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エピローグ 翔side
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「翔!!翔・・・、気づいたのか?」
薄らと目を開ける。
白い部屋だ・・・。病室?
ああ、あの時見たままなんだ。
モニターの音が耳にはいる。
帰ってきたんだ。
もう一度目を閉じた。
帰ってこれた。
大きく息を吸った。
ツッ…胸に痛みが走った。
ああ、怪我してるんだな。
「翔!わかるか?!翔」
煩いな。耳元でそう叫ぶな。
声のする方を向いた。
なんとか顔を動かすすことができた。
ギギギってロボットのようだけど・・・。
目を再び開けた。
目の前に父さんの顔があった。
悔しいけどよく似ている。
でもやつれたな。
ちゃんと飯食べてんか?
いつも見慣れていた顔だ。
しかし俺にとっては久しぶりに見た顔。
いつのまにこんなにおじさんになっていたんだ?
肌の艶が以前に比べてなくなっている。
髪だってハリがない。
頬が少し窪んでほっそりしている。
もともと線の細い人だったがさらに細っそりしている。
俺たちが爆発に巻き込まれてこんな状態になってからこの世界では時間が経っていないはずなのに目の前で涙ぐみながら覗きこむ父さんの顔は知らない内に年相応になっていた。
まあ、40歳か。
俺もそのくらいになったらこんなふうになんのか?
なんて考えながら
かろうじて顔を縦に動かした。
「よかった。心配したんだぞ。」
父さんは俺のベッドに付いているナースコールを慌てて押した。
少ししたら看護婦と医者が来た。
俺はまだ体が他人みたいで動かせなかったからじっと上を見ていた。
父さんがペコペコ頭を下げていた。
ようやく酸素吸入器が外されて乾いた口を動かした。
「美月さんは?」
父さんは首を横に振った。
「美月さんは内蔵とか損傷しているみたいで
意識もほとんどなくて脈も弱い。もう持たないかもしれない・・・。」
ギュッと手を握った。
自分の手の中にあの感触があった。
「だ、だいじょうぶだよ、父さん。
…美月さんはちゃんと連れて帰ってきたよ。」
「は?」
打身でギシギシ言う手を動かして何とか父さんの目の前で広げた。
黄色の石が輝く指輪。
聖なる木の下で握りしめがらこの世界に戻るように祈った。
気が付くと水の中にいた。周りにはいろいろな世界が見えた。
そのたくさんの世界の中でここを見つけた。
たまに波みたいなもの、渦みたいなものに巻き込まれそうになったが
俺は無事にその世界に触れることができた。
ずっと握ってはなさなったこの指輪・・・。
美月さんの意識はちゃんとこの石の中にある。
ほら光が強くなった。
嬉しそうだ。
何たって大好きな父さんに会えたんだからな。
でもあっちの世界で過ごした5年間の記憶もあるのか?
起きたら混乱するかな?
「は、はやく…渡して…。」
「何でお前が持っているんだ。」
いろいろあったんだよ。
五年間王子様やってました。
紫の髪をして魔法使って薬屋みたいなことをしてた。
美月さんは銀色の髪の綺麗な公爵令嬢で王太子の婚約者だった。
なーんて言っても信じてくれないよな。
「は…はははっ、な、長い…夢を、見てた…かな?」
「はぁ?」
俺も変わったな。
何だかロマンチストになったかな?
少し笑えた。
「か…かのじょ…は…このなか…」
笑おうと思ったが、顔が傷だらけらしくうまく笑えない。
父さんは俺の差し出した指輪を取り
ガタンと椅子から立ち上がり俺に背を向けた。
俺はずっとベッドで顔を横にしてみていた。
父さんの背中が動く隙間から美月さんの青白い横顔が少しみえた。
何やら暖かいものを感じた。
少しそのまま見ていた。
ああ、ほら美月さんが戻っていく。
先ほどまで透き通るように白かった顔に赤みが戻ってくる。
俺は天井を見上げた。
目を閉じて父さんが掠れた声で美月さんの名前を何度も呼ぶの聞いていた。
美月さん、戻ってきたよ。
戻ってこれたんだ。
ひとまずゆっくりお休み。
起きたら何から話そうか。
ラティディアのこと?エディシスフォードのこと?
ジェイのこと?カーラのこと?
君は覚えてるのかな?
君は見ていたんだろう?
ラティディアが幸せになるのを見届けたよね?
とにかく早く元気にならなきゃね。
こんなところでいつまでも寝ていられない。
美月さんをあの世界から取り戻してきたんだ。
俺はかんばったんだからちゃんとご褒美ちょうだいね。
小さく高い、か細い声が聞こえる。
「しょ…う…」
お帰り、美月さん。
薄らと目を開ける。
白い部屋だ・・・。病室?
ああ、あの時見たままなんだ。
モニターの音が耳にはいる。
帰ってきたんだ。
もう一度目を閉じた。
帰ってこれた。
大きく息を吸った。
ツッ…胸に痛みが走った。
ああ、怪我してるんだな。
「翔!わかるか?!翔」
煩いな。耳元でそう叫ぶな。
声のする方を向いた。
なんとか顔を動かすすことができた。
ギギギってロボットのようだけど・・・。
目を再び開けた。
目の前に父さんの顔があった。
悔しいけどよく似ている。
でもやつれたな。
ちゃんと飯食べてんか?
いつも見慣れていた顔だ。
しかし俺にとっては久しぶりに見た顔。
いつのまにこんなにおじさんになっていたんだ?
肌の艶が以前に比べてなくなっている。
髪だってハリがない。
頬が少し窪んでほっそりしている。
もともと線の細い人だったがさらに細っそりしている。
俺たちが爆発に巻き込まれてこんな状態になってからこの世界では時間が経っていないはずなのに目の前で涙ぐみながら覗きこむ父さんの顔は知らない内に年相応になっていた。
まあ、40歳か。
俺もそのくらいになったらこんなふうになんのか?
なんて考えながら
かろうじて顔を縦に動かした。
「よかった。心配したんだぞ。」
父さんは俺のベッドに付いているナースコールを慌てて押した。
少ししたら看護婦と医者が来た。
俺はまだ体が他人みたいで動かせなかったからじっと上を見ていた。
父さんがペコペコ頭を下げていた。
ようやく酸素吸入器が外されて乾いた口を動かした。
「美月さんは?」
父さんは首を横に振った。
「美月さんは内蔵とか損傷しているみたいで
意識もほとんどなくて脈も弱い。もう持たないかもしれない・・・。」
ギュッと手を握った。
自分の手の中にあの感触があった。
「だ、だいじょうぶだよ、父さん。
…美月さんはちゃんと連れて帰ってきたよ。」
「は?」
打身でギシギシ言う手を動かして何とか父さんの目の前で広げた。
黄色の石が輝く指輪。
聖なる木の下で握りしめがらこの世界に戻るように祈った。
気が付くと水の中にいた。周りにはいろいろな世界が見えた。
そのたくさんの世界の中でここを見つけた。
たまに波みたいなもの、渦みたいなものに巻き込まれそうになったが
俺は無事にその世界に触れることができた。
ずっと握ってはなさなったこの指輪・・・。
美月さんの意識はちゃんとこの石の中にある。
ほら光が強くなった。
嬉しそうだ。
何たって大好きな父さんに会えたんだからな。
でもあっちの世界で過ごした5年間の記憶もあるのか?
起きたら混乱するかな?
「は、はやく…渡して…。」
「何でお前が持っているんだ。」
いろいろあったんだよ。
五年間王子様やってました。
紫の髪をして魔法使って薬屋みたいなことをしてた。
美月さんは銀色の髪の綺麗な公爵令嬢で王太子の婚約者だった。
なーんて言っても信じてくれないよな。
「は…はははっ、な、長い…夢を、見てた…かな?」
「はぁ?」
俺も変わったな。
何だかロマンチストになったかな?
少し笑えた。
「か…かのじょ…は…このなか…」
笑おうと思ったが、顔が傷だらけらしくうまく笑えない。
父さんは俺の差し出した指輪を取り
ガタンと椅子から立ち上がり俺に背を向けた。
俺はずっとベッドで顔を横にしてみていた。
父さんの背中が動く隙間から美月さんの青白い横顔が少しみえた。
何やら暖かいものを感じた。
少しそのまま見ていた。
ああ、ほら美月さんが戻っていく。
先ほどまで透き通るように白かった顔に赤みが戻ってくる。
俺は天井を見上げた。
目を閉じて父さんが掠れた声で美月さんの名前を何度も呼ぶの聞いていた。
美月さん、戻ってきたよ。
戻ってこれたんだ。
ひとまずゆっくりお休み。
起きたら何から話そうか。
ラティディアのこと?エディシスフォードのこと?
ジェイのこと?カーラのこと?
君は覚えてるのかな?
君は見ていたんだろう?
ラティディアが幸せになるのを見届けたよね?
とにかく早く元気にならなきゃね。
こんなところでいつまでも寝ていられない。
美月さんをあの世界から取り戻してきたんだ。
俺はかんばったんだからちゃんとご褒美ちょうだいね。
小さく高い、か細い声が聞こえる。
「しょ…う…」
お帰り、美月さん。
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