血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
1,022 / 1,267
第40話

(34)

しおりを挟む
「千尋、もういいから……」
 なんとか千尋の頭を上げさせようと、茶色の髪を梳いてやる。しかし千尋は確信を得たように、硬くした舌先で先端をくすぐってくる。ときおり歯が掠め、そのたびにヒヤリとする恐怖に襲われるが、同時に、先日の賢吾との淫靡な行為が蘇る。
「あっ、それ、嫌だ、千尋。怖い……」
「ウソ。いっぱい、濡れてきた」
 わざと和彦に聞かせるように、千尋がピチャピチャと濡れた音を立てて、欲望の先端を舐めてくる。さらには爪の先でも弄られて、和彦は鼻にかかった甘い呻き声を洩らしていた。
 まさか賢吾は千尋に話したのだろうかと、つい脳裏を過りはするものの、本人に確かめるわけにもいかない。
「ああっ――」
 先端から尽きることなく滲み出る透明なしずくを吸われ、さらに出せといわんばかりに舌先でくすぐられる。和彦は甲高い声を上げ、身悶えていた。
 汗と、それ以外のものによって湿りを帯びた内奥の入り口を、千尋の指先が掠める。押さえつけるようにして刺激され、ときおり舐められて濡らされながら、ゆっくりと指を挿入されていた。和彦は小さく喘ぎながら、内奥を妖しくひくつかせる。
 全身から熱気のようなものを立ち昇らせ、顔を上げた千尋が荒い息を吐く。内奥から指を出し入れしながら、思い出したように呟いた。
「……行かせたくないなー。すごく心配だよ。誰かに連れ去られて、戻って来ないんじゃないかって考えると、気が狂いそうになる」
 すぐには思考が追い付かなかった。肉を開かれ、擦られる感触に意識を集中していた和彦は、ぼんやりと千尋を見上げる。千尋は愉悦を覚えたように目を細め、もう片方の手を和彦の胸元に這わせてきた。触れられないまま硬く凝った突起を、てのひらで捏ねるように刺激され、意識しないまま内奥をきつく収縮させる。
「こんないやらしい和彦を、一人で送り出すなんて、嫌だよ。……どんな男が食いつくか、わかったものじゃない」
「人を、魚の餌みたいに言うな……。それに、実の父親と会うだけなんだから、余計な心配だ」
「本当にそうなると思う? 状況なんて、いつだって変わるよ。じいちゃんにどんな約束をしたのか知らないけど、和彦の父親が、よし連れて帰ろう、ってなるかもしれない」
「それを言い出したら、キリがない。もう決まったんだから、そんなこと言うな」
 唇を尖らせた千尋が、捨てられた子犬のような眼差しを向けてくる。
「……変な話だよね。見知らぬ他人じゃなくて家族に会うのに、毎回、俺――だけじゃなくて、オヤジも心配してる気がする」
 和彦は片手を伸ばすと、千尋の頬を手荒く撫でてやる。首を竦める千尋の仕種が可愛くて、ちらりと笑みをこぼしていた。
「お前たち父子に心配をかけて悪いとは思うけど、心のどこかでほっともしているんだ。ぼくは必要とされているんだと実感できて……」
「前々から思ってたけど、和彦って自己評価低いよね。見た目は文句なしのイイ男で、医者なんかやってるぐらい頭がよくて、まじめで働き者で、優しくて、俺のこと甘やかすのが上手くて……」
 三本に増やされた指が内奥で好き勝手に動き、襞と粘膜を擦り立てられる。愛撫に悦んだ体が勝手に動き、シーツの上に爪先を突っ張らせ、浅ましく腰を揺らす。和彦の示した媚態に喉を鳴らした千尋が、内奥から指を引き抜き、囁きかけてきた。
「――どこにも、行かないよね?」
「どこかに行けと言われても、行く場所がない。ぼくの人生を奪った分、お前たち父子にはしっかり背負ってもらうつもりだからな」
 こう答えた次の瞬間、しなやかで熱い体を持つ獣がのしかかってくる。和彦はさっそく背に両腕を回し、そこに息づく生き物をてのひらで撫で回す。千尋はもどかしげに下肢を密着させてくると、高ぶった欲望をさっそく内奥に挿入してこようとする。和彦は慌てて肩を押し上げた。
「今夜はもう寝るつもりだったし、明日は仕事があるから、ゴムをつけろっ」
「中に出さないから」
「……信用できない」
「あっ、ひどい……」
 ショックを受けた、という顔をしながらも、めげることなく千尋は実力行使に出る。
 片膝を掴み上げられ、内奥の入り口に欲望の先端を擦りつけられたところで、和彦は上体を捩ろうとしたが、そのときには潤んだ肉をこじ開けるようにして、千尋に犯されていた。
「ああっ」
 和彦は腰を震わせ、抵抗をやめる。本気で嫌がっているわけではないと、千尋はわかっているのだ。
 両足を折り曲げるようにして抱えられて、じっくりと観察されながら、欲望が根元まで内奥に埋め込まれていた。

しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...