332 / 1,262
第16話
(25)
しおりを挟む
「どう、答えてもらいたいんだ? 君の気が済むように答えてやる。……ぼくも、君のことは好きだからな」
激情に駆られたように中嶋に肩を掴まれ、力を込められる。和彦はイスに座ったまま、中嶋を見上げた。
「……秦が、好きなのか? 前に言ってただろ。秦の感触に興味はあると。それはつまり――」
「先生は、本当に甘い。この状況で言い出すことじゃないですよ。野心満々のヤクザと二人きりで、そのヤクザは、先生相手に手酷いことをしたくてウズウズしている。一方の先生は……平手で殴っただけでおとなしくなるような人だ」
「ぼくを殴って、キスするのか? だったらキスぐらい、いくらでもしてやる」
和彦は、あえて中嶋を挑発するような物言いをする。中嶋の感情を爆発させるためだ。
そして思惑通り、中嶋は理性をかなぐり捨てたような行動に出た。和彦の髪を鷲掴んだかと思うと、強引に唇を塞いできたのだ。
噛み付く勢いで唇を吸われ、口腔に舌がねじ込まれる。和彦はされるがままになっていたが、それが中嶋は気に食わないのか、唇を離して睨みつけられた。
「いままでみたいに、俺のキスに応えてくださいよ」
「君が、いままでみたいなキスをしてくれるなら」
中嶋がうろたえた素振りを見せる。和彦は両手で中嶋の頬を捉え、今度は自分から唇を重ねた。熱っぽく唇を吸い上げ、舌先でくすぐってやると、我に返ったように中嶋は軽く抵抗する素振りを見せたが、本気ではない。それどころか、和彦が唇を離そうとすると、中嶋に頭を抱え込まれ、一気に口づけが深くなる。
口腔に中嶋の舌を迎え入れ、甘やかすように吸ってやる。差し出した舌を絡め合い、唾液を交わし、互いの舌をきつく吸い合っていた。
二人は濡れた唇を啄み合いながら、乱れた息を整える。
「どうして、こんな……」
中嶋が小さく呟いたのをきっかけに、和彦は囁くように問いかけた。
「感じたか? これは、秦のキスのやり方だ」
「……どうして知っているんですか、と聞くのは野暮ですね。俺、先生とするキスが気持ちよくて好きだったんですよ。――なるほど。俺は、先生を通して、秦さんとキスしていたようなものだったんですね。あの人らしい悪ふざけというか、なんというか……」
苦々しい笑みを唇に浮かべた中嶋は、何度も髪を掻き上げながら、ダイニングを歩き回る。そうすることで、自分の頭と気持ちを整理しているのだろう。ときおり横顔に、強い苛立ちを滲ませている。
和彦は立ち上がり、中嶋に歩み寄ろうとする。すかさず釘を刺された。
「今、俺の近くにきたら、今度こそ拳で殴らせてもらいますよ」
「……言っただろ。こう見えても、殴られるのは慣れてるんだ」
「だったら、本当に犯しますよ。秦さんが原因で先生がそういう目に遭ったら――長嶺組が、俺だけじゃなく、秦さんを潰してくれるかもしれない」
「それはそれで、君と秦の心中みたいなものだな」
カッとしたように中嶋のほうから歩み寄ってきて、拳を振り上げる。ここで和彦は、淡々とした口調で告げた。
「――秦は、ぼくを利用したんだ。君が、男と寝るということを、リアルに感じるために。ぼくが秦と何かあるかもしれないと思ったら、いろいろと想像しただろ。どんなふうに秦に抱かれるのか、どんな声を上げるのか。秦の舌と唇の感触、貫いてくる性器の感触も。それこそ、獣みたいな行為だ。ただ、欲望をぶつけて、擦りつけ合う」
和彦の放つ言葉の生々しさに気圧されたように、中嶋はゆっくりと拳を下ろした。和彦は、そんな中嶋の拳を両手で握り締める。
「どうして秦さんは、そんなこと……」
「秦は、君を抱きたがっている。だけど君は、野心たっぷりに這い上がろうとしているヤクザだ。君が支えにしている矜持や価値観を、壊したくないと思っているんだろ。見た目とは違って、秦の中身は獣みたいだが、そんな男が君に対しては気遣いを示している。つまり……そういうことだろ」
本当は、ここまで説明する必要があるのだろうかと思わなくもないが、和彦を巻き込んだのは秦本人だ。好きにさせてもらう権利はあるはずだ。それに、和彦の性質ゆえなのか、秦と中嶋の関係に関わることで、性的な高ぶりを覚えてしまった。
秦を獣みたいだと言いながら、自分のほうがよほど、胸の内に手に負えない獣を飼っているようだと、わずかな恥じらいを覚えて和彦は手を引く。
「……何もなかったとは言わないが、ぼくと秦は深い仲じゃない。納得したなら、もう帰ったほうがいい」
そう告げて中嶋に背を向けた瞬間、背後から拘束されて動けなくなった。驚いた和彦が身を捩ろうとしたが、ますます強く体を縛められ、このときになってようやく、中嶋に抱き締められたのだとわかる。
「中嶋くん……」
激情に駆られたように中嶋に肩を掴まれ、力を込められる。和彦はイスに座ったまま、中嶋を見上げた。
「……秦が、好きなのか? 前に言ってただろ。秦の感触に興味はあると。それはつまり――」
「先生は、本当に甘い。この状況で言い出すことじゃないですよ。野心満々のヤクザと二人きりで、そのヤクザは、先生相手に手酷いことをしたくてウズウズしている。一方の先生は……平手で殴っただけでおとなしくなるような人だ」
「ぼくを殴って、キスするのか? だったらキスぐらい、いくらでもしてやる」
和彦は、あえて中嶋を挑発するような物言いをする。中嶋の感情を爆発させるためだ。
そして思惑通り、中嶋は理性をかなぐり捨てたような行動に出た。和彦の髪を鷲掴んだかと思うと、強引に唇を塞いできたのだ。
噛み付く勢いで唇を吸われ、口腔に舌がねじ込まれる。和彦はされるがままになっていたが、それが中嶋は気に食わないのか、唇を離して睨みつけられた。
「いままでみたいに、俺のキスに応えてくださいよ」
「君が、いままでみたいなキスをしてくれるなら」
中嶋がうろたえた素振りを見せる。和彦は両手で中嶋の頬を捉え、今度は自分から唇を重ねた。熱っぽく唇を吸い上げ、舌先でくすぐってやると、我に返ったように中嶋は軽く抵抗する素振りを見せたが、本気ではない。それどころか、和彦が唇を離そうとすると、中嶋に頭を抱え込まれ、一気に口づけが深くなる。
口腔に中嶋の舌を迎え入れ、甘やかすように吸ってやる。差し出した舌を絡め合い、唾液を交わし、互いの舌をきつく吸い合っていた。
二人は濡れた唇を啄み合いながら、乱れた息を整える。
「どうして、こんな……」
中嶋が小さく呟いたのをきっかけに、和彦は囁くように問いかけた。
「感じたか? これは、秦のキスのやり方だ」
「……どうして知っているんですか、と聞くのは野暮ですね。俺、先生とするキスが気持ちよくて好きだったんですよ。――なるほど。俺は、先生を通して、秦さんとキスしていたようなものだったんですね。あの人らしい悪ふざけというか、なんというか……」
苦々しい笑みを唇に浮かべた中嶋は、何度も髪を掻き上げながら、ダイニングを歩き回る。そうすることで、自分の頭と気持ちを整理しているのだろう。ときおり横顔に、強い苛立ちを滲ませている。
和彦は立ち上がり、中嶋に歩み寄ろうとする。すかさず釘を刺された。
「今、俺の近くにきたら、今度こそ拳で殴らせてもらいますよ」
「……言っただろ。こう見えても、殴られるのは慣れてるんだ」
「だったら、本当に犯しますよ。秦さんが原因で先生がそういう目に遭ったら――長嶺組が、俺だけじゃなく、秦さんを潰してくれるかもしれない」
「それはそれで、君と秦の心中みたいなものだな」
カッとしたように中嶋のほうから歩み寄ってきて、拳を振り上げる。ここで和彦は、淡々とした口調で告げた。
「――秦は、ぼくを利用したんだ。君が、男と寝るということを、リアルに感じるために。ぼくが秦と何かあるかもしれないと思ったら、いろいろと想像しただろ。どんなふうに秦に抱かれるのか、どんな声を上げるのか。秦の舌と唇の感触、貫いてくる性器の感触も。それこそ、獣みたいな行為だ。ただ、欲望をぶつけて、擦りつけ合う」
和彦の放つ言葉の生々しさに気圧されたように、中嶋はゆっくりと拳を下ろした。和彦は、そんな中嶋の拳を両手で握り締める。
「どうして秦さんは、そんなこと……」
「秦は、君を抱きたがっている。だけど君は、野心たっぷりに這い上がろうとしているヤクザだ。君が支えにしている矜持や価値観を、壊したくないと思っているんだろ。見た目とは違って、秦の中身は獣みたいだが、そんな男が君に対しては気遣いを示している。つまり……そういうことだろ」
本当は、ここまで説明する必要があるのだろうかと思わなくもないが、和彦を巻き込んだのは秦本人だ。好きにさせてもらう権利はあるはずだ。それに、和彦の性質ゆえなのか、秦と中嶋の関係に関わることで、性的な高ぶりを覚えてしまった。
秦を獣みたいだと言いながら、自分のほうがよほど、胸の内に手に負えない獣を飼っているようだと、わずかな恥じらいを覚えて和彦は手を引く。
「……何もなかったとは言わないが、ぼくと秦は深い仲じゃない。納得したなら、もう帰ったほうがいい」
そう告げて中嶋に背を向けた瞬間、背後から拘束されて動けなくなった。驚いた和彦が身を捩ろうとしたが、ますます強く体を縛められ、このときになってようやく、中嶋に抱き締められたのだとわかる。
「中嶋くん……」
33
お気に入りに追加
1,335
あなたにおすすめの小説
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる