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異世界温泉旅行

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やってきました異世界旅行当日。

二人で馬車に乗り込んで、後ろから侍女さんとかが乗る馬車がついてくる。横には馬に乗ったマークスさんが。貴族の旅行ってこんなに人がいっぱい必要なんだ、すごい。

「いや、必要最低限だぞ?普通は護衛がマークスの他に一人なんてあり得ない、押し切ったんだ。うじゃうじゃいたらサクラとゆっくり出来ないしな」

「これで少ない方ですか、大変ですね王子様って。そういえば領地はもう決まったんですか?」

「大体決まったな、王都からそう離れていない自然豊かでそこそこ栄えている町もある場所にした。本は入っていないが領主邸に大きな図書室があるから好きなだけ本を買って集めるといい、そこでゆっくり本を読めるように前に行った本屋みたいに小部屋を作っても良いな」

わぁ、それは嬉しい!

「改装をはじめたばかりだから、まだ図書館や小部屋の希望はほとんど通るよ、侍女を呼ばなくても飲み物が飲めるようにミニキッチンを作るのも良いな」

「あ、だったら小さい冷蔵庫とかも欲しいです。冷たいのも飲みたくなるから」

「はは、言い出したのは俺だがそこまでするとサクラの部屋だな。二人で入り浸りそうだ」

最近は本を読む私の横で一緒に本を読んだりお仕事してたりするハルト様にすっかり慣れてしまった。本読んでる時うろちょろされると気が散るから一人派だったんだけど、場の読み方が上手なのかたまに頭撫でられたりするのも全然気にならない。

「ただ俺が王太子を辞してから力を削いだ連中が煩いから、どうにかしてから下れとレオンハルトがな…王太子を押し付けてしまったし少しは力になろうかと。だから実際に領地で暮らせるのはもう少し先になりそうだな。その分念入りに改装出来るが」

「うるさい?」

「煩いな、サクラとさっさと結婚して王太子に戻るべきだと声が大きくなってきた。そんな簡単な話ではないし、これっぽっちも戻る気はないのに」

わぁ、めんどくさそう。

「大変ですね…」

「火元を炙り出して消化すればお終いだ。旅行中に内偵がある程度目星をつけるだろうし俺自身にやることはないよ、ただ鎮火するまで臣籍降下に待ったがかかってるだけ」

「なるほど。じゃあそれまであんまり本増やさないほうが良いです?」

しょっちゅう本屋に行って買い漁ってるからなぁ。

「気にしなくて良い、何百冊でも持っていけるから。真剣に読書しているサクラを眺めるのも幸せだから無理に抑えないで」

「ハルト様は私に甘すぎですねぇ」

「最近はサクラがのんびり幸せそうに過ごしてくれているから嬉しい、毎日がサクラのおかげで充実しているんだ。俺が甘やかす前にもっと甘えて欲しい、愛してるよサクラ」

肩を抱かれて頭にキスが落ちてくる。そのまま抱き寄せられて上を向かされて、口にも何度もキスされた。

「…また舐めたぁ」

「入れてないからセーフ?その顔もかわいい、サクラ」

首を傾げてうるうる幸せそうに笑うハルト様に、突っ込む言葉が出てこない。

何も考えないで過ごしてたら元々あんまりなかったキスへの抵抗が更に落ちてきたんだけど、慣れちゃっていいのかなコレ。


「大歓迎。大体俺を犬だと言ったのはサクラだぞ?犬は口元を舐め回すのが当たり前だ」

「うぅん、その理屈はちょっとおかしい。そういうつもりで犬とか言ったわけじゃ…そもそも犬と子犬じゃニュアンスが違います」

「子犬も舐めるぞ。無理に進める気はないが何ヶ月も軽いキスとハグだけで満足している自制心の塊な忠犬をサクラは褒めてくれてもいい」

王子様が犬を自称してしまった。

「違う…そんな、尻尾振る犬のイメージで使ったわけじゃないんです…子犬発言取り消したい」

クゥーンって鳴いて甘える子犬な感じ?

「どんな意図があろうと今更だな、マークスなんかすっかり犬殿下扱いだ」

「それは申し訳ない……」

「マークスはただの軽口だが、強ち間違いでもない気がするから放置している。犬でも子犬でも何でも良いよ、サクラの傍に居られるなら。一緒に居る時間が重なれば重なる程サクラが俺と共に過ごすことに疑問を感じなくなるだろう、そこからが勝負だ。来世も犬みたいに付き纏う予定だからな」

「そんなご機嫌に宣言されても…」

いいのかなこれ。ちゃんと人間だと思ってるよ?たまーに可愛い子犬なイメージが湧くだけでさ。

「サクラが俺を本当に犬扱いしていたら言わん。不本意だがその子犬らしさにサクラは絆されてくれるみたいだからなるべく利用する」

「それ言っちゃったらダメなやつですね」

口説いてきてるんだかなんだかよくわからない会話をしていたら、馬車が止まって宿泊地に着いた。

雑誌には室内の写真だけだったからなんとなーくの想像だったけど、やっぱり想像どおり日本家屋な感じの豪華なお宿だった。

ハルト様に手を貸してもらって馬車を降りて、侍女さんたちが荷物を運んでいくのを横目で眺めているとマークスさんが近くまでやってきた。

「二人ともおつかれ~。オレ達もうそれぞれの部屋入るから、二人も食事までゆっくりしててね。ハイ、これ部屋の鍵ね。そこに見える離れが二人の部屋だから。そんじゃお先に失礼~」

返事も待たずに去っていかれた。

「二人の部屋?」

「離れだから部屋は複数ある。寝るときはちゃんと別だぞ」

「ああ、そうですよね…びっくりした」

だよねぇ、そんなことハルト様しないもんね。

降りた時掴まれた手はそのまま、いつものように手を繋いで二人で離れに入った。
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