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第8話
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本当に三田村に心配をかけてしまったのだと、いまさらながら痛感する。和彦は背を何度も撫でてから、ぽそりと言った。
「……喉、渇いた」
「ああ。それと、何か食おう。ここに来るとき、いろいろ買ったから、温める」
やむなく繋いでいた体を離し、和彦はしどけなく両手を投げ出す。三田村はそんな和彦の胸元や腹部に何度か唇を押し当ててから、スウェットパンツだけを穿いて立ち上がる。
向けられた三田村の背にある虎の刺青は、汗に濡れている。寸前まで、自分はこの背を撫でていたのかと思うと、ゾクリとするような疼きを和彦は感じた。
三田村の姿がキッチンに消え、聞こえてくる物音に耳を傾けながら、心地よい空気を味わう。
本当は、問題は何も片付いていないのだ。ただ和彦が、抱えた秘密を三田村に打ち明けただけで、三田村から報告を受けた賢吾がどんな対処をするかもわからない。
自分はどんな罰も受けないと考えられるほど、和彦は楽観論者ではなかった。
それでも今は、三田村とこうして一緒の時間を過ごせていることが嬉しい。明日の朝までは、この時間を堪能できるはずだ。
和彦がゆっくりと体の向きを変えようとしたとき、ベッドの下で和彦の携帯電話が鳴った。長嶺組の人間ではない。三田村と一緒にいる間は、連絡しないことになっている。だとすれば、かけてきているのは――。
けだるい体をベッドから乗り出すようにして、床の上に落としたジャケットのポケットから携帯電話を取り出す。表示を見ると、鷹津の携帯電話からだった。
鷹津から連絡がきたのはこれが初めてだが、よりによって、というタイミングだ。すぐにでも電源を切ろうとしたが、あの男のことなので、ここに来るときも尾行していたとしても不思議ではない。電源を切った途端、押しかけられそうで、結局和彦は、電話に出ていた。
「もしもし……」
『今、どこにいる?』
和彦はうつぶせの姿勢で鷹津と話す。寸前まで三田村の囁きをたっぷり耳に注ぎ込まれたせいか、鷹津に対する嫌悪感がいくらかマシだった。ただ、鷹揚な話し方と声は、やはり不快だ。
「……今日はぼくを尾行していないのか」
『俺は、ヤクザのオンナの尻を追い掛け回すほど、暇じゃないぜ』
この言葉が本当かどうか、どうでもよかった。今の和彦は一人ではないし、知られて困る秘密ももうない。
「その、暇じゃない刑事が、なんの用だ」
『助けてやると言った俺の言葉を、少しは考えたかと思ってな』
「あんたは、ぼくを助けてやるとは言わなかった」
『疫病神を引き離すことはできるとは、言っただろ?』
「――長嶺組長に一度潰されかかった男に何ができるんだ」
皮肉という意識はなかったが、吐息交じりの和彦の言葉は、確実に鷹津の痛い部分を抉ったようだ。少しの間、不自然な沈黙が流れる。
『俺が目の前にいないせいか、妙に強気だな』
「強気……。別に、そのつもりはない。ただ今は――」
ふいにベッドが揺れ、剥き出しになっている和彦の背に、温かく大きなてのひらが這わされる。そして、背後から伸びてきた手に、携帯電話を取り上げられた。振り返ると、三田村が無表情で携帯電話の画面を見て、相手を確認している。
不快そうに軽く眉をひそめた三田村は何も言わず、携帯電話をベッドに投げ置いた。
「三田村……」
和彦は仰向けになろうとしたが、それより早く三田村に腰を抱え上げられ、蕩けた内奥に強引に熱い欲望を捩じ込まれた。
「ああっ」
抑え切れない声を上げ、和彦はシーツを握り締める。思いがけない三田村の行動に頭が混乱するが、体は従順で、貪欲だ。奥深くまで三田村のものを呑み込まされると、きつく締め付けてしまう。
「あっ、あっ、うあっ……」
強く内奥を突き上げられ、そのたびに、注ぎ込まれていた三田村の精が溢れ出し、和彦の内腿を濡らしていく。
荒い息をつきながら、和彦はなんとか片手を伸ばして携帯電話を切ろうとする。すると三田村は、携帯電話を和彦の口元に持ってきた。三田村の行為の意味がわからず、和彦は口を開きかけたが、そこで、乱暴に腰を打ち付けられた。
「ひあっ」
三田村のものが一度引き抜かれ、再び内奥に、収縮する感触を味わうようにゆっくりと挿入されてくる。和彦は背をしならせながら腰を揺らし、明らかにそれとわかる喘ぎ声をこぼしていた。
「はあぁ……、あぅっ――」
声を堪えようとしても、できなかった。すでに脆くなっている部分を的確に三田村に攻め立てられ、和彦の体は素直に悦ぶ。せめて鷹津が電話を切ることを望むが、どうやらその様子はない。鷹津は沈黙して、気配と声をうかがっている。
三田村はあえて、淫らな行為の声を聞かせようとしているのだ。なんのために、と快感で霞む頭で考えようとしたが、それどころではない。和彦は甘い悲鳴を上げていた。
「い、や……。三田村、そこ、嫌だっ……」
三田村の片手が両足の間に入り込み、柔らかな膨らみを慎重に揉まれる。それでも和彦には十分の刺激で、呻き声を洩らして身悶える。
賢吾とも千尋とも違う愛撫に、無意識に腰が揺れる。その動きを封じるように三田村に内奥を突き上げられ、息も詰まりそうなほど感じてしまう。和彦の意識から、携帯電話も、その向こうにいる鷹津の存在すらも弾き出される。
「……気持ちいいんだな、先生。中が、ビクビクと震えてる。それに、きつく締め付けてくる。俺のものに吸い付いて、絡みついて、物欲しそうに奥へ誘い込もうとしている。ここに触れたら、こんな反応をするんだな。先生の中は」
ハスキーな声に唆されるように、和彦の感度は高まる。携帯電話のすぐ側で、切迫した息遣いを繰り返しながら、突き上げられるたびに甘く鳴く。そこに淫らな愛撫が加わると、狂おしい快感に気が遠くなりかける。
「あうっ、うっ、んうっ」
内奥を擦り上げられながら、柔らかな膨らみを手荒く揉みしだかれると、和彦は弱い。相手が三田村となると、なおさらだ。優しい男の激しい攻めに、和彦は放埓に悦びの声を上げ、あさましく腰をくねらせる。
「三田村っ……、も、う、またっ――」
「イクのか?」
そう問いかけてきた三田村の手に、透明なしずくを垂らす先端をヌルヌルと擦られる。
「あっ、あっ、出、るぅっ……」
内奥深くを突かれながら先端を撫でられ、とうとう二度目の絶頂を迎えようとした和彦の目の前で、三田村は携帯電話を切ってしまった。
三田村の行動の意味を問いかけられないまま、和彦は精を迸らせる。数瞬遅れて、三田村も内奥で達し、二度目の精を注ぎ込んでくれる。
激しく息を喘がせる和彦の背に、三田村が覆い被さってきて、耳の後ろ辺りにそっと唇が押し当てられた。
「――……先生は俺のものだと、知らせたかった。組長や千尋さんだけが触れられる存在じゃないんだと……」
三田村の絞り出すような囁きに、和彦は笑みをこぼす。
この男の独占欲は心地いい。秘密を吐き出した和彦の心を、柔らかく満たして癒してくれる。
「ああ。ぼくは、あんたのものだ。今だけじゃなく、それ以外のときだって」
和彦は手を伸ばして、携帯電話を床に落とす。その手に、三田村の温かな手が重なり、きつく握り締められた。
「……喉、渇いた」
「ああ。それと、何か食おう。ここに来るとき、いろいろ買ったから、温める」
やむなく繋いでいた体を離し、和彦はしどけなく両手を投げ出す。三田村はそんな和彦の胸元や腹部に何度か唇を押し当ててから、スウェットパンツだけを穿いて立ち上がる。
向けられた三田村の背にある虎の刺青は、汗に濡れている。寸前まで、自分はこの背を撫でていたのかと思うと、ゾクリとするような疼きを和彦は感じた。
三田村の姿がキッチンに消え、聞こえてくる物音に耳を傾けながら、心地よい空気を味わう。
本当は、問題は何も片付いていないのだ。ただ和彦が、抱えた秘密を三田村に打ち明けただけで、三田村から報告を受けた賢吾がどんな対処をするかもわからない。
自分はどんな罰も受けないと考えられるほど、和彦は楽観論者ではなかった。
それでも今は、三田村とこうして一緒の時間を過ごせていることが嬉しい。明日の朝までは、この時間を堪能できるはずだ。
和彦がゆっくりと体の向きを変えようとしたとき、ベッドの下で和彦の携帯電話が鳴った。長嶺組の人間ではない。三田村と一緒にいる間は、連絡しないことになっている。だとすれば、かけてきているのは――。
けだるい体をベッドから乗り出すようにして、床の上に落としたジャケットのポケットから携帯電話を取り出す。表示を見ると、鷹津の携帯電話からだった。
鷹津から連絡がきたのはこれが初めてだが、よりによって、というタイミングだ。すぐにでも電源を切ろうとしたが、あの男のことなので、ここに来るときも尾行していたとしても不思議ではない。電源を切った途端、押しかけられそうで、結局和彦は、電話に出ていた。
「もしもし……」
『今、どこにいる?』
和彦はうつぶせの姿勢で鷹津と話す。寸前まで三田村の囁きをたっぷり耳に注ぎ込まれたせいか、鷹津に対する嫌悪感がいくらかマシだった。ただ、鷹揚な話し方と声は、やはり不快だ。
「……今日はぼくを尾行していないのか」
『俺は、ヤクザのオンナの尻を追い掛け回すほど、暇じゃないぜ』
この言葉が本当かどうか、どうでもよかった。今の和彦は一人ではないし、知られて困る秘密ももうない。
「その、暇じゃない刑事が、なんの用だ」
『助けてやると言った俺の言葉を、少しは考えたかと思ってな』
「あんたは、ぼくを助けてやるとは言わなかった」
『疫病神を引き離すことはできるとは、言っただろ?』
「――長嶺組長に一度潰されかかった男に何ができるんだ」
皮肉という意識はなかったが、吐息交じりの和彦の言葉は、確実に鷹津の痛い部分を抉ったようだ。少しの間、不自然な沈黙が流れる。
『俺が目の前にいないせいか、妙に強気だな』
「強気……。別に、そのつもりはない。ただ今は――」
ふいにベッドが揺れ、剥き出しになっている和彦の背に、温かく大きなてのひらが這わされる。そして、背後から伸びてきた手に、携帯電話を取り上げられた。振り返ると、三田村が無表情で携帯電話の画面を見て、相手を確認している。
不快そうに軽く眉をひそめた三田村は何も言わず、携帯電話をベッドに投げ置いた。
「三田村……」
和彦は仰向けになろうとしたが、それより早く三田村に腰を抱え上げられ、蕩けた内奥に強引に熱い欲望を捩じ込まれた。
「ああっ」
抑え切れない声を上げ、和彦はシーツを握り締める。思いがけない三田村の行動に頭が混乱するが、体は従順で、貪欲だ。奥深くまで三田村のものを呑み込まされると、きつく締め付けてしまう。
「あっ、あっ、うあっ……」
強く内奥を突き上げられ、そのたびに、注ぎ込まれていた三田村の精が溢れ出し、和彦の内腿を濡らしていく。
荒い息をつきながら、和彦はなんとか片手を伸ばして携帯電話を切ろうとする。すると三田村は、携帯電話を和彦の口元に持ってきた。三田村の行為の意味がわからず、和彦は口を開きかけたが、そこで、乱暴に腰を打ち付けられた。
「ひあっ」
三田村のものが一度引き抜かれ、再び内奥に、収縮する感触を味わうようにゆっくりと挿入されてくる。和彦は背をしならせながら腰を揺らし、明らかにそれとわかる喘ぎ声をこぼしていた。
「はあぁ……、あぅっ――」
声を堪えようとしても、できなかった。すでに脆くなっている部分を的確に三田村に攻め立てられ、和彦の体は素直に悦ぶ。せめて鷹津が電話を切ることを望むが、どうやらその様子はない。鷹津は沈黙して、気配と声をうかがっている。
三田村はあえて、淫らな行為の声を聞かせようとしているのだ。なんのために、と快感で霞む頭で考えようとしたが、それどころではない。和彦は甘い悲鳴を上げていた。
「い、や……。三田村、そこ、嫌だっ……」
三田村の片手が両足の間に入り込み、柔らかな膨らみを慎重に揉まれる。それでも和彦には十分の刺激で、呻き声を洩らして身悶える。
賢吾とも千尋とも違う愛撫に、無意識に腰が揺れる。その動きを封じるように三田村に内奥を突き上げられ、息も詰まりそうなほど感じてしまう。和彦の意識から、携帯電話も、その向こうにいる鷹津の存在すらも弾き出される。
「……気持ちいいんだな、先生。中が、ビクビクと震えてる。それに、きつく締め付けてくる。俺のものに吸い付いて、絡みついて、物欲しそうに奥へ誘い込もうとしている。ここに触れたら、こんな反応をするんだな。先生の中は」
ハスキーな声に唆されるように、和彦の感度は高まる。携帯電話のすぐ側で、切迫した息遣いを繰り返しながら、突き上げられるたびに甘く鳴く。そこに淫らな愛撫が加わると、狂おしい快感に気が遠くなりかける。
「あうっ、うっ、んうっ」
内奥を擦り上げられながら、柔らかな膨らみを手荒く揉みしだかれると、和彦は弱い。相手が三田村となると、なおさらだ。優しい男の激しい攻めに、和彦は放埓に悦びの声を上げ、あさましく腰をくねらせる。
「三田村っ……、も、う、またっ――」
「イクのか?」
そう問いかけてきた三田村の手に、透明なしずくを垂らす先端をヌルヌルと擦られる。
「あっ、あっ、出、るぅっ……」
内奥深くを突かれながら先端を撫でられ、とうとう二度目の絶頂を迎えようとした和彦の目の前で、三田村は携帯電話を切ってしまった。
三田村の行動の意味を問いかけられないまま、和彦は精を迸らせる。数瞬遅れて、三田村も内奥で達し、二度目の精を注ぎ込んでくれる。
激しく息を喘がせる和彦の背に、三田村が覆い被さってきて、耳の後ろ辺りにそっと唇が押し当てられた。
「――……先生は俺のものだと、知らせたかった。組長や千尋さんだけが触れられる存在じゃないんだと……」
三田村の絞り出すような囁きに、和彦は笑みをこぼす。
この男の独占欲は心地いい。秘密を吐き出した和彦の心を、柔らかく満たして癒してくれる。
「ああ。ぼくは、あんたのものだ。今だけじゃなく、それ以外のときだって」
和彦は手を伸ばして、携帯電話を床に落とす。その手に、三田村の温かな手が重なり、きつく握り締められた。
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