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第3話-3 婚約破棄しましょう。

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お父様が部屋から出て行ったあとエディシスフォード殿下は私の座っていたソファーの向かいに座った。
私の膝に座っていたミィがようやく私から降りて殿下の方に行った。
殿下はミィを抱き上げて膝にのせて頭をぐりぐりなでた。
あら優しい顔をしている。
あなたこそそんな顔ができたのね。

「ラティディア、ひとまず君は私の婚約者だ。わかるか?申し訳ないが記憶の事は黙っていてもらえるかな?いいね。」
「あ、はい。あまり状況は把握できませんが記憶のことは誰にもいいません。ですのできちんとフォローしていただきたいです。」
「仕方ない。しばらくはあまり人と会わないようにした方がいいだろう。
王族が住む第一区域に君の部屋を移そう。そうすればあまり使用人とか王宮に出入りする人とはあわないだろう。まあとにかく頭をうっているのは確かだ、明日には記憶がもどるかもしれない。
今日はゆっくりしていってくれ。」

ひとまずとぬかしやがった。あらやだやだ口の悪い言葉だわ。
公爵令嬢に似合わないわね。
しかしこの裏表ができる話し方は5年間で身に付いたのか?
記憶はないけどどうも体は覚えているようだ。
だったら勉強とかも大丈夫か?

「申し訳ありません。ありがとうございます。」
一応かわいらしく健気な少女を演じてみる。
まだ状況が把握できてない今、下手に刺激してはいけません。

殿下の顔をじっと見るが初めに見たような嫌悪感は今はない。
まあ記憶喪失ということ、それが第二王子のせいだということを考えると
少しは状況を考えていただけたようですね。
まあよかったです。

「あの・・・やはり婚約解消を考えていただけないでしょうか?
なんだかそんな大きな責任のある立場は私にはできません・・・。」
「私はしないと先ほども言ったはずだ。」
「申し訳ありません・・・。」
「不安になるのは分かるが少し落ち着いて考えるといい。
ああ、夕食はいっしょに取ろう。」

そう言い残すとエディシスフォード殿下は仕事があるからと言って部屋から出ていった。
ようやく一人でのんびりとできる。
しかし金色で装飾された壁、家具は金の縁取り、置時計まで金。
落ち着かない。
ひとまず窓を開けてみよう。
私は立ち上がり窓を開けた。

私の目の前には枯れ木と殺風景な景色だ。
この部屋なんなんだ。お客様用としてはお粗末な風景だ。
ヒューっと冷たい風が部屋に入ってくる。

私は窓辺に寄り掛かった。
目の前の空はどんよりとしている。

私はひとまずそんな風景が自分の今の気分にちょうどいいかと思った。
頭を動かすとまだ少しずきずきする。
体も同じだ。
これは現実なのだ。
私は5年分の記憶を無くした。

私は11歳からいきなり16歳になっていた。
スタイル良く綺麗になっているのは5年間の私が頑張ったからだ。その努力には感謝しよう。

しかし5年間の私、何をした!
悪役令嬢とか婚約破棄したがっていたとか…
とにかく私がエディシスフォード殿下の婚約者だというのは政略的なものだろう。
私達の間に愛情があったとは全く思えない。

この少しの間で私に与えられた情報をもとに私の頭で考られるのはこうだ。

私とエディシスフォード殿下の婚約は政略的なもの。
しかしエディシス殿下には恋愛感情は一切ない。
エディシスフォード殿下にはダリアという恋人がいる。
私はダリアを嫉妬し苛めをする悪役令嬢。
そんな私に嫌気がさしてエディシスフォード殿下は婚約破棄をしようと思っている。
そして新たにダリアを婚約者にしようとしている。
まあ、こんなところじゃないんですか?
安易すぎますかね?

でも今の考えだと私が殿下を好きでなくては成り立たない。
ダリアという恋人に嫉妬するんでしょう?
嫉妬って好きだからするんだよね?
ちょっと待て!私は王太子殿下が好きだったのか?

考えてみると私の初恋はエディシスフォード殿下だ。
初めて殿下と会った8歳のあの日、私は彼に恋をしていた。
しかしなかなか会う機会もなく次に会ったのが学園の入学式だった。
新しい教科書を職員室まで取りに行った時にすれ違った。その時声をかけられた。
「ラティア」と私を呼んだ。
あの時の笑顔はとてもステキで私の中で燻っていた初恋がまたよみがえってきた。
それから1週間後、私は街に買い物にいって爆発事故にあった。
爆風に吹き飛ばされたのは覚えている。
そして気が付いたら、そのキラキラ笑顔の人が目の前で嫌そうな顔をして立っていた。
私の好きだったさわやか笑顔のエディシスフォード殿下とはほど遠かった。

しかし、いくら初恋でも好きだったとしても
あれだけ嫌な顔をされて婚約破棄だって考えられているこの状態で
あなたが好きですなんて言ってられるか!

とにかく私としては婚約は破棄したいと思います。
後光が差すほどの美形で、何より初恋ですから少しはもったいないのですが
ダリアという恋人がいて私はお払い箱のようです。
何よりずっとあんな顔されたら幸せには絶対になれないです。
全力でご遠慮させて頂きたいです。
中身は11歳ですのでお子様には無理です。

私は窓を閉めた。
しかしこの部屋、煌びやかすぎる!
さっきの服といい、何この部屋は!

少しベッドに座って考える。
ベッドはスプリングが効いていて跳ね返り具合が心地よかった。
確か王太子の婚約者には王宮に部屋が与えられるはず。
じゃあここは婚約者として与えられた私の部屋なのかしら?
だって服は私のサイズに合いそうだった。
悪役令嬢だった5年間の私にはピッタリじゃない。

私は再び立ち上がり本棚の前に立った。
なぜか懐かしかった。そこから難しそうな本を1冊適当に出した。
本をめくってびっくりした。
確かに表紙は難しそうな政治の本だ。しかしそれは表紙だけだった。
本自体はかわいいおとぎ話だった。
わざわざおとぎ話の本の上にカバーをしていた。

5年間の私は悪役令嬢を演じていた?そんな考えが浮かんだ。
何で?何のために・・・。

次に机の引き出しを開けた。
一番上の引き出しにはキラキラした宝飾品があった。
二番目は高そうな文房具品。
三段目は・・・1冊の手帳が入っていた。

私はそれを取り出し表紙を見た。
何も飾り気のない茶色の革の表紙。
私は表紙に手を置いた。確かにこれを私は見ていた記憶がある。
その本は何も書かれていなかった。
ただ1枚押し花のしおりが挟まれている。
赤と紫のアネモネ。綺麗だわ。
なんだろう・・・。
泣けてきた。
胸が痛い。
私は胸に手を当てた。するとチャリンとペンダントの鎖から音がした。
私はぎゅっと強くそのペンダントを握りしめながら止まらない涙を流していた。

ペンダントにはレモンイエローの石がはめられている。
しかしどちらかというと白っぽくくすんでいる。
少し光にかざすとのきらりと光る。
なぜかこれを握っていると落ち着く。
守ってくれているようだ。

私はこれからどう生きていけばいいの?
記憶は戻るの?
戻らなければどうなるの?

赤のアネモネ・・・あなたを愛している・・・。
紫のアネモネ・・・あなたを信じて待つ・・・。

私には好きな人がいた?そうなの?
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