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第3話
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和彦は最初、性質の悪い男なりの笑えない冗談かと思ったが、そうではないようだ。
指先に唇を割り開かれ、押し込まれる。舌を刺激され、口腔から出し入れされるようになると、和彦も言われたわけではないが賢吾の指を吸い、舌を絡める。賢吾のものをそうして愛撫したように。賢吾の腰の動きが次第に同調し、内奥から逞しいものを出し入れされる。
指ではなく、口づけが欲しいと率直に思った。和彦がおずおずと片手を伸ばすと、口腔から指が引き抜かれ、甘く残酷に囁かれる。
「さあ、どうするんだ? 俺は名前を呼ばれないと、お前の欲しいものはやらないぞ。もうこっちには、お前の欲しいものを咥えさせてやってるんだからな」
そう言って賢吾が腰を揺らし、身を焼くような羞恥に体を熱くしながら和彦は、目の前のヤクザを睨みつける。だが、逆らえなかった。
「――……賢吾、さん……」
「もっと自然に」
張り詰めた欲望でぐっと内奥を抉られ、顔を背けて喘ぎ声をこぼした和彦は、それでもなんとか、賢吾をもう一度睨みつけながら、名を呼んだ。
「賢吾さん」
「甘さが欲しいな」
「……ふざけるなっ」
賢吾にあごを掴まれ、噛み付くような口づけを与えられる。合間に恫喝するように言われた。
「忘れるなよ、先生。俺に抱かれるときは、俺の名前を呼べ」
大きく腰を突き上げられ、和彦の内奥は嬉々として賢吾のものを締め付け、淫らに蠕動する。満足そうに賢吾が息を吐き出し、ゆっくり大きく律動を繰り返す。これ以上の意地を張る気力もなく、和彦は両腕を賢吾の背に回した。
「あっ、あっ、い、い――……」
耳元で賢吾に唆され、素直に乗ってしまう。
「……賢吾さん」
「気持ちいいか、先生?」
「気持ち、いい……」
すぐに賢吾の動きに余裕がなくなり、和彦も奔放に身をしならせて乱れる。この男には何を見られても――、たとえどんな痴態だろうが、そうなっても仕方ないと思えていた。
ここまでの賢吾とのやり取りすべてが、ヤクザなりの調教によるものだろうかと、ちらりと考えてもみるのだが、和彦に答えが出せるはずもない。
息子以上に野性味を漂わせた顔に、汗を滴らせながら笑みを浮かべている賢吾を見ていると、理屈はどうでもよくなってくる。与えられる強烈な快感がすべてだ。
「うっ、ああっ、はっ……、くうぅっ。け、ご……さ、賢吾さん、もうっ――」
和彦の呼びかけに応え、賢吾の大きな手に、反り返って震える和彦自身のものが包み込まれる。
「そうだ、そうやって俺を呼べ。少しずつ、俺のオンナらしく仕込んでやる。俺に飼われることになったお前の義務だ」
一瞬芽生えた反発は、てのひらに包み込まれたものを強く擦り上げられてあえなく消える。
「俺のオンナだと言われることに慣れろ。こうして男のものをつけていても、お前はオンナになったんだ。俺と、千尋のな」
乱暴に腰を突き上げられ、内奥深くに賢吾の熱い精を当然のように注ぎ込まれる。素早く和彦のものも扱かれて、自らの下腹部を精で濡らしていた。
服従を強いられながらの行為は、たまらなく感じて、よかった。
生理的な反応から、涙をこぼしながら息を喘がせる和彦は、肌に這わされる賢吾のてのひらの感触にすら敏感に感じてしまう。
事後の気だるさと、快感の余韻を引きずりながら賢吾と抱き合い、唇を重ね、肌を擦りつけ合う。
「――ベッドは、キングサイズで正解だっただろ?」
薄く笑いながら賢吾に問われ、和彦は刺青の入った肩にそっと唇を押し当ててから答える。
「ここで寝るたびに、悪夢でうなされそうだ……」
「一人寝の夜は、俺を思って悶えてろ」
和彦の唇に軽くキスをしてから、賢吾が隣のリビングにいる三田村に風呂の湯を溜めるよう命令する。それからようやく体を起こしてベッドに腰掛けたのだが、このときになって和彦はようやく、賢吾の背の刺青を見ることができた。
背骨のラインに沿って太い剣が描かれ、その剣に、鎌首をもたげた大蛇がとぐろを巻くようにして絡みついている。背一面どころか、のたうつ大蛇は肩や腕、腿にまで描かれていたのだ。背を伝い落ちていく汗のせいで、大蛇はひどく生々しく、まるで蠢いているような錯覚すら覚える。
こんなものを背負った男に抱かれてよがり狂っていたのだと、和彦は横になったまま小さく身震いする。千尋が左腕に、蛇の巻きついた鎖のタトゥーを入れているが、あの蛇が可愛く思えた。
「なんで――」
「うん?」
「なんで、蛇なんだ。龍を選びそうなものなのに……」
「俺の刺青にケチをつけたのは、お前が初めてだぞ」
慎重に体を起こした和彦は、そうではないと首を横に振る。
「ただ、意外な感じがしただけだ」
「意外でもなんでもない。蛇のイメージが、俺の性格を表してると思ったからだ。執念深くて陰湿で――、ただ怖い。龍みたいに威厳なんて必要としていない。静かに獲物に忍び寄って、確実に絞め殺せる度胸と冷静さと狡さのほうが、ヤクザとしては使える」
振り返った賢吾がニヤリと笑いかけてきて、片腕で体を引き寄せられた和彦は濃厚な口づけを受ける。
「いいか、先生。俺から逃げようなんて思うなよ」
うなじを撫でながら囁かれ、本能的な恐怖から和彦は顔を強張らせる。そんな和彦の唇に軽くキスしてから、賢吾は裸のまま寝室を出て行った。
和彦がまたベッドに転がると、ペットボトルの水とタオルを手にした三田村が当然のように寝室にやってきた。
リビングで、和彦と賢吾の行為が終わるのを待っていたのだろう。つまり、和彦の恥知らずな嬌声も、賢吾の命令もすべて聞いていたということだ。
三田村は無表情のまま、汗に濡れ、賢吾の愛撫の跡を全身に散らした和彦の体を見下ろしてくる。
「風邪を引く。早く汗を拭いたほうがいい」
枕元にペットボトルが置かれ、タオルを受け取った和彦だが、だるくて腕を動かすのがひどく億劫だ。大きく息を吐き出して腕を投げ出すと、すかさず三田村にタオルを取り上げられ、首筋を拭われる。和彦はそのまま、すべて三田村に任せて目を閉じる。
無感情な三田村の眼差しが、自分の肌の上を滑っていく様を想像するのは、ひどく淫靡だと思いながら。
指先に唇を割り開かれ、押し込まれる。舌を刺激され、口腔から出し入れされるようになると、和彦も言われたわけではないが賢吾の指を吸い、舌を絡める。賢吾のものをそうして愛撫したように。賢吾の腰の動きが次第に同調し、内奥から逞しいものを出し入れされる。
指ではなく、口づけが欲しいと率直に思った。和彦がおずおずと片手を伸ばすと、口腔から指が引き抜かれ、甘く残酷に囁かれる。
「さあ、どうするんだ? 俺は名前を呼ばれないと、お前の欲しいものはやらないぞ。もうこっちには、お前の欲しいものを咥えさせてやってるんだからな」
そう言って賢吾が腰を揺らし、身を焼くような羞恥に体を熱くしながら和彦は、目の前のヤクザを睨みつける。だが、逆らえなかった。
「――……賢吾、さん……」
「もっと自然に」
張り詰めた欲望でぐっと内奥を抉られ、顔を背けて喘ぎ声をこぼした和彦は、それでもなんとか、賢吾をもう一度睨みつけながら、名を呼んだ。
「賢吾さん」
「甘さが欲しいな」
「……ふざけるなっ」
賢吾にあごを掴まれ、噛み付くような口づけを与えられる。合間に恫喝するように言われた。
「忘れるなよ、先生。俺に抱かれるときは、俺の名前を呼べ」
大きく腰を突き上げられ、和彦の内奥は嬉々として賢吾のものを締め付け、淫らに蠕動する。満足そうに賢吾が息を吐き出し、ゆっくり大きく律動を繰り返す。これ以上の意地を張る気力もなく、和彦は両腕を賢吾の背に回した。
「あっ、あっ、い、い――……」
耳元で賢吾に唆され、素直に乗ってしまう。
「……賢吾さん」
「気持ちいいか、先生?」
「気持ち、いい……」
すぐに賢吾の動きに余裕がなくなり、和彦も奔放に身をしならせて乱れる。この男には何を見られても――、たとえどんな痴態だろうが、そうなっても仕方ないと思えていた。
ここまでの賢吾とのやり取りすべてが、ヤクザなりの調教によるものだろうかと、ちらりと考えてもみるのだが、和彦に答えが出せるはずもない。
息子以上に野性味を漂わせた顔に、汗を滴らせながら笑みを浮かべている賢吾を見ていると、理屈はどうでもよくなってくる。与えられる強烈な快感がすべてだ。
「うっ、ああっ、はっ……、くうぅっ。け、ご……さ、賢吾さん、もうっ――」
和彦の呼びかけに応え、賢吾の大きな手に、反り返って震える和彦自身のものが包み込まれる。
「そうだ、そうやって俺を呼べ。少しずつ、俺のオンナらしく仕込んでやる。俺に飼われることになったお前の義務だ」
一瞬芽生えた反発は、てのひらに包み込まれたものを強く擦り上げられてあえなく消える。
「俺のオンナだと言われることに慣れろ。こうして男のものをつけていても、お前はオンナになったんだ。俺と、千尋のな」
乱暴に腰を突き上げられ、内奥深くに賢吾の熱い精を当然のように注ぎ込まれる。素早く和彦のものも扱かれて、自らの下腹部を精で濡らしていた。
服従を強いられながらの行為は、たまらなく感じて、よかった。
生理的な反応から、涙をこぼしながら息を喘がせる和彦は、肌に這わされる賢吾のてのひらの感触にすら敏感に感じてしまう。
事後の気だるさと、快感の余韻を引きずりながら賢吾と抱き合い、唇を重ね、肌を擦りつけ合う。
「――ベッドは、キングサイズで正解だっただろ?」
薄く笑いながら賢吾に問われ、和彦は刺青の入った肩にそっと唇を押し当ててから答える。
「ここで寝るたびに、悪夢でうなされそうだ……」
「一人寝の夜は、俺を思って悶えてろ」
和彦の唇に軽くキスをしてから、賢吾が隣のリビングにいる三田村に風呂の湯を溜めるよう命令する。それからようやく体を起こしてベッドに腰掛けたのだが、このときになって和彦はようやく、賢吾の背の刺青を見ることができた。
背骨のラインに沿って太い剣が描かれ、その剣に、鎌首をもたげた大蛇がとぐろを巻くようにして絡みついている。背一面どころか、のたうつ大蛇は肩や腕、腿にまで描かれていたのだ。背を伝い落ちていく汗のせいで、大蛇はひどく生々しく、まるで蠢いているような錯覚すら覚える。
こんなものを背負った男に抱かれてよがり狂っていたのだと、和彦は横になったまま小さく身震いする。千尋が左腕に、蛇の巻きついた鎖のタトゥーを入れているが、あの蛇が可愛く思えた。
「なんで――」
「うん?」
「なんで、蛇なんだ。龍を選びそうなものなのに……」
「俺の刺青にケチをつけたのは、お前が初めてだぞ」
慎重に体を起こした和彦は、そうではないと首を横に振る。
「ただ、意外な感じがしただけだ」
「意外でもなんでもない。蛇のイメージが、俺の性格を表してると思ったからだ。執念深くて陰湿で――、ただ怖い。龍みたいに威厳なんて必要としていない。静かに獲物に忍び寄って、確実に絞め殺せる度胸と冷静さと狡さのほうが、ヤクザとしては使える」
振り返った賢吾がニヤリと笑いかけてきて、片腕で体を引き寄せられた和彦は濃厚な口づけを受ける。
「いいか、先生。俺から逃げようなんて思うなよ」
うなじを撫でながら囁かれ、本能的な恐怖から和彦は顔を強張らせる。そんな和彦の唇に軽くキスしてから、賢吾は裸のまま寝室を出て行った。
和彦がまたベッドに転がると、ペットボトルの水とタオルを手にした三田村が当然のように寝室にやってきた。
リビングで、和彦と賢吾の行為が終わるのを待っていたのだろう。つまり、和彦の恥知らずな嬌声も、賢吾の命令もすべて聞いていたということだ。
三田村は無表情のまま、汗に濡れ、賢吾の愛撫の跡を全身に散らした和彦の体を見下ろしてくる。
「風邪を引く。早く汗を拭いたほうがいい」
枕元にペットボトルが置かれ、タオルを受け取った和彦だが、だるくて腕を動かすのがひどく億劫だ。大きく息を吐き出して腕を投げ出すと、すかさず三田村にタオルを取り上げられ、首筋を拭われる。和彦はそのまま、すべて三田村に任せて目を閉じる。
無感情な三田村の眼差しが、自分の肌の上を滑っていく様を想像するのは、ひどく淫靡だと思いながら。
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