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第15話
(13)
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三田村なりの独占欲の表れなのだろうかと思うと、愛撫で得る以上の悦びが、和彦の体を駆け抜けた。
凝った胸の突起を、執拗に舌先で弄られる。焦れた和彦が三田村の頭を抱き締めると、ようやくきつく吸い上げられ、心地よい疼きに体が震えた。
顔を上げた三田村と唇を啄み合い、舌先を触れ合わせる。戯れのようなキスを繰り返しながら和彦は、三田村の背にてのひらを這わせる。可愛がるように虎の刺青を撫でていると、和彦の手つきに感じるものがあったのか、三田村が笑った。
「先生の手にかかると、俺の背中の虎も、猫と一緒だな」
「ああ。ぼくに身を任せてくれるなら、虎も可愛い」
和彦はそう囁くと、三田村の唇をそっと吸う。三田村はちらりと笑ったが、次の瞬間には真剣な顔となり、和彦の唇を吸い返してきた。
もっと甘い会話とキスを交わしたかったが、この時間はあっという間に終わりを迎える。
ふいに顔を上げた三田村が、枕元に置いた携帯電話を取り上げ、時間を確認した。
「……先生」
そう声をかけられて、体を引っ張り起こされる。和彦は熱っぽい吐息を洩らすと、三田村にシャツのボタンを留めてもらう。
濃厚な時間を過ごしたからこそ、別れは淡々としていた。寂しいという気持ちを匂わせると、離れがたくなることを、二人はよく知っているのだ。
ベッドに三田村を残し、和彦はマフラーを直しながら玄関のドアを開ける。目の前に護衛の組員が立っており、さすがに動揺して声を洩らしてしまったが、一方の組員のほうは、何事もないように澄ました顔で、和彦の手から荷物を受け取った。
帰りの車の中で和彦は、クリスマスは終わったのだと、ぼんやりと実感する。
ヤクザのオンナになってから、例年以上にクリスマスという日を楽しめたのは、皮肉なものだと思う。同時に、和彦を気にかけてくれた男たちに対して、言葉にできないほど感謝もしていた。
とにかく、楽しかったのだ。
無意識のうちに唇に笑みを刻んだ和彦だが、実は、クリスマスはまだ終わってはいなかった。
マンションに帰り、玄関に足を踏み入れた和彦はすぐに異変に気づく。
一瞬気のせいかとも思い、廊下を歩きながら鼻を鳴らすが、間違いない。自分以外の誰かの、コロンの微かな残り香だ。
もっとも、〈誰か〉とはいっても、和彦の記憶では、このコロンをつけている男は一人しかいないのだが――。
リビングのテーブルには、真っ赤なリボンが結ばれた箱が置いてあった。どうやら、クリスマスプレゼントらしい。
一度はテーブルの前を素通りして、コートとマフラーを置いてこようかとも思った和彦だが、コロンの残り香に搦め捕られたように足が止まり、結局、テーブルに引き返す。
「……開けるのが怖いな」
じっと箱を見下ろしながら、ぼそりと呟く。
プレゼントの贈り主は、箱の上にしっかりとカードを残していた。『先生へ』という短い一言と、贈り主である男の名が記されている。
長嶺組組長という物騒すぎる肩書きを持ったサンタクロースは、先日、『何かいいものを買ってやる』と言っていたが、口だけではなかったようだ。
ソファに腰掛けた和彦は、おそるおそるリボンを解いて抜き取る。このとき気づいたが、箱の大きさに反して、重さはそれほどでもない。
身構えていたのは最初だけで、すぐに好奇心に駆られて箱を開けた和彦は、目を丸くする。
箱に収まっていたのは、漆黒のコートだった。一目見て独特の妖しい光沢に気づき、そっとてのひらで撫でてみたが、吸い付くように滑らかで柔らかい毛皮の手触りだ。和彦は慌ててコートを取り出し、タグを確認する。
驚くよりも、呆れてため息が出た。それでも、抱えたコートの感触は心地いい。
毛足を短くカットしてあり、特別な加工が施されているのか、すぐにはわからなかったが、これはミンクのコートだ。デザインはいかにも男性物だが、だからこそ、毛皮の柔らかさとのギャップに戸惑う。
コートを撫でながら少しの間戸惑っていた和彦だが、気持ちに踏ん切りをつけると、立ち上がる。いままで着ていたコートを脱いで、プレゼントのコートに袖を通してみた。
予想はついたが、軽く柔らかなコートは、違和感なく和彦の体を包んでくれる。
「ヤクザのオンナに、毛皮のコートなんて……、皮肉のつもりか、あの男」
小さく毒づいてはみるが、嬉しくないわけではない。ただ、一言で気持ちを言い表せるほど、単純でもない。
和彦はコートを羽織ったまま、ソファに座り直す。
和彦にとって特別な男たちは、その和彦に何を贈ったか互いに知っているのだろうかと、ふと思った。
三人の男たちのプレゼントは、和彦の足と手と体全体を飾るのだ。
それとも、拘束具としての役割を果たすのか――。
考えすぎかと、和彦は苦笑を洩らす。今夜はもうパジャマに着替え、中嶋から贈られたワインを味わうことにする。
三人の男たちからもらったクリスマスプレゼントを、愛でながら。
凝った胸の突起を、執拗に舌先で弄られる。焦れた和彦が三田村の頭を抱き締めると、ようやくきつく吸い上げられ、心地よい疼きに体が震えた。
顔を上げた三田村と唇を啄み合い、舌先を触れ合わせる。戯れのようなキスを繰り返しながら和彦は、三田村の背にてのひらを這わせる。可愛がるように虎の刺青を撫でていると、和彦の手つきに感じるものがあったのか、三田村が笑った。
「先生の手にかかると、俺の背中の虎も、猫と一緒だな」
「ああ。ぼくに身を任せてくれるなら、虎も可愛い」
和彦はそう囁くと、三田村の唇をそっと吸う。三田村はちらりと笑ったが、次の瞬間には真剣な顔となり、和彦の唇を吸い返してきた。
もっと甘い会話とキスを交わしたかったが、この時間はあっという間に終わりを迎える。
ふいに顔を上げた三田村が、枕元に置いた携帯電話を取り上げ、時間を確認した。
「……先生」
そう声をかけられて、体を引っ張り起こされる。和彦は熱っぽい吐息を洩らすと、三田村にシャツのボタンを留めてもらう。
濃厚な時間を過ごしたからこそ、別れは淡々としていた。寂しいという気持ちを匂わせると、離れがたくなることを、二人はよく知っているのだ。
ベッドに三田村を残し、和彦はマフラーを直しながら玄関のドアを開ける。目の前に護衛の組員が立っており、さすがに動揺して声を洩らしてしまったが、一方の組員のほうは、何事もないように澄ました顔で、和彦の手から荷物を受け取った。
帰りの車の中で和彦は、クリスマスは終わったのだと、ぼんやりと実感する。
ヤクザのオンナになってから、例年以上にクリスマスという日を楽しめたのは、皮肉なものだと思う。同時に、和彦を気にかけてくれた男たちに対して、言葉にできないほど感謝もしていた。
とにかく、楽しかったのだ。
無意識のうちに唇に笑みを刻んだ和彦だが、実は、クリスマスはまだ終わってはいなかった。
マンションに帰り、玄関に足を踏み入れた和彦はすぐに異変に気づく。
一瞬気のせいかとも思い、廊下を歩きながら鼻を鳴らすが、間違いない。自分以外の誰かの、コロンの微かな残り香だ。
もっとも、〈誰か〉とはいっても、和彦の記憶では、このコロンをつけている男は一人しかいないのだが――。
リビングのテーブルには、真っ赤なリボンが結ばれた箱が置いてあった。どうやら、クリスマスプレゼントらしい。
一度はテーブルの前を素通りして、コートとマフラーを置いてこようかとも思った和彦だが、コロンの残り香に搦め捕られたように足が止まり、結局、テーブルに引き返す。
「……開けるのが怖いな」
じっと箱を見下ろしながら、ぼそりと呟く。
プレゼントの贈り主は、箱の上にしっかりとカードを残していた。『先生へ』という短い一言と、贈り主である男の名が記されている。
長嶺組組長という物騒すぎる肩書きを持ったサンタクロースは、先日、『何かいいものを買ってやる』と言っていたが、口だけではなかったようだ。
ソファに腰掛けた和彦は、おそるおそるリボンを解いて抜き取る。このとき気づいたが、箱の大きさに反して、重さはそれほどでもない。
身構えていたのは最初だけで、すぐに好奇心に駆られて箱を開けた和彦は、目を丸くする。
箱に収まっていたのは、漆黒のコートだった。一目見て独特の妖しい光沢に気づき、そっとてのひらで撫でてみたが、吸い付くように滑らかで柔らかい毛皮の手触りだ。和彦は慌ててコートを取り出し、タグを確認する。
驚くよりも、呆れてため息が出た。それでも、抱えたコートの感触は心地いい。
毛足を短くカットしてあり、特別な加工が施されているのか、すぐにはわからなかったが、これはミンクのコートだ。デザインはいかにも男性物だが、だからこそ、毛皮の柔らかさとのギャップに戸惑う。
コートを撫でながら少しの間戸惑っていた和彦だが、気持ちに踏ん切りをつけると、立ち上がる。いままで着ていたコートを脱いで、プレゼントのコートに袖を通してみた。
予想はついたが、軽く柔らかなコートは、違和感なく和彦の体を包んでくれる。
「ヤクザのオンナに、毛皮のコートなんて……、皮肉のつもりか、あの男」
小さく毒づいてはみるが、嬉しくないわけではない。ただ、一言で気持ちを言い表せるほど、単純でもない。
和彦はコートを羽織ったまま、ソファに座り直す。
和彦にとって特別な男たちは、その和彦に何を贈ったか互いに知っているのだろうかと、ふと思った。
三人の男たちのプレゼントは、和彦の足と手と体全体を飾るのだ。
それとも、拘束具としての役割を果たすのか――。
考えすぎかと、和彦は苦笑を洩らす。今夜はもうパジャマに着替え、中嶋から贈られたワインを味わうことにする。
三人の男たちからもらったクリスマスプレゼントを、愛でながら。
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