252 / 1,262
第13話
(15)
しおりを挟む
快感で狂わされた和彦は、賢吾の淫らな攻めに耐えられなかった。内奥を突き上げられ、柔らかな膨らみを強く愛撫されながら、啜り泣いていた。泣きながら――。
強烈な感覚が蘇り、和彦は身震いする。そんな和彦に再び深い口づけを与えてから、賢吾はバリトンの魅力をもっとも引き出す淫らな言葉を、耳元で囁いてきた。
「〈あれ〉は、やみつきになりそうなほど、ヤバイな。だからこそ、俺と先生だけの秘密だ。……俺だけが知っている、先生の姿だ。〈あれ〉の最中の声も表情も、体の震わせ方も、何もかも絶品だった。尻の締まり方もな」
激しい羞恥のため、全身が熱い。もしかすると、言葉だけで官能が刺激されているのかもしれないが、和彦としては認めるわけにはいかない。
賢吾が与えてきた快感は、屈辱でもあるのだ。だからこそ、賢吾を満足させたのだろう。とにかく賢吾は、機嫌がよかった。
「先生の乱れ方を見ていたら、お仕置きとしても使えるかもしれないと思ったんだが……」
一瞬、賢吾の言葉にドキリとしてしまう。やましいことはないと断言できる生活を送っているつもりだが、少しだけ気にかかることはある。
中嶋の存在だ。戯れのようなキスを二回交わしており、そのことを和彦は、賢吾に告げていない。たかがキス――というのは語弊があるが、悪いことをしたというより、中嶋の繊細な部分を賢吾に踏み荒らされたくないと思っているのだ。
だから、やましいことはないと断言できる反面、正直に告げられないという、奇妙な状況に陥っている。
「……お仕置きされるようなことを、ぼくがあんたにすると?」
羞恥と屈辱を押し殺し、和彦はきつい眼差しを向ける。賢吾はなんとも残酷な笑みを唇に浮かべてから、和彦のあごの下をくすぐった。
「それも、そうだな。先生は、大事で可愛いオンナだ。それに、憎まれ口を叩きながらも、俺に従順だ」
従順の証を求められた気がして、和彦は賢吾の頬に手をかけると、自分から唇を重ねる。そこまでしてやっと、賢吾は満足したようだ。肩を抱かれたままではあるものの、愛撫はやめてくれる。
肩から力を抜いた和彦は、賢吾の膝に手を置いた状態で問いかけた。
「――それで、ぼくはどこに連れて行かれるんだ」
「長嶺の傘下の組が、内輪で跡目の披露式をやるんだ。そこに顔を出す」
ダークスーツの理由が、これで判明した。ただし和彦は、昨日、澤村と食事をするために選んだ、明るいグレーとブラックのストライプのスーツ姿だ。まさか、本宅に泊まったうえに、こうして賢吾に連れ出される事態になるとは、思いもしなかったのだ。
思わず自分の格好を見た和彦に、賢吾が言った。
「よく似合ってるぞ、先生」
「前に、千尋が選んでくれたんだ」
「さすが、俺の息子だ。好みが一緒だ」
そういうことは別に知りたくないと、和彦がちらりと視線を向けた先で、賢吾は唇の端をわずかに動かした。
「心配しなくても、仰々しい場じゃない。あくまで内輪での祝い事に、俺が祝い酒を持ってちょっと顔を出すだけだ。先生は俺の隣で、澄ました顔して挨拶をすればいい」
「えっ……、ぼくも、あんたについて行くのか?」
「俺のオンナだからな」
本気とも冗談とも取れる口調で、さらりと言われた。目を丸くしたまま返事ができない和彦を楽しそうに一瞥して、賢吾は膝に置いた手の上に、自分の手を重ねてきた。
「――お前は、長嶺組の専属医だ。当然、長嶺の看板でメシを食っている奴らの面倒を見て、命を守っていくんだ。臆する必要はない。堂々としていればいい」
賢吾の言葉に、面映くならないと言えばウソになる。ただ、嬉しい、と素直に認めてしまうのは抵抗がある。長嶺賢吾とは、長嶺組の看板そのものの男だ。身内の集まりとはいえ長嶺組以外の場で、そんな男の側に一介の医者が控えているのは、どう考えても不自然だ。
その不自然さを、賢吾は受け止めるつもりなのだ――。
思わず和彦が賢吾の手を握り返すと、こちらを見た賢吾の眼差しが一瞬だけ和らぐ。肩を引き寄せられるまま、賢吾と唇を重ね、深い口づけを交わし合っていた。
「本宅に戻ったら、〈あれ〉の感覚を忘れないうちに、もう一度味わわせてやる」
口づけの合間に官能的なバリトンで囁かれ、和彦の胸はズキリと疼いた。
強烈な感覚が蘇り、和彦は身震いする。そんな和彦に再び深い口づけを与えてから、賢吾はバリトンの魅力をもっとも引き出す淫らな言葉を、耳元で囁いてきた。
「〈あれ〉は、やみつきになりそうなほど、ヤバイな。だからこそ、俺と先生だけの秘密だ。……俺だけが知っている、先生の姿だ。〈あれ〉の最中の声も表情も、体の震わせ方も、何もかも絶品だった。尻の締まり方もな」
激しい羞恥のため、全身が熱い。もしかすると、言葉だけで官能が刺激されているのかもしれないが、和彦としては認めるわけにはいかない。
賢吾が与えてきた快感は、屈辱でもあるのだ。だからこそ、賢吾を満足させたのだろう。とにかく賢吾は、機嫌がよかった。
「先生の乱れ方を見ていたら、お仕置きとしても使えるかもしれないと思ったんだが……」
一瞬、賢吾の言葉にドキリとしてしまう。やましいことはないと断言できる生活を送っているつもりだが、少しだけ気にかかることはある。
中嶋の存在だ。戯れのようなキスを二回交わしており、そのことを和彦は、賢吾に告げていない。たかがキス――というのは語弊があるが、悪いことをしたというより、中嶋の繊細な部分を賢吾に踏み荒らされたくないと思っているのだ。
だから、やましいことはないと断言できる反面、正直に告げられないという、奇妙な状況に陥っている。
「……お仕置きされるようなことを、ぼくがあんたにすると?」
羞恥と屈辱を押し殺し、和彦はきつい眼差しを向ける。賢吾はなんとも残酷な笑みを唇に浮かべてから、和彦のあごの下をくすぐった。
「それも、そうだな。先生は、大事で可愛いオンナだ。それに、憎まれ口を叩きながらも、俺に従順だ」
従順の証を求められた気がして、和彦は賢吾の頬に手をかけると、自分から唇を重ねる。そこまでしてやっと、賢吾は満足したようだ。肩を抱かれたままではあるものの、愛撫はやめてくれる。
肩から力を抜いた和彦は、賢吾の膝に手を置いた状態で問いかけた。
「――それで、ぼくはどこに連れて行かれるんだ」
「長嶺の傘下の組が、内輪で跡目の披露式をやるんだ。そこに顔を出す」
ダークスーツの理由が、これで判明した。ただし和彦は、昨日、澤村と食事をするために選んだ、明るいグレーとブラックのストライプのスーツ姿だ。まさか、本宅に泊まったうえに、こうして賢吾に連れ出される事態になるとは、思いもしなかったのだ。
思わず自分の格好を見た和彦に、賢吾が言った。
「よく似合ってるぞ、先生」
「前に、千尋が選んでくれたんだ」
「さすが、俺の息子だ。好みが一緒だ」
そういうことは別に知りたくないと、和彦がちらりと視線を向けた先で、賢吾は唇の端をわずかに動かした。
「心配しなくても、仰々しい場じゃない。あくまで内輪での祝い事に、俺が祝い酒を持ってちょっと顔を出すだけだ。先生は俺の隣で、澄ました顔して挨拶をすればいい」
「えっ……、ぼくも、あんたについて行くのか?」
「俺のオンナだからな」
本気とも冗談とも取れる口調で、さらりと言われた。目を丸くしたまま返事ができない和彦を楽しそうに一瞥して、賢吾は膝に置いた手の上に、自分の手を重ねてきた。
「――お前は、長嶺組の専属医だ。当然、長嶺の看板でメシを食っている奴らの面倒を見て、命を守っていくんだ。臆する必要はない。堂々としていればいい」
賢吾の言葉に、面映くならないと言えばウソになる。ただ、嬉しい、と素直に認めてしまうのは抵抗がある。長嶺賢吾とは、長嶺組の看板そのものの男だ。身内の集まりとはいえ長嶺組以外の場で、そんな男の側に一介の医者が控えているのは、どう考えても不自然だ。
その不自然さを、賢吾は受け止めるつもりなのだ――。
思わず和彦が賢吾の手を握り返すと、こちらを見た賢吾の眼差しが一瞬だけ和らぐ。肩を引き寄せられるまま、賢吾と唇を重ね、深い口づけを交わし合っていた。
「本宅に戻ったら、〈あれ〉の感覚を忘れないうちに、もう一度味わわせてやる」
口づけの合間に官能的なバリトンで囁かれ、和彦の胸はズキリと疼いた。
24
お気に入りに追加
1,335
あなたにおすすめの小説
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる