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第39話
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ギリギリのところで力を加減しており、血が滲むようなことにはならないが、じわりと痛みが走る。ただしその痛みは、肉欲の疼きを伴っている。千尋の後ろ髪を掴んで和彦は訴えた。
「痛いのは嫌だ」
「ごめん。……痛かった?」
ベロリと首筋を舐め上げた千尋が、今度は機嫌を取るように柔らかく吸いついてくる。浴衣を脱がされ、肩先を愛しげに撫でられて、和彦は揺れる茶色の髪を見つめる。人懐こい大きな犬に乗りかかられているようだと思ったが、千尋のプライドを慮り、この状況で声に出しては言わない。
手を伸ばし、千尋の浴衣の帯を解いてやると、待ちかねていたように一気に浴衣を脱ぎ捨てた。向けられる期待を込めた眼差しの意味を、即座に和彦は解する。思わせぶりにゆっくりと、千尋の背に両手を這わせてやると、それだけで若々しい体がブルッと震えた。
「俺の背中の絵は、和彦だけのものだから。この先ずっと、誰にも触らせない」
若い肌は、刺青を入れたあとでも元の滑らかさを取り戻そうとしているのか、ざらつきは少し治まっているようだ。こんな変化を知ることができるのも、ある意味、特権なのかもしれない。
「――お前が初めて刺青を見せてくれたとき、ぼくに言った言葉を覚えているけど、すごいな、お前は。この先、心変わりがあるかもしれないって、全然疑ってないんだな」
「和彦が俺のことを、嫌いになるかもしれないってこと?」
「反対だ。お前がぼくのことを、ということだ。どうして断言できるのか、本当に不思議なんだ」
和彦の言葉に、ムッとしたように千尋が眉をひそめる。
「俺の告白を真剣に受け止めてない?」
「受け止めているから、そう思う。……客観的に見て、お前は魅力的だから、この先もぼくが独占できるとは思えない」
十歳も年下の青年に、こんなことを告げるのはひどく勇気を必要とする。それでも言わずにはいられなかったのは、やはり千尋の、そして長嶺組の将来を思うからだ。
和彦の安穏とした人生設計を狂わせた存在が、今の和彦を丸ごと抱えて大事にしてくれている。そのことに和彦は居心地のよさを感じているからこそ、やはり〈彼ら〉を大事にしたいのだ。
こちらの胸の内を知ってか知らずか、にんまりと笑った千尋がいきなり顔中に唇を押し当てきた。
「今の、愛の告白だよね?」
「……どうかな」
「照れ屋だなー」
興奮を堪え切れなくなったように千尋に唇を塞がれる。貪るように激しく唇を吸われてから、無遠慮に口腔に舌が差し込まれて、口腔を舐め回される。和彦はその勢いに圧倒されながらも、懸命に千尋に応えようとする。差し出した舌を絡め合い、千尋の唇を丹念に吸ってやると、もどかしげに腰を擦りつけられた。
今すぐにでも繋がりたいとばかりに、千尋に片足を担ぎ上げられる。さすがに焦った和彦は、慌てて千尋の顔を押し退けて、もう一度念を押した。
「痛いのは、嫌だからな」
「じゃあ、痛くならないように――」
今度は膝を掴まれて足を大きく左右に開かれる。秘められた部分をすべて曝け出した格好を取らされ、慣れない羞恥に和彦は身じろごうとしたが、千尋が嬉々とした様子で内腿に顔を寄せた。
「動かないでね」
熱い唇が肌に触れ、濡れた舌にちろりと舐められる。さらに、慎重に歯を立てられた。痛みはないが、歯の感触にゾクゾクするような感覚が腰を這い上がり、和彦は動けなくなる。それをいいことに、千尋の手が敏感な部分をまさぐり始めた。
柔らかく欲望を握り締められて、そっと息を詰める。千尋は上目遣いに和彦の反応をうかがいながら、内腿に愛撫の痕跡をいくつも散らし、欲望を緩く扱く。
うねるような情欲の高まりに、体中が熱を帯びていく。千尋の頭が深く潜り込んできて、際どい部分に荒い息がかかる。無意識に和彦の腰は逃げそうになるが、低く笑い声を洩らした千尋に、欲望の根元を指の輪で締め付けられた。
「ダメだよ、逃げちゃ。これから、和彦に気持ちいいことしてあげるんだから」
身を起こしかけた欲望の先端を舌先でくすぐられて、思わず和彦は細い声を洩らす。次の瞬間には括れまでを口腔に含まれ、ねっとりと舌がまとわりついてきた。
「うっ、うぅっ……」
爪先を突っ張らせながら、ビクビクと腰を震わせる。千尋は、和彦の理性を性急に突き崩すように、今度は柔らかな膨らみをてのひらで包み込むように触れて、揉みしだき始める。和彦は布団の上で大きく仰け反り、脱がされた浴衣を咄嗟に握り締めていた。
千尋もまた、他の長嶺の男同様、和彦の体を知り抜いている。容赦なく弱みを指先で攻めながら、欲望を口腔深くまで含み、吸引してくる。和彦は腰を揺らし、間欠的に悦びの声を上げる。
「あうっ、うっ、んんっ」
「痛いのは嫌だ」
「ごめん。……痛かった?」
ベロリと首筋を舐め上げた千尋が、今度は機嫌を取るように柔らかく吸いついてくる。浴衣を脱がされ、肩先を愛しげに撫でられて、和彦は揺れる茶色の髪を見つめる。人懐こい大きな犬に乗りかかられているようだと思ったが、千尋のプライドを慮り、この状況で声に出しては言わない。
手を伸ばし、千尋の浴衣の帯を解いてやると、待ちかねていたように一気に浴衣を脱ぎ捨てた。向けられる期待を込めた眼差しの意味を、即座に和彦は解する。思わせぶりにゆっくりと、千尋の背に両手を這わせてやると、それだけで若々しい体がブルッと震えた。
「俺の背中の絵は、和彦だけのものだから。この先ずっと、誰にも触らせない」
若い肌は、刺青を入れたあとでも元の滑らかさを取り戻そうとしているのか、ざらつきは少し治まっているようだ。こんな変化を知ることができるのも、ある意味、特権なのかもしれない。
「――お前が初めて刺青を見せてくれたとき、ぼくに言った言葉を覚えているけど、すごいな、お前は。この先、心変わりがあるかもしれないって、全然疑ってないんだな」
「和彦が俺のことを、嫌いになるかもしれないってこと?」
「反対だ。お前がぼくのことを、ということだ。どうして断言できるのか、本当に不思議なんだ」
和彦の言葉に、ムッとしたように千尋が眉をひそめる。
「俺の告白を真剣に受け止めてない?」
「受け止めているから、そう思う。……客観的に見て、お前は魅力的だから、この先もぼくが独占できるとは思えない」
十歳も年下の青年に、こんなことを告げるのはひどく勇気を必要とする。それでも言わずにはいられなかったのは、やはり千尋の、そして長嶺組の将来を思うからだ。
和彦の安穏とした人生設計を狂わせた存在が、今の和彦を丸ごと抱えて大事にしてくれている。そのことに和彦は居心地のよさを感じているからこそ、やはり〈彼ら〉を大事にしたいのだ。
こちらの胸の内を知ってか知らずか、にんまりと笑った千尋がいきなり顔中に唇を押し当てきた。
「今の、愛の告白だよね?」
「……どうかな」
「照れ屋だなー」
興奮を堪え切れなくなったように千尋に唇を塞がれる。貪るように激しく唇を吸われてから、無遠慮に口腔に舌が差し込まれて、口腔を舐め回される。和彦はその勢いに圧倒されながらも、懸命に千尋に応えようとする。差し出した舌を絡め合い、千尋の唇を丹念に吸ってやると、もどかしげに腰を擦りつけられた。
今すぐにでも繋がりたいとばかりに、千尋に片足を担ぎ上げられる。さすがに焦った和彦は、慌てて千尋の顔を押し退けて、もう一度念を押した。
「痛いのは、嫌だからな」
「じゃあ、痛くならないように――」
今度は膝を掴まれて足を大きく左右に開かれる。秘められた部分をすべて曝け出した格好を取らされ、慣れない羞恥に和彦は身じろごうとしたが、千尋が嬉々とした様子で内腿に顔を寄せた。
「動かないでね」
熱い唇が肌に触れ、濡れた舌にちろりと舐められる。さらに、慎重に歯を立てられた。痛みはないが、歯の感触にゾクゾクするような感覚が腰を這い上がり、和彦は動けなくなる。それをいいことに、千尋の手が敏感な部分をまさぐり始めた。
柔らかく欲望を握り締められて、そっと息を詰める。千尋は上目遣いに和彦の反応をうかがいながら、内腿に愛撫の痕跡をいくつも散らし、欲望を緩く扱く。
うねるような情欲の高まりに、体中が熱を帯びていく。千尋の頭が深く潜り込んできて、際どい部分に荒い息がかかる。無意識に和彦の腰は逃げそうになるが、低く笑い声を洩らした千尋に、欲望の根元を指の輪で締め付けられた。
「ダメだよ、逃げちゃ。これから、和彦に気持ちいいことしてあげるんだから」
身を起こしかけた欲望の先端を舌先でくすぐられて、思わず和彦は細い声を洩らす。次の瞬間には括れまでを口腔に含まれ、ねっとりと舌がまとわりついてきた。
「うっ、うぅっ……」
爪先を突っ張らせながら、ビクビクと腰を震わせる。千尋は、和彦の理性を性急に突き崩すように、今度は柔らかな膨らみをてのひらで包み込むように触れて、揉みしだき始める。和彦は布団の上で大きく仰け反り、脱がされた浴衣を咄嗟に握り締めていた。
千尋もまた、他の長嶺の男同様、和彦の体を知り抜いている。容赦なく弱みを指先で攻めながら、欲望を口腔深くまで含み、吸引してくる。和彦は腰を揺らし、間欠的に悦びの声を上げる。
「あうっ、うっ、んんっ」
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