血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
666 / 1,258
第29話

(11)

しおりを挟む
 もっともらしいことを言っているが、これは恫喝だ。ここでは、南郷の行動を止められる人間はいないと仄めかしているのだ。
「普段、あんたを守っている男たちほど、俺は紳士でもないし、気も利かないだろう。だが、我慢してくれ。俺なりに、あんたを大事に思っているんだ。〈恋焦がれる〉と表現してもいいほどな」
 南郷の声は優しいが、だからこそ不気味だった。掴まれているあごが痛くて、和彦は大きな手を押しのけようとしたが、力が緩むことはない。それどころか――。
「あっ……」
 南郷の顔が間近に迫り、獣の息遣いが頬に触れる。まさか、と思ったときには、唇を塞がれていた。唇を覆う熱く湿った感触に、嫌悪感が湧き起こる。和彦は、大きな獣を威嚇するように呻き声を洩らすが、それすら南郷の唇に吸い取られる。
 必死に唇を引き結ぶと、南郷は焦れることなく、片手に掴んだ和彦の欲望を弄び始める。括れを強く指で擦り上げられ、敏感な先端を爪の先でくすぐられると、和彦は無反応でいられなかった。感じているわけではない。いつ、痛みを与えられるかと、気が気ではないのだ。
 下肢の愛撫に気を取られ、唇が緩む。待ち構えていたように、南郷の舌が悠々と口腔に押し込まれてきた。
 これで、和彦を自由にできるという確信が生まれたのだろう。南郷が布団を跳ね除けて、和彦の体の上に覆い被さってくる。和彦は両手で逞しい肩を押し退けようとしたが、スウェットパンツと下着を無造作に引き下ろされて、再び欲望を握り込まれると、できる抵抗など知れていた。
 南郷の舌に口腔を犯される。粘膜を舐め回されながら唾液を流し込まれ、逃げ惑う和彦の舌は簡単に搦め捕られて、強く吸われる。粗野で暴力的な外見そのままの、乱暴な口づけだった。
 考えてみれば、南郷と直接唇を重ねるのはこれが初めてだ。だが、まったく感触を知らないわけではない。長嶺組の組員たちから引き離され、総和会が身柄を預かっている男の治療のため、一人で仮眠室に泊まったとき、和彦は南郷に体に触れられた。そのとき、顔に薄い布をかけられて、南郷に唇を貪られたのだ。
 布一枚分の建前で、南郷は正体を隠すつもりはあったようだが、今夜は違う。自らの存在を明らかにし、誇示しながら、和彦に触れてくる。
 ようやく唇が離されて、和彦は大きく息を吸い込む。南郷は、余裕たっぷりの表情で、そんな和彦を見下ろしてくる。
「あんたは、本気の抵抗をしないんだな。嫌がる素振りは見せても、死に物狂いで俺の腕の中から抜け出そうとはしない。前に触れたときも思ったが……、本気で抵抗をして、相手が本気で押さえにかかってくるのを怖がってるようだ。あの長嶺組長は、あんたを惨い目に遭わせたりしないだろ。長嶺組長だけじゃなく、他の男たちも」
「……あなたに、関係ない」
 ふいっと顔を背けた和彦は、南郷の下から抜け出そうとしたが、あっさり肩を押さえつけられ、身動きが取れなくなった。
「俺としては、抵抗する相手に手を上げて言うことを聞かせるのは、少しばかり興奮する性質なんだが――、まあ、あんたにそんな無体はよしておこう」
 和彦は反射的に南郷を睨みつけるが、挑発されていると思うと、暴れることはできなかった。おそらく南郷は、和彦の頬を打つことにためらいはしないだろう。傷さえつけなければ、少々の暴力を振るったことなど、第三者にバレはしないのだ。
「ゾクゾクするな。極上の色男に、そんな目で睨みつけられると……」
 そう言って南郷が、和彦の唇を吸い上げる。同時に、膝の辺りで引っかかっていたスウェットパンツと下着を完全に脱がせてしまうと、強引に和彦の足を開かせて、腰を割り込ませてきた。和彦は呻き声を洩らし、体を強張らせて拒絶の意思を示すが、南郷の行動を止めるには至らない。
 一度上体を起こした南郷が、和彦を見下ろしてくる。下肢は剥き出しとなったうえに大きく足を開かされ、ガウンは半ば脱げかけ、Tシャツを胸元までたくし上げられた姿だ。相手によっては羞恥心を刺激されるのだろうが、和彦は屈辱しか感じない。ひたすら南郷を睨みつけるが、かえって加虐心を煽っただけのようだ。
 分厚く大きなてのひらを腹部から胸元に這わせながら、嘲笑うような口調で南郷は言った。
「どれだけ睨みつけられようが、俺は痛みを感じない。あんたもそれがわかっていながら、手を振り上げることすらできない。――オンナ、だからな」
 南郷が顔を伏せ、胸の中央をベロリと舐め上げてくる。不快さに息を詰まらせた和彦は、堪らず南郷の頭を押し退けようとしたが、動きを読んでいたように、あっさり手首を掴まれて押さえつけられた。その間、南郷は頭を上げる素振りすら見せない。それが、この男の余裕を物語っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

堕ちた父は最愛の息子を欲に任せ犯し抜く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

処理中です...