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第3話-2 婚約破棄しましょう。

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「そんな顔できたんだ。」
ジェイデン殿下が部屋を出ていった後エディシスフォード殿下がそう言いながらこっちを向いた。
そして私に近寄ってくる。

「ジェイデン殿下は気さくな方ですね。ふふふ」
「ラティディア、君の婚約者は私だ。」

…何か怒ってますか?
やっぱりあなたをそっちのけでジェイデン殿下と盛り上がっていたことが嫌でしたか?
しかしなんで婚約者だってまた念押しているんですか?

「ですから申し訳ありませんが私は覚えていないです。
記憶喪失なのでできれば婚約を解消していただけると助かります。」

「だからさっきも言ったように今日の今日でできるわけがない。」
「今日の今日じゃなければいいんですか?」
「は?」

眉間にしわ寄っていますね・・。
もうそんなに嫌そうな顔しなくていいでしょう!
もうこの人嫌だ。

「何でジェイデンだと笑って、私だとそんな嫌そうな顔をする。」

そんな嫌そうな感情が顔に出ていたのか…
出ていましたね。だって先にしたのはあなたです。

人の心は鏡なんです!
自分が嫌な顔をすれば相手だって同じ顔をするに決まっています。
そんな基本中の基本、誰かに教えてもらわなかったんですか?

今だって私をかなり嫌そうな顔で見ているように見えますが…。

「ひとまずもう少し話がしたい。体調は大丈夫か?」

あ、ようやく私の心配を口にしてくれましたね。
まだ顔は怖いですが。

「はい。大丈夫です。」

嫌だと言いたいですが、残念ながら相手は王太子殿下です。
むやみに嫌とは言えないのが無性に腹立たしいです。

同じ王子でもジェイデン殿下とは大違いです。

「あ、着替えるといい。何か食べ物でも持ってこさせよう。」
そういえば私の服はネグリジェ…ですね。
バッと毛布にくるまった。
やだやだ、人様の前で寝着を!

「爆発の勢いで君の服はボロボロだったみたいだ。
そこに君の着替えはある。私は少し仕事を片付けてくる。
すぐに戻るよ。」

扉の前にはいつの間にか使用人が二人頭を下げていた。
エディシスフォード殿下が出て行くと二人は服を選べとばかりにクローゼットを開けた。

うっ…眩しい…眩しすぎる…
何なの?いやいや。

そこにはどちらかというと原色に近い色、キラキラとした宝石?が散りばめられたドレスや
胸がかなり開いたかなりセクシー路線のものだらけだ。
「あの…」
使用人の方に話しかけた。
「どれをお召しになるのですか?
王太子殿下がお戻りになる前にお着替えをすませたいので早く決めてください。」

あ、使用人にも嫌われていそう…。私この5年間の間に何したのよ!

「もう少し簡素な…」
「簡素?」
「ああ、あまりキラキラ…ヒラヒラ…胸とか露出がないものはないですか?」
「は?つまりここにあるものは気に入らないとおっしゃっるのですね。」
「はあ…そういうことになりますね。」
二人は少しこそこそと話しをしていた。
「少々お待ちを。」

バタンと使用人が出て行った。

「何?みんな気に入らないってどういうこと!」
「本当嫌な女ね。」
「あー何であんな女の世話をしなくちゃならないの。」
「面倒だわ。」
「殿下の恋人の子爵令嬢をいじめているみたいよ。」
「やだやだ」

…聞こえてます。
多分聞こえてるように言ってますね。
やはりエディシスフォード殿下には子爵令嬢の恋人がいらっしゃるんですね。
先ほどのダリア様という方でしょうね。
しかし婚約者がいるのに恋人がいる殿下のことは突っ込まないんだ。

30分ほど経ったでしょうか?
ドアが叩かれて開いたかと思うと先程の使用人と一緒に
三人ほど両手にたくさんの服を持った人が入ってきた。

「お待たせしました。この中で、お気に召すものはあるでしょうか?」
いろいろなタイプのものがある。
奇抜な赤もあれば落ち着いた草色もある。

私は薄いピンクと水色の簡素なワンピースを手にした。
「この二つのどちらかがいいわ。」
と、言うとその二着と最初にいた使用人二人を残して去っていった。

結局薄いピンクになった。一応水色のものはクローゼットに掛けられた。

「アクセサリーはいかがしますか?」
「いらないです。あまり好きじゃないので。」
「は?はい?」
「あのこれは?」
さっきの三日月の形をしたペンダントだ。
何だろう?お気に入りなのかしら?
まあひとまずつけて置こう。
何だか外してはいけないような気がした。
「ああ、これは大事なものなの。ずっとつけていたいから
よければそのままにしていておいて欲しいです。」

「髪は下ろしたままでいいです。」
「はい?」
「化粧も必要ないと思います。口紅だけは少しピンクをください。」
「えっ!?」
いちいち驚かなくてもいいです。

着替え終わるとタイミングよくエディシスフォード殿下が入ってきた。
着替え終わるの待っていてくれたんだ。
あ、それともわざわざ着替えるために仕事だといって席を外してくれたのかな。
あらちょっとだけ評価を上げてあげよう。ちょっと!ほんの少しだけです。

しかし入ってくるなりドアの前で固まっていた。
驚くならまだしも固まるってどういうこと。
前言撤回!評価は地まで落とします。
もう床を突き破って地面の下にでも落ちてください。
なんか服のチョイス変でした?

「ラティアディア? は?」

3分経過しました。
・・・固まりすぎです。そろそろ動きましょうか?

もういいです!固まっていてください。

私は使用人に感謝を述べた。
「ありがとうございました。助かりました。
申し訳ありませんが今日一日ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。」
私は深々と頭を下げた。
「ひぃ!」
何か怖いものを見るように使用人は声を上げた。
私は幽霊かお化けか!

ツカツカと殿下が私に近寄って来た。
ようやく呪縛が解けましたか。
やはり先程言っていたように私は魔女なんですかね。

「ラティディア、少し驚いたよ。」
「おかしいのでしょうか?」
「いや、似合うよ。予想外だな。まあ、お茶でも飲もうか。」

あら?褒められた。

紅茶とクッキーを出された。
熱そうなのでフッーと一息吹きかけてから口をつけた。
「熱っ…苦っ…」
「えっ?」

また私はラティディアらしくない行動をしたようだ。
エディシスフォード殿下は気品あふれる仕草で何も入れずに紅茶を飲んでいた。
まあやはりここは王族、さすがだわ。
私も真似してみましょうか?って・・・
苦いし熱い。

「苦いか?」
「はい、できればミルクと砂糖を頂きたいです。」

殿下が手を挙げて使用人に合図をするとすっと私の前にミルクの入ったピッチャーと角砂糖が出て来た。
私は一粒角砂糖を入れてゆっくりミルクを注ぎスプーンで混ぜ合わせた。
綺麗な蜂蜜色に滑らかに白いものが円を描いて交ざっていく。
そんな様子をみながらこの紅茶がきっと最高級で
本当はミルクなど入れないで味わった方がいいのではないかと思ったが
苦いものは苦いのだ。一口飲んでみた。

「あ、甘い。暖かい。ふふふ。」
ミルクの滑らかさと、甘さがほどよいくらいに合わさって美味しかった。
思わず笑顔になった。
お子様すぎた?しかし中身は11歳なんですから見逃してください。
チラリと殿下の顔を見た。
ふっと笑った。さっきまでの嫌そうな顔が一瞬和らいだ。

私はクッキーを一枚とり、大きな口を開けてバリっと四分の一くらいかじった。

・・・しまった・・・。
令嬢たるもの人前で大きな口を開けてはいけない。
殿下の方をチラリとみて手元でパリッと小さく割った。

エディシスフォード殿下はしばらく目を丸くして見ていた。
そして大きく笑いだした。
「かわらないね。そこは。いいよ。そんな気にして食べていたらおいしく感じないだろう。
ここには私しかいないからね。」

「ありがとうございます・・・。」
かわらない?前にもこうしたことがあったのかしら?

「ほら、口元にクッキーとカスがついているよ。」
エディシスフォード殿下が私の口元にスッと手を伸ばした。
私はバッと体を後ろに引いた。

途中で気づいたのかエディシスフォード殿下は手を止めた。
「あ・・・。」

私はやはりパリッと手で割ってかたクッキーを食べた。

「明日服屋を呼んであるから好きなものを数枚選ぶといい。」
「あ、いえ。2枚頂きましたので充分です。」
「まあ、そんなこと言わないで今回の詫びだと思ってくれ。」
「見るだけなら…」
「いつからそんなに謙虚になったんだ。」

これが普通ではないでしょうか?
ん、今スラーと大事なことをスルーした!
明日って言ったよね?

「あの私は明日家に帰るんですよね?
もしくは家に戻り、また来ればいいのでしょうか?」
「ああ、君は頭を打っているから心配でね。やはり当分ここにいるといい。」
「はっ?はい??」

驚かす方ばかりだったが今度は驚かされた。

「君が記憶喪失ということはあまり世間的に知られるとよくない。
申し訳ないがしばらく王宮にいてくれるとありがたい。今家に帰ってもわからないことだらけだろう。幸い私とジェイデンは状況が分かっている。少しゆっくりすればいいよ。
私といれば記憶も戻るかもしれないし。」
「あ、いえ。でも・・・。」

それにこの王子と一緒にいても記憶が戻ることなんてなさそうだ。
ストレスばかり溜まっていきそうだ。
中身11歳なのにストレス性で胃炎とかになったらどうするのよ。

確かに家に帰っても私としても面倒だ。
また説明しなければならない。さらにこの5年間のこの世界の事さえもチンプンカンプンだ。
少し王宮にお世話になった方が賢明かもしれない。

と、言うことで心配して仕事を終えた後に急いでやってきたお父様の前で殿下が考えてくれた台本通りにしてみた。
やはりお父様も5年分歳をとってた。
お父様は今は国の宰相をしている。えらくなりましたね。
娘として嬉しいですよ。少しひげを生やしてなんだかそれっぽい。
しかし泣き上戸なのは変わりませんね。
かなり泣かれました。

「少しまだ頭が痛くて、たまに眩暈もします。
今回はジェイデン殿下も申し訳なく思っているようですし、エディシスフォード殿下も心配しており、是非とおっしゃるので少しの間王宮にいようと思います。」

棒読みになった。

「宰相、大丈夫だよ。医者は常駐しているから何かあったらすぐに対応できる。
頭を打っているから心配なんだよ。」
「しかし・・殿下。あなたは娘とは・・・」
「私もラティディアも了承している。何か問題でもあるか?」
「あ、いえ。娘をよろしくお願いします。」

納得したというか何も言わせてもらえなかったという感じだ。
この第一王子、結構俺様オーラあります。
さすが王太子殿下です。
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