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第13話
(22)
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「あれだけベッドの中でいろいろ話したのに、まだ俺に聞きたいことがあるのか」
「……あんたは、どうでもいいことしか言ってない。役に立ちそうなことは何も言ってないだろ。――秦のことだ」
鷹津は大仰に驚いた表情を見せた。
「あの色男がどうした?」
「今のあんたなら、秦が何者なのか、もうわかっているんだろ。あんたが、秦絡みの件で動くとしたら、多少は事情を聞いたはずだ」
「あいつのことを知ってどうする」
口元に薄笑いを浮かべながらも、鷹津の眼差しは鋭かった。その眼差しに気圧されたわけではないが、和彦は咄嗟に言葉が出なかった。
秦のことを知ってどうにかしたいわけではない。ただ、気になるだけだ。秦という個人に対してであれば抑えられた好奇心かもしれないが、和彦は、その秦に執着している中嶋と〈友人〉なのだ。秦と中嶋の事情に少しとはいえ立ち入ってしまうと、知らない顔はできない。
「別に、どうもしない。気になるだけだ。どうして組長は、秦の後ろ盾になる気になったのか、とか」
「ヤクザは、自分の利益にならないことでは、指一本動かさんぞ。これは、基本だ。そして俺が、お前に教えてやれる唯一のことだ」
つまり、教える気はないということだ。
和彦は鷹津を睨みつけてから、テーブルの上の携帯電話を取り上げる。コートのポケットに突っ込んで、足早に部屋をあとにしようとしたが、鷹津があとを追いかけてきた。いきなりドアに押さえつけられ、威圧的に鷹津が迫ってくる。
「おい――」
「まだ、時間はあるだろ」
次の瞬間、唇を塞がれた。和彦は間近で鷹津を睨みつけはしたものの、痛いほど唇を吸われているうちに、応じずにはいられなくなる。
「んっ……」
強引に侵入してきた舌に口腔を犯されてから、唆されるように引き出された舌に軽く噛みつかれる。そのうち舌を絡め合っていた。
鷹津は、容赦なく和彦を貪ってくる。唇と舌を吸い、唾液すら啜ってくる。狂おしい口づけの合間に、掠れた声で鷹津が囁いた。
「――早く、次の仕事を持ってこい。そうじゃないと、褒美としてお前を与えられないからな。……早く俺に、お前を抱かせろ」
深い口づけに意識が舞い上がりながらも、和彦は漠然と感じた。
この男は、自分にハマっている。
そう心の中で呟いた途端、ゾクゾクするような興奮が胸の中を駆け抜けた。
何度となく唇を重ね、舌を絡め合っていると、和彦の携帯電話がポケットで鳴った。慌てて鷹津の顔を押し退けて電話に出る。組員から、ロビーに到着したという連絡だった。
「……もう、行く」
和彦の言葉を受け、鷹津はあっさり体を離した。顔には、いつもの嫌な笑みが浮かんでいる。
一度はドアを開けた和彦だが、すぐに閉めると、鷹津に身を寄せる。さすがの鷹津も驚いたように目を見開いたが、かまわず和彦は鷹津の頭を引き寄せ、ぶつけるように唇を重ねた。
もう一度、濃厚な口づけを交わしてから、和彦はできるだけぶっきらぼうな口調で告げる。
「キスぐらいなら、餌代わりにいつでも与えてやる。――ただし、ぼくの〈オトコ〉がいないところで」
鷹津はまじまじと和彦を見つめてから、納得したように頷いた。
「さすがに、あの蛇みたいな男のオンナだけあって、お前もやっぱり、不健康で危うくて、厄介だ。……見た目が健全である分、中の壊れ具合は半端じゃないのかもな」
そう言う鷹津は、ひどく楽しそうだった。ドアを開けて恭しい動作で促され、和彦は部屋を出る。
「餌だというなら、美味いものを食わせてくれよ。楽しみにしてるぜ」
背に投げかけられた言葉に、振り返ってあれこれ言いたい気持ちをぐっと堪え、和彦はその場を立ち去った。
「……あんたは、どうでもいいことしか言ってない。役に立ちそうなことは何も言ってないだろ。――秦のことだ」
鷹津は大仰に驚いた表情を見せた。
「あの色男がどうした?」
「今のあんたなら、秦が何者なのか、もうわかっているんだろ。あんたが、秦絡みの件で動くとしたら、多少は事情を聞いたはずだ」
「あいつのことを知ってどうする」
口元に薄笑いを浮かべながらも、鷹津の眼差しは鋭かった。その眼差しに気圧されたわけではないが、和彦は咄嗟に言葉が出なかった。
秦のことを知ってどうにかしたいわけではない。ただ、気になるだけだ。秦という個人に対してであれば抑えられた好奇心かもしれないが、和彦は、その秦に執着している中嶋と〈友人〉なのだ。秦と中嶋の事情に少しとはいえ立ち入ってしまうと、知らない顔はできない。
「別に、どうもしない。気になるだけだ。どうして組長は、秦の後ろ盾になる気になったのか、とか」
「ヤクザは、自分の利益にならないことでは、指一本動かさんぞ。これは、基本だ。そして俺が、お前に教えてやれる唯一のことだ」
つまり、教える気はないということだ。
和彦は鷹津を睨みつけてから、テーブルの上の携帯電話を取り上げる。コートのポケットに突っ込んで、足早に部屋をあとにしようとしたが、鷹津があとを追いかけてきた。いきなりドアに押さえつけられ、威圧的に鷹津が迫ってくる。
「おい――」
「まだ、時間はあるだろ」
次の瞬間、唇を塞がれた。和彦は間近で鷹津を睨みつけはしたものの、痛いほど唇を吸われているうちに、応じずにはいられなくなる。
「んっ……」
強引に侵入してきた舌に口腔を犯されてから、唆されるように引き出された舌に軽く噛みつかれる。そのうち舌を絡め合っていた。
鷹津は、容赦なく和彦を貪ってくる。唇と舌を吸い、唾液すら啜ってくる。狂おしい口づけの合間に、掠れた声で鷹津が囁いた。
「――早く、次の仕事を持ってこい。そうじゃないと、褒美としてお前を与えられないからな。……早く俺に、お前を抱かせろ」
深い口づけに意識が舞い上がりながらも、和彦は漠然と感じた。
この男は、自分にハマっている。
そう心の中で呟いた途端、ゾクゾクするような興奮が胸の中を駆け抜けた。
何度となく唇を重ね、舌を絡め合っていると、和彦の携帯電話がポケットで鳴った。慌てて鷹津の顔を押し退けて電話に出る。組員から、ロビーに到着したという連絡だった。
「……もう、行く」
和彦の言葉を受け、鷹津はあっさり体を離した。顔には、いつもの嫌な笑みが浮かんでいる。
一度はドアを開けた和彦だが、すぐに閉めると、鷹津に身を寄せる。さすがの鷹津も驚いたように目を見開いたが、かまわず和彦は鷹津の頭を引き寄せ、ぶつけるように唇を重ねた。
もう一度、濃厚な口づけを交わしてから、和彦はできるだけぶっきらぼうな口調で告げる。
「キスぐらいなら、餌代わりにいつでも与えてやる。――ただし、ぼくの〈オトコ〉がいないところで」
鷹津はまじまじと和彦を見つめてから、納得したように頷いた。
「さすがに、あの蛇みたいな男のオンナだけあって、お前もやっぱり、不健康で危うくて、厄介だ。……見た目が健全である分、中の壊れ具合は半端じゃないのかもな」
そう言う鷹津は、ひどく楽しそうだった。ドアを開けて恭しい動作で促され、和彦は部屋を出る。
「餌だというなら、美味いものを食わせてくれよ。楽しみにしてるぜ」
背に投げかけられた言葉に、振り返ってあれこれ言いたい気持ちをぐっと堪え、和彦はその場を立ち去った。
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