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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~
ルーシュ
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大砲の音がうるさい。土煙で視界が遮られる。ミノタウロスが出た? ……ダメだ。脳の情報処理が追い付かない。わかるのは、足元が小刻みに揺れているってことだけだ。
「ヴォオオォオォオ!」
な、なんだ⁉ なんの音だ⁉
そう思うと同時に、舞い上がる砂の向こうから何かが猛スピードで近づいてくるのが見えた。あの奇妙でバランスの悪い影は──神話のミノタウロスにそっくりじゃないか!
雄たけびを上げながら一直線に近づいてくるソレには婉曲した角が付いていて、当たったらひとたまりもないことを示唆している。
「どわっ」
隣にいたイザナギに突き飛ばされ、間一髪当たらずに済む。スピードを落とさずに走り回るソレは、まさに魔物だた。
Uターンしてくるミノタウロス。なんで俺たちを狙うんだ!
「危ないよ」
イザナギの声が聞こえた。誰に言うでもない、ただ呟くだけのような声が。
ミノタウロスが突進してくる。イザナギはその姿を凝視しながら、その正面に立つ。表現するならば、威風堂々。自らを信じ、成功すると確信しているものの姿がそこにはあった。
一瞬──すべては一瞬で片が付いた。
ミノタウロスは体重を勢いに加えながらイザナギにぶつかったが、彼はビクともしなかった。それに対して前に出された、脱力しきった人差し指に当たったミノタウロスは反動となって返ってきた自身の勢いに吹き飛ばされた。ちょうど当たった、圧力の集中した部分が大きく凹む程に。
視界が開けたとき、奴は死んでいた。
だが、障害はそれで終わりではなかった。魔獣を一瞬で殺す人物は信用できない。俺も、その意見に反論しようとは思わない。何が言いたいかって? 大砲で撃たれたのだ。
三基の砲台からランダムに飛んでくる砲丸を片手で捌くイザナギ。俺は素直に守られる。
「これ、どうするんですか! ルーシュ探せませんよ!」
「う~ん……困ったねえ」
鼻歌交じりのイザナギ。いったい、どんな神経をしているんだ?
──と、そのとき。土煙の合間から、見慣れた姿の日本人が見えた。ともに強敵に立ち向かい、闇に飲み込めれてしまった俺の戦友であり、親友だ。
ふらふらと歩くその姿はまるで亡者のようで、見ているだけで不安になるようだった。
時間にしたら、三秒ほどだったろうか。彼の姿は、また、土煙に隠されてしまった。
「ルーシュ!」
手を伸ばしても、届かない。そんなことは分かっていたのに、俺は彼に向かって大きく右手を出した。
──バキ
気づいた時には遅かった。イザナギの守備範囲から外れた俺の腕に、大砲の弾が直撃したのだ。間違いなく骨は折れている。火薬が入ってなかったのが不幸中の幸い。全身が吹き飛ばずに済んだ。
頭の中が妙に冷え、返って冷静になる。
「ちょっと待ってろ」
イザナギが言う。次の瞬間には、彼の姿と砲弾の雨は消えていた。
彼は、何をしたんだ! まさか、攻撃してくる人達を殺したのか? そんなことしたらタイムパラドックスが発生して──
「案ずるな。この時間流において──いや、僕らが作戦を完了したら全て上手くいく。どんな手段をとっても失敗することは無い」
「何を言ってるんだ! 俺は何度も時間移動したから分かるんです。この人たちを殺したら、その子孫が産まれる未来が消滅する!」
「ああ、そうだな。だが、もし此奴等が死なない過去に変わったら?」
……本当に、イザナギは何を考えているんだ? この人の性格からして、何も考えてないはずはない。
「時が来たら君にもわかるよ」
ニコニコしているイザナギ。彼の意図がわからない。ただ、今の俺は彼を信じるしかないんだ。
──訂正。やっぱり無理だ!
「きちんと説明してください! じゃないと理解できません!」
大きくため息をつくイザナギ。一瞬のうちに俺との距離を詰め、人差し指を俺の唇に当てる。眼前十数センチにあるイザナギの顔。ち、近いって!
「僕もつらいんだ。だがこれを君に言ってしまうと未来が、過去が、時間が消滅する。この件を解決するのに必要なピースは、君とルーシュ君だよ」
……いまは諦めよう。それよりもルーシュだ!
しかし、俺が見たところにはすでにルーシュがいなくなっていた。
「間に合わなかったね。ところで、君の腕は大丈夫かい?」
のほほんとしたイザナギの声。俺は自分の右腕を見る。折れたのは確かだが、どの程度なのだろうか。痛みも他の感情に紛れて感じない。
いや、違った。痛みを感じないのは、アドレナリンのせいではなかった。腕は、折れていなかったのだ。
服を捲っても傷一つない。絶対に弾は当たっていた。それは確実だ。なのに、これほどまで奇麗に──
「……可能性の光が視えたね」
イザナギが呟いた。
「ヴォオオォオォオ!」
な、なんだ⁉ なんの音だ⁉
そう思うと同時に、舞い上がる砂の向こうから何かが猛スピードで近づいてくるのが見えた。あの奇妙でバランスの悪い影は──神話のミノタウロスにそっくりじゃないか!
雄たけびを上げながら一直線に近づいてくるソレには婉曲した角が付いていて、当たったらひとたまりもないことを示唆している。
「どわっ」
隣にいたイザナギに突き飛ばされ、間一髪当たらずに済む。スピードを落とさずに走り回るソレは、まさに魔物だた。
Uターンしてくるミノタウロス。なんで俺たちを狙うんだ!
「危ないよ」
イザナギの声が聞こえた。誰に言うでもない、ただ呟くだけのような声が。
ミノタウロスが突進してくる。イザナギはその姿を凝視しながら、その正面に立つ。表現するならば、威風堂々。自らを信じ、成功すると確信しているものの姿がそこにはあった。
一瞬──すべては一瞬で片が付いた。
ミノタウロスは体重を勢いに加えながらイザナギにぶつかったが、彼はビクともしなかった。それに対して前に出された、脱力しきった人差し指に当たったミノタウロスは反動となって返ってきた自身の勢いに吹き飛ばされた。ちょうど当たった、圧力の集中した部分が大きく凹む程に。
視界が開けたとき、奴は死んでいた。
だが、障害はそれで終わりではなかった。魔獣を一瞬で殺す人物は信用できない。俺も、その意見に反論しようとは思わない。何が言いたいかって? 大砲で撃たれたのだ。
三基の砲台からランダムに飛んでくる砲丸を片手で捌くイザナギ。俺は素直に守られる。
「これ、どうするんですか! ルーシュ探せませんよ!」
「う~ん……困ったねえ」
鼻歌交じりのイザナギ。いったい、どんな神経をしているんだ?
──と、そのとき。土煙の合間から、見慣れた姿の日本人が見えた。ともに強敵に立ち向かい、闇に飲み込めれてしまった俺の戦友であり、親友だ。
ふらふらと歩くその姿はまるで亡者のようで、見ているだけで不安になるようだった。
時間にしたら、三秒ほどだったろうか。彼の姿は、また、土煙に隠されてしまった。
「ルーシュ!」
手を伸ばしても、届かない。そんなことは分かっていたのに、俺は彼に向かって大きく右手を出した。
──バキ
気づいた時には遅かった。イザナギの守備範囲から外れた俺の腕に、大砲の弾が直撃したのだ。間違いなく骨は折れている。火薬が入ってなかったのが不幸中の幸い。全身が吹き飛ばずに済んだ。
頭の中が妙に冷え、返って冷静になる。
「ちょっと待ってろ」
イザナギが言う。次の瞬間には、彼の姿と砲弾の雨は消えていた。
彼は、何をしたんだ! まさか、攻撃してくる人達を殺したのか? そんなことしたらタイムパラドックスが発生して──
「案ずるな。この時間流において──いや、僕らが作戦を完了したら全て上手くいく。どんな手段をとっても失敗することは無い」
「何を言ってるんだ! 俺は何度も時間移動したから分かるんです。この人たちを殺したら、その子孫が産まれる未来が消滅する!」
「ああ、そうだな。だが、もし此奴等が死なない過去に変わったら?」
……本当に、イザナギは何を考えているんだ? この人の性格からして、何も考えてないはずはない。
「時が来たら君にもわかるよ」
ニコニコしているイザナギ。彼の意図がわからない。ただ、今の俺は彼を信じるしかないんだ。
──訂正。やっぱり無理だ!
「きちんと説明してください! じゃないと理解できません!」
大きくため息をつくイザナギ。一瞬のうちに俺との距離を詰め、人差し指を俺の唇に当てる。眼前十数センチにあるイザナギの顔。ち、近いって!
「僕もつらいんだ。だがこれを君に言ってしまうと未来が、過去が、時間が消滅する。この件を解決するのに必要なピースは、君とルーシュ君だよ」
……いまは諦めよう。それよりもルーシュだ!
しかし、俺が見たところにはすでにルーシュがいなくなっていた。
「間に合わなかったね。ところで、君の腕は大丈夫かい?」
のほほんとしたイザナギの声。俺は自分の右腕を見る。折れたのは確かだが、どの程度なのだろうか。痛みも他の感情に紛れて感じない。
いや、違った。痛みを感じないのは、アドレナリンのせいではなかった。腕は、折れていなかったのだ。
服を捲っても傷一つない。絶対に弾は当たっていた。それは確実だ。なのに、これほどまで奇麗に──
「……可能性の光が視えたね」
イザナギが呟いた。
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