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その35 晴れの日にて ルース視点

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新年を祝う鐘が街に鳴り響いた冬の晴れた日。
僕たちの門出を祝うようだ。

新年の祝いの舞踏会が王宮で行われる。
舞踏会だが新年なので昼間に行われる。
僕たちも王宮についた。

馬車から降りるシャーリーに手を出す。
今日は僕がエスコートをする。
シャーリーは華やかな青のドレスに身を包んでフワッと降りてくる。
綺麗だ。本当にシャーリー、可愛い。
彼女が今日着ているのはあの日、渡しに行こうとしたドレスだ。
予定と異なるが今日、新年会で着ている。
似合っている。
少し恥ずかしいのか下を向いている。
「前を向いて」
そう。彼女は下を向く必要はない。
もう僕のものなんだから、僕の隣で前だけ向いていて。

今日は王太子とレイクルーゼ嬢の婚約発表もある。
本当に年の初めから嬉しい事が続く。

先日、王宮で聞いた彼女の答えは僕の予想していたとおりだった。

「君は彼女に会いたいか?」

すごく会いたいはずだが彼女は首を横に振った。
「いずれ会えるんでしょ?
私は頑張ったって胸を張って言いたいの。
私はまだ、何も為していない。
素晴らしい王妃になるつもりよ。
だからその時まで楽しみは取っておくのよ。」

シャーリーは心配そうに首を傾げているがレイクルーゼ嬢はそんなシャーリーを優しそうな目で見た。

やはり彼女は思ったとおりの人だった。

レイクルーゼ嬢は立ち上がりテラスの柵に両手を置いた。
あの日も風は冷たいが日差しがつよく暖かい日だった。
レイクルーゼ嬢は少し右斜め下を向いた。
そこにちょこんと青い鳥が止まっていた。
レイクルーゼ嬢は少し笑い、視線を空に向けた。

そして独り言をいいはじめた。
これは聞いちゃいけないなと、思って、シャーリーの腰に手を回し少しレイクルーゼ嬢から離れた。

「ルース?なんの話なの?」
「いずれ、彼女達が素晴らしい王妃になった時には君に話してくれるだろう。だから今は彼女の決意を見守ってあげてね。」
シャーリーに優しく言った。

その時、裏で彼女と協力した事がバレてしまうじゃないかと気づいた。
口止めしないと。会う時には一度話をして合わせないとやばいな、と思った。

僕は少しレイクルーゼ嬢から離れた場所で彼女が空を見上げるのをじっと見ていた。雲ひとつない青い晴れた冬の日。
彼女は前を向いて歩き出す。

『私はちゃんと自分の足で歩いていく。
レオンハルト殿下と一緒に。
私がきちんと胸を張って頑張ったって言えるようになるまでは会わない。
だから今は会わないよ。

ちゃんと友達もできた。
王太子殿下ともうまく付き合っていけそう。
なんとかやっていくから大丈夫。

でもさすがだね。
ちゃんとお互い一推しなんだ。
でもね、わかってるよ。
いろいろ手を回してくれたんだよね?なんか設定全然違うし。ちょっと笑っちゃった。

私、頑張るよ。
王太子妃として…王妃とし一生懸命生きていく。

私を認めたとき〝すごく頑張ったね〟って褒めてね。
どっちが先に素晴らしい王妃になるか競争だよ。
何年後かわからないけど話したいことたくさんあるんだよ。
最初の言葉はありがとうだけどね。
私のためにいろいろありがとう。
なるべく早く会えるように頑張る。
会えるの楽しみにしてる。
ねぇ、お姉ちゃん。』

レイクルーゼ嬢の目から涙が溢れていた。
シャーリーが一歩前に出たけど引き留めた。

心配そうなシャーリーに優しい笑顔で微笑んだら理解したみたいだ。
彼女は僕の肩に頭を載せた。
僕は彼女の肩を抱いた。

こんなところ見たらまたレオンハルト王太子殿下は慌ててハンカチを差し出すだろうか。でもそんなことはしなくていいよ。
この涙は彼女の決心なんだから。
ずっと見ていた。

陛下の新年の挨拶の後、二人の婚約が発表された。
寄り添う二人を見てきっとゲームとは全く違う結末を迎えているのだと感じる。
ゲームとは違う。王太子殿下と彼女はきちんと恋してるよ。

僕は天窓から見える青い空を見上げて思う。
さっきの青い鳥が飛んでいた。
青い空に溶けていった。

安心して。彼女は大丈夫だ。
君に会える日はそう遠くない。

父上から聞いたけど、レイクルーゼ嬢の婚約パーティーの後に国を出てダマガラン王国に旅立つみたいだね。
ダマガラン王太子殿下は僕にとってはあまり印象よくはないけど、君が熱弁するくらいにはいい奴なんだろう。
レオンハルト王太子殿下も彼はああ見えてもしっかり考えていると言ってたし、
彼が国王になったらいい国になるだろうと言っていた。
頑張って彼を支えてあげてね。
楽しみにしているよ。君と君の妹さんがそれぞれの国で皆から愛される素晴らしい王妃になる日を。
次に会える時にはきっとみんなで笑えるね。
僕も負けないようにしないと。
そういえば君は僕のエンドがメリバにはならなくて残念がっていないかな?割と好きそうに話していたからね。
シャーリーは僕と共に生きてくれる。
彼女は僕の全てを受け入れてくれた。
だから僕は彼女を信じ、愛し続けるよ。
同じように彼女も僕を信じ、愛し続けてくれるから。
互いに手を繋いで笑って歩いていける。
僕にとってはこれ以上ない最高のハッピーエンドだ。
ゲームではない。初めからゲームなんて無いんだ。
僕達は生きている。一生懸命生きてきた。そして生きていく。

だから君も頑張れ。幸せにしてもらうんだ。いや、幸せになるんだ。ありがとう。

華やかな舞踏会が進む中、
シャーリーが隣で柔らかな表情で僕を見ていた。
考え事してたから君をほったらかしにしてごめんね。

僕は肩を抱き寄せた。
彼女は頭をコツンと僕の肩に乗せた。
そして僕の腕を両手で抱きしめて幸せそうに微笑んだ。
僕の大好きなシャーリーの笑顔。
愛しい僕のシャーリー。
僕も彼女に微笑み返した。

隣の窓から爽やかな風が入ってきた。
本当に気持ちのいい晴れた日だ。

彼女の顳顬にキスを落とす。
彼女が僕の腕に回した手にギュッと力が入った。
もう可愛い。可愛いすぎだから。

僕に起こった奇跡。
きっかけはゲームだったのかもしれない。
でもこのエンドは僕とシャーリーが作り上げたものだ。
ルーズローズルートはハッピーエンドで終わる。
そして僕達はまたここから歩き出すんだ。

この晴れた空は僕たちを祝福し、歓迎しているんだ。
僕たち二人の未来を。

「シャーリー、愛してる。」

いつもは赤くなって下向いてしまうのに
今日は僕の目をじっと見てきた。

「ルース、私も愛してる。」

シャーリーの額に自分の額をくっつけて二人で笑う。

シャーリーは瞳を閉じた。

シャーリー、今は舞踏会なんだよ?
周りにいっぱい人いるんだけど?いいのかな?
わかってる?

愛しい人に優しくキスをする。

もう君は全て僕のものだ。

君は僕の手の中で何も考えずに笑っていてくれればいい。
ずっと僕の中で幸せに浸って微睡んでいればいい。
僕だけ見ていてくれればいい。

もう僕しか見えてないね。

君を離さないよ。

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