297 / 1,258
第15話
(16)
しおりを挟む
「……自分で言うな。しかも、しっかり見返りを求めるくせに、何がプレゼントだ」
「当たり前だろ。さっきも言ったが、俺はタダ働きはしない」
こんな会話を交わしながら和彦は、これから数時間は身動きが取れなくなることを覚悟していた。
働いた番犬には、褒めて、餌を与えなければいけない。そう自分に言い聞かせて、鷹津に抱き寄せられ、唇を塞がれた。
痛いほど激しく唇を吸われ、口腔に舌が押し込まれる。小さく呻き声を洩らした和彦は、さすがにこの場では自重するよう諌めたかったが、頭を抱え込まれるように深い口づけを与えられると、何も言えない。肩を押し退けようとしても、無駄だった。鷹津は、飢えた獣そのものだ。
「ふっ……」
口腔深くまで犯そうとするかのように鷹津の舌が蠢き、感じやすい粘膜を舐め回される。吐き気がするような強烈な肉の疼きが、和彦の体の中で暴れ始めていた。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮されると、自販機のボタンを押しながら和彦は、心の中で呟く。
ミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、ついでにフロントに視線を向ける。チェックインの手続きを終えた鷹津が、部屋のキーを受け取るところだった。
車中では欲望を抑えきれないようだったが、さすがに多くの人目があるところでは、そんな気配を微塵もうかがわせない。そのため、少しばかり柄の悪い、身を持ち崩した男にしか見えない。顔立ちそのものは悪くないだけに、シニカルな雰囲気も含めて、鷹津に惹かれる女も少なからずいるだろう。世の中には、一定数の物好きはいるものだ。
努めて客観的に鷹津を分析しながら和彦は、二本のペットボトルを抱える。部屋のキーを振りながら鷹津がエレベーターホールのほうに向かい、和彦も他人のふりをしながらあとに続く。
エレベーターに乗り込んで二人きりになると、和彦はぼそりと洩らした。
「……わざわざ、きちんとしたホテルに部屋を取らなくてもよかっただろ」
「ラブホテルでよかったか?」
「あんたなら、そうすると思った」
「ヤクザの組長のオンナを、組員が見ている前で、ラブホテルに連れ込むのも悪いかと思ってな。――お前を、安く扱いたくない」
冗談なのか本気なのかわからない口調で、鷹津は言い切る。そんな鷹津を横目で見つめながら、和彦はもう一度心の中で呟く。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮される、と。
だが、鷹津の気遣いなど、所詮はささやかなものだ。そのことを、部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒されて和彦は思い知らされた。
まるで辱めるように手荒く下肢を剥かれ、続いてワイシャツの前を開かれたところで、鷹津がわずかに目を細める。その反応の意味がすぐには理解できなかった和彦だが、胸元にてのひらを押し当てられたところで、カッと体が熱くなった。
慌てて身を捩ろうとしたがすでに遅く、乱暴に肩を押さえつけられる。
「たっぷり男に愛されました、って体だな。まだこんなに派手なキスマークが残ってるってことは……クリスマスか?」
和彦は、ワイシャツを脱がされながら顔を背ける。
「……あんたには、関係ない」
「相手は長嶺か? それとも、その息子――、いや、お前の〈オトコ〉か」
「うるさい……」
低く笑い声を洩らした鷹津にベロリと胸元を舐め上げられ、不快さに鳥肌が立つ。肌を這う濡れた感触が気持ち悪く、すぐにでもシーツで拭いたい衝動に駆られる。身を強張らせる和彦にかまわず、鷹津は肌を舐め回していたが、ふいに、きつく吸い上げてきた。
一度ではなく、何度も同じ行為を繰り返されているうちに、和彦は鷹津の行為の意味を知る。三田村が残した愛撫の痕跡を辿り、その上から自分の痕跡を刻みつけているのだ。
思わず鷹津を睨みつけたが、反応が気に入らないとばかりに腕の付け根に噛みつかれたあと、傲慢に唇を塞がれた。
口腔に鷹津の唾液を流し込まれ、コクリと喉を鳴らして飲んでしまう。そのまま口腔を舌で犯されているうちに、和彦は狂おしい情欲の高まりを覚えた。
鷹津と交わす口づけも、肌に触れられる感触も、最初はひどく抵抗感があるのだ。だが厄介なことに、その抵抗感が妖しい媚薬として、溢れるような官能を生み出す。
唇を離したあと、和彦が息を乱しながらもおとなしくしていることに満足したのか、体を起こした鷹津がブルゾンを脱ぎ捨てる。引き締まった上半身が露になるところまでは見ていられた和彦だが、さすがに、すでに高ぶった欲望を見せられたときは、慌てて顔を反らす。
「いまさら初めて見たものじゃないだろ。初心な小娘みたいな反応をするな」
和彦の反応をそうせせら笑った鷹津は、その高ぶりを腿に擦りつけてきた。和彦は睨みつけ、吐き捨てる。
「当たり前だろ。さっきも言ったが、俺はタダ働きはしない」
こんな会話を交わしながら和彦は、これから数時間は身動きが取れなくなることを覚悟していた。
働いた番犬には、褒めて、餌を与えなければいけない。そう自分に言い聞かせて、鷹津に抱き寄せられ、唇を塞がれた。
痛いほど激しく唇を吸われ、口腔に舌が押し込まれる。小さく呻き声を洩らした和彦は、さすがにこの場では自重するよう諌めたかったが、頭を抱え込まれるように深い口づけを与えられると、何も言えない。肩を押し退けようとしても、無駄だった。鷹津は、飢えた獣そのものだ。
「ふっ……」
口腔深くまで犯そうとするかのように鷹津の舌が蠢き、感じやすい粘膜を舐め回される。吐き気がするような強烈な肉の疼きが、和彦の体の中で暴れ始めていた。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮されると、自販機のボタンを押しながら和彦は、心の中で呟く。
ミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、ついでにフロントに視線を向ける。チェックインの手続きを終えた鷹津が、部屋のキーを受け取るところだった。
車中では欲望を抑えきれないようだったが、さすがに多くの人目があるところでは、そんな気配を微塵もうかがわせない。そのため、少しばかり柄の悪い、身を持ち崩した男にしか見えない。顔立ちそのものは悪くないだけに、シニカルな雰囲気も含めて、鷹津に惹かれる女も少なからずいるだろう。世の中には、一定数の物好きはいるものだ。
努めて客観的に鷹津を分析しながら和彦は、二本のペットボトルを抱える。部屋のキーを振りながら鷹津がエレベーターホールのほうに向かい、和彦も他人のふりをしながらあとに続く。
エレベーターに乗り込んで二人きりになると、和彦はぼそりと洩らした。
「……わざわざ、きちんとしたホテルに部屋を取らなくてもよかっただろ」
「ラブホテルでよかったか?」
「あんたなら、そうすると思った」
「ヤクザの組長のオンナを、組員が見ている前で、ラブホテルに連れ込むのも悪いかと思ってな。――お前を、安く扱いたくない」
冗談なのか本気なのかわからない口調で、鷹津は言い切る。そんな鷹津を横目で見つめながら、和彦はもう一度心の中で呟く。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮される、と。
だが、鷹津の気遣いなど、所詮はささやかなものだ。そのことを、部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒されて和彦は思い知らされた。
まるで辱めるように手荒く下肢を剥かれ、続いてワイシャツの前を開かれたところで、鷹津がわずかに目を細める。その反応の意味がすぐには理解できなかった和彦だが、胸元にてのひらを押し当てられたところで、カッと体が熱くなった。
慌てて身を捩ろうとしたがすでに遅く、乱暴に肩を押さえつけられる。
「たっぷり男に愛されました、って体だな。まだこんなに派手なキスマークが残ってるってことは……クリスマスか?」
和彦は、ワイシャツを脱がされながら顔を背ける。
「……あんたには、関係ない」
「相手は長嶺か? それとも、その息子――、いや、お前の〈オトコ〉か」
「うるさい……」
低く笑い声を洩らした鷹津にベロリと胸元を舐め上げられ、不快さに鳥肌が立つ。肌を這う濡れた感触が気持ち悪く、すぐにでもシーツで拭いたい衝動に駆られる。身を強張らせる和彦にかまわず、鷹津は肌を舐め回していたが、ふいに、きつく吸い上げてきた。
一度ではなく、何度も同じ行為を繰り返されているうちに、和彦は鷹津の行為の意味を知る。三田村が残した愛撫の痕跡を辿り、その上から自分の痕跡を刻みつけているのだ。
思わず鷹津を睨みつけたが、反応が気に入らないとばかりに腕の付け根に噛みつかれたあと、傲慢に唇を塞がれた。
口腔に鷹津の唾液を流し込まれ、コクリと喉を鳴らして飲んでしまう。そのまま口腔を舌で犯されているうちに、和彦は狂おしい情欲の高まりを覚えた。
鷹津と交わす口づけも、肌に触れられる感触も、最初はひどく抵抗感があるのだ。だが厄介なことに、その抵抗感が妖しい媚薬として、溢れるような官能を生み出す。
唇を離したあと、和彦が息を乱しながらもおとなしくしていることに満足したのか、体を起こした鷹津がブルゾンを脱ぎ捨てる。引き締まった上半身が露になるところまでは見ていられた和彦だが、さすがに、すでに高ぶった欲望を見せられたときは、慌てて顔を反らす。
「いまさら初めて見たものじゃないだろ。初心な小娘みたいな反応をするな」
和彦の反応をそうせせら笑った鷹津は、その高ぶりを腿に擦りつけてきた。和彦は睨みつけ、吐き捨てる。
35
お気に入りに追加
1,315
あなたにおすすめの小説
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる