443 / 1,268
第21話
(5)
しおりを挟む
何分か前まで、畳の上に転がって雑誌を読みながら、思い出したように和彦に話しかけていた千尋だが、すっかり寝入っているようだ。
どうせ昼寝をするなら、自分の部屋に戻ればいいのにと、和彦は小さく苦笑を洩らす。千尋としては、和彦が退屈しないよう、つき合っているつもりなのだろう。
呉服屋から戻ってすぐに、賢吾が見ている前で熱を測らされ、微熱が出ていることがわかった。普段の和彦であれば気づきもせずに動き回っている程度の熱だが、さすがに今は無茶できないと、こうして休んでいるというわけだ。
和彦は姿勢を戻し、再び天井を見上げる。
千尋の寝息を聞きながら思うのは、長嶺の本宅で自分は大事にされているということだ。クリニック経営という役目を負い、物騒であったり、訳ありの男たちを結びつけてもいる和彦に何かあったら面倒なのだと、捻くれた考え方もあるだろうが、決してそれだけではない。
間違いなく、長嶺の男たちは和彦を大事にしてくれていた。そして、長嶺と関わりを持つ男たちも――。
甘い眩暈に襲われて、反射的にきつく目を閉じた瞬間、障子が開く音がした。ゆっくりと目を開くと、真上から賢吾に顔を覗き込まれる。
不思議でもなんでもなく、和彦が布団を敷いて横になっているのは賢吾の部屋なのだ。
傍らに胡坐をかいて座り込んだ賢吾は、何も言わず和彦の顔を見つめてくる。
「……別に、側にいてもらわなくても大丈夫だ」
向けられる視線の圧力に耐えかねて、和彦は口を開く。賢吾は口元を緩めながら、千尋をちらりと見た。
「千尋は側に置いて、俺だけ追い払うのか?」
「甘ったれの子犬は、側でおとなしくしてくれているからな。大蛇に側にいられると、気が休まらない」
和彦の邪険な物言いに対して、もちろん賢吾は機嫌を損ねたりしない。
「大蛇を怖がるような可愛いタマじゃねーだろ、先生は」
そう言って和彦の頬を手荒く撫でてくる。
「――体はつらくないか?」
「熱も大したことはないし、つらくもない。本当は、こうして布団に寝ているのも大げさなぐらいなんだ」
「本当に?」
さりげなく賢吾に念を押され、特に不思議に感じるでもなく頷く。次の瞬間、賢吾がニヤリと笑った。その表情を目にして、自分の迂闊さを悟った和彦は慌てて起き上がろうとしたが、そのときには賢吾の手は布団の中に入り込んでいた。
「何、してっ……」
「車の中で言っただろ。熱が出ているかどうか、じっくり確かめてやると」
意味ありげな手つきで浴衣の上から体をまさぐられる。和彦は賢吾の手を布団から押し出そうとするが、あっという間に帯を解かれたところで無駄な抵抗はやめた。
「諦めたか?」
澄ました顔で問いかけてきた賢吾を睨みつける。
「……病み上がりの体で、あんたみたいな男とじゃれ合えるかっ……」
「じゃれ合う? 違うな。俺は先生の熱を測ってやろうとしているんだ」
そう嘯きながら賢吾は布団を捲り、和彦の上に覆い被さってきた。思わず顔を背けると、熱い舌にじっくりと首筋を舐め上げられ、耳朶に歯が立てられる。和彦はたまらず小さく呻き声を洩らし、一気に体を熱くする。
熱がぶり返したわけではない。従順な和彦の体は、賢吾の重みを感じただけで、官能に火がついたのだ。
無造作に下着を脱がされて、欲望を握り締められる。息を詰める間もなかった。欲望を手荒く上下に扱かれ、堪え切れずに声を上げた次の瞬間には、隣で寝ている千尋の存在を意識する。この父子とともに何度も淫らな行為に及んでいる和彦だが、だからといって慣れているわけではない。やはり抵抗はあるし、羞恥心は芽生える。
「――千尋が起きたら、仲間に入れてやろう」
楽しい悪戯を唆すような口調で賢吾が言い、和彦は返事の代わりに唇を噛み締める。感じやすい先端を、賢吾が爪の先で弄ってくるのだ。
そして、柔らかな膨らみを揉みしだかれる。
「ふっ……、ううっ」
腰をビクビクと震わせながら、和彦は賢吾の肩にすがりつく。強い刺激による和彦の体の強張りを解くように、賢吾に優しく唇を吸われ、同時に、弱みを指先でまさぐられる。ゾクゾクするような感覚が背筋を駆け上がってきて、下肢が甘く痺れる。すでにもう、この怖い男にすべての感覚を支配されていた。
「病み上がりだっていうのに、普段と変わらない感度のよさだな。もう濡れてやがる」
欲望の先端を指の腹で擦られ、すでに滲み出ている透明なしずくをヌルヌルと塗り込められる。もっと反応して見せろと恫喝するような愛撫だが、悔しいほど気持ちいい。
どうせ昼寝をするなら、自分の部屋に戻ればいいのにと、和彦は小さく苦笑を洩らす。千尋としては、和彦が退屈しないよう、つき合っているつもりなのだろう。
呉服屋から戻ってすぐに、賢吾が見ている前で熱を測らされ、微熱が出ていることがわかった。普段の和彦であれば気づきもせずに動き回っている程度の熱だが、さすがに今は無茶できないと、こうして休んでいるというわけだ。
和彦は姿勢を戻し、再び天井を見上げる。
千尋の寝息を聞きながら思うのは、長嶺の本宅で自分は大事にされているということだ。クリニック経営という役目を負い、物騒であったり、訳ありの男たちを結びつけてもいる和彦に何かあったら面倒なのだと、捻くれた考え方もあるだろうが、決してそれだけではない。
間違いなく、長嶺の男たちは和彦を大事にしてくれていた。そして、長嶺と関わりを持つ男たちも――。
甘い眩暈に襲われて、反射的にきつく目を閉じた瞬間、障子が開く音がした。ゆっくりと目を開くと、真上から賢吾に顔を覗き込まれる。
不思議でもなんでもなく、和彦が布団を敷いて横になっているのは賢吾の部屋なのだ。
傍らに胡坐をかいて座り込んだ賢吾は、何も言わず和彦の顔を見つめてくる。
「……別に、側にいてもらわなくても大丈夫だ」
向けられる視線の圧力に耐えかねて、和彦は口を開く。賢吾は口元を緩めながら、千尋をちらりと見た。
「千尋は側に置いて、俺だけ追い払うのか?」
「甘ったれの子犬は、側でおとなしくしてくれているからな。大蛇に側にいられると、気が休まらない」
和彦の邪険な物言いに対して、もちろん賢吾は機嫌を損ねたりしない。
「大蛇を怖がるような可愛いタマじゃねーだろ、先生は」
そう言って和彦の頬を手荒く撫でてくる。
「――体はつらくないか?」
「熱も大したことはないし、つらくもない。本当は、こうして布団に寝ているのも大げさなぐらいなんだ」
「本当に?」
さりげなく賢吾に念を押され、特に不思議に感じるでもなく頷く。次の瞬間、賢吾がニヤリと笑った。その表情を目にして、自分の迂闊さを悟った和彦は慌てて起き上がろうとしたが、そのときには賢吾の手は布団の中に入り込んでいた。
「何、してっ……」
「車の中で言っただろ。熱が出ているかどうか、じっくり確かめてやると」
意味ありげな手つきで浴衣の上から体をまさぐられる。和彦は賢吾の手を布団から押し出そうとするが、あっという間に帯を解かれたところで無駄な抵抗はやめた。
「諦めたか?」
澄ました顔で問いかけてきた賢吾を睨みつける。
「……病み上がりの体で、あんたみたいな男とじゃれ合えるかっ……」
「じゃれ合う? 違うな。俺は先生の熱を測ってやろうとしているんだ」
そう嘯きながら賢吾は布団を捲り、和彦の上に覆い被さってきた。思わず顔を背けると、熱い舌にじっくりと首筋を舐め上げられ、耳朶に歯が立てられる。和彦はたまらず小さく呻き声を洩らし、一気に体を熱くする。
熱がぶり返したわけではない。従順な和彦の体は、賢吾の重みを感じただけで、官能に火がついたのだ。
無造作に下着を脱がされて、欲望を握り締められる。息を詰める間もなかった。欲望を手荒く上下に扱かれ、堪え切れずに声を上げた次の瞬間には、隣で寝ている千尋の存在を意識する。この父子とともに何度も淫らな行為に及んでいる和彦だが、だからといって慣れているわけではない。やはり抵抗はあるし、羞恥心は芽生える。
「――千尋が起きたら、仲間に入れてやろう」
楽しい悪戯を唆すような口調で賢吾が言い、和彦は返事の代わりに唇を噛み締める。感じやすい先端を、賢吾が爪の先で弄ってくるのだ。
そして、柔らかな膨らみを揉みしだかれる。
「ふっ……、ううっ」
腰をビクビクと震わせながら、和彦は賢吾の肩にすがりつく。強い刺激による和彦の体の強張りを解くように、賢吾に優しく唇を吸われ、同時に、弱みを指先でまさぐられる。ゾクゾクするような感覚が背筋を駆け上がってきて、下肢が甘く痺れる。すでにもう、この怖い男にすべての感覚を支配されていた。
「病み上がりだっていうのに、普段と変わらない感度のよさだな。もう濡れてやがる」
欲望の先端を指の腹で擦られ、すでに滲み出ている透明なしずくをヌルヌルと塗り込められる。もっと反応して見せろと恫喝するような愛撫だが、悔しいほど気持ちいい。
36
お気に入りに追加
1,365
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる