めた欲望同士を擦り付けながら、いきなりローションを垂らす。互いの欲望を掴んで扱き、性急に高め合う。露骨な湿った音に、普段であれば羞恥を覚えるところだが、獣じみた欲情を煽るには効果的だった。
〈男〉というより、〈雄〉かもしれない――。
自分が数分前とは違う生き物に変化していくようで、それが和彦にはゾクゾクするほど楽しい。抱え込んだ鬱々としたものが、ほんの一時でも晴れそうな期待感もあった。
「……難しいこと考えてますか?」
息を弾ませた中嶋に問われ、和彦は肯定する。
「ぼくと君は明け透けで、軽薄だなと思ってたんだ。でも、そうしたいほど、いろんな事情に雁字搦めになっているんだなって」
「俺は、先生ほど、大変じゃないですけどね」
中嶋の欲望の先端を、指の腹でヌルヌルと撫でてやる。引き締まった腿が緊張し、下腹部がヒクリと震えた。さらにローションを垂らしてから、自分がいつも男たちにされているように、柔らかな膨らみをたっぷりと揉み込んでやる。あっという間に中嶋の肌が紅潮し、汗ばんでいく。
片足を抱え上げて、ローションが流れ込んでいる秘裂をまさぐる。何かを期待するようにすでにひくついている内奥の入り口を探り当てると、それだけで切なげな声が上がった。
こじ開けるようにして、指を挿入する。途端にきつく締め付けられたが、構わず指を出し入れし、粘膜と襞にローションをすり込む。瞬く間に肉が妖しく色づいていく。この様子を、秦や加藤も目にしているのだと思ったとき、和彦の中を駆け抜けたのは、嫉妬に似た感情だった。いや、子供めいた独占欲かもしれない。
相手が相手ということもあり、ムキになって抵抗もできない。逡巡した挙げ句、和彦は深々とため息をつくと、中嶋の腫れていないほうの頬にそっと触れた。
「人恋しいのか?」
中嶋は目を丸くしたあと、ニヤリと笑った。
「いいえ。欲求不満です」
呆れた、と洩らした和彦の唇に、中嶋が吸い付いてくる。少し体温が高いことに気づき、こうして中嶋と触れ合うのはいつ以来だろうかと考える。確か、まだ暑い盛りだった頃で――。
口腔に舌が入り込んできて、余裕ない動きに誘われるようについ応えてしまう。秦に恨まれるかもしれないと、そんなことがちらりと頭の隅を掠める。知らず知らず目元を和らげた和彦に、中嶋が拗ねた口調で言う。
「子供の駄々につき合っている、みたいな顔をしないでください。元ホストとしては、けっこうプライドが傷つくんですが」
「現役ヤクザとしては平気なのか?」
「ヤクザを手玉に取るのは慣れてるでしょう、先生」
「……人をなんだと思ってるんだ」
答えはなく、再び唇を塞がれる。熱い舌に感じやすい粘膜を舐め回され、合間に激しく唇を吸われる。その頃には和彦の体は、完全に中嶋に押さえ込まれていた。ただ、切迫したものは感じない。
自分は今、中嶋に甘えられているのだと察したとき、平気なつもりだった和彦の体に仄かな熱が生まれる。我ながら度し難いと言うべきか、見境がないと言うべきか。
中嶋にシャツのボタンを外され始めたところで、和彦はコートのポケットをまさぐり、なんとか携帯電話を取り出す。車で待っている組員に電話をかけ、申し訳ないがまだ時間がかかりそうだと言っておく。中嶋はこの状況をおもしろがっているのか、いきなり下肢に触れてきたため、危うく和彦は素っ頓狂な声を上げそうになる。
「な、に、してるんだっ……」
「時間、かかるんですよね?」
挑発的な眼差しで見つめられ、返す言葉が見つからない。
今日はあちこち歩いて疲れているのだとか、そもそも今の自分は、お手軽な性欲解消につき合える心理状態ではないとか、言い訳めいたものは浮かぶが、一方で、欲情を煽られているのは確かだ。
綺麗事など、中嶋との間に必要ないのだ。
「――本宅の夕飯の時間には間に合いたいんだ」
「余裕ですよ」
悪びれない中嶋の返答に、和彦は声を上げて笑った。
もつれ合うようにベッドに移動して、互いの服を脱がせ合うと、時間が惜しいとばかりに中嶋はローションを取り出し、和彦に押し付けてきた。〈男〉が欲しいのだと、その行動で理解する。
不思議なものでそれだけで、スイッチが切り替わったように、猛々しい衝動が湧き起こってくる。時間的な余裕がないというのも、その衝動に拍車をかけてくるようだ。
和彦は、中嶋の両足の間に腰を割り込ませると、熱を帯び始めた欲望同士を擦り付けながら、いきなりローションを垂らす。互いの欲望を掴んで扱き、性急に高め合う。露骨な湿った音に、普段であれば羞恥を覚えるところだが、獣じみた欲情を煽るには効果的だった。
〈男〉というより、〈雄〉かもしれない――。
自分が数分前とは違う生き物に変化していくようで、それが和彦にはゾクゾクするほど楽しい。抱え込んだ鬱々としたものが、ほんの一時でも晴れそうな期待感もあった。
「……難しいこと考えてますか?」
息を弾ませた中嶋に問われ、和彦は肯定する。
「ぼくと君は明け透けで、軽薄だなと思ってたんだ。でも、そうしたいほど、いろんな事情に雁字搦めになっているんだなって」
「俺は、先生ほど、大変じゃないですけどね」
中嶋の欲望の先端を、指の腹でヌルヌルと撫でてやる。引き締まった腿が緊張し、下腹部がヒクリと震えた。さらにローションを垂らしてから、自分がいつも男たちにされているように、柔らかな膨らみをたっぷりと揉み込んでやる。あっという間に中嶋の肌が紅潮し、汗ばんでいく。
片足を抱え上げて、ローションが流れ込んでいる秘裂をまさぐる。何かを期待するようにすでにひくついている内奥の入り口を探り当てると、それだけで切なげな声が上がった。
こじ開けるようにして、指を挿入する。途端にきつく締め付けられたが、構わず指を出し入れし、粘膜と襞にローションをすり込む。瞬く間に肉が妖しく色づいていく。この様子を、秦や加藤も目にしているのだと思ったとき、和彦の中を駆け抜けたのは、嫉妬に似た感情だった。いや、子供めいた独占欲かもしれない。
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