血と束縛と

北川とも

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第36話

(26)

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 背に玲が覆い被さってきて、ちろりと肌を舐められる。背後からきつく抱き締められながら、次にうなじに唇が押し当てられた。荒い息遣いが耳朶に触れ、和彦は甲高い声を上げる。
 玲が夢中で腰を動かしているとわかる。内奥から欲望を出し入れされ、ぐちゅっ、ぐちゅっと淫靡な音を立てて濡れた粘膜が擦れ合い、その音が、一層欲情を煽り立てる。
「んっ、んんっ、あっ、あっ、玲、く……」
「その声も、いい――。んっ、また、出していいですか……? 出したい」
 中に、と掠れた声で囁かれ、鳥肌が立った。
 誘い込むように玲の欲望を締め付ける。内奥深くに、二度目の精を受け止めていた。
 玲の額が背にぐりぐりと押し当てられ、和彦は息を喘がせながらも笑ってしまう。
 玲は今度は、和彦の背に愛撫の痕跡を残し始める。肌にときおりチクリと走る小さな刺激だけではなく、微かに聞こえる濡れた音に鼓膜を刺激され、和彦は自分の両足の間にそっと片手を這わせる。まだ一度も絶頂を迎えてはいないが、中からの刺激に反応していないわけではなく、十分に熱くなり、反り返っていた。
「はっ……ん、ふっ、は、あぁ――……」
 玲の愛撫を受けながら、自らを慰めようとしたが、ふいに内奥から欲望が引き抜かれ、背から玲が退く。肩を掴まれて、なんとなく意図を察した和彦が仰向けとなると、勢いよくしがみつかれた。
 汗で濡れた体をぴったりと重ね、擦りつけ合う。和彦は、いまだに力強さを漲らせている体をてのひらで愛撫する。しなかやな筋肉を覆う肌の感触も心地よかった。
「こうしていると、よくわかる。本当に、きれいな体だ。……たまに考えるんだ。君たちぐらいのとき、ぼくはこんなふうに、圧倒されるぐらい眩しい存在だったんだろうか、って」
「君たち?」
 和彦は自分の失言に気づいたが、うろたえたりはしなかった。玲が知ろうと思えば、明日にでも耳に入ることだ。
「ぼくをオンナにしている一人が、君とそう歳が違わない」
「――……犬っころみたいな奴。昨日、そんなこと言ってましたね」
 和彦は返事の代わりに、玲の頭を撫でる。すると、痛いほどきつく抱き締められた。
 まさか、と思ったが、玲はまだ満足していなかった。和彦の体に触れながら欲望が高ぶるのを待ち、隙あらばまた内奥に押し入ってこようとしてくる。さすがに体力の回復が追いつかないと、下肢を絡ませながらの静かな攻防を繰り返していた和彦だが、玲の情熱に圧倒され、煽られていた。
「今度はぼくが、君の体に触れたいな……」
 そう求めると、初めて恥じらいらしき表情を見せた玲がおとなしくなる。和彦は微笑ましい気持ちになりながら、遠慮なく十代の体に乗り上がり、触れさせてもらう。
 暴走しそうになる玲の情欲をときおり宥めてやりながら、日焼けした肌に丹念に唇と舌を這わせ、愛撫の心地よさを教える。
「……連休明け、体育の授業はある?」
「ある、けど、かまわないです。体調不良とか言って、ズル休みします」
「それは、良心が咎めるな――」
 いまさら、と和彦は心の中で付け加える。すると玲が、芽生えかけた罪悪感を打ち消すようなことを言った。
「少しでも長く、佐伯さんの存在を残しておきたいから、思いきりつけてください。……キスマーク」
 末恐ろしい高校生だなと思いながら、ちらりと笑った和彦は玲の胸元に唇を押し当てる。舌先でくすぐり、柔らかく肌を吸い上げ、確認しながら小さな鬱血を残していく。
 引き締まった腹部から胸元に舌を這わせてから、自分がされたように腕の内側に吸い付く。軽く歯を立てると、玲がビクリと身を震わせた。
 切ない声で呼ばれ、口づけを交わす。腰を抱き寄せられ、擦りつけられたので、男を甘やかしたいという和彦の本能が疼く。舌を絡ませながら、手探りで玲の欲望を掴むと、精を溢れさせる内奥に呑み込んでいく。玲の息遣いが弾み、同時に、内奥深くまで受け入れた欲望が震えた。
 体を繋げる快感を知ったばかりの玲を驚かせないよう、ゆっくりと腰を動かす。心地よさそうに玲が目を細め、掠れた声を上げた。
 欲望を柔らかく締め付けながら和彦は、全身を使って玲を甘やかし、愛していく。玲は驚くほど柔軟に、貪欲に、快楽に馴染んでいく。もっと、もっとと欲していく。和彦の腰に両手をかけ、自らぎこちなく突き上げるようにして、律動を刻み始めていた。
「あっ、あっ、い、ぃ……」
 玲の眼差しが、律動に合わせて揺れる和彦の欲望へと向けられていた。反り返ったものは、先端から止めどなく透明なしずくを垂らしている。
「佐伯さんがイクところ、見たいです。まだ一度も、イッてないですよね。俺ばかり気持ちよくなって、申し訳ないです」
 玲の手が欲望にかかりそうになったが、和彦は柔らかく拒む。その代わり、自身のてのひらで包み込んだ。
「んっ……」
 欲望を扱き始めると、意識しないまま内奥を収縮させる。玲の欲望がゆっくりと膨らんでいくのを感じながら、そっと腰を上げ、すぐにまた下ろす。玲は、自分が何をやるべきか思い出したらしく、再び和彦の腰を掴んで、自ら動き始めた。
 間欠的に喘ぎ声をこぼしていた和彦だが、激しさを増す玲の動きにバランスを保てなくなり、たまらず片手を布団に突く。
「あうっ」
 一際大きく下から突き上げられた拍子に、初めて絶頂を迎える。迸り出た精が、玲の腹部から胸元にかけて飛び散り、きれいな体を汚してしまったと思った途端、和彦は身を貫くような快美さに襲われた。玲も何かを感じたらしく、前のめりとなった和彦をきつく抱き締めながら、なおも内奥を突き上げてくる。
「あっ、うっ、あぁっ……。少し、待ってくれ……。玲くんっ、玲、くっ――」
「ダメですよ。こんなに、気持ちよさそうな、顔してるのに……。俺も、気持ちいいっ……」
 玲の上で、和彦は恥知らずなほど歓喜の声を上げ、身悶えていた。そんな和彦を逃すまいと、玲の両腕はしっかりと巻きついてきて、何より内奥には、深くまで熱い楔を打ち込んでくる。
 玲の欲望の形に、馴染んでいきそうだった。浅ましく内奥が蠢き、締まり、淫らな襞と粘膜が狂乱しながら、力強く脈打つ欲望に絡みつく。
 体力のすべてを搾り出すかのように、玲の攻めは激しく、執拗だった。腰にかかっていた手は、ついには手荒く尻の肉を鷲掴み、ここまで見せていなかった玲の猛々しさを感じて、和彦の身をゾクゾクするような歓喜が貫く。
 三度目の精を内奥で受け止めたとき、和彦はこのまま体が溶けてなくなってしまうのではないかと思うほど、気力も体力も消耗しきっていた。
 そして、久しぶりの感覚を味わう。
 指先から髪の先まで、男の情愛に満たされたという感覚を。

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