上 下
111 / 120

幕間 番外編 カールのつぶやき その2

しおりを挟む
「はっ?」

ルースが青い瞳を大きくした。
「兄様?何故こいつがいるの?」

ザイン公爵家に挨拶に来たのは水色の髪に赤い瞳の19歳になったアイザック=リンデトレスだった。

「ご無沙汰しています。」

明らかにルースより礼儀正しい。

「アイザックにはキルナスの森を含むキルナス地方を任すことになった。」
「はっ?」

ルースは隣で嫌そうにアイザックを睨んでいる。まああんなことがあったんだ仕方ないとは思う。

「あら?あなたは?」
階段をシャーリーが降りてきた。
20歳になったシャーリーは一段と綺麗になった。一児の母とは言えないくらいの輝きだ。

「こんにちは。シャーロレット様。」
「五年前より背が高くなったのね。
やだ、すっかりかっこよくなって。」
「シャーリー!こんなやつ褒めなくていいよ。リリィは?」
「あ、今寝てるわ。さっきムーと遊んでたから疲れたみたいね。」

「で、ルース。お前にお願いがあるんだ。」
「はっ?」

ルースはいつの間にかシャーリーを後ろから抱きしめていた。
シャーリーは顔を赤くして恥ずかしがる。
いつまでも変わらない二人だ。

「ああ、もうそのままでいいから聞いてくれる。
先日からキルナスの森でシルバーサが何か不穏な動きをしているらしい。動くかもしれない。
しばらくアイザックと共に動いてくれないか。」
「こいつと組めって言うの?」
「申し訳ないがこれは父上が決めたことだ。お前に断ることは出来ない。」
「…わかりました。でも…」
「お前の言いたいことはわかってる。
だからシャーリーとしばらく海辺の別荘に行ってくれないか。」

ルースはシャーリーと離れなくないと言うに決まってるから先手を打ってみた。

まだ、納得のいかない顔をしている。
もう20歳になったんだから少しは大人になるんだな。
いい機会だよ。

次の週の半ば、私はルースに呼ばれた。
どうもシルバーサが仕掛けてきたらしい。

「兄様!夜に申し訳ありません。」
「仕方ないよ。ああ、アイザックも一緒か。」
「シルバーサが森から魔物を集めてラウンドローグの街に向かいました。」
ラウンドローグとはキルナス地方の一番南側。海と接する港町だ。
航路を確保する為か。

私達はキルナスの森から少し離れたラウンドローグに繋がる道に立った。

前から魔物の群れがやってきた。

「ムー行けるか?」
ルースはムーをもとの白虎の姿に戻した。
いつ見てもシャーリーと戯れている白猫とは思えないな。

私も召喚獣を呼び出した。
ちなみにあれから朱雀を手に入れていた。
まあ、ザイン公爵家は婿養子の父上を除いて嫡男に朱雀が付いてくれる。

そしてなにより驚いたのが

「アイザック=リンデトレスが命ずる。
青龍オーガよ、我と共に戦え。」

「青龍…!」

何てこった。
四神の三体も揃いやがった。

青い魔法を使うリンデトレスには当然の事なのだろう。

「アイザック、お前は右だ。」
ルースが叫ぶ。
「左は頼んだ。」
アイザックも叫ぶ。
二人が両方向に別れる。

赤と青の光が飛び始めた。
二人とも凄まじい速さで攻撃をする。

目の前の魔物が次から次へと倒れていく。
「どこかに魔物を操っているやつがいるな。」
私は二人の息の合った攻撃に見入っている場合ではなかった。
早く探さないといけない。

「ルース!右から来るぞ。」
「大丈夫だ。このくらいは。」
「いや、上からもくる。」

右に赤と青の光が飛び交う。

じゃあ魔物を操っているのは左!
私は二人の間から魔物を操っている者を探した。
木の上か!
私が赤い光を放った。光が木に届く前に
ガサガサと音がした。
逃したか!
「ムー!」
「オーガ!」
二人が一斉に召喚獣に指示をした。
二人の方を見ると大きなサラマンダーが大群で襲ってきていた。

ルースが風を起こす。
赤い風が竜巻となりサラマンダーを巻き込む。
アイザックが青い稲妻を落とす。
バタバタサラマンダーは落ちていった。

なんやかんや言って息ぴったりだな。

私は手を前にかざした。
負けてはいられないな。
一発!二発!!
動きが早い…。
飛び上がった?上か!
三発。


魔物は全滅させた。
ひとまず街を襲う事はない。
しかし、
「女?」
魔物を操っていたのは長い緑色の髪の少女だった。
「ハイエルフか…?」
「しかしまだ幼くないか?よくあんだけの魔物を操っていたな。」
「君はなんでこんな事をしたんだ。」
「待て。」
アイザックが少女に近づいた。
首に手を当てて目を閉じた。

カシャンと彼女の首にはめられていた鎖が外れた。

「これは?爆破装置か?」
「脅されていたのか?」

彼女は泣き出した。
「ごめんなさい…悪いとは分かっていたのですが…怖くて…」
アイザックが彼女の頭に優しく手をおいた。
「大丈夫。俺も同じようなことをしてしまったから。君が悪いと思っているなら大丈夫だ。」

何だかみんな大人になっていくな。

ルースがアイザックの肩に手を乗せた。
「お疲れ様。」
「お前もな。」

仲良いじゃないか。

私は少女に一緒に来てくれるようにお願いした。彼女は頷いた。

何とか今回も無事任務終了だな。

で、二週間後ようやく落ち着いてザイン家に戻ってきたルースの前にアイザックが現れた。

「はっ?何だ?」
ルースが大きな声をあげた。
シャーリーが手を合わせて喜んでいる。
なんだ?何かあったか?

「だから結婚するんだ。」
「はぁ?」

隣にはあの少女がいた。
「先日は失礼しました。
この度アイザック様と結婚することになりましたリーフィアです。よろしくお願いします。」
「幾つだよ。」
「幼く見えるけど19歳だって。」
「で、なんで?」
「一目惚れ。」
「はっ?はーっ?」

いやいやルース、お前や私も人のことは言えないだろう。

「あら、アイザック様おめでとうございます。リーフィア様もよかったですね。」
「シャーリーありがとう。」

「はっ?シャーリーって呼んだ!お前までシャーリーって呼ぶな!」

「もう減るもんじゃないからいいじゃないか。」
「減るんだよ!!」

何だかこの頃さわがしいな。
まあ楽しくてなりよりだ。

「シャーリー…みんなそう呼ぶのはなんか嫌だな」
「いいじゃない。誰が呼ぼうと愛してるってつけて言えるのはルースだけなんだから。」

さすがシャーリー。
ルースの操縦方法が上手になってるね。
やだやだみんな本当に大人になっていくね。
まあ、一人は出遅れているか。

「それもそうだ。」
「愛してる、ルース。」
青い目が細くなって優しい人を見つめる目にかわる。
「愛してるよ、シャーリー。」

まあ、こういうところだけ大人びていく。
仕方のない奴だ。

人目を気にしずにルースはシャーリーにキスをする。
まあ私もラリサに同じことをするから何も言えないか。
アイザックも幸せになれそうだ。

まあ私も幸せだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー
恋愛
 それは舞踏会の最中の出来事。アルメリアは婚約者であるムスカリ王太子殿下に突然婚約破棄を言い渡される。  やはりこうなってしまった、そう思いながらアルメリアはムスカリを見つめた。  時を遡り、アルメリアが六つの頃の話。  避暑先の近所で遊んでいる孤児たちと友達になったアルメリアは、彼らが人身売買に巻き込まれていることを知り一念発起する。  そして自分があまりにも無知だったと気づき、まずは手始めに国のことを勉強した。その中で前世の記憶を取り戻し、乙女ゲームの世界に転生していて自分が断罪される悪役令嬢だと気づく。  断罪を避けるために前世での知識を生かし自身の領地を整備し事業を起こしていく中で、アルメリアは国の中枢へ関わって行くことになる。そうして気がつけば巨大な陰謀へ巻き込まれていくのだった。  そんなアルメリアをゲーム内の攻略対象者は溺愛し、更には隣国の皇帝に出会うこととなり……  行方不明になった友人を探し、自身の断罪を避けるため転生悪役令嬢は教会の腐敗を正して行く。そんな悪役令嬢の転生・恋愛物語。

第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。 「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」 ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。 ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。 ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。 「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」 闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...