Olympus Quest

狩野 理穂

文字の大きさ
上 下
28 / 32
OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~

ルーシュ

しおりを挟む
 大砲の音がうるさい。土煙で視界が遮られる。ミノタウロスが出た? ……ダメだ。脳の情報処理が追い付かない。わかるのは、足元が小刻みに揺れているってことだけだ。

「ヴォオオォオォオ!」

 な、なんだ⁉ なんの音だ⁉
 そう思うと同時に、舞い上がる砂の向こうから何かが猛スピードで近づいてくるのが見えた。あの奇妙でバランスの悪い影は──神話のミノタウロスにそっくりじゃないか!
 雄たけびを上げながら一直線に近づいてくるソレには婉曲した角が付いていて、当たったらひとたまりもないことを示唆している。

「どわっ」

 隣にいたイザナギに突き飛ばされ、間一髪当たらずに済む。スピードを落とさずに走り回るソレは、まさに魔物だた。
 Uターンしてくるミノタウロス。なんで俺たちを狙うんだ!

「危ないよ」

 イザナギの声が聞こえた。誰に言うでもない、ただ呟くだけのような声が。
 ミノタウロスが突進してくる。イザナギはその姿を凝視しながら、その正面に立つ。表現するならば、威風堂々。自らを信じ、成功すると確信しているものの姿がそこにはあった。
 一瞬──すべては一瞬で片が付いた。
 ミノタウロスは体重を勢いに加えながらイザナギにぶつかったが、彼はビクともしなかった。それに対して前に出された、脱力しきった人差し指に当たったミノタウロスは反動となって返ってきた自身の勢いに吹き飛ばされた。ちょうど当たった、圧力の集中した部分が大きく凹む程に。
 視界が開けたとき、奴は死んでいた。
 だが、障害はそれで終わりではなかった。魔獣を一瞬で殺す人物は信用できない。俺も、その意見に反論しようとは思わない。何が言いたいかって? 大砲で撃たれたのだ。
 三基の砲台からランダムに飛んでくる砲丸を片手で捌くイザナギ。俺は素直に守られる。

「これ、どうするんですか! ルーシュ探せませんよ!」
「う~ん……困ったねえ」

 鼻歌交じりのイザナギ。いったい、どんな神経をしているんだ?
 ──と、そのとき。土煙の合間から、見慣れた姿の日本人が見えた。ともに強敵に立ち向かい、闇に飲み込めれてしまった俺の戦友であり、親友だ。
 ふらふらと歩くその姿はまるで亡者のようで、見ているだけで不安になるようだった。
 時間にしたら、三秒ほどだったろうか。彼の姿は、また、土煙に隠されてしまった。

「ルーシュ!」

 手を伸ばしても、届かない。そんなことは分かっていたのに、俺は彼に向かって大きく右手を出した。
 ──バキ
 気づいた時には遅かった。イザナギの守備範囲から外れた俺の腕に、大砲の弾が直撃したのだ。間違いなく骨は折れている。火薬が入ってなかったのが不幸中の幸い。全身が吹き飛ばずに済んだ。
 頭の中が妙に冷え、返って冷静になる。

「ちょっと待ってろ」

 イザナギが言う。次の瞬間には、彼の姿と砲弾の雨は消えていた。
 彼は、何をしたんだ! まさか、攻撃してくる人達を殺したのか? そんなことしたらタイムパラドックスが発生して──

「案ずるな。この時間流において──いや、僕らが作戦を完了したら全て上手くいく。どんな手段をとっても失敗することは無い」
「何を言ってるんだ! 俺は何度も時間移動したから分かるんです。この人たちを殺したら、その子孫が産まれる未来が消滅する!」
「ああ、そうだな。だが、もし此奴等が死なない過去に変わったら?」

 ……本当に、イザナギは何を考えているんだ? この人の性格からして、何も考えてないはずはない。

「時が来たら君にもわかるよ」

 ニコニコしているイザナギ。彼の意図がわからない。ただ、今の俺は彼を信じるしかないんだ。
 ──訂正。やっぱり無理だ!

「きちんと説明してください! じゃないと理解できません!」

 大きくため息をつくイザナギ。一瞬のうちに俺との距離を詰め、人差し指を俺の唇に当てる。眼前十数センチにあるイザナギの顔。ち、近いって!

「僕もつらいんだ。だがこれを君に言ってしまうと未来が、過去が、時間が消滅する。この件を解決するのに必要なピースは、君とルーシュ君だよ」

 ……いまは諦めよう。それよりもルーシュだ!
 しかし、俺が見たところにはすでにルーシュがいなくなっていた。

「間に合わなかったね。ところで、君の腕は大丈夫かい?」

 のほほんとしたイザナギの声。俺は自分の右腕を見る。折れたのは確かだが、どの程度なのだろうか。痛みも他の感情に紛れて感じない。
 いや、違った。痛みを感じないのは、アドレナリンのせいではなかった。腕は、折れていなかったのだ。
 服を捲っても傷一つない。絶対に弾は当たっていた。それは確実だ。なのに、これほどまで奇麗に──

「……可能性の光が視えたね」

 イザナギが呟いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛と禁欲のサーガ・腐食の魔法[第一部・人間界都市編]本格的異世界LOVEバトル・ファンタジー

田丸哲二
ファンタジー
 ユグドラシルの木が枯れ神々の国が滅びた時代。アーズランド島の王国に神族の移民エミー族と妖精が住んでいた。  しかしその異世界にも魔の呪いが発生し、王サーディンが局部から炭黒く腐り死んでしまう。それはSEXをして射精すると性器から腐って死ぬ呪いだった。女王エッダは錬金術師アルダリの助言で、闇の呪いを解きに人間界へ選抜チームを派遣する。  メンバーは人間と勇者の子・ソングと妖精のチーネ、ジェンダ王子、女戦士エリアン、鍵師トーマが選ばれたが、迷路の出入口には地竜が立ち塞がり、人間界都市ではマンダー家の魔女たちが待ち受けていた。  本格的異世界Hファンタジー。精霊界の妖精族と神の移民族、そして人間の少年が魔の腐食の呪いに挑む。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...