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第15話-1 溺愛王子は元悪役令嬢を囲います。

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何とか無事に襲撃犯の処理も終わった。
詳しい事情聴取はこの地の騎士団に任せてきた。

昨日行けなかった修道院の予定を無理矢理押し込めたから三日目もバタバタと大変だった。
何とかお昼過ぎには視察の全予定を終了させてようやく王都に戻る。
ジェイデンに頼まれていた薬草もギリギリで手に入れた。
約束は守らなければいけないです!とか言ってラティアがかなり心配していたからな。

目の前でラティアがこくりこくりとしている。
初めてで気を張っていたのだろう。疲れたな。
私はラティアの隣に座り直し、彼女の頭を軽く自分の方に押し付けた。
すると彼女は寝ながらもふふふっと楽しそうに笑った。

何かを食べる夢でも見ているのか?

ふとそう思う自分が残念に思う。

『エディシス様、好きです。』
今朝、うつらうつらとしている中、ラティアの言葉が聞こえたような気がする。

隣で安心して寝ている彼女の顔を覗いた。
「あれは夢なのか?」

この頃の彼女は自惚れかもしれないが私に少しは好意を持ってくれていると思う。

あの夜、彼女は側にいたいと言ってくれた。
しかし彼女から私を好きだとか愛してるなんて甘い愛の言葉を聞いた事はない。

彼女は私をどう思っているのだろう。

私の側にいたいのは婚約者だから?
今までの罪悪感から?
私が仕事ができないから仕方なく?

少しでも彼女が私の事を好きだと思ってくれていると嬉しい。

あの言葉が夢ではなく真実なら…
私は…。

そんな事を考えながら彼女の頭に自分の頭をコツンとぶつけた。

愛しい、ラティア。早く心まで私にくれないか。

馬車が止まった。
どうやら帰ってきたらしい。
私も寝てしまっていた。

「ラティア、ついたよ。お疲れ。」
目を擦りながらラティアが頭をあげた。
「ん…」
「ほら、大丈夫?降りるよ。」
「は、はい。」
慌ててラティアが髪の毛を整えた。
大丈夫、涎の後は無いよ。

馬車の扉が開いた。

すると
「兄上!」
ジェイデンが馬車の扉の前に走り込んできた。
息を切らしている。
「ジェイデン?・・・そんなに私に会いたかったのか?」
「そんな冗談言ってる場合じゃないんだよ!俺も・・はあ・・今聞いたばかりで・・・!!」

ハーデスが馬から降りて側に来た。
「ジェイデン殿下、お出迎えありがとうございます。そんなに慌ててどうなさいました?お兄様にお会いしたかったのですか?」
「・・・ハーデス…。お前もな…はぁ…。」

ジェイデンは呆れていた。

「ジェイデン様。ただ今戻りました。
薬草はちゃんと手に入れてきましたよ。ちゃんと持ち帰ってくるか心配でしたか?」
「…ラティ…。君も…。」

追い討ちをかけられたジェイデンは頭をうなだれて大きなため息をついた。

しかし、バッと顔を上げた。
「違う!大変なんだ。兄上とラティの婚約が破棄されるんだよ!」
「は?なぜ??」

何だって?なぜ?
宰相が何か手を回した?

「とにかく早く父上のところへ!!」

ジェイデンの言葉に我に返った。

「エディシス様…」
「ラティア!手を!」
私はラティアを馬車からおろして手を引いて父上の執務室に向かった。

「父上!あ、いえ陛下!」
「エディシスフォードか。」
「ただいま視察から戻りました。」
息を整えて国王陛下に礼をとった。
ラティアは肩で息をしながら頭を下げていた。

父上の隣に宰相がいた。
凄い視線で睨まれた。
何だ?何があった?

「ご苦労だったな。」
「父上!今ジェイデンから聞きました!どういうことですか!」
「何だ?もう聞いたのか?」
「私とラティディア嬢との婚約が破棄されるというのは本当ですか?」
「どうもこうもお前が望んだことじゃないのか?」
「私はそんなこと何も言っていません!」

父上は私に書類を見せた。
「それは・・・。」
父上の手には3枚の書類があった。
一枚はダリアを公爵の養女にする書類、
もう一枚はストラヴィー公爵へ婚約破棄を嘆願する書類。
そしてダリアとの婚約をする為の書類。
三つの書類にはもう私の印が押されている。
「ちょっと待ってください!その書類は私の机の中に・・・!それに私の印はまだ押していないはずです!」

思わずラティアの顔を見て首を振った。
違う!私はそんなこと望んでいない!
そんな気持ちをラティアに投げつけていた。

「いろいろ噂をきていたがお前はそうなることを望んでいるとあったが違うのか?」
「私はそんなことを望んではいません!」
「そうなのか?じゃあこの書類はなんだ?」
「それは…」
「この前はそんな風には言ってなかったな。どちらが本当なんだ。」
「私はラティディア嬢と結婚したいんです。」
「ラティディア嬢はどうなんだ?
事故の前に私はお前の気持ちを確かめたかったんだよ。」

ああ、あの爆発の日に彼女が呼び出されたのはこの件だったのか。

父上がラティアの方をじっと見ていた。
ちょっと待て!ラティアの気持ちなんて聞いたらダメだ。
まだラティアは私に気持ちが向いていないはずだ。

私はラティアとつないでいる手に力を入れた。
ラティアは一度私の手を握り返してくれた。

私はラティアの方をみた。
彼女は私の方を見て微笑んだ。
そして私の手を離して一歩前に出た。

「国王陛下、御前にて発言することをお許しください。」
「よかろう。」
「お心遣い、ありがとうございます。陛下のお考え通り、確かにエディシスフォード殿下と私はお互いに婚約を望んていない時期がございました。」
「ラティア!!」
何を言い出すんだ。それじゃあ父上が婚約破棄を認めてしまうじゃないか!
私は一歩前にでた。
しかし父上、宰相、ラティアの視線を受けて足を止めた。

「では、ラティディア嬢もこの婚約の解消には同意しているということか。」
ラティアは私の方をもう一度見た。
何も言うなという強い視線を私に向けて頷いた。

私はラティアの言葉を待つしか無くなった。

「ほお」
父上は何か頷いていた。

「いいえ。同意はしておりません。」
「ラティア…!」

私はホッとした。
婚約破棄を望むと言い出さないか心配だったがひとまずよかった。
ラティアが言葉を続ける。

「全ては私のせいでございます。
私が浅はかな嫉妬をしたため、殿下の気持ちが私から離れてしまいました。私が至らなかった為起きてしまったことです。」
「ラティア・・・」

宰相は腕を組んでうんうんと頷いている。

「しかしエディシスフォード殿下はそんな私を許してくれるとおっしゃいました。その寛大さ、優しさに感謝しました。私はその恩に報いろうと思いました。
今回の視察に同行させていただき、その思いが強くなりました。
ラティディア=ストラヴィーはエディシスフォード殿下の隣で殿下を支えとなり盾となり癒しとなり、一緒に歩いていきたいを思います。
もし陛下が私がその器でないと感じたのならいつでもその書類を通してください。
陛下や殿下のお心を惑わせてしまったこと深くお詫びを申し上げます。しかしどうか私にもう一度チャンスをください。いましばらく見守っていただくようお願いいたします。」
「父上!私からもお願いいたします。」
私はラティアの隣まで足を進めた。
二人して頭を下げた。

予想を良い方向に裏切られた私の心臓はドキドキしていた。

「ラティディア嬢、ようわかった。一つだけ聞いてもいいか?」
「はい、何なりと」
「今の話だけだとそなたは恩だけでエディシスフォードと一緒にいたいのか?」
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