血と束縛と

北川とも

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第27話

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 背後から抱き締められ、うなじに唇を押し当てられる。すでに体が熱くなっていた和彦は、たったそれだけの刺激でも、吐息を洩らしてしまう。
「千尋、そろそろベッドに――」
「まだダメ」
「ダメって、お前……」
 千尋の腕が移動し、今度は腰を抱かれる。尻に押し付けられたのは、生々しい欲望だった。無駄だと思いつつ身を捩った和彦だが、やや強引に腰を掴まれて、尻を突き出したような姿勢を取らされると、もう抵抗はできない。
「……俺やっぱり、性癖に問題あるかなー。いかにも上品な先生に、こういう格好させると、それだけで感じる」
 そんなことを言いながら、千尋が内奥の入り口に熱の塊を押し当ててくる。指でわずかに解されただけの内奥が、凶暴な欲望でこじ開けられるのだ。背後から押し寄せてくる苦しさに和彦は呻き声を洩らし、必死にガラスに両手を突く。
 腰を掴む千尋の手の力に容赦はないが、腰の動きそのものは慎重だ。和彦は、こういう形での交わりに少しばかり腹立たしさを感じはするものの、千尋の気遣いがわかるだけに、怒鳴ることもできない。大きな犬っころにじゃれつかれ、のしかかられているようにも感じられ、苦しさに喘ぎながらも、つい唇に笑みを刻む。
「バカ千尋……」
 小さな声で呟くと、和彦の腰を抱え込むようにして、千尋が繋がりを深くする。肩の辺りに、熱く荒い息遣いを感じた。
「何か言った、先生?」
 地獄耳、と今度は心の中で呟いてから、和彦は首を横に振る。すると、千尋の片手が両足の間に入り込み、欲望を掴まれた。
「もう少し我慢してね。気持ちよくしてあげるから」
 千尋に緩く腰を突き上げられるたびに、欲望を扱かれる。最初はただ、内奥を犯される苦しさに声を上げていた和彦だが、次第にそれ以外の感覚が湧き起こり、上げる声が艶を帯び始める。
「うっ、あぁっ、はっ……」
 頬を押し当てたガラスが、喘ぐたびに白く曇る。和彦の変化にとっくに気づいていたのだろう。千尋が大きく腰を動かし、内奥深くに欲望を突き込まれる。その瞬間、和彦の全身を強烈な疼きが駆け抜けた。
 息を弾ませて千尋が言う。
「……今、先生、感じただろ? 中が、ビクビクって震えたんだ。それに、背中が赤く染まってきてる。こうして明るい中で見ると、鮮やかだよね。すげー、きれい」
 快感を貪り始めた和彦を一層煽るように、千尋が力強い律動を繰り返す。背後から何度も突き上げられ、そのたびに腰を揺らしながら和彦は、懸命にガラスにすがりつき、体を支える。すでに両足は震えて力が入らなくなっているが、和彦を離すまいとするかのように腰に絡みついた千尋の片腕は力強い。
「あっ、あっ、千、尋っ……。もう少し、ゆっくり――」
「それだと、今みたいに気持ちよくなれないよ、先生」
 囁く千尋の声は、甘い毒を含んでいる。口調はまったく違うというのに、この状況でこんなことを言えるあたりが、父親にそっくりだった。
「んうっ」
 抉るように内奥深くを突かれ、はしたないと思いながらも和彦は自分の意思で腰を揺らし、逞しい感触をしっかりと淫らな襞と粘膜で堪能する。感嘆したように千尋が声を洩らした。
「はあ、最高だよ、先生……」
 興奮を物語るように熱い千尋のてのひらに、腿から尻、腰から背にかけてじっくりと撫でられる。それから、硬く凝ったままの胸の突起を、捏ねるように刺激された。その最中に、力強く内奥を突き上げられ、呆気なく和彦は陥落した。
 絶頂を迎え、精を放った和彦の下肢から完全に力が抜けるが、崩れ込む寸前のところで千尋の両腕にしっかりと抱き締められ、一層激しく攻め立てられる。
「うあっ、あっ、もっ……、千尋っ……」
 ガラスと千尋に挟まれて、めちゃくちゃになりそうだと思ったとき、和彦は自分の中で生じた爆発に陶然とする。
 甘い呻き声を洩らし、小刻みに体を震わせながら、注ぎ込まれる千尋の熱い精をすべて受け止めていた。
 内奥深くまで埋め込まれた千尋の欲望が、歓喜に震えるように、ビクッ、ビクッと脈打っている。しなやかな獣のような青年を満足させてやれたのだと、和彦は快感とは別に、安堵感にも酔い痴れる。
 千尋は荒い呼吸を繰り返しながら、和彦の肩に何度も強く唇を押し当ててくる。唇の熱さから、千尋の体の内でまだ欲望が暴れているのだと、感じ取ることができた。
「千尋――」
「まだ……、まだ、先生の中にいたい」
 切実な口調で囁かれ、和彦は吐息をこぼして応じた。
「甘ったれ」

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