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第17話
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賢吾の指示を待っていたように、障子にスッと人影が映る。いつの間にか廊下に控えていたようだが、賢吾との行為に夢中になっていた和彦はもちろん気づかなかった。
廊下に人がいたというのも意外だったが、姿を見せた人物は、さらに意外だった。
丁寧な動作で障子を開けたのは、中嶋だった。和彦と賢吾の姿に驚いた様子もなく、それどころか和彦に笑いかけてくる。おそらく、廊下にいる間、行為の声をすべて聞いていたのだろう。
「ど、して……」
中嶋が障子を閉めたのを機に、ようやく和彦は声を洩らす。愛撫の手を止めないまま賢吾が答えた。
「俺が呼んだ。いままで、総和会との連絡役は別の人間だったんだが、若い連中の中で抜きん出て見所があるし、先生と親しいということで、新たに中嶋を指名した。長嶺組長の本宅に出入りできる、総和会でも数少ない男というわけだ」
いつの間にそういう話が決まったのかと思ったが、これは組の細かな決定事項の一つだ。賢吾が和彦に知らせる必要はない。ただし賢吾は、和彦の反応を見たいがために、この瞬間まで隠していたのだろう。そういう男だ。
「先生としても、俺の目を盗んで中嶋と会っているという罪悪感を抱かなくて済むだろ。本宅に出入りできるようになったぐらいだ。長嶺組長のオンナの部屋にも、中嶋は堂々と立ち寄れる」
賢吾の言葉で和彦は、中嶋と絡み合った日のことを思い出す。ベッドの上での甘い呻き声を、盗聴器を通して賢吾が聴いていたことは知っている。そのうえで中嶋に、本宅や和彦の部屋の出入りを認めたのだ。
「……何を企んでるんだ、あんたは……」
思わず和彦が問いかけると、うなじに唇を押し当てながら賢吾は言った。
「先生が生活のしやすい環境を整えただけだ。――俺が何を企んでるか、先生は気にしなくていい」
賢吾が腰を揺らし、内奥の感じやすい部分を擦り上げられる。和彦は咄嗟に声を堪えたが、表情は隠せなかった。正面に立つ中嶋に、すべて見られてしまう。それどころか、賢吾と繋がり、悦びに身を起こした欲望の存在も。
中嶋は薄い笑みを唇に湛え、目には興奮の色を浮かべる。そんな中嶋に、賢吾はこう声をかけた。
「中嶋、俺の〈オンナ〉と仲良くしてやってくれ。その代わり、お前を悪いようにはしない。なんといっても、先生が気に入った男だからな」
「俺も――」
興奮のためか、緊張のためか、中嶋が発した第一声は掠れていた。
「俺も、先生を気に入って……好きです。それに、秦さんの命の恩人です」
「秦、か……。なるほど、秦のために、お前もよく勉強しておかないとな」
そう言って賢吾が、和彦のものを柔らかく握り締めてくる。和彦は小さく喉を鳴らして腰を揺らしていた。中嶋にこんな姿を見られているというのに、欲望は萎えるどころか、ますます熱く硬くなっていた。
「うっ……」
「中嶋に見られて高ぶってるのか? 先生の中が波打つようにうねって、俺のものを舐め上げているようだ」
賢吾の手が柔らかな膨らみへと伸び、中嶋に見せつけるように手荒く揉みしだかれる。和彦はたまらず甲高い声を上げて、上体を捩ろうとしたが、動きを封じるように内奥深くを突き上げられた。
「あっ、ああっ、はあっ、はっ……」
身悶える和彦と、果敢に攻め立ててくる賢吾の姿を、中嶋は食い入るように見つめていた。熱に浮かされたような目には、嫌悪の色は微塵もない。賢吾もそれがわかっているのだろう。まるで中嶋を試すように言った。
「抵抗があるなら、外で待っていてもいいぞ」
すると中嶋はふらりと足を踏み出し、間近まで歩み寄ってくる。そして、畳に両膝をついた。
「――……ここで、見ています。すごく、興味があります」
「好きにしろ」
腰を掴まれて揺り動かされ、内奥を逞しいもので掻き回される。卑猥な湿った音が室内に響き渡り、そこに和彦の乱れた息遣いが重なる。
押し寄せてくる快感と、中嶋に正面から見つめられているという激しい羞恥に、和彦は惑乱する。いっそのこと意識を手放してしまいたいが、皮肉なことに、内奥を突き上げてくる衝撃が意識を繋ぎとめる。
「うっ、あっ、あっ……ん、んあっ」
「ここもどうなっているか、興味があるだろ」
そう言って賢吾に片足を抱え上げられて、繋がっている部分を中嶋に晒してしまう。あまりの羞恥に息が詰まりそうになるが、和彦の体は気持ちとは裏腹に、見られることに歓喜していた。
「うちの先生は、いいオンナだろ。もともと素質はあったが、性質の悪い男たちが開発しちまった。その男たちが、先生に骨抜きにされてるんだから、一番性質が悪いのは――」
喘ぐ和彦の耳元で、賢吾がそっと囁きを注ぎ込んでくる。和彦はのろのろと振り返り、賢吾と唇を吸い合う。その最中に賢吾の手に促されて二度目の精を放ち、少し遅れて、賢吾の熱い精を内奥深くで受け止めた。
「はっ……、んっ、んっ、くぅ……」
和彦の体から一気に力が抜けると、つられたように中嶋も大きく息を吐き出した。いつの間にか顔が上気しており、一見してハンサムな青年を艶っぽく彩っている。
「――よかったか?」
賢吾がそう問いかけた相手は和彦ではなく、中嶋だった。中嶋は我に返ったように目を見開いたあと、もう一度息を吐き出してから頷いた。
「はい……」
「ダイニングにいる奴に声をかけろ。お前に渡すものを言付けてあるから、受け取って帰れ」
賢吾の言葉を受け、静かに立ち上がった中嶋が客間を出て行こうとする。その背に、賢吾はさらに言葉をかけた。
「いい選択をしたな、中嶋。俺たちがこれから上手くやっていけるかは、お前次第だ。しっかり、使えるところを見せてくれ」
中嶋がこのときどんな顔をしたのか、もちろん見ることはできない。ただ、中嶋の性格からして、笑みぐらいは浮かべたのかもしれない。障子を閉める際、中嶋が視線を伏せがちにこちらを向いたとき、見事に表情を隠していたため、あくまで和彦の推測だが。
「先生も、よかったか?」
障子が閉められると、和彦の首筋に顔を寄せながら賢吾が問いかけてくる。
言いたいことは山ほどあったが、体に残る快感の余韻に苛まれ、和彦は口を開くことすらできなかった。
ただ、賢吾に問い質さなくてもはっきりしていることはある。
大蛇が和彦を餌に、〈獲物〉を捕らえたということだ。
廊下に人がいたというのも意外だったが、姿を見せた人物は、さらに意外だった。
丁寧な動作で障子を開けたのは、中嶋だった。和彦と賢吾の姿に驚いた様子もなく、それどころか和彦に笑いかけてくる。おそらく、廊下にいる間、行為の声をすべて聞いていたのだろう。
「ど、して……」
中嶋が障子を閉めたのを機に、ようやく和彦は声を洩らす。愛撫の手を止めないまま賢吾が答えた。
「俺が呼んだ。いままで、総和会との連絡役は別の人間だったんだが、若い連中の中で抜きん出て見所があるし、先生と親しいということで、新たに中嶋を指名した。長嶺組長の本宅に出入りできる、総和会でも数少ない男というわけだ」
いつの間にそういう話が決まったのかと思ったが、これは組の細かな決定事項の一つだ。賢吾が和彦に知らせる必要はない。ただし賢吾は、和彦の反応を見たいがために、この瞬間まで隠していたのだろう。そういう男だ。
「先生としても、俺の目を盗んで中嶋と会っているという罪悪感を抱かなくて済むだろ。本宅に出入りできるようになったぐらいだ。長嶺組長のオンナの部屋にも、中嶋は堂々と立ち寄れる」
賢吾の言葉で和彦は、中嶋と絡み合った日のことを思い出す。ベッドの上での甘い呻き声を、盗聴器を通して賢吾が聴いていたことは知っている。そのうえで中嶋に、本宅や和彦の部屋の出入りを認めたのだ。
「……何を企んでるんだ、あんたは……」
思わず和彦が問いかけると、うなじに唇を押し当てながら賢吾は言った。
「先生が生活のしやすい環境を整えただけだ。――俺が何を企んでるか、先生は気にしなくていい」
賢吾が腰を揺らし、内奥の感じやすい部分を擦り上げられる。和彦は咄嗟に声を堪えたが、表情は隠せなかった。正面に立つ中嶋に、すべて見られてしまう。それどころか、賢吾と繋がり、悦びに身を起こした欲望の存在も。
中嶋は薄い笑みを唇に湛え、目には興奮の色を浮かべる。そんな中嶋に、賢吾はこう声をかけた。
「中嶋、俺の〈オンナ〉と仲良くしてやってくれ。その代わり、お前を悪いようにはしない。なんといっても、先生が気に入った男だからな」
「俺も――」
興奮のためか、緊張のためか、中嶋が発した第一声は掠れていた。
「俺も、先生を気に入って……好きです。それに、秦さんの命の恩人です」
「秦、か……。なるほど、秦のために、お前もよく勉強しておかないとな」
そう言って賢吾が、和彦のものを柔らかく握り締めてくる。和彦は小さく喉を鳴らして腰を揺らしていた。中嶋にこんな姿を見られているというのに、欲望は萎えるどころか、ますます熱く硬くなっていた。
「うっ……」
「中嶋に見られて高ぶってるのか? 先生の中が波打つようにうねって、俺のものを舐め上げているようだ」
賢吾の手が柔らかな膨らみへと伸び、中嶋に見せつけるように手荒く揉みしだかれる。和彦はたまらず甲高い声を上げて、上体を捩ろうとしたが、動きを封じるように内奥深くを突き上げられた。
「あっ、ああっ、はあっ、はっ……」
身悶える和彦と、果敢に攻め立ててくる賢吾の姿を、中嶋は食い入るように見つめていた。熱に浮かされたような目には、嫌悪の色は微塵もない。賢吾もそれがわかっているのだろう。まるで中嶋を試すように言った。
「抵抗があるなら、外で待っていてもいいぞ」
すると中嶋はふらりと足を踏み出し、間近まで歩み寄ってくる。そして、畳に両膝をついた。
「――……ここで、見ています。すごく、興味があります」
「好きにしろ」
腰を掴まれて揺り動かされ、内奥を逞しいもので掻き回される。卑猥な湿った音が室内に響き渡り、そこに和彦の乱れた息遣いが重なる。
押し寄せてくる快感と、中嶋に正面から見つめられているという激しい羞恥に、和彦は惑乱する。いっそのこと意識を手放してしまいたいが、皮肉なことに、内奥を突き上げてくる衝撃が意識を繋ぎとめる。
「うっ、あっ、あっ……ん、んあっ」
「ここもどうなっているか、興味があるだろ」
そう言って賢吾に片足を抱え上げられて、繋がっている部分を中嶋に晒してしまう。あまりの羞恥に息が詰まりそうになるが、和彦の体は気持ちとは裏腹に、見られることに歓喜していた。
「うちの先生は、いいオンナだろ。もともと素質はあったが、性質の悪い男たちが開発しちまった。その男たちが、先生に骨抜きにされてるんだから、一番性質が悪いのは――」
喘ぐ和彦の耳元で、賢吾がそっと囁きを注ぎ込んでくる。和彦はのろのろと振り返り、賢吾と唇を吸い合う。その最中に賢吾の手に促されて二度目の精を放ち、少し遅れて、賢吾の熱い精を内奥深くで受け止めた。
「はっ……、んっ、んっ、くぅ……」
和彦の体から一気に力が抜けると、つられたように中嶋も大きく息を吐き出した。いつの間にか顔が上気しており、一見してハンサムな青年を艶っぽく彩っている。
「――よかったか?」
賢吾がそう問いかけた相手は和彦ではなく、中嶋だった。中嶋は我に返ったように目を見開いたあと、もう一度息を吐き出してから頷いた。
「はい……」
「ダイニングにいる奴に声をかけろ。お前に渡すものを言付けてあるから、受け取って帰れ」
賢吾の言葉を受け、静かに立ち上がった中嶋が客間を出て行こうとする。その背に、賢吾はさらに言葉をかけた。
「いい選択をしたな、中嶋。俺たちがこれから上手くやっていけるかは、お前次第だ。しっかり、使えるところを見せてくれ」
中嶋がこのときどんな顔をしたのか、もちろん見ることはできない。ただ、中嶋の性格からして、笑みぐらいは浮かべたのかもしれない。障子を閉める際、中嶋が視線を伏せがちにこちらを向いたとき、見事に表情を隠していたため、あくまで和彦の推測だが。
「先生も、よかったか?」
障子が閉められると、和彦の首筋に顔を寄せながら賢吾が問いかけてくる。
言いたいことは山ほどあったが、体に残る快感の余韻に苛まれ、和彦は口を開くことすらできなかった。
ただ、賢吾に問い質さなくてもはっきりしていることはある。
大蛇が和彦を餌に、〈獲物〉を捕らえたということだ。
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