653 / 1,258
第28話
(24)
しおりを挟む
和彦の視線は吸い寄せられるように、守光の背に向けられていた。浴衣に隠れてはいるが、この下には、毒々しい黄金色の体を持つ九尾の狐が潜んでいる。大蛇も怖いが、この狐はそれ以上に怖い。どうやって獲物を狙うのか、その手口すら和彦は想像がつかないのだ。
そんな狐の刺青を背負った男に『逃がさん』と言われれば、それは言霊となって和彦の心と体を縛りつけそうだった。
和彦の中に芽生えた怯えを読み取ったのか、守光がこう付け加える。
「――……あんたは振り回されていると感じているだろうが、長嶺の男たちも、あんたに振り回されている。これは、情だよ。あんたとわしらは、情を交わし合っている」
「情を、交わし合っている……」
「そう感じているのは、わしの勘違いかな?」
肯定も否定もできず口ごもる和彦に、首を回らせた守光がわずかに目を細める。
「わしの〈オンナ〉は慎み深い」
守光がゆっくりと体を起こし、布団の上に座る。手招きされて側に寄った和彦は、強い力で肩を抱かれた勢いで、守光にもたれかかった。
反射的に身をすくめたが、それ以上の反応はできない。凄みを帯びていながら、非常に静かな眼差しで見つめられると、怯えると同時に、奇妙な熱が体の奥で高まり始める。このことを自覚した瞬間にはもう、和彦の体は守光に支配されているのだ。
「さあ、わしと情を交わしてくれ」
賢吾に似た太く艶のある声で囁かれ、唇を塞がれそうになる。いつもなら、逆らえないまま身を任せてしまうのだが、今夜は事情が違う。寸前のところでわずかに頭を後ろを引き、和彦は抑えた声で訴えた。
「今夜は、千尋を刺激したくありません。それでなくても、ぼくが兄と会うことを知らされて、気が高ぶっているのに、こんなところを見られたら――」
「刺激すればいい。あれも、なかなか厄介な獣を背負うことにしたようだ。刺激して、高ぶらせて、そうやって成長させる。わしや賢吾、オンナであるあんたの役目だ」
千尋が入れようとしている刺青のことを指しているのだろう。守光の口ぶりに興味を惹かれた和彦だが、すぐにそれどころではなくなる。
「あっ……」
再び顔を寄せてきた守光が触れてきたのは唇ではなく、首筋だった。ひんやりとした唇を押し当てられ、生理的な反応から鳥肌が立つが、同時に、腰から疼きが這い上がってきた。
和彦の首筋や喉元に唇を這わせながら、守光の片手が浴衣の合わせから入り込んでくる。丁寧な手つきで胸元を撫でられたが、すぐに手を引いてしまう。一瞬、和彦は安堵しかけたが、守光は甘くなかった。
次に守光の手が這わされたのは、両足の間だった。和彦は反射的に逃れようとしたが、深く差し込まれた守光の手に、下着の上から敏感なものを掴まれる。腰が砕けたような状態となった和彦は、そのまま動けなくなった。
腰を抱き寄せられて下着を脱がされる。守光に背後から抱き締められる格好となると、両足を立てて開かされた。正面には、襖がある。もし誰かが守光の部屋に入ってきたら、まっさきに和彦のあられもない姿を目にすることになるのだ。
守光の手に直に、欲望を握り締められて、ビクリと背をしならせる。握られたものを緩やかに上下に扱かれ、和彦を身を震わせて愛撫を受け入れるしかない。浴衣の前を広げられ、胸元も撫でられる。
「興奮しているな。素直な体だ」
耳元でそう囁いた守光の息遣いが笑う。和彦のものは、扱かれるたびに熱を増し、しなり始めていた。先端を指の腹でくすぐられ、たまらず喉を鳴らす。
そのタイミングで、襖の向こうから声をかけられた。
「じいちゃん、先生を部屋に連れ込んでるだろ」
ハッと身を固くした和彦が応じる前に、襖が開く。スウェットパンツにTシャツ姿の千尋が姿を現した。髪をよく拭いていないらしく、滴る水滴が頬や首筋を濡らしている。
和彦がそこまで認識したとき、千尋もまた、和彦がどういう状況にあるのか認識したのか、まるで火が放たれたように切れ上がった目に激情が走る。
千尋が暴走すると、咄嗟に和彦は危惧する。しかし、守光は違った。
「――お前が大人になったところを見せてくれ」
そう千尋を言葉で煽り、見せつけるように和彦の体を撫で回す。和彦は、千尋から目が離せなかった。千尋もまた、和彦を射竦めるように見つめてくる。
息苦しいほどの緊迫感に、心臓が痛くなってくる。このまま気を失ってしまいたいと和彦が願ったとき、突然千尋が動いた。部屋に入ってきて後ろ手で襖を閉めると、荒々しい気配を振り撒きながら歩み寄ってきたのだ。そしてTシャツを脱ぎ捨てた。
「千尋……」
そんな狐の刺青を背負った男に『逃がさん』と言われれば、それは言霊となって和彦の心と体を縛りつけそうだった。
和彦の中に芽生えた怯えを読み取ったのか、守光がこう付け加える。
「――……あんたは振り回されていると感じているだろうが、長嶺の男たちも、あんたに振り回されている。これは、情だよ。あんたとわしらは、情を交わし合っている」
「情を、交わし合っている……」
「そう感じているのは、わしの勘違いかな?」
肯定も否定もできず口ごもる和彦に、首を回らせた守光がわずかに目を細める。
「わしの〈オンナ〉は慎み深い」
守光がゆっくりと体を起こし、布団の上に座る。手招きされて側に寄った和彦は、強い力で肩を抱かれた勢いで、守光にもたれかかった。
反射的に身をすくめたが、それ以上の反応はできない。凄みを帯びていながら、非常に静かな眼差しで見つめられると、怯えると同時に、奇妙な熱が体の奥で高まり始める。このことを自覚した瞬間にはもう、和彦の体は守光に支配されているのだ。
「さあ、わしと情を交わしてくれ」
賢吾に似た太く艶のある声で囁かれ、唇を塞がれそうになる。いつもなら、逆らえないまま身を任せてしまうのだが、今夜は事情が違う。寸前のところでわずかに頭を後ろを引き、和彦は抑えた声で訴えた。
「今夜は、千尋を刺激したくありません。それでなくても、ぼくが兄と会うことを知らされて、気が高ぶっているのに、こんなところを見られたら――」
「刺激すればいい。あれも、なかなか厄介な獣を背負うことにしたようだ。刺激して、高ぶらせて、そうやって成長させる。わしや賢吾、オンナであるあんたの役目だ」
千尋が入れようとしている刺青のことを指しているのだろう。守光の口ぶりに興味を惹かれた和彦だが、すぐにそれどころではなくなる。
「あっ……」
再び顔を寄せてきた守光が触れてきたのは唇ではなく、首筋だった。ひんやりとした唇を押し当てられ、生理的な反応から鳥肌が立つが、同時に、腰から疼きが這い上がってきた。
和彦の首筋や喉元に唇を這わせながら、守光の片手が浴衣の合わせから入り込んでくる。丁寧な手つきで胸元を撫でられたが、すぐに手を引いてしまう。一瞬、和彦は安堵しかけたが、守光は甘くなかった。
次に守光の手が這わされたのは、両足の間だった。和彦は反射的に逃れようとしたが、深く差し込まれた守光の手に、下着の上から敏感なものを掴まれる。腰が砕けたような状態となった和彦は、そのまま動けなくなった。
腰を抱き寄せられて下着を脱がされる。守光に背後から抱き締められる格好となると、両足を立てて開かされた。正面には、襖がある。もし誰かが守光の部屋に入ってきたら、まっさきに和彦のあられもない姿を目にすることになるのだ。
守光の手に直に、欲望を握り締められて、ビクリと背をしならせる。握られたものを緩やかに上下に扱かれ、和彦を身を震わせて愛撫を受け入れるしかない。浴衣の前を広げられ、胸元も撫でられる。
「興奮しているな。素直な体だ」
耳元でそう囁いた守光の息遣いが笑う。和彦のものは、扱かれるたびに熱を増し、しなり始めていた。先端を指の腹でくすぐられ、たまらず喉を鳴らす。
そのタイミングで、襖の向こうから声をかけられた。
「じいちゃん、先生を部屋に連れ込んでるだろ」
ハッと身を固くした和彦が応じる前に、襖が開く。スウェットパンツにTシャツ姿の千尋が姿を現した。髪をよく拭いていないらしく、滴る水滴が頬や首筋を濡らしている。
和彦がそこまで認識したとき、千尋もまた、和彦がどういう状況にあるのか認識したのか、まるで火が放たれたように切れ上がった目に激情が走る。
千尋が暴走すると、咄嗟に和彦は危惧する。しかし、守光は違った。
「――お前が大人になったところを見せてくれ」
そう千尋を言葉で煽り、見せつけるように和彦の体を撫で回す。和彦は、千尋から目が離せなかった。千尋もまた、和彦を射竦めるように見つめてくる。
息苦しいほどの緊迫感に、心臓が痛くなってくる。このまま気を失ってしまいたいと和彦が願ったとき、突然千尋が動いた。部屋に入ってきて後ろ手で襖を閉めると、荒々しい気配を振り撒きながら歩み寄ってきたのだ。そしてTシャツを脱ぎ捨てた。
「千尋……」
29
お気に入りに追加
1,315
あなたにおすすめの小説
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
結婚したくない王女は一夜限りの相手を求めて彷徨ったら熊男に国を挙げて捜索された
狭山雪菜
恋愛
フウモ王国の第三王女のミネルヴァは、側室だった母の教えの政略結婚なら拒絶をとの言葉に大人しく生きていた
成人を迎える20歳の時、国王から隣国の王子との縁談が決まったと言われ人物像に反発し、結婚を無くすために策を練った
ある日、お忍びで町で買い物をしていると、熊男に体当たりされその行く先々に彼が現れた
酒場で話していると、お互い惹かれ合っている事に気が付き………
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
影の王宮
朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。
ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。
幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。
両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。
だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。
タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。
すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。
一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。
メインになるのは親世代かと。
※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。
苦手な方はご自衛ください。
※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる