上 下
70 / 120

その24 湖にて

しおりを挟む
「すごい!これはシャーリーが作ったの?」

「あ、そのくらいは作れるわよ。なんたって主婦だったんだから。」
単に朝のパンが余っていたからおやつにフレンチトーストを作っただけだ。
「ふ~ん。じゃあ今度何か作って貰おうかな?」
「じゃあ明日お弁当つくろうか?せっかく雨も止んだし出かけない?」

昨日あんなことがあったが今日はいつも通りだ。
彼は何もいわない。私に言うことでもないのか。
まだ言いたくないのか…
もし必要ならそのうち言ってくれるだろう。

そんなことで別荘滞在四日目にしてようやく旅行らしいことができた。


って!!!!!

今私の目の前には馬がいる。いつも馬車で移動するから馬は見慣れているのだが、どうみてもこの馬は乗馬用??よね。

「ルース!なんなの?」
「えっ?馬だけど?」
「そんなの見ればわかるわ。で?」
「乗るんだけど。」
「誰が?」
「君と僕が…」

私の時間は止まった。
気がつけば私は馬に横乗りになって叫んでいた。

「ルース!怖いって!無理。」
「大丈夫だって。僕は馬の扱いは上手なんだよ。だから安心して。」
「だって高い…速い……」

生きた心地がしない。馬なんて前世あわせて初めて乗った。

馬が跳ねるたびに頭が飛んでいきそうだわ。あ~無理だ。
魂が口から出て行く~。さようなら~。

「嫌だなシャーリー。せっかく華麗に乗馬を楽しむ恋人同士みたいなのに君の叫び声で雰囲気台無しじゃないか。」
「誰が恋人同士なの~!いや~速くなった!もっとゆっくりにして、ジェットコースターは苦手なの!嫌!無理!」

「シャーリー、面白いね。もっと跳ばそう!」
「あ~!嫌!ルース!いじめないでよ!」

目的地の湖についた。
周りに緑がたくさんあって空気が気持ちいい。遠くに見える山が湖に映る。
素敵な場所だ!

リアルでアルプスの少女ハ◯ジだ。

素敵なのだが景色に感動している気分ではない。
ひとまず水を飲んで、半分出かけていた魂を胸に押し返す。

本当に怖かったんだから!人が嫌がってるのに何であんなに走らせるかな。近くの木に手をついてゼェゼェと大きく息をしていた。

「もう!ルースなんて嫌い!!」
「ごめん、ごめん。ジーザスに乗るのが久しぶりだったから嬉しくて。」
「もう!ジーザス、二人も乗せて重かったわよね。ごめんね。」

ルースの愛馬ジーザスの顔を撫でるとぶるるるっと顔を振った。

「いやジーザスは力持ちだもんね。でもよく頑張ったよ。ほら、お食べ。」

ご飯の草をやりながらルースはジーザスを撫でている。

「じゃあ私達もランチにしましょう。やっぱりこういった外で食べるのはサンドイッチに限るわね!」

もう空気が違う。
空気が美味しいとかよくわからなかったが
こういうことなんだと思う。

朝から頑張って作ったサンドイッチを並べる。
まあさすがは公爵家。食材がいいのでかなり高級そうなサンドイッチが出来上がってしまっていたが…。
ローストビーフにエビ…私が作ったサンドイッチですが美味しそうです。

たくさん作ったのでお付きの人の分もある。
私はシートを広げてランチの用意をし始めた。


何とか支度ができたからルースを呼ぼうとした。
しかし私の足は一緒止まった。

ルースは木の幹に体を預けて腕組みをしていた。何か遠くをみるかのようだった。怖い目をしている。表情に冷たさを感じる。

先日も見た同じルースを見た。あれは一体誰なの?怖い。近寄りがたさを感じる。

「お昼の支度できた?」

しかしルースは私に気づくといつもの笑顔をして近寄ってきた。

「うん!さあ食べよう。」

私も普通に笑う。
引きつってないわよね?

湖のほとりでのピクニックは本当に楽しい。綺麗な景色に囲まれて目の前にはルースが美味しそうにサンドイッチをたべる。楽しそうに笑う。何だか幸せだ。さっきのは何だったんだろう。
体調悪いのかな。
あの周りまでも凍りつきそうな怖い目。無表情な…。
今は笑っているんだから…気にしない。気にしない。



「ごめん!」
ルースが謝る。
「ルースのせいじゃないから謝らないで。」
「だって…」
「ジーザス濡れちゃうからもっとこっちに来て。」

せっかく湖のほとりでピクニックをしていたのだが夕立にあってしまった。
雨が真っ直ぐ落ちてくる。少し前から黒い雲があったので急いで帰り支度をしたが間に合わなかった。

「おかしいな…夕方くらいまで大丈夫なはずだったんだ。」

たまたま、この木何の木くらいの大きな木があったから雨宿りしている。

「降ってきたのは仕方ないわ。この辺は海に近いし、山もあるし天気は変わりやすいわ。すぐ上がるはずだから待ちましょう。」

ルースが近い…。すぐ隣に立っている。少しでも横に体を傾けると触れてしまいそうだ。ドキドキする。そう…だって好きな人がこんなに近くにいるんだもの。

私はチラッと隣のルースを見た。

彼はじっと雨を見ていた。青い瞳が前を見ている。

また背が伸びた。私が小さく思える。彼は男で私は女なんだと実感する。
彼のさらりとしたストレートの金髪は雨に濡れてしまっている。前髪がかなり目にかかっている。

遠くで雷鳴がし始めた。

その濡れた髪をみていたらあの日のルースを思い出してしまった。
思い出さないようにしている。怖かったから。

しかし駄目だ。受けた衝撃が強すぎる。見たのは本当に一瞬だけだ。

でもただただ怖かった。彼の周りの空気すら冷たく、ピンと張り詰めたような感じがした。自分の歩く先の一点だけを見つめ、氷のように冷たい目をしていた。ルースではないみたいだ。

あの時確かに彼のいつもの碧眼が赤に光った。その瞳で私の方をみた一瞬、体が動かなかった。赤い鋭い光がルースが纏う周り全ての空気痛く感じさせていた。

あんなルースは見たことがない。

今でもあの時のルースを思い出すと怖い。少し震える。

「寒い?震えてる。」

ルースの問いかけに私がハッと我に返った。
私は彼を見た。彼の瞳は青かった。やはり気のせいだ。気のせいだったんだ。

「シャーリー?何?ずっと僕を見てるけど何か考え事?
ほら僕の上着も着るといいよ。ほら。」

ルースが私に自分の上着をかけようとした瞬間、雷鳴が鳴り響き空全体が光った。
稲光がルースの後ろ側に走った。その光があの時のルースの赤い瞳を鮮明に思い出させた。あの時のルースに感じた痛いくらいの冷たい恐怖が蘇った。怖い…怖い。

「やっ!」
「えっ?」

思わずルースの手を跳ねてしまった。
私は手を口に当てた。肩が震えてしまっている。
私が予想外の行動で彼の手から上着が落ちた。

「あっ。違うの…」

何が違い?怖いんでしょ?私、ルースが怖い。

「また、妄想してた?僕が突然声かけたからびっくりした?」


違う…怖い。ルースを怖いと思ってしまった。
…そんな自分が嫌で、怖い。

「シャーリー…???」

わかってしまう。ルースに気付かれてしまう。

…しかし目を逸らしてしまった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

処理中です...