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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~
散歩
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雲一つない青空の下、ルーシュと並んで歩く。
「そういえば、お前はルーシュだけど、中野の意識もあるんだよな?」
「あるにはあるけど、今はルーシュの方が強いかな」
こんな他愛もない話をしながらどこへ向かっているのか。そんな質問をする人もいるだろう。だが、俺はその質問に答えられない。なぜなら、あの白い猫を追いかけているだけだからだ。
これは、ルーシュの案だ。彼によると「一度神に係わった者は何かある」らしい。
「うにゃっ」
突然、猫が視界から消えた。
いなくなった場所まで走ると、そこは交差点。どうやら死角に入っただけのようだ。
案の定、そこには猫を抱いた着物の女性。服装以外は普通なのに、どこか凄いオーラを放っている。隣を見ると、ルーシュさえも目を丸くしている。
しかし、その女性は平然とルーシュに声をかけた。
「お久しぶりです、ルーシュさん」
「イザナミ……ですよね? 確か東京タワーに縛られていたはず……」
「東京タワー? ……ああ、分かりました。あなたがニュクスとガイアを倒してくれたおかげで、歴史が変動したんですね」
「そうでしたか。何はともあれ、ご無事で何よりです」
これを読んでいる読者諸君。もし手元にカメラがあるのなら、今の俺の顔を撮っておくといいだろう。なにせ、俺の人生の中で一番マヌケな顔をしているのだから。
ただ、一つだけ言わせてくれ。新たな人格が芽生えた友達と女神が親しげに話していたら、誰だってこうなるに決まっている。
俺は、恐る恐る声をかけてみることにした。
「あの……少々、大丈夫でしょうか……」
「ああ、響のことを忘れてたよ。この方はイザナミ。天地創造の神だ」
「イザナミです。今後ともよろしゅう」
ついていけないのは、俺の頭が悪いせいじゃないよな?
「いや、それは何となくわかるんですが、本当ですか?」
「本当だよ。どうせなら死んでみるかい?」
「私の同伴があれば、生き返ることもできますよ」
着物の袂から短刀を出すイザナミ。その目は本気だ。
人間でここまでの眼光をもった人はいない。いたとしても、すぐに逮捕されるだろう。
俺は確信した。この人は、神だ。
「ところで、イザナミはこんなとこで何してるんですか?」
ルーシュがイザナミに訊いた。確かに、神もそこまで暇じゃないだろう。
それなのにこんな所にいる理由は──
「カオスの気配があったんです」
カオス──今では、異常な状況をそう言い表すけど、ギリシャ神話では原初の神様なんだっけ。確か、空間を司っていたはずだ。
そうだよなと、ルーシュに確認しようと思い、彼を見ると青い顔をしている。
「まさか、種が──」
種? なんのことだろう。彼がいた時代に起きた事件に関係があるのだろうか。
「まさにその通りです……」
目を伏せるイザナミ。まるで、辛い事実から目を背けるかのように。
「簡単に言うと、狂気の神がオリンポス転覆を謀ったときに撒いた『種』が芽を出したんだ」
狂気、種、芽……もし王道のパターンならば、大変なことなんじゃないか?
その神が園芸好きなことを望んでいた俺の希望は、イザナミの一言に打ち砕かれた。
「彼の暴走を止める為に私とイザナギで日本に遺る残骸や気配を集めているのですが、やはりオリンポス十二神が居ないと、ヨーロッパの手が足りませんね」
確定だ。神が撒いた種は、決してトマトやキュウリなんかじゃない。狂気の種なんだ。
しかも、ルーシュの話だとオリンポス十二神は引退済み。イザナミの言葉から察するに、神様には部署が存在して、ヨーロッパはオリンポス十二神が担当をしているのだろう。
「他の神はどうしているんですか? ヨーロッパにも多いはずですが……」
「ガイア、ニュクスは当時の貴方に倒されて以来、復活の兆しはありません。へーメラはいますが、夜間は動けないので……」
うん、詰みだ。圧倒的に不利。勝てるわけがない。
──待てよ、もしこの状態が均衡状態または優勢ならば、援軍は必要ないはずだ。それなのに手が足りないってことは、少なからず劣勢であるということ。ならば、制限時間が存在する……
「ちなみに、どのくらいの時間が残されているんですか」
「あと数時間でしょう。それを超えると、カオスの暴走で空間が弾けます」
「…………!」
予想以上だ。明らかに時間が足りない。
だが、もう乗り掛かった船だ。後に引くわけには行かないし、自分も無関係ではない。
さて、どうしたものか──
「倒そうぜ」
唐突に、ルーシュがそう発言した。
「何言ってんだ! 無理に決まってるだろ!」
「確かに無謀だとは思う。でも最初から決めつけて、終了を待つのか?」
「…………」
「俺は、何もせずにコールド負けなんてお断りだ」
そのまま俺に背を向けて、イザナミに跪くルーシュ。カオスのところに飛ばしてもらうのだろう。
俺はどうすれば──
「そういえば、お前はルーシュだけど、中野の意識もあるんだよな?」
「あるにはあるけど、今はルーシュの方が強いかな」
こんな他愛もない話をしながらどこへ向かっているのか。そんな質問をする人もいるだろう。だが、俺はその質問に答えられない。なぜなら、あの白い猫を追いかけているだけだからだ。
これは、ルーシュの案だ。彼によると「一度神に係わった者は何かある」らしい。
「うにゃっ」
突然、猫が視界から消えた。
いなくなった場所まで走ると、そこは交差点。どうやら死角に入っただけのようだ。
案の定、そこには猫を抱いた着物の女性。服装以外は普通なのに、どこか凄いオーラを放っている。隣を見ると、ルーシュさえも目を丸くしている。
しかし、その女性は平然とルーシュに声をかけた。
「お久しぶりです、ルーシュさん」
「イザナミ……ですよね? 確か東京タワーに縛られていたはず……」
「東京タワー? ……ああ、分かりました。あなたがニュクスとガイアを倒してくれたおかげで、歴史が変動したんですね」
「そうでしたか。何はともあれ、ご無事で何よりです」
これを読んでいる読者諸君。もし手元にカメラがあるのなら、今の俺の顔を撮っておくといいだろう。なにせ、俺の人生の中で一番マヌケな顔をしているのだから。
ただ、一つだけ言わせてくれ。新たな人格が芽生えた友達と女神が親しげに話していたら、誰だってこうなるに決まっている。
俺は、恐る恐る声をかけてみることにした。
「あの……少々、大丈夫でしょうか……」
「ああ、響のことを忘れてたよ。この方はイザナミ。天地創造の神だ」
「イザナミです。今後ともよろしゅう」
ついていけないのは、俺の頭が悪いせいじゃないよな?
「いや、それは何となくわかるんですが、本当ですか?」
「本当だよ。どうせなら死んでみるかい?」
「私の同伴があれば、生き返ることもできますよ」
着物の袂から短刀を出すイザナミ。その目は本気だ。
人間でここまでの眼光をもった人はいない。いたとしても、すぐに逮捕されるだろう。
俺は確信した。この人は、神だ。
「ところで、イザナミはこんなとこで何してるんですか?」
ルーシュがイザナミに訊いた。確かに、神もそこまで暇じゃないだろう。
それなのにこんな所にいる理由は──
「カオスの気配があったんです」
カオス──今では、異常な状況をそう言い表すけど、ギリシャ神話では原初の神様なんだっけ。確か、空間を司っていたはずだ。
そうだよなと、ルーシュに確認しようと思い、彼を見ると青い顔をしている。
「まさか、種が──」
種? なんのことだろう。彼がいた時代に起きた事件に関係があるのだろうか。
「まさにその通りです……」
目を伏せるイザナミ。まるで、辛い事実から目を背けるかのように。
「簡単に言うと、狂気の神がオリンポス転覆を謀ったときに撒いた『種』が芽を出したんだ」
狂気、種、芽……もし王道のパターンならば、大変なことなんじゃないか?
その神が園芸好きなことを望んでいた俺の希望は、イザナミの一言に打ち砕かれた。
「彼の暴走を止める為に私とイザナギで日本に遺る残骸や気配を集めているのですが、やはりオリンポス十二神が居ないと、ヨーロッパの手が足りませんね」
確定だ。神が撒いた種は、決してトマトやキュウリなんかじゃない。狂気の種なんだ。
しかも、ルーシュの話だとオリンポス十二神は引退済み。イザナミの言葉から察するに、神様には部署が存在して、ヨーロッパはオリンポス十二神が担当をしているのだろう。
「他の神はどうしているんですか? ヨーロッパにも多いはずですが……」
「ガイア、ニュクスは当時の貴方に倒されて以来、復活の兆しはありません。へーメラはいますが、夜間は動けないので……」
うん、詰みだ。圧倒的に不利。勝てるわけがない。
──待てよ、もしこの状態が均衡状態または優勢ならば、援軍は必要ないはずだ。それなのに手が足りないってことは、少なからず劣勢であるということ。ならば、制限時間が存在する……
「ちなみに、どのくらいの時間が残されているんですか」
「あと数時間でしょう。それを超えると、カオスの暴走で空間が弾けます」
「…………!」
予想以上だ。明らかに時間が足りない。
だが、もう乗り掛かった船だ。後に引くわけには行かないし、自分も無関係ではない。
さて、どうしたものか──
「倒そうぜ」
唐突に、ルーシュがそう発言した。
「何言ってんだ! 無理に決まってるだろ!」
「確かに無謀だとは思う。でも最初から決めつけて、終了を待つのか?」
「…………」
「俺は、何もせずにコールド負けなんてお断りだ」
そのまま俺に背を向けて、イザナミに跪くルーシュ。カオスのところに飛ばしてもらうのだろう。
俺はどうすれば──
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