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第19話
(18)
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耳に唇を押し当てたまま中嶋が言い、和彦はゾクリと身を震わせる。甘い毒を注ぎ込まれたように、体に力が入らない。いや、そもそも強く抵抗していたわけではないのだ。
マットの端を握る手に、中嶋の手が重なる。そこで、年明けに中嶋から言われた言葉を思い出した。
「……手を握って付き添ってほしいとは言われたが、これだと、ぼくが手を握られていて、立場が逆だ」
「つまり先生は、今この場で、俺と秦さんでセックスしろと言いたいんですね。そして自分は、付き添いをやってもいいと」
あからさまな表現に、一人和彦はうろたえる。そんな和彦の顔を秦が覗き込み、当然のように唇を重ねてきた。
行為そのものより、中嶋の反応が気になった和彦は小さく身じろぐ。すると背後から、中嶋に耳を舐められた。
「うっ……」
たまらず和彦は声を洩らす。ふっと背が軽くなり、中嶋が退いた気配がしたが、すぐに体を仰向けにされる。両手首をしっかりとベッドに押さえつけたのは秦で、和彦の腿の上に馬乗りとなった中嶋は、さっそくベルトを外し始めた。
「やめろっ。君らのことに、ぼくは関係ないだろっ。楽しむなら、二人でやってくれ」
和彦は声を上げながら身を捩ろうとするが、スラックスのファスナーを下ろされたことに気を取られた隙に、再び秦に唇を塞がれた。
しなやかに動く舌が口腔深くまで侵入し、粘膜を舐め回してくる。その一方で中嶋には、スラックスと下着を引き下ろされていた。これが、顔見知り程度の相手なら、和彦はもちろん死ぬ気で抵抗する。ただ、秦と中嶋はそうではない。特殊な情事の相手だ。
「んんっ」
中嶋が胸元に舌を這わせ始め、肌をまさぐる濡れた感触に和彦は呻き声を洩らす。すると、和彦が苦しがっていると思ったのか、秦が唇を離す。咄嗟に大きく息を吸い込んだところで、次に中嶋が唇を重ねてきた。
ふいに、手首を押さえていた秦の手が退く。視界の隅で行動を追うと、今度は中嶋の背後に回り込んだ。何をしているのかと思ったが、中嶋がピクリと体を震わせ、唇を離す。いつの間にか、秦の手が中嶋のスラックスの前を寛げていた。
寸前まで、和彦を組み敷いて楽しんでいる様子だった中嶋だが、すでにもうその余裕はないようだ。到底ヤクザには見えないハンサムな青年の顔に浮かんでいるのは、羞恥の表情だ。それを目にした和彦の中で、少しだけ加虐的な衝動が芽生える。
両手を伸ばし、自分がされたように中嶋のワイシャツのボタンを外してやる。中嶋はちらりと苦笑した。
「……急に先生が、強気になったように思えるんですが……」
「イジメられた分、イジメ返さないとな」
怖いな、と洩らした中嶋のあごを掴み、秦が唇を塞ぐ。熱っぽく唇を吸い、舌を絡め始めた二人を見つめながら和彦は、中嶋の露になった胸元を撫でてから、両足の間をまさぐる。中嶋の欲望を外に引き出したのは秦で、促されるままに和彦は指の輪を作って緩く扱いてやる。
「あっ、あっ」
上擦った声を上げた中嶋が腰を引きそうになるが、秦が耳元で何事か囁くと、目元が妖しい色を帯びる。
次に上擦った声を上げたのは、和彦だった。中嶋が、和彦の欲望を掴んできたからだ。
和彦の愛撫に応じるように、同じ愛撫が施される。秦はそんな二人の痴態を、艶やかな笑みを浮かべて眺めている。
秦の思惑のままに操られていることが悔しいのだが、反面、自分一人ではないという状況は、官能を高めてくれる。とてつもなく淫らなことをしているという背徳感は、とにかく甘いのだ。
再び秦が、中嶋の耳元に何事か囁き、唆す。中嶋も和彦と同じ甘さを味わっているのか、興奮したように舌なめずりをしたあと、和彦に濃厚な口づけを与えてきた。
舌を絡め合いながら、互いの欲望を擦りつけ合う。
「――わたしにも、お裾分けしてもらえますか」
そんなことを言って秦が、まず中嶋と、次に和彦と口づけを交わす。だが、秦が求めてきたのは、それだけではなかった。
和彦と中嶋は同時に声を洩らし、体を震わせる。互いに愛撫し合い、すっかり熱くなって反り返った二人の欲望を、秦が左右それぞれの手で掴んだのだ。そして、濡れた先端を指の腹で擦る。
「あうっ……」
和彦の胸に両手を突き、中嶋が必死に体を支えている。秦の手に触れられると、弱いらしい。和彦は、中嶋よりも柔軟に秦の愛撫に身を委ねながら、両手を伸ばす。しなやかな筋肉に覆われた中嶋の体にてのひらを這わせ、撫でていた。
「贅沢だな、中嶋。わたしだけじゃなく、先生にまで可愛がってもらって」
中嶋は返事の代わりに、唇だけの笑みを見せた。
マットの端を握る手に、中嶋の手が重なる。そこで、年明けに中嶋から言われた言葉を思い出した。
「……手を握って付き添ってほしいとは言われたが、これだと、ぼくが手を握られていて、立場が逆だ」
「つまり先生は、今この場で、俺と秦さんでセックスしろと言いたいんですね。そして自分は、付き添いをやってもいいと」
あからさまな表現に、一人和彦はうろたえる。そんな和彦の顔を秦が覗き込み、当然のように唇を重ねてきた。
行為そのものより、中嶋の反応が気になった和彦は小さく身じろぐ。すると背後から、中嶋に耳を舐められた。
「うっ……」
たまらず和彦は声を洩らす。ふっと背が軽くなり、中嶋が退いた気配がしたが、すぐに体を仰向けにされる。両手首をしっかりとベッドに押さえつけたのは秦で、和彦の腿の上に馬乗りとなった中嶋は、さっそくベルトを外し始めた。
「やめろっ。君らのことに、ぼくは関係ないだろっ。楽しむなら、二人でやってくれ」
和彦は声を上げながら身を捩ろうとするが、スラックスのファスナーを下ろされたことに気を取られた隙に、再び秦に唇を塞がれた。
しなやかに動く舌が口腔深くまで侵入し、粘膜を舐め回してくる。その一方で中嶋には、スラックスと下着を引き下ろされていた。これが、顔見知り程度の相手なら、和彦はもちろん死ぬ気で抵抗する。ただ、秦と中嶋はそうではない。特殊な情事の相手だ。
「んんっ」
中嶋が胸元に舌を這わせ始め、肌をまさぐる濡れた感触に和彦は呻き声を洩らす。すると、和彦が苦しがっていると思ったのか、秦が唇を離す。咄嗟に大きく息を吸い込んだところで、次に中嶋が唇を重ねてきた。
ふいに、手首を押さえていた秦の手が退く。視界の隅で行動を追うと、今度は中嶋の背後に回り込んだ。何をしているのかと思ったが、中嶋がピクリと体を震わせ、唇を離す。いつの間にか、秦の手が中嶋のスラックスの前を寛げていた。
寸前まで、和彦を組み敷いて楽しんでいる様子だった中嶋だが、すでにもうその余裕はないようだ。到底ヤクザには見えないハンサムな青年の顔に浮かんでいるのは、羞恥の表情だ。それを目にした和彦の中で、少しだけ加虐的な衝動が芽生える。
両手を伸ばし、自分がされたように中嶋のワイシャツのボタンを外してやる。中嶋はちらりと苦笑した。
「……急に先生が、強気になったように思えるんですが……」
「イジメられた分、イジメ返さないとな」
怖いな、と洩らした中嶋のあごを掴み、秦が唇を塞ぐ。熱っぽく唇を吸い、舌を絡め始めた二人を見つめながら和彦は、中嶋の露になった胸元を撫でてから、両足の間をまさぐる。中嶋の欲望を外に引き出したのは秦で、促されるままに和彦は指の輪を作って緩く扱いてやる。
「あっ、あっ」
上擦った声を上げた中嶋が腰を引きそうになるが、秦が耳元で何事か囁くと、目元が妖しい色を帯びる。
次に上擦った声を上げたのは、和彦だった。中嶋が、和彦の欲望を掴んできたからだ。
和彦の愛撫に応じるように、同じ愛撫が施される。秦はそんな二人の痴態を、艶やかな笑みを浮かべて眺めている。
秦の思惑のままに操られていることが悔しいのだが、反面、自分一人ではないという状況は、官能を高めてくれる。とてつもなく淫らなことをしているという背徳感は、とにかく甘いのだ。
再び秦が、中嶋の耳元に何事か囁き、唆す。中嶋も和彦と同じ甘さを味わっているのか、興奮したように舌なめずりをしたあと、和彦に濃厚な口づけを与えてきた。
舌を絡め合いながら、互いの欲望を擦りつけ合う。
「――わたしにも、お裾分けしてもらえますか」
そんなことを言って秦が、まず中嶋と、次に和彦と口づけを交わす。だが、秦が求めてきたのは、それだけではなかった。
和彦と中嶋は同時に声を洩らし、体を震わせる。互いに愛撫し合い、すっかり熱くなって反り返った二人の欲望を、秦が左右それぞれの手で掴んだのだ。そして、濡れた先端を指の腹で擦る。
「あうっ……」
和彦の胸に両手を突き、中嶋が必死に体を支えている。秦の手に触れられると、弱いらしい。和彦は、中嶋よりも柔軟に秦の愛撫に身を委ねながら、両手を伸ばす。しなやかな筋肉に覆われた中嶋の体にてのひらを這わせ、撫でていた。
「贅沢だな、中嶋。わたしだけじゃなく、先生にまで可愛がってもらって」
中嶋は返事の代わりに、唇だけの笑みを見せた。
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