オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません！

その19 ヴィクセレーネ家にて ※

「姉さん！」

私が倒れそうになった時ジョーカスが抱き留めてくれた。
それから意識が途切れた。

私は夢を見ていた。

水？湖？湖の上に浮いているの？
月の輝く夜の空がきれいに広がる。
青い鳥が飛んでいる。
月の光を浴びて綺麗だ
ゆらりゆらり気持ちいい。

青い鳥が私の顔の隣の水面に降り立った。

ああそうだ。ここはあの時と同じなんだ。
私が高熱を出して寝込んだ時と。
あの時シャーロレットの体に私が入ったんだ。

車でぶつかったと思った瞬間、私はこうやって水面に浮かんでいた。
そしてそう、この青い鳥が近くでぴょんぴょん飛び回っていた。
あの時も気持ちよかったな。

目を閉じながら
ゆらゆら水面に揺れる体を感じていた。

私は生きている？

ここからシャーロレットとしての私の人生が始まったんだ。

もう一度与えられた人生。
私は同じ過ちはしたくなかった。
あきらめることで同じ過ちをしてしまう恐怖から逃れてきた。

しかしそれは間違えだったんだ。

だからまたここに戻されたんだ。

頭を冷やせってこと？

私はまだ違う道をいける？
大丈夫だ。
まだ私は大丈夫だ。
もう一度この世界を、周りのみんなを
自分を見渡してみよう。
そしてこれからの自分をきちんと考えてみよう。


目を開けた。

私の部屋だ・・・。
私は自分の手を見つめた。
15歳の自分の手だ。
私は私のいるべき場所にちゃんと戻ってこれたんだ。

周りを見た。

「お父様・・お母様・・・お兄様・・・ジョーカス」

みんな私を心配そうに見ている。
扉のそばにはサンドラが控えていた。

「シャーリー！！」

お母様が泣いてお父様に抱きしめられている。
お兄様が私の顔を見て少し泣きそうな顔をした。そして優しく笑う。
ジョーカスが私の手を取って泣き始める。

私の大事な家族だ。
私は大事にされている。
暖かい。

ヴィクセレーネの家・・・。
私の居場所。

私はバカだった。
ここには前世の私はなかった。
シャーロレットとして生きている私しかいなかった。
そして周りには私を愛してくれる人達がたくさんいる。

なんか涙が出てきた。

「姉さん、大丈夫？」
「ええ、ごめんなさいね。ジョーカスには迷惑かけたわね。」
「そんなことないよ。僕がすぐに見つけられたからよかった。」
「ほんと、突然走り出してしまって申し訳なかったわね。」
「シャーリー、何か食べる？」
お母様が聞いてきた。
「そうね、フルーツが食べたいわね。」
「僕もここで食べていい？」
「ふふっ、いいわよ。」
「サンドラ、お願いね。」

目を真っ赤にしていたサンドラは頭を下げて部屋から出ていった。

こうやって家族といるのが心地いい。
大好きな家族。私の愛すべき家族だ。

「しかし、本当にジョーカスが抱えて帰ってきたときにはびっくりしたよ。」
「えっ？抱いて？！ごめんなさい。重かったでしょう。」
「だよな！もう顔が真っ赤で家に着いてすぐ水飲んでたな。」
ジョーカスがお兄様をにらんだ。

「あ、ごめんごめん。でもよかったよ。
ジョーカスのお手柄だ。
それよりシャーリー庭に何か縞々の緑の丸いものがあるんだがなんだ？」
「スイカ！！スイカです。今年はようやく成功したのね。」
「シャーリー、また変な食べ物なの？」
「変なって、シャーリーの作るものはおいしいんだよ。な？」
お父様が笑う。
「そうね。」
お母様も笑う。

こんな時間が嬉しい。
この家族の中にいれる。
こんな普通のことが嬉しい。愛おしい。
ありがとう。私をこの輪に入れてくれて。

「お嬢様・・・。」
サンドラが果物をもって戻ってきた。
何だか浮かない顔をしている。
「サンドラ？どうしたんだい？」
お父様が聞いた。

「それが・・・その・・・」
ジョーカスが立ち上がった！
「僕行ってくる！」
「ちょっと待て！私も行く。おい待てジョーカス！」

ジョーカスとお兄様が突然走り出して部屋から出ていった。
何かありましたか？

「さあシャーリー、あんな男どもはほっといて果物食べましょう！」
「私も男なんだが・・・。」
「あら、あなた。すみません。」
「シャーリー何食べる？メロン？」

ルース・・・ルースが来たんだ。
みんな私に気をつかっている。
ルースが原因で私が倒れたのをしっているんだ。
特にジョーカスは理由もしっている。

よく考えたら私は彼を応援しないといけないわね。
私は彼の幼なじみ。一番の理解者にならないといけない。

そう私は単なる幼なじみなんだ。
ヒロインと攻略対象の恋路を邪魔することは出来ない。

私が邪魔者なんだから
ルースはヒロインに任せよう。

まあ悪役令嬢になるのはもう無理そうだから辞めよう。
現実的に生きていこう。
とにかく今は落ち着いて考え直す時間だ。