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第33話
(21)
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「言葉でいくら、先生は大事で可愛いオンナだと言っても、こちらの気持ちのすべてを伝えきることはできないだろう。言葉は、偽ることもできるし、取り繕うこともできる。だったら、それ以外の方法が必要だ。先生の欲しがるものを与えて、先生が逃げ出せないよう立場や情で雁字搦めにもして……、だが、それでもまだ足りない」
賢吾の手が肩にかかり、呼応するように千尋が片手を差し出してくる。この場の空気に呑まれてしまった和彦は、何も考えられないままその手を取り、軽く引っ張られてその場に座り込んだ。
「先生は冗談だと思っただろうが、前に、俺の養子になるかと言ったのは、本気だ。――どうやら同じ口説き文句を、別の男も言ったようだが」
賢吾のやや皮肉交じりの言葉に応じるように、守光が口元に淡い笑みを湛える。
「そういう形式的なことはあとで考えるとして、まずは先生に、自分がどれだけ特別な存在なのか、体で実感してもらわないと」
いつになく興奮した様子で、両目に強い光を宿した千尋がのっそりと和彦に迫ってくる。反射的に身を引きそうになったが、背後から賢吾に抱き締められて捕われる。
「先生は、俺たちにとって、長嶺組にとって、俺個人としてはあまり嬉しくないが、総和会にとっても特別だ。特別な、大事で可愛いオンナだ。誰も先生の代わりにはならない。先生は無力なんじゃない。優しいから、与えられた力を振るえないだけだ。だがそれすら、俺たちにとっては愛しい」
耳元で賢吾に囁かれながら、千尋に唇を吸われる。和彦は、賢吾がどうしてこんなことを言うのか、薄々とながら理由が推測できた。もともと賢吾なりに、和彦を気遣ってはいたが、御堂の復帰によって、その気遣いの目的は、より明確なものとなったようだ。
オンナという〈立場〉ではなく、〈生き方〉として受け入れろと、傲慢な男たちは強引に、しかしそれ以上に淫らに迫ってくる。
「んっ……う」
千尋にあごを持ち上げられ、唇が一層深く重なる。熱い舌が性急に口腔に押し込まれると、和彦は拒めない。眩暈がするほど間近に千尋の両目があり、覗き込んでいるうちに、狂おしいほどの欲情に呑まれてしまいそうな危惧を覚える。千尋だけではない。視界に入らずとも、自分を見つめる二人の男の眼差しも感じていた。
怖い、と心の中で洩らしたとき、背後で身じろいだ賢吾の唇がうなじに押し当てられる。同時に、浴衣の帯を解かれていた。浴衣を肩から滑り落とされると、大きく硬いてのひらが胸元に這わされる。左右の胸の突起をまさぐられ、瞬く間に凝る。
深い口づけを解いた千尋が、賢吾が指先で育てた胸の突起を口腔に含む。一方の賢吾は、和彦のあごを掴み寄せ、荒々しく唇を塞いでくる。二匹の獣に貪られているようだと思っているうちに、こんなときには息の合う父子によって下着まで脱がされていた。まるで昨夜の行為の再現だが、違うのは、この場に守光がいるということだ。
さすがに羞恥に身を捩ろうとしたとき、視界の隅に入った守光と目が合った。三人での睦み合いを、口元に笑みを湛えて見つめているのだと知り、何より怖いのは、化け狐を背負うこの男なのだと実感する。守光にとっては、千尋だけではなく、賢吾ですら、まだ成長を見守るべき存在なのだ。
「――……狐の目が気になるか?」
和彦の心の内を読んだように、口づけの合間に賢吾が問いかけてくる。和彦は咄嗟に視線を伏せたが、それが何よりも雄弁な答えとなったらしく、わずかに眉をひそめた賢吾が守光に抗議した。
「先生を怖がらせるようなことをしているのか、オヤジ?」
「さあ、どうだろうな。わしとしては、大事に愛しているつもりだが」
側に寄ってきた守光の手に、和彦の両足の間をまさぐられ、命じられたわけでもないのに自らおずおずと足を立て、左右に開いていた。まだ反応を示していない欲望を掴まれて、ビクリと腰を震わせる。
「あっ、あぁ……」
欲望を緩く上下に扱かれて、吐息をこぼす。すると、まるで張り合うように千尋も両足の間に手を伸ばし、柔らかな膨らみを弄ぶように触れてきた。下肢から送り込まれてくる快感に腰を震わせていると、賢吾の指に唇を割り開かれ、口腔に押し込まれる。感じやすい粘膜を擦り上げられ、ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け抜けていた。
ほう、と声を洩らしたのは守光だ。てのひらの中で、和彦の欲望が形を変え始めたのだ。千尋の指の動きも淫らさを増し、的確に弱みを探り当て、刺激してくる。
「ひっ……、あっ、あっ……ん、んんっ」
賢吾の指に舌をまさぐられて、たまらず和彦はその指を吸う。口腔から指が出し入れされ、その光景に誘われたように千尋が顔を寄せてきて、賢吾の指に代わり、口腔に舌を押し込んできた。
賢吾の手が肩にかかり、呼応するように千尋が片手を差し出してくる。この場の空気に呑まれてしまった和彦は、何も考えられないままその手を取り、軽く引っ張られてその場に座り込んだ。
「先生は冗談だと思っただろうが、前に、俺の養子になるかと言ったのは、本気だ。――どうやら同じ口説き文句を、別の男も言ったようだが」
賢吾のやや皮肉交じりの言葉に応じるように、守光が口元に淡い笑みを湛える。
「そういう形式的なことはあとで考えるとして、まずは先生に、自分がどれだけ特別な存在なのか、体で実感してもらわないと」
いつになく興奮した様子で、両目に強い光を宿した千尋がのっそりと和彦に迫ってくる。反射的に身を引きそうになったが、背後から賢吾に抱き締められて捕われる。
「先生は、俺たちにとって、長嶺組にとって、俺個人としてはあまり嬉しくないが、総和会にとっても特別だ。特別な、大事で可愛いオンナだ。誰も先生の代わりにはならない。先生は無力なんじゃない。優しいから、与えられた力を振るえないだけだ。だがそれすら、俺たちにとっては愛しい」
耳元で賢吾に囁かれながら、千尋に唇を吸われる。和彦は、賢吾がどうしてこんなことを言うのか、薄々とながら理由が推測できた。もともと賢吾なりに、和彦を気遣ってはいたが、御堂の復帰によって、その気遣いの目的は、より明確なものとなったようだ。
オンナという〈立場〉ではなく、〈生き方〉として受け入れろと、傲慢な男たちは強引に、しかしそれ以上に淫らに迫ってくる。
「んっ……う」
千尋にあごを持ち上げられ、唇が一層深く重なる。熱い舌が性急に口腔に押し込まれると、和彦は拒めない。眩暈がするほど間近に千尋の両目があり、覗き込んでいるうちに、狂おしいほどの欲情に呑まれてしまいそうな危惧を覚える。千尋だけではない。視界に入らずとも、自分を見つめる二人の男の眼差しも感じていた。
怖い、と心の中で洩らしたとき、背後で身じろいだ賢吾の唇がうなじに押し当てられる。同時に、浴衣の帯を解かれていた。浴衣を肩から滑り落とされると、大きく硬いてのひらが胸元に這わされる。左右の胸の突起をまさぐられ、瞬く間に凝る。
深い口づけを解いた千尋が、賢吾が指先で育てた胸の突起を口腔に含む。一方の賢吾は、和彦のあごを掴み寄せ、荒々しく唇を塞いでくる。二匹の獣に貪られているようだと思っているうちに、こんなときには息の合う父子によって下着まで脱がされていた。まるで昨夜の行為の再現だが、違うのは、この場に守光がいるということだ。
さすがに羞恥に身を捩ろうとしたとき、視界の隅に入った守光と目が合った。三人での睦み合いを、口元に笑みを湛えて見つめているのだと知り、何より怖いのは、化け狐を背負うこの男なのだと実感する。守光にとっては、千尋だけではなく、賢吾ですら、まだ成長を見守るべき存在なのだ。
「――……狐の目が気になるか?」
和彦の心の内を読んだように、口づけの合間に賢吾が問いかけてくる。和彦は咄嗟に視線を伏せたが、それが何よりも雄弁な答えとなったらしく、わずかに眉をひそめた賢吾が守光に抗議した。
「先生を怖がらせるようなことをしているのか、オヤジ?」
「さあ、どうだろうな。わしとしては、大事に愛しているつもりだが」
側に寄ってきた守光の手に、和彦の両足の間をまさぐられ、命じられたわけでもないのに自らおずおずと足を立て、左右に開いていた。まだ反応を示していない欲望を掴まれて、ビクリと腰を震わせる。
「あっ、あぁ……」
欲望を緩く上下に扱かれて、吐息をこぼす。すると、まるで張り合うように千尋も両足の間に手を伸ばし、柔らかな膨らみを弄ぶように触れてきた。下肢から送り込まれてくる快感に腰を震わせていると、賢吾の指に唇を割り開かれ、口腔に押し込まれる。感じやすい粘膜を擦り上げられ、ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け抜けていた。
ほう、と声を洩らしたのは守光だ。てのひらの中で、和彦の欲望が形を変え始めたのだ。千尋の指の動きも淫らさを増し、的確に弱みを探り当て、刺激してくる。
「ひっ……、あっ、あっ……ん、んんっ」
賢吾の指に舌をまさぐられて、たまらず和彦はその指を吸う。口腔から指が出し入れされ、その光景に誘われたように千尋が顔を寄せてきて、賢吾の指に代わり、口腔に舌を押し込んできた。
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