血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
492 / 1,268
第23話

(3)

しおりを挟む
 千尋はもう、若い獣らしい、危ういほど傲慢で魅力的な表情を取り戻していた。興奮と欲望で両目は強い輝きを放ち、和彦を威圧してくる。
 トレーナーをたくし上げられ、露わになった胸元に千尋が顔を埋めてくる。和彦は、両腕でしっかりと、しなやかで熱い体を抱き締めてやった。
 硬く凝った胸の突起に、千尋がしゃぶりつく。強く吸われたかと思うと、舌先で転がされ、歯が立てられる。その間にも、スウェットパンツを下着ごと脱がされ、手荒く欲望を掴まれた。
「先生、すぐ入れたい」
 切羽詰った声で訴えられ、和彦は片腕で千尋の頭を抱き締めて、もう片方の手を頭上に伸ばす。棚に置いた小物入れの中をまさぐり、潤滑剤のチューブを取り出して千尋に手渡した。
 千尋はすぐに潤滑剤を指に取り、性急に内奥に施す。自分でトレーナーを脱ぎ捨てた和彦は、自ら両足を抱えて大きく左右に開く。恥知らずな姿勢を取ることに抵抗はあるが、今はそれ以上に、千尋の望むとおりにしてやりたかった。
 千尋がもどかしげに、内奥の入り口に張り詰めた欲望を押し当ててきた。
「あっ、ああっ――」
 凶暴な熱が容赦なく、狭い場所をこじ開けるようにして侵入してくる。潤滑剤に濡れた襞と粘膜を強く擦り上げられ、痛みを感じる間もない。電流にも似た心地よさが背筋を駆け抜け、和彦はピンと爪先を突っ張らせる。千尋は軽く眉をひそめた。
「……先生の中、ギュウッと締まってる。きつくて、俺の食い千切られそう……。でも、いいよ。すげー、気持ちいい」
 和彦の両膝を掴み、千尋が腰を突き上げてくる。内奥深くで重々しい衝撃が生まれ、それがじわじわと肉の疼きへと変化していく。和彦は甘い眩暈に襲われながら、緩やかに首を左右に振っていた。
「あっ、あっ、ち、ひろっ――。うっ、くぅ……、んうっ」
「先生、俺より感じまくってるね」
 笑いを含んだ声で言いながら、千尋の指に反り返った欲望を弾かれる。たったそれだけの刺激で、和彦のものは先端から透明なしずくを滴らせた。興奮したのか、内奥で千尋の欲望がドクンと脈打つ。そしてすぐに、大胆に腰を使い始めた。
 いつになく乱暴に内奥を突き上げられ、そのたびに和彦の腰は弾む。猛々しい獣が暴れるのに任せていると、そのうち体が壊れるのではないかとすら思ったが、その前に、ふっと激しい律動を緩めた千尋が、汗を滴らせた顔を寄せてくる。
 唇を吸い合い、濃厚に舌を絡め合いながら、内奥で息づく逞しいものを意識して締め付ける。心地よさそうに千尋が熱い吐息を洩らし、和彦は頭を撫でてやる。
 たまらなく千尋が愛しかった。
 和彦が自分の立場について思い悩むように、千尋は千尋で、悩むこと、考えることはたくさんあるのだ。そのことを打ち明けてくれる素直さが、和彦は好きなのだ。年齢を重ね、経験を経ていくうちに消えていくものだからこそ、貴重だとも思う。
 すぐに千尋は成長していき、いつか長嶺の男らしく、食えないヤクザとなっていく。そのときには今度は、新たに身につけた頼もしさを、愛しいと感じるかもしれない。そう感じることは道徳的に間違っているのだろうが、この世界で生きる限り、自分を求めてくれる男をたっぷり甘やかし、愛してやりたかった。
 なんの力もない〈オンナ〉に求められるのは、きっとその程度のことだ。
「千尋、千尋――……」
 何度も名を呼びながら、千尋のきれいな体を撫でて、情熱的な口づけを与える。千尋は和彦の上でしなやかに身をしならせ、内奥深くを抉るように突いてくる。
「先生、俺のオンナでいてくれる?」
 和彦が中からの刺激だけで絶頂を迎えたことを、下腹部を濡らす感触で知った千尋が、恫喝するように低い声で囁いてくる。
「……嫌だと、言わせない気だろ」
「当然。長嶺の男は執念深いし、情も深いんだよ」
「ものは、言いようだな」
 和彦が甘い顔を見せると、すぐに千尋は調子に乗り、恥ずかしげもなくこんなことを言い出した。
「――先生、胸に出していい?」
 やはり嫌だと言わせる気はないらしく、限界まで高ぶった欲望が内奥から大きく抜き差しされる。和彦は嬌声を堪えるために唇を噛んだが、体が震えるのは止められない。
「俺の出したもので、汚したい。先生が俺のものだって、すごく実感できるんだ。……いいよね? 俺のオンナなんだから、受け止めてくれるよね?」
 和彦が返事をする前に内奥から千尋のものが引き抜かれる。体に馬乗りになられた数秒後に、熱い精が胸元にたっぷりと飛び散った。
 汚されたとは感じなかった。ただ、充実感が和彦を包んでくれる。
 胸元に散った精を指先で肌に擦り込みながら、どこか陶然とした表情で千尋は洩らした。
「先生にいっぱいいやらしいことをして、辱めたい。俺には、先生をそうできる権利があるって、確かめたい」
「……ガキ」
「でも俺、セックスは上手いだろ?」
 ニヤリと笑って問いかけられ、素直に返事をするのも癪なので和彦は思いきり顔を背けた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...