血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
75 / 1,258
第5話

(8)

しおりを挟む
 得体の知れないあの男は、生理的に受け付けられない嫌悪感を和彦に植え付けてきた。しかしそれは重要ではない。看過できないのは、男は、千尋が長嶺組組長の息子だと知っていたということだ。必然的に、総和会の現会長の孫であることも知っているはずだが、そのうえで、あんな手荒な行動に出たのだ。
 男の正体がなんであれ、ヤクザの不文律が通じない相手は、危険だ。本当にあの場で、いきなり刃物を出されても不思議ではなかった。
 千尋の話では、男が何者であるかまったく見当がつかないという。さきほど部屋を覗いたら、組員数人が見守る中、パソコンに向き合っていた。過去に長嶺組と諍いを起こした組や人物たちのデータをチェックしているのだという。
 千尋の見た目の好青年ぶりも、組員たちに囲まれると、妙な迫力を帯びる。こいつもヤクザなのだと、唐突に和彦は実感させられるのだ。
「――なんか、和むなー。先生がのんびりお茶飲んでる姿見ると」
 そんな声をかけられて和彦が視線を上げると、千尋が廊下に立ち、こちらを見て笑っていた。いつもの千尋の笑顔に、つられて和彦も笑みで返す。
「悪いな、緊迫感に欠けていて」
「いいよ。先生は、そのほうが似合ってる」
 和彦が立ち上がって縁側に歩み寄ると、腰を屈めた千尋が肩に額をすり寄せてきた。そんな千尋の頭を撫でてやりながら尋ねる。
「お前、仕事は?」
「飽きた」
「……どっちが緊迫感ないんだ」
「だってさー、ムサい男の画像ばかり見てるんだよ? それに――あいつ多分、組関係の人間じゃないと思うんだよね」
 和彦は千尋の顔を上げさせ、頬を両手で挟む。
「根拠は?」
「俺の直感」
「あー、それは確かだな。お前の直感は絶対だ」
「先生……、思いきり冷めた声で、台詞を棒読みするように言わないでよ」
 それより、と言葉を続けた千尋が、耳元に顔を寄せて囁いてきた。
「今は、先生に目一杯、甘えさせてもらいたい」
「……いつも目一杯甘えてるだろ、お前……」
「先生が、俺のために顔色変えて、いかにもヤバげな男に立ち向かってる姿見て、興奮したんだよ」
 口ではそんなことを言いながらも、すがる犬っころのような眼差しを向けられると、和彦は千尋のわがままを聞き入れずにはいられない。
 本当は和彦も、必死に自分を守ってくれようとしていた千尋の姿を思い返し、胸が疼くものがあった。
 あの男から植え付けられた生理的嫌悪感も、千尋とじゃれ合っているうちに消えてしまうだろう。


 二階にある千尋の部屋に上がり、ベッドに倒れ込むと、会話を交わす余裕もなく互いの服を脱がし合い、すでに汗ばんでいる素肌を擦りつけ合う。
 和彦は、未熟な蛮勇を奮おうとした千尋をまず労うため、しなやかな体に覆い被さり、滑らかな肌をじっくりと舐め上げる。浮き上がった腹筋に舌先を這わせ、柔らかく吸い上げてから、胸の突起を口腔に含むと、千尋がくすぐったそうに笑い声を上げる。
 だがそれもわずかな間で、和彦が絶えず唇と舌を動かし続けると、次第に切なげな息遣いとなり、微かに声を洩らし始める。そんな千尋に引き寄せられて顔を上げると、有無を言わさず唇を塞がれた。
「クーラーつけようか?」
 貪り合うような口づけの合間にそう問われた和彦は、すでに滴っている千尋の汗をてのひらで拭ってやってから答える。
「いらない。せっかくの熱が冷める」
「……いやらしいなー、先生」
 ニヤリと笑った千尋の唇に軽いキスを落としてから、和彦は頭を下ろす。多分今、この部屋の中でもっとも高い熱を持っているはずのものをてのひらに包み込み、ゆっくりと上下に扱き始めると、千尋が心地よさそうに深い吐息を洩らした。
 和彦は、望まれた通りにたっぷりと千尋を甘やかすことにした。
 何より甘やかされるのが好きな千尋の分身を口腔に含み、熱く濡れた粘膜で包み込みながら唇で締め付け、滲み出る透明なしずくを丹念に舌で舐め取っていく。堪えきれないように千尋が声を上げ始めると、口腔から出し入れしながら、根元から指の輪で扱いてやる。
 千尋のものが素直に悦びを示し、瞬く間に成長して張り詰める。その変化を、和彦は舌を絡ませて感じていた。
 ふいに、腕を掴まれて体を引き上げられると、両腕できつく抱き締められる。千尋の体は燃えそうなほど熱くなっていた。
「先生の中で甘やかしてもらっていい?」
「……いつも、そんなこと言わないで、勝手に入ってくるだろ」
 和彦の体はベッドに押さえつけられ、今度は千尋が獣のようにのしかかってくる。両足の間に腰が割り込まされ、両手で頬を撫でられる。
「今日の先生、本当にいやらしい……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

結婚したくない王女は一夜限りの相手を求めて彷徨ったら熊男に国を挙げて捜索された

狭山雪菜
恋愛
フウモ王国の第三王女のミネルヴァは、側室だった母の教えの政略結婚なら拒絶をとの言葉に大人しく生きていた 成人を迎える20歳の時、国王から隣国の王子との縁談が決まったと言われ人物像に反発し、結婚を無くすために策を練った ある日、お忍びで町で買い物をしていると、熊男に体当たりされその行く先々に彼が現れた 酒場で話していると、お互い惹かれ合っている事に気が付き……… この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

処理中です...