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第29話
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もっともらしいことを言っているが、これは恫喝だ。ここでは、南郷の行動を止められる人間はいないと仄めかしているのだ。
「普段、あんたを守っている男たちほど、俺は紳士でもないし、気も利かないだろう。だが、我慢してくれ。俺なりに、あんたを大事に思っているんだ。〈恋焦がれる〉と表現してもいいほどな」
南郷の声は優しいが、だからこそ不気味だった。掴まれているあごが痛くて、和彦は大きな手を押しのけようとしたが、力が緩むことはない。それどころか――。
「あっ……」
南郷の顔が間近に迫り、獣の息遣いが頬に触れる。まさか、と思ったときには、唇を塞がれていた。唇を覆う熱く湿った感触に、嫌悪感が湧き起こる。和彦は、大きな獣を威嚇するように呻き声を洩らすが、それすら南郷の唇に吸い取られる。
必死に唇を引き結ぶと、南郷は焦れることなく、片手に掴んだ和彦の欲望を弄び始める。括れを強く指で擦り上げられ、敏感な先端を爪の先でくすぐられると、和彦は無反応でいられなかった。感じているわけではない。いつ、痛みを与えられるかと、気が気ではないのだ。
下肢の愛撫に気を取られ、唇が緩む。待ち構えていたように、南郷の舌が悠々と口腔に押し込まれてきた。
これで、和彦を自由にできるという確信が生まれたのだろう。南郷が布団を跳ね除けて、和彦の体の上に覆い被さってくる。和彦は両手で逞しい肩を押し退けようとしたが、スウェットパンツと下着を無造作に引き下ろされて、再び欲望を握り込まれると、できる抵抗など知れていた。
南郷の舌に口腔を犯される。粘膜を舐め回されながら唾液を流し込まれ、逃げ惑う和彦の舌は簡単に搦め捕られて、強く吸われる。粗野で暴力的な外見そのままの、乱暴な口づけだった。
考えてみれば、南郷と直接唇を重ねるのはこれが初めてだ。だが、まったく感触を知らないわけではない。長嶺組の組員たちから引き離され、総和会が身柄を預かっている男の治療のため、一人で仮眠室に泊まったとき、和彦は南郷に体に触れられた。そのとき、顔に薄い布をかけられて、南郷に唇を貪られたのだ。
布一枚分の建前で、南郷は正体を隠すつもりはあったようだが、今夜は違う。自らの存在を明らかにし、誇示しながら、和彦に触れてくる。
ようやく唇が離されて、和彦は大きく息を吸い込む。南郷は、余裕たっぷりの表情で、そんな和彦を見下ろしてくる。
「あんたは、本気の抵抗をしないんだな。嫌がる素振りは見せても、死に物狂いで俺の腕の中から抜け出そうとはしない。前に触れたときも思ったが……、本気で抵抗をして、相手が本気で押さえにかかってくるのを怖がってるようだ。あの長嶺組長は、あんたを惨い目に遭わせたりしないだろ。長嶺組長だけじゃなく、他の男たちも」
「……あなたに、関係ない」
ふいっと顔を背けた和彦は、南郷の下から抜け出そうとしたが、あっさり肩を押さえつけられ、身動きが取れなくなった。
「俺としては、抵抗する相手に手を上げて言うことを聞かせるのは、少しばかり興奮する性質なんだが――、まあ、あんたにそんな無体はよしておこう」
和彦は反射的に南郷を睨みつけるが、挑発されていると思うと、暴れることはできなかった。おそらく南郷は、和彦の頬を打つことにためらいはしないだろう。傷さえつけなければ、少々の暴力を振るったことなど、第三者にバレはしないのだ。
「ゾクゾクするな。極上の色男に、そんな目で睨みつけられると……」
そう言って南郷が、和彦の唇を吸い上げる。同時に、膝の辺りで引っかかっていたスウェットパンツと下着を完全に脱がせてしまうと、強引に和彦の足を開かせて、腰を割り込ませてきた。和彦は呻き声を洩らし、体を強張らせて拒絶の意思を示すが、南郷の行動を止めるには至らない。
一度上体を起こした南郷が、和彦を見下ろしてくる。下肢は剥き出しとなったうえに大きく足を開かされ、ガウンは半ば脱げかけ、Tシャツを胸元までたくし上げられた姿だ。相手によっては羞恥心を刺激されるのだろうが、和彦は屈辱しか感じない。ひたすら南郷を睨みつけるが、かえって加虐心を煽っただけのようだ。
分厚く大きなてのひらを腹部から胸元に這わせながら、嘲笑うような口調で南郷は言った。
「どれだけ睨みつけられようが、俺は痛みを感じない。あんたもそれがわかっていながら、手を振り上げることすらできない。――オンナ、だからな」
南郷が顔を伏せ、胸の中央をベロリと舐め上げてくる。不快さに息を詰まらせた和彦は、堪らず南郷の頭を押し退けようとしたが、動きを読んでいたように、あっさり手首を掴まれて押さえつけられた。その間、南郷は頭を上げる素振りすら見せない。それが、この男の余裕を物語っていた。
「普段、あんたを守っている男たちほど、俺は紳士でもないし、気も利かないだろう。だが、我慢してくれ。俺なりに、あんたを大事に思っているんだ。〈恋焦がれる〉と表現してもいいほどな」
南郷の声は優しいが、だからこそ不気味だった。掴まれているあごが痛くて、和彦は大きな手を押しのけようとしたが、力が緩むことはない。それどころか――。
「あっ……」
南郷の顔が間近に迫り、獣の息遣いが頬に触れる。まさか、と思ったときには、唇を塞がれていた。唇を覆う熱く湿った感触に、嫌悪感が湧き起こる。和彦は、大きな獣を威嚇するように呻き声を洩らすが、それすら南郷の唇に吸い取られる。
必死に唇を引き結ぶと、南郷は焦れることなく、片手に掴んだ和彦の欲望を弄び始める。括れを強く指で擦り上げられ、敏感な先端を爪の先でくすぐられると、和彦は無反応でいられなかった。感じているわけではない。いつ、痛みを与えられるかと、気が気ではないのだ。
下肢の愛撫に気を取られ、唇が緩む。待ち構えていたように、南郷の舌が悠々と口腔に押し込まれてきた。
これで、和彦を自由にできるという確信が生まれたのだろう。南郷が布団を跳ね除けて、和彦の体の上に覆い被さってくる。和彦は両手で逞しい肩を押し退けようとしたが、スウェットパンツと下着を無造作に引き下ろされて、再び欲望を握り込まれると、できる抵抗など知れていた。
南郷の舌に口腔を犯される。粘膜を舐め回されながら唾液を流し込まれ、逃げ惑う和彦の舌は簡単に搦め捕られて、強く吸われる。粗野で暴力的な外見そのままの、乱暴な口づけだった。
考えてみれば、南郷と直接唇を重ねるのはこれが初めてだ。だが、まったく感触を知らないわけではない。長嶺組の組員たちから引き離され、総和会が身柄を預かっている男の治療のため、一人で仮眠室に泊まったとき、和彦は南郷に体に触れられた。そのとき、顔に薄い布をかけられて、南郷に唇を貪られたのだ。
布一枚分の建前で、南郷は正体を隠すつもりはあったようだが、今夜は違う。自らの存在を明らかにし、誇示しながら、和彦に触れてくる。
ようやく唇が離されて、和彦は大きく息を吸い込む。南郷は、余裕たっぷりの表情で、そんな和彦を見下ろしてくる。
「あんたは、本気の抵抗をしないんだな。嫌がる素振りは見せても、死に物狂いで俺の腕の中から抜け出そうとはしない。前に触れたときも思ったが……、本気で抵抗をして、相手が本気で押さえにかかってくるのを怖がってるようだ。あの長嶺組長は、あんたを惨い目に遭わせたりしないだろ。長嶺組長だけじゃなく、他の男たちも」
「……あなたに、関係ない」
ふいっと顔を背けた和彦は、南郷の下から抜け出そうとしたが、あっさり肩を押さえつけられ、身動きが取れなくなった。
「俺としては、抵抗する相手に手を上げて言うことを聞かせるのは、少しばかり興奮する性質なんだが――、まあ、あんたにそんな無体はよしておこう」
和彦は反射的に南郷を睨みつけるが、挑発されていると思うと、暴れることはできなかった。おそらく南郷は、和彦の頬を打つことにためらいはしないだろう。傷さえつけなければ、少々の暴力を振るったことなど、第三者にバレはしないのだ。
「ゾクゾクするな。極上の色男に、そんな目で睨みつけられると……」
そう言って南郷が、和彦の唇を吸い上げる。同時に、膝の辺りで引っかかっていたスウェットパンツと下着を完全に脱がせてしまうと、強引に和彦の足を開かせて、腰を割り込ませてきた。和彦は呻き声を洩らし、体を強張らせて拒絶の意思を示すが、南郷の行動を止めるには至らない。
一度上体を起こした南郷が、和彦を見下ろしてくる。下肢は剥き出しとなったうえに大きく足を開かされ、ガウンは半ば脱げかけ、Tシャツを胸元までたくし上げられた姿だ。相手によっては羞恥心を刺激されるのだろうが、和彦は屈辱しか感じない。ひたすら南郷を睨みつけるが、かえって加虐心を煽っただけのようだ。
分厚く大きなてのひらを腹部から胸元に這わせながら、嘲笑うような口調で南郷は言った。
「どれだけ睨みつけられようが、俺は痛みを感じない。あんたもそれがわかっていながら、手を振り上げることすらできない。――オンナ、だからな」
南郷が顔を伏せ、胸の中央をベロリと舐め上げてくる。不快さに息を詰まらせた和彦は、堪らず南郷の頭を押し退けようとしたが、動きを読んでいたように、あっさり手首を掴まれて押さえつけられた。その間、南郷は頭を上げる素振りすら見せない。それが、この男の余裕を物語っていた。
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