Olympus Quest

狩野 理穂

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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~

決断

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 あれは、小学校高学年の頃だったろうか。当時の俺は妙に冷めた人間だった。
 口癖は「無駄」「やっても意味無い」。どうせいつかは死ぬんだから何をしたって変わらないだろ、とキメ顔で言っていたものだ。ニヒルな自分に酔いしれていたんだろう。
 最初に本心でどう思っていたかは忘れた。だが、他人にそう言ってるうちに、いつの間にか自分でもそう思い始めていた。自己暗示がかかったんだろう。


 事件はそんな時に起きた。
 まず最初に話しておくべきことがある。俺には友達がいなかった。別にいじめられていた訳じゃない。ただ友達と言える存在が消えただけだ。
 それもそうだろう。遊んでいても、そのグループの中に楽しんでいない奴がいれば興ざめしてしまう。
 結果、友達は俺から去っていった。


 だが、そんな独り身の俺でも関わらざるを得ない事が起きた。皆も体感したことがあるだろう。初恋だ。
 相手は可憐なクラスメイト。完全に一目惚れだった。いままで特に何にも興味を持たなかった俺の全身の細胞に電撃が走るかのような衝撃を感じた。
 だが、その恋はとても難しいものだった。
 ニヒリズムに陶酔していた俺が自分を変えることは容易ではなかったのだ。いや、もしかすると変えられたのかもしれない。だが皮肉なことに当時の俺は自己催眠に陥っていた。「たった一人の女のために、周りのバカ共と同レベルになるのか?」と──
 もちろん、年相応の考えを持った自分もいた。ただ、それ故に全く逆の考えを持った二人の自分に板挟みになっていた。デフォルメ化された天使と悪魔が欲しいところだ。
 そんな苦悩に頭を抱えていた時、彼女が俺に話しかけてきた。

「立原響くん──だよね? 具合悪そうだけど、大丈夫?」
「……あ? うっせえよ」

 無意識のうちにそんな言葉が出ていた。本当は「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」と返すべきだったのに。結果、彼女は泣き出して教室から出て行ってしまい、そこにいるすべての人の冷たい目線が俺に向けられることとなった。
 それまでの俺に対する認識は「変なこと言ってる変なヤツ」程度だっただろう。だが、これをきっかけに「最低なクズ」になってしまった。幸いなことに彼女が俺を弁護してくれたからいじめられることはなかったが、クラス内で俺の存在は無いものになっていた。


 時は経ち、卒業式の朝。
 あれから俺は、授業中以外に誰とも話していなかった。ただ、最終日だけは──そう思いながら、低学年の時に仲の良かった男子に声をかけた。

「あの……」
「ああ? お前かよ。女子を泣かしておいて、よく来れたな」

 彼は、それだけ言い放ってどこかへ行ってしまった。ほかにも何人かに声をかけたが、鼻で嗤われ、侮蔑の目を向けられ、気づかないふりまでされた。暴力こそないものの、俺はいじめられていた。


 粛々と式が終わり、帰り道。俺はいつも通り一人で通学路を歩いていた。
 そんなとき、俺が片思いをして泣かせてしまった彼女の後姿が見えた。
 直感的に謝ろうと思い、駆け足で彼女に近づく。だが、声をかけようとした途端、朝の光景が蘇った。
 もしかしたら、この子も冷たい目線を向けてくるのでは……いや、俺の被害者だ。そうに違いない。──そう思うと、恐怖で体が動かず、声を出せなかった。
 結局、告白はおろか謝罪すらもできなかった。なにがニヒルだ。なにが「短い一生」だ。その数十年が自分のすべてじゃないか。自分が死んだあとには何も残らないじゃないか。俺は、つまらないプライドで人を傷つけて、この先何十年にあったかもしれない幸福な未来を捨てて──何をしていたんだ!
 俺は、下らないプライドの塊だった俺に、為す術なく負けたんだ……



 今となっては恋心こそ無いものの、あの時の教訓は残っている。できることをやらなければ後悔する──ただそれだけだ。
 今、カオスと戦わない選択肢ももちろんある。だが、それを選択して世界の破滅を待つなんて、俺には耐えられない。その事実を知っているから、尚更だ。
 かといって、戦ったらどうなるだろうか。相手は暴走している神。それに対して俺はただの人間。一分でも保てば優秀じゃないだろうか。
 戦わずに破滅を待つ、戦って戦没する。どちらにしても死ぬことに変わりはない。しかも、万が一にも勝つことができたら、俺たちは英雄だ。ヘラクレスみたいに有名じゃなくてもいい。戦いがあったことすら知られず、ひっそりと夕暮れの街に佇むヒーローなんて、かっこいいじゃないか。

「ルーシュ、イザナミさん──」

 俺は決めた。絶対に後悔しない道を進むために。

「俺も行きます。カオスのところへ、飛ばしてください」
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