12 / 23
誘拐?のはなし
しおりを挟むハルト様と一緒に離れの中を探検する。
「お~、畳がある。寝室はベッドなんだ……あ、温泉っ露天風呂ありますよハルト様!」
すごい、露天風呂ついてる!
「うん、良い雰囲気の良い風呂だな。一緒に入ろうな?」
「いえ……パスで」
「ちゃんと湯着を着るぞ?」
湯着…服着て入るのか。
「それならアリ…?でもどうやって体とか洗うんですか?」
「別室のシャワーで洗った後湯着を着て風呂かな」
「透けたりとかないです?ちょっと湯着どんなのかみたい」
部屋に畳んで置いてあった湯着をチェックしてみたら、水着素材な下着を着て上に甚平みたいの着るみたい。これなら大丈夫そう。
「今日はずっと座っていたから体が固まってないか?俺はマッサージを頼みたい。サクラも侍女を呼ぼうか」
「パンフに書いてる本館内の店のがいいなぁ、蒸し風呂とか入れるみたいですよ。私そっち行きたいです」
「じゃあ俺もそこへ行く。蒸し風呂か、初めてだな」
空きがあるか聞こうと思ったら、今日は貸切だから大丈夫だってハルト様が言うので廊下にいた侍女さんに声だけかけて本館に行く準備をはじめる。
「貸切にしてたんですね、部屋いっぱい余ってそう」
「危ない人間が居ないとは限らないしな、旅館内なら好きに歩ける。よし、行こうか」
本館に繋がる廊下を二人で歩きながら、和風な庭を眺める。
「ここは立派すぎるけど、私の世界大体こんな感じなんですよ。懐かしい」
「明日は温泉街を歩いてみるか?ここより雑多で色々ある」
「行きたいです!わー、絶対懐かしい」
温泉饅頭とか食べたい。思いっきり温泉街なんだろうな。
「懐かしいか。サクラのために世界を渡る術を探すべきなんだろうが探したくない」
「うーん、そんなのあるかもわからないし…指輪が魂を見つけたんですよね?こっちから向こうに繋がる何か思い入れのあるものって何もないし、万が一帰れてもなんか殺人犯に狙われてる可能性もゼロじゃないし」
そんなのあるわけないだろうけど。でも時間軸もめちゃくくちゃっぽいしなぁ。
「パパとママにもう会えないのは悲しいけど、あのまま居たら結局死んで悲しませちゃったわけだしわりと割り切ってます」
「……ごめんサクラ。我儘でごめんなさい」
繋いだ手に力が加えられて、庭からハルト様に視線を移す。
めっちゃシュンとしてる。今にも泣きそう。そんなに悪いことしてるって思うなら、ウソでも帰る方法探してるとか言って誤魔化せばいいのに。
「ここはここで楽しいです、死ななくて良かったな~としか思ってないですよ。ホラ、着いた!はい入ってくださーい、じゃあまた後で!マークスさんもまた」
「ハイハイ、あとでね~サクラちゃん」
中に入ったら先客にマークスさんが居たからハルト様をぐいぐい押して預けて女性更衣室に行った。
「なんで私が慰めるハメになっちゃったんだろ」
店員さんに案内されて蒸し風呂に入って、ボケっと疑問に思ったけどマッサージが気持ち良すぎて途中から寝ちゃった。
終わってから起こされて、浴衣に着替えてから外に出る。ハルト様は上手いことマークスさんが誘導したみたいですっかり元どおり、浴衣が可愛い愛してるとうるさかった。
夕食は部屋食でのんびり食べて、小休憩の後露天風呂へ。
「うあ~すごい、夜の露天風呂圧巻」
お風呂のまわりに庭がある。薄暗くライトアップされてて落ち着く感じ。
ハルト様はもう入ってたから、ちょっと離れて私もお風呂に浸かった。服着てるとはいえ二人で入るのって恥ずかしいな。
「外が寒いから長く浸かれて気持ちいいな」
「そうですねぇ……あ~、ホント気持ちいい」
「近くには来てくれない?」
いくら服着てるとはいえ湯船から出てるとこ肌にピタって張り付いてるしなぁ…ピタピタ服のハルト様見るのも恥ずかしい。これで近くに行って抱きしめられたりキスされたら恥ずか死ぬ。
「絶対くっついたりしないから、手だけ繋ぎたい」
「まぁ、そのくらいなら」
嬉しそうにハルト様が近づいてきて、手を繋ぐ。
頭をお風呂のふちにのせて空を見上げて、お湯が流れる音を聞きながらのんびりする。
夜空が綺麗で、顔に当たる冷たい風が気持ち良くて、恥ずかしいなんて気持ちもなくなってきた。
「マークスに言われた」
結構な時間二人とも無言でいたけど、ハルト様が掠れた声で喋りだした。
「謝るのは狡いって。我儘で呼んで、帰す気が全くないんだからそのまま図々しく偉そうにしとけって」
マッサージの時の話?蒸し返すのか。
「誘拐された張本人に気を使わせるなと」
「まぁ…それはその通りかも」
「サクラに悪いと思うのは本当だけど、それを吐露してはいけなかったな。これももう言わない。間違って駄目なことばかり言ってしまって情けない、精進する」
「ん~、言われて嫌な気分になるわけじゃないけど、反応に困るのは確かです」
見上げたまま目を瞑って、ふぅと息を吐く。
「でも、ハルト様思ったこと全部言うじゃないですか。言って、それ違うよってなったら思ってても言わないじゃなくて、本当にもうそう思わなくなるんだろうなって感じだし」
「そうかな…出来ているかな」
「図々しく偉そうに、探したくないから帰す手段探さないってなるハルト様に想像つきます」
くすくす笑いながら横を向いたら、うるうるハルト様もこっちを見てた。
「結局サクラに慰められてるな。甘やかしたいのに、幸せにしたいのにいつも俺ばかりが貰っている」
「えぇー、逆だと思うけど。でも私ハルト様に甘いみたいです」
「甘いな、有難い。そのまま、大らかで甘いサクラでいて欲しい……愛してるサクラ」
そう言ってハルト様は繋いでいた手を上げ、私の手の裏と表両方長めにキスをして、のぼせそうだから先に出ると言ってお風呂を出て行った。
「誘拐問題はこれでとりあえず解決?」
死ぬとこだったこともあってもともとあんまり気にしてなかったけど、まぁ一件落着てことにしとこう。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる