上 下
5 / 23

王子様ちょびっと譲る

しおりを挟む


「ああ、泣かないでサクラ。俺がそんなに嫌?」

「別に嫌じゃないけど、好きなわけでもないもん…」

ハルト様はそっと頬に手を置いて、親指で涙を拭ってくる。イチイチ行動が少女漫画な人だ。

「急かさないから。ゆっくり俺を好きになってくれれば良い。サクラの気持ちが固まるまでちゃんと待つ」

「婚約はやめてくれる?」

「内定は覆せないが、進めはしない。サクラが俺に恋をするまでいくらでも待つ。やっと会えたんだ、今は隣に居るだけで良い」

はじめてハルト様が主張を曲げた。助かった。

「わかった…それでいいよ」

ホッとした瞬間に拭っていた親指を少しずらして、そのまま目の端っこにキスされて涙を舐められた。

「ひぇっ」

「いくらでも待つが、今はサクラがちゃんとここに居ると実感させてくれ。君が戻ってきてくれて本当に嬉しい」

キラキラ笑顔でニッコリ笑うハルト様。

「可愛い、愛してるサクラ」

そのまま抱きこまれて、顔とか頭とかひたすらキスされ続ける。ここまでされると恥じ入る暇もないな。

ちゅっちゅちゅっちゅされて羞恥心は麻痺してきたけど、そろそろやめて欲しい。

顎を押して無理やり離れてもらって、とりあえず一息ついた。

「むぅ…。そうだ、サクラは今いくつなんだ?以前とあまり変わっていないが、流れた時も違うのだろうな」

24時間しか流れてませんよ。

「17歳です。えーっと、ゲームでは15歳だったっけ」

「そうか、かなり若く亡くなる筈だったんだな。サクラの生まれ変わりが年老いてやってくると思っていた」

おばあちゃんな私を呼ぶつもりだったんだ。まあ死ぬ前って言ったら10代は中々ないか。

「ハルト様は…」

「25だ。サクラから見たらそんなに時は経っていないだろうが、一人で過ごしてしまった時間を一緒に取り返して行きたいな。手始めに旅行にでも行かないか」

おぉ、異世界旅行。それはちょっと行ってみたい。

「行きたいです!」

「では早速準備をしよう。そうだ、マークスを覚えているか?今は俺の護衛騎士をしてくれている、折角だからマークスについてもらおう」

「ああ、千花の推しの」

「ちかのおし?」

「えっと、千花は私の友達の名前です。で、推しは…好き?ファン?みたいな。ゲームをやってみたのも千花がマークスが素敵だからやってみろって」

千花、心配してるんだろうな。最後にすごい慌てた声聞こえたもん。でも、千花の推しゲームの世界に来ちゃったって知ったら羨ましがるかもしれない。

「好き…ほう。ゲームブックは何度も出来るな?サクラもマークスとゲームで恋仲になったことがあるのか。それは許容出来ないな」

「や、えっと。そのつもりでやってたんですけど、コレだろって選択肢を選んでたらハルト様のルートに…一回やってすぐやめちゃったし」

「ゲームでも俺だけ?」

「まぁ、そうですね」

「そうか!」

「……ゲームですよ?」

「そのゲームだったはずの世界がここだ、他に同じような世界がないとは言い切れない。全てが俺には現実なんだ、サクラも現実として受け止めて欲しい」

現実として考えたら、その気もないのに王子様落としちゃった悪女になるんだけど。

「私はだだのゲームとしてやってただけだけど、ハルト様は好きな風に振る舞って籠絡した私に恨みとかないんですか」

「無い。俺にサクラを愛する権利をくれた感謝しかない。これからもずっと愛し続けるから、そこは籠絡した責任として受け止めてくれ」

んー、結局そこに行き着くのかぁ…。
平行線の押し問答だよねぇ、どうしたもんかなー。

「サクラが好きだ。これからずっと一緒に居れるのが嬉しい。」

必ず会話に愛の言葉を絡めてくるの勘弁して欲しい。

「私がハルト様を好きにならなかったらどうするんですか?好き好き言われてもムズムズするだけであんまりドキドキとかないんですけど」

「ドキドキしてくれたら嬉しいが、言いたいから言っているだけでそれでサクラに好きになって貰おうとしているわけではないよ。言葉には行動が伴ってこそだろう。何年でも待つ、ああでも今世で惚れてくれたら嬉しいな」

今世死ぬまでこの甘い言葉が延々と聞こえてくるらしい。

「その前にハルト様の目が覚める可能性の方が高いと思いますよ。確かにゲームをしていたのは私だけど、ただ選択肢から選んだだけなんです。ゲームのサクラと違うとこがいーっぱいあるから」

「サクラは世界と三世を跨いだ俺の愛を見縊っているな。…まあそれはこれからの俺を見て信じてもらうしかないか」

もう一度ぎゅうぎゅう抱きしめられて、キスされた。何回も何回も。
この短時間で私の中にあったキスへのハードルがものすごく下がってしまったんだけど、乙女としてどーなのこれ。


「てゆーかそろそろベッドから出たいです。体調悪いわけでもないし」

「本当か?どこにも体に違和感はないか?念のため今日はこのまま休んで欲しい。横の部屋に医者も待機させているから」

王子様心配性。

「心臓発作とかそんな?えー、あるのかな」

「何があるかわからない、サクラの死が何かしらの理由で迫っていたのは間違いない。いつでも対応出来るから、大人しく休んでいてくれ。眠れそうか?」

「……うーん、眠気はあるけどさっきまで寝てたからなぁ…私こっち来てどのくらい経ってるんですか?」

「朝に呼び寄せたから15時間ほどだな、今は23時だ」

そんな長い時間寝てたのか、そしてまだ眠いのか私。

「世界を越えたんだ、身体に負担がかかって当然だ」

「そっか…じゃあまた寝ようかな」

「おやすみ、サクラ。今夜だけは同じ部屋に居させてくれ」


万が一の為だろうしそれくらいいっか。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」  婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。 私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。  けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・ ※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。 ※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。

処理中です...