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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~
正気
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闇の中にルーシュが居た。彼は今、一人でカオスに向き合っていた。それだけでも、今のルーシュの力がわかる。同等か、それ以上か……
突如、カオスがルーシュに闇を飛ばした。吹き飛ばされるルーシュ。だが、その体が落ちる前に元の位置に戻っていた。さらにそれだけではなく、カオスが飛ばした闇さえも逆流し、カオスに吸収された。
「きみたち、邪魔だよ。ぼくの戦いを邪魔しないでくれ」
俺たちに気づいたルーシュが片手を伸ばす。その指先から発生する半透明の球体。彼は軽く手を振り、球体を飛ばす。
「危ない!」
イザナギが俺を覆う。イザナギに当たる球体。球体が当たった部分の服がみるみる朽ちていく。
そうだ。今のルーシュは時の神、クロノス。その能力を含むモノで時間を急速に経過させたのか。あれ? だとしたら、どうしてイザナギは無事なんだ?
「私は神だからね。寿命なんて野暮なものは存在しないんだ。我々が死ぬ時は、我々を知る者が居なくなる時かな」
彼は歯を見せながら笑う。だが、その笑顔は苦悶に歪んでいるのを隠しきれていない。
考えろ──どうしたらこの状況を打開できる? 今まではルーシュや他の神が考え、ルーシュが動き、俺がサポートしてきた。ただ、今回は別だ。俺が自ら動かなければならない。イザナギも無敵ではないし、俺なんてここでは風が吹けば倒れる程度の存在。
結論。彼を倒すのは不可能だ。
古代ギリシャでもそうだったが、そもそも彼に攻撃を当てるのが難しい。そこにカオスの攻撃。仮に当たっても、全て巻き戻されることが証明されてしまった。
「ナ……んだ…………てキふえタ……?」
まずい! カオスに気づかれた! ただでさえ無理難題を押し付けられているのに!
カオスのオーラが強くなる。まるで押しつぶされそうだ。
闇を弾丸のように連続して打ち出すカオス。それらを弾いたイザナギが膝をつく。もう彼も厳しいところに来ているだろう。
続けて闇の弾丸が飛んでくる。死ぬ──
そのときだった。その弾丸を跳ね返すものがあった。ルーシュだ。
右腕を僕らの前方に伸ばし、彼は時間の塊で空間の歪みを弾いた。当のルーシュも不思議そうな顔をしている。
もしかして、ルーシュもとい中野晴としての意識は残っているのではないだろうか。基本的に時間は不可逆。それが神にも適応されるとしたら、時間移動はできてもその体内時間──つまり記憶や経験は消えないのではないだろうか。
もしこの仮説が正しければ、その記憶を呼び出すチャンスは、動揺している今しかない!
イザナギは警戒されているし、大分ダメージを負っているから使えない。他には誰もいない。ならば、俺しかいない!
どう動くのが正解か。少ない選択肢と答えの中で、解答権は一度のみ。一度でも失敗したら、もうチャンスはない。全滅──言葉通り、全世界が滅び行く。
その時。俺の脳裏に、ある漫画のワンシーンが浮かんだ。それは、暴走した友人を助けるために主人公がキスをするものだ。
もっとマトモな方法があるかもしれない。というか、恐らくマトモなものの方が多いだろう。ただ俺はもう、これしか思いつかなかった。
俺はイザナギの背後から飛び出し、ルーシュに向かって一直線に走る。
「ぼくの所に来るな!」
弾丸が連続して飛んでくる。しかし慌てて、狙いも定めずに放たれたそれは僕の服を掠り、劣化させただけだった。
ルーシュの2m前方、俺は姿勢を低くして、飛んだ。彼の腰に決まったタックルは彼の重心を崩し、倒した。ここで油断してはいけない。早く、正確にキメる──
童貞にしては頑張ったと思う。
俺は彼の唇を奪い、目を塞いだ。神経を口に集中させてより強い動揺を呼ぶ。彼は暴れたが、時を戻そうとはしない。もうすぐ、もうす
気づけば、視界が反転していた。殴り飛ばされたと気づき、全身に痛みが広がる。
「バカ! 何やってんだよ!」
真っ赤な顔をしたルーシュが俺に言う。この口調、反応。もしかすると。
「お前の名前はなんだ?」
「は? 何言ってんだよ」
「いいから。答えてくれ」
「……ルーシュ・ユピテル」
やった! 正気を取り戻した! 成功したんだ!
「何があったんだよ。……って、あの人、イザナギさんじゃねえか」
俺は、カオスと闘ったあとの話をルーシュにした。ルーシュの顔色がどんどん青くなる。
「それでキスを……」
口元を抑えるルーシュ。だが、その目に嫌悪している様子はなく、どちらかと言えば感謝しているようだ。
「まあ、ありがとな。おかげで全部思い出した。だから、こんなことも出来る」
ルーシュが両手を広げる。左右それぞれ、五本の指をつなぐような光の線が紡がれ、その線の間を埋めるように光の板が嵌っていく。
「さあ見てろ! これが時の神の能力だ!」
光がいっそう強くなる。一体何か起こるんだ……!
突如、カオスがルーシュに闇を飛ばした。吹き飛ばされるルーシュ。だが、その体が落ちる前に元の位置に戻っていた。さらにそれだけではなく、カオスが飛ばした闇さえも逆流し、カオスに吸収された。
「きみたち、邪魔だよ。ぼくの戦いを邪魔しないでくれ」
俺たちに気づいたルーシュが片手を伸ばす。その指先から発生する半透明の球体。彼は軽く手を振り、球体を飛ばす。
「危ない!」
イザナギが俺を覆う。イザナギに当たる球体。球体が当たった部分の服がみるみる朽ちていく。
そうだ。今のルーシュは時の神、クロノス。その能力を含むモノで時間を急速に経過させたのか。あれ? だとしたら、どうしてイザナギは無事なんだ?
「私は神だからね。寿命なんて野暮なものは存在しないんだ。我々が死ぬ時は、我々を知る者が居なくなる時かな」
彼は歯を見せながら笑う。だが、その笑顔は苦悶に歪んでいるのを隠しきれていない。
考えろ──どうしたらこの状況を打開できる? 今まではルーシュや他の神が考え、ルーシュが動き、俺がサポートしてきた。ただ、今回は別だ。俺が自ら動かなければならない。イザナギも無敵ではないし、俺なんてここでは風が吹けば倒れる程度の存在。
結論。彼を倒すのは不可能だ。
古代ギリシャでもそうだったが、そもそも彼に攻撃を当てるのが難しい。そこにカオスの攻撃。仮に当たっても、全て巻き戻されることが証明されてしまった。
「ナ……んだ…………てキふえタ……?」
まずい! カオスに気づかれた! ただでさえ無理難題を押し付けられているのに!
カオスのオーラが強くなる。まるで押しつぶされそうだ。
闇を弾丸のように連続して打ち出すカオス。それらを弾いたイザナギが膝をつく。もう彼も厳しいところに来ているだろう。
続けて闇の弾丸が飛んでくる。死ぬ──
そのときだった。その弾丸を跳ね返すものがあった。ルーシュだ。
右腕を僕らの前方に伸ばし、彼は時間の塊で空間の歪みを弾いた。当のルーシュも不思議そうな顔をしている。
もしかして、ルーシュもとい中野晴としての意識は残っているのではないだろうか。基本的に時間は不可逆。それが神にも適応されるとしたら、時間移動はできてもその体内時間──つまり記憶や経験は消えないのではないだろうか。
もしこの仮説が正しければ、その記憶を呼び出すチャンスは、動揺している今しかない!
イザナギは警戒されているし、大分ダメージを負っているから使えない。他には誰もいない。ならば、俺しかいない!
どう動くのが正解か。少ない選択肢と答えの中で、解答権は一度のみ。一度でも失敗したら、もうチャンスはない。全滅──言葉通り、全世界が滅び行く。
その時。俺の脳裏に、ある漫画のワンシーンが浮かんだ。それは、暴走した友人を助けるために主人公がキスをするものだ。
もっとマトモな方法があるかもしれない。というか、恐らくマトモなものの方が多いだろう。ただ俺はもう、これしか思いつかなかった。
俺はイザナギの背後から飛び出し、ルーシュに向かって一直線に走る。
「ぼくの所に来るな!」
弾丸が連続して飛んでくる。しかし慌てて、狙いも定めずに放たれたそれは僕の服を掠り、劣化させただけだった。
ルーシュの2m前方、俺は姿勢を低くして、飛んだ。彼の腰に決まったタックルは彼の重心を崩し、倒した。ここで油断してはいけない。早く、正確にキメる──
童貞にしては頑張ったと思う。
俺は彼の唇を奪い、目を塞いだ。神経を口に集中させてより強い動揺を呼ぶ。彼は暴れたが、時を戻そうとはしない。もうすぐ、もうす
気づけば、視界が反転していた。殴り飛ばされたと気づき、全身に痛みが広がる。
「バカ! 何やってんだよ!」
真っ赤な顔をしたルーシュが俺に言う。この口調、反応。もしかすると。
「お前の名前はなんだ?」
「は? 何言ってんだよ」
「いいから。答えてくれ」
「……ルーシュ・ユピテル」
やった! 正気を取り戻した! 成功したんだ!
「何があったんだよ。……って、あの人、イザナギさんじゃねえか」
俺は、カオスと闘ったあとの話をルーシュにした。ルーシュの顔色がどんどん青くなる。
「それでキスを……」
口元を抑えるルーシュ。だが、その目に嫌悪している様子はなく、どちらかと言えば感謝しているようだ。
「まあ、ありがとな。おかげで全部思い出した。だから、こんなことも出来る」
ルーシュが両手を広げる。左右それぞれ、五本の指をつなぐような光の線が紡がれ、その線の間を埋めるように光の板が嵌っていく。
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