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本編
66. 「美味しいものも食べたいし、いっぱい寝たいし、エッチな事ももっとしたいにゃあ……♡」
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「ふにゅう……♡」
ふかふかの布団。清潔な部屋。そして、美味しい食事。
最高である。白狐はうっとりとした表情で、朝食を食べていた。
お膳に載っているのは、美味しそうな焼き魚であった。ふっくらとしていて脂も乗っていて実に美味しそうである。
勿論白米も忘れてはならない。
白狐は炊き立てのふっくらとしたお米を頬張ると、思わず感嘆の声を漏らした。
「美味しい……♡」
疲れが吹き飛び、身体中に栄養が行き渡っているのを感じる。萎びていた尻尾も、心なしかピンと張っているようだ。
食事とは素晴らしい文化だな、と白狐は改めてそう思った。
御城の食事は初めてだが、やはり高貴な味がする。白狐は大満足であった。
一介の忍者に豪勢な食事を与えるとは織波家というのは余程の金持ちなのだろうか? 白狐はそんな事を考えながら、ゆっくりと食事を摂っていた。
無論、これは秀菜の指示である。傷が癒えるまでは客人としてもてなしてやるから信根の事は他言無用……という意図を込めて、それなりの待遇をしているという訳だ。
だが白狐はそんな事を知る由もなく、ただ美味しい食事を堪能するのみだった。
「ふぅ……ごちそうさまでした!」
白狐は満面の笑みを浮かべ、手を合わせた。そしてそのまま布団に横になると気持ち良さそうに伸びをする。
やはり布団は気持ちいい……白狐は幸せそうな表情を浮かべていた。
普段ならば食べた後すぐに横になるなど行儀の悪い事は白狐は滅多にしない。だが、今の自分は怪我人……少しくらい行儀が悪くても許されるだろうと、そう考えていた。
そうして白狐がのんびりと堕落を貪っていると不意に襖が開き、一人の女性が入って来た。
「失礼します、白狐様……お膳をお下げ致します……」
それは昨日白狐の身体を洗った(意味深)侍女であった。
彼女は少し緊張した趣きで白狐の前に正座すると、ペコリと頭を下げた。
「あ、お姉さん!」
白狐は嬉しそうな笑顔で立ち上がると、そのままよたよたと歩き彼女に抱きついた。
そしてすりすりとその豊満な胸に顔を埋めて頬ずりをする。
「ふにゃ、ふにゃぁん♡」
昨日散々世話になった女性だ。白狐は甘えるような声を出しながら、その感触を楽しむように顔を擦り付けた。
そんな白狐の姿に侍女は思わず顔を赤くしながら、優しく微笑んでいる。
「昨日は……その、私なんかでお喜び頂けたでしょうか……?」
昨夜の行為を思い出し、恥ずかしそうに俯く侍女。その様子を見て、白狐は笑顔で頷いた。
「はい♡とても気持ち良かったです!」
その言葉に侍女は驚いたような表情になる。この美少年がこんなおばさんである自分に欲情して興奮していたという事実に衝撃を覚えていたのだ。
自分はもうお姉さんという歳でもないというのにお姉さんと呼んでくれ、それと同時にメスと認識して興奮してくれたのである。
「(こんな小さな男の子に、私はなんて不埒な事を……)」
自分が年甲斐もなく欲情してしまった事に、侍女は罪悪感を抱いていた。だがそれと同時に、白狐に対する母性……或いは恋慕といった感情が湧き上がってくる。
自分が幼い男の子に欲情し、あまつさえ興奮してしまった事に背徳感を覚える侍女だったが、それ以上に彼を可愛がってあげたいという欲求に駆られていた。
そしてそれは白狐も同じであった。昨夜の行為で自分はこのお姉さんにすっかり夢中になってしまったのだ。
あの快楽をもう一度味わいたい……!白狐はそう思って、彼女にぎゅっと抱きついていた。
「お姉さん、お名前は?」
白狐は上目遣いになり、侍女に尋ねた。
「えっ……!わ、私ですか?私は……キヌと申しますが……」
突然の質問に戸惑いつつも、侍女はそう答えた。白狐はそれを聞くと彼女の膝に座り尻尾をゆらゆらと揺らして、彼女の胸に擦り寄る。
白狐の仕草に、侍女は一瞬ドキッとする。あまりにも歳が離れすぎているが、それでも好意を向けられるというのは嬉しいものだ。
しかし同時に戸惑いもある。こんな小さな男の子に好かれるというのは彼女にとって初めての経験であった。
いや、小さい云々以前に男にこのように甘えられた事のある女など殆どいないだろう。
白狐はそんな侍女の複雑な心情など露知らず、甘えた声で彼女にお願いをした。
「キヌさん……僕おしっこしたくなっちゃったんだけど……」
その言葉に、侍女は顔を真っ赤にした。確かにおしっこなら厠に行けばいいだけの話だが、男の子が自分にこんな甘えた声でお願いをしているのだ。
それが可愛らしくて仕方ないのである。
同時に尿意を訴えてきたという事は、つまりそういう事なのだろう……と、彼女は考えた。
「わ、分かりました……♡」
白狐の意図を察した侍女は顔を赤らめながらそう答えると白狐を立たせ、いそいそと彼のズボンを下ろした。
「ふぇ!?」
白狐はキヌの行動に驚き、目を丸くしている。
今の発言はただ単純にトイレの場所を教えてくれという意味であり、淫靡な意味は全く含まれていない。
狼狽える白狐を余所に、キヌは白狐の下着を下ろすと、そこから現れた幼いものに侍女は目を輝かせる。
その小さな男の子の象徴を見て、彼女は思わず喉を鳴らした。
「(あぁ……♡なんて可愛らしい♡)」
キヌの目にはハートマークが浮かんでおり、完全に発情してしまっていた。
そして何やら覚悟を決めたように、白狐の
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
キヌ「流石にそれはしません」(指でバッテン)
白狐くんだったもの「―――」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
―――――――――
キヌがいなくなり、一人になった白狐。
尿意も無くなったので白狐は惰眠を貪る事にした。
こうして気持ち良くお昼寝が出来るのも、信根を救ったからだろうか?白狐は自分で自分を褒めて上げたい気分になっていた。
「(う~ん、なんか甘いものが食べたいなぁ……)」
ふと、うとうとしながら白狐はそう思った。ポテチやジュースを飲み食いしながら値落ちするという至高の娯楽は、この世界に産まれ落ちてから経験していない。
故に白狐はこの御城ならばその経験が出来るのではないか?と考えたのだ。
何と言っても御城である。それも前線基地のような色気のない無骨な城ではなく、大名の住む豪華な御城なのである。
ならばそのような事も可能だと、白狐はそう思ったのだ。
勿論ポテチやジュースがこの世界にある訳がないので和菓子やお茶になるだろうが、それでも充分至福だろう。
「(キヌさんにお願いして、お饅頭とか持ってきて貰おうかなぁ)」
なにせ自分は信根を救った忍者なのだ。姫の命を救った人物となれば少しくらいわがまま言っても許されるだろう。
いや、もしかしたら要求すればキヌさんのような自由に性欲を発散出来る女性をもっと充てがってくれるかもしれない……
白狐の欲望は留まることを知らなかった。
無垢で純白なキツネは何処にいったのか、今の白狐はピンクでドス黒い欲望をその幼い身体に溜め込んでいたのであった。
「美味しいものも食べたいし、いっぱい寝たいし、エッチな事ももっとしたいにゃあ……♡」
そんな事を考えニヤニヤと笑いながら、白狐は布団の中で尻尾をもぞもぞと動かすのであった。
そんな時であった。
不意に、部屋の襖が勢いよく開かれた。
白狐は布団に包まりながら反対の方向を向いていたので、誰が入ってきたかは分からなかった。
しかしキヌさんが来てくれたと思い、そのままの体勢で甘えきった声を出す。
「キヌさぁん♡僕お腹空いちゃった……♡なんかお菓子とか欲しいなぁ……♡」
キヌさんなら自分の言う事をなんでも聞いてくれるだろう……そう思って顔も見ずに白狐は言葉を発したが反応がない?
はて、何故なにも答えがないのだろう。不思議に思い、白狐は布団からキツネ耳と頭を出しチラリと襖の方を見る。
「!?」
そこにいたのは柔和な笑みを浮かべたキヌさん……では無かった。
「……」
そこにいたのは……そう、そこにいたのは無表情で自分を見下ろしている信葉の姿があった。
「(な、なんでここに!?)」
白狐は驚きのあまり、布団から飛び起きる。そしてそのまま後ずさるようにして、壁へと身体を押しつけた。
「お、お疲れ様ですっ!く、曲者ではないのです!信根様を……織波のお姫様を救った事により僕は少しくらいワガママ言ってもいい立場になりましてですねっ!」
自分でも何を言っているかよく分からないが、兎に角言い訳をしよう……と白狐は必至で喋った。
だがそれはなんの意味も為さなかったようで、信葉はゴミを見るような目で白狐を見つつ、一歩ずつゆっくりと近づいて来た。
「ふぅん。アンタ、こんなところにいたのね」
底冷えするような声が信葉から発せられた。白狐は冷や汗を流しながら、全身の毛を逆立てる。
「(な、なんなのこの威圧感……!ぼ、僕は何も悪い事はしてないのにっ!)」
まるで蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまう白狐。
そんな白狐を気にする事無く、信葉は続けた。
「アンタ、私になんの許可もなく信根の護衛をしてたみたいじゃない」
信根様の護衛……?
確かにしたが、それは白狐の意思ではなく命令されたからしたのであり、断じて自分から出た意思ではないのだ。
だがそんな事を言ったところで信葉は聞く耳を持たないだろう。白狐はこの状況をどうにかする術など持ち合わせていなかった。
「で、戦の後に姿を見せないと思ったらこんなところで一人で食っちゃ寝してた、と。ふぅん」
淡々と言葉を発する彼女の目は、完全に人を殺せる程の冷たさと鋭さを持っていた。そしてその口調もまた、氷のように冷たい。
「(こ、殺されるっ……!)」
白狐の本能がそう告げていた。今まで感じたことのない程の威圧感に、白狐は震えが止まらなかった。
これは……この娘は本当に人なのだろうか?そう思ってしまう程であった。
そんな怯える白狐をよそに、信葉は少しずつ近づいてくる。
そしてついに信葉は、壁についている白狐の手前まで接近したかと思うと次の瞬間その拳を握り締めた。
「お腹空いたって言ったわね。じゃあ腹一杯食らわしてやるわ。私の……拳をね!」
そう言って信葉は白狐の腹部へと、拳をめり込ませた。
かつてない衝撃と激痛が白狐を襲い、胃液が逆流し、口から溢れ出す。そのまま白狐は壁伝いにずるずると倒れ込み、呻き声を上げながら蹲った。
「ふ、ふぎぃ……!!こぽぉ……」
英傑の力で生み出された剛腕から繰り出される拳は、白狐の胃と内臓を激しく損傷させていた。
信葉はそんな哀れな少年を見下ろして、溜息を吐いていた。
視界が暗くなってくる……朦朧とする意識の中、白狐は信葉を視界に収める。
戦装束ではなく、美麗な着物を纏うお姫様のような少女。その姿を見て、白狐は綺麗だなぁ、と場違いな事を考えていた。
「はぁ、心配して損したわ……」
気を失う直前に、信葉のそんな声を聞いたような気がした……
ふかふかの布団。清潔な部屋。そして、美味しい食事。
最高である。白狐はうっとりとした表情で、朝食を食べていた。
お膳に載っているのは、美味しそうな焼き魚であった。ふっくらとしていて脂も乗っていて実に美味しそうである。
勿論白米も忘れてはならない。
白狐は炊き立てのふっくらとしたお米を頬張ると、思わず感嘆の声を漏らした。
「美味しい……♡」
疲れが吹き飛び、身体中に栄養が行き渡っているのを感じる。萎びていた尻尾も、心なしかピンと張っているようだ。
食事とは素晴らしい文化だな、と白狐は改めてそう思った。
御城の食事は初めてだが、やはり高貴な味がする。白狐は大満足であった。
一介の忍者に豪勢な食事を与えるとは織波家というのは余程の金持ちなのだろうか? 白狐はそんな事を考えながら、ゆっくりと食事を摂っていた。
無論、これは秀菜の指示である。傷が癒えるまでは客人としてもてなしてやるから信根の事は他言無用……という意図を込めて、それなりの待遇をしているという訳だ。
だが白狐はそんな事を知る由もなく、ただ美味しい食事を堪能するのみだった。
「ふぅ……ごちそうさまでした!」
白狐は満面の笑みを浮かべ、手を合わせた。そしてそのまま布団に横になると気持ち良さそうに伸びをする。
やはり布団は気持ちいい……白狐は幸せそうな表情を浮かべていた。
普段ならば食べた後すぐに横になるなど行儀の悪い事は白狐は滅多にしない。だが、今の自分は怪我人……少しくらい行儀が悪くても許されるだろうと、そう考えていた。
そうして白狐がのんびりと堕落を貪っていると不意に襖が開き、一人の女性が入って来た。
「失礼します、白狐様……お膳をお下げ致します……」
それは昨日白狐の身体を洗った(意味深)侍女であった。
彼女は少し緊張した趣きで白狐の前に正座すると、ペコリと頭を下げた。
「あ、お姉さん!」
白狐は嬉しそうな笑顔で立ち上がると、そのままよたよたと歩き彼女に抱きついた。
そしてすりすりとその豊満な胸に顔を埋めて頬ずりをする。
「ふにゃ、ふにゃぁん♡」
昨日散々世話になった女性だ。白狐は甘えるような声を出しながら、その感触を楽しむように顔を擦り付けた。
そんな白狐の姿に侍女は思わず顔を赤くしながら、優しく微笑んでいる。
「昨日は……その、私なんかでお喜び頂けたでしょうか……?」
昨夜の行為を思い出し、恥ずかしそうに俯く侍女。その様子を見て、白狐は笑顔で頷いた。
「はい♡とても気持ち良かったです!」
その言葉に侍女は驚いたような表情になる。この美少年がこんなおばさんである自分に欲情して興奮していたという事実に衝撃を覚えていたのだ。
自分はもうお姉さんという歳でもないというのにお姉さんと呼んでくれ、それと同時にメスと認識して興奮してくれたのである。
「(こんな小さな男の子に、私はなんて不埒な事を……)」
自分が年甲斐もなく欲情してしまった事に、侍女は罪悪感を抱いていた。だがそれと同時に、白狐に対する母性……或いは恋慕といった感情が湧き上がってくる。
自分が幼い男の子に欲情し、あまつさえ興奮してしまった事に背徳感を覚える侍女だったが、それ以上に彼を可愛がってあげたいという欲求に駆られていた。
そしてそれは白狐も同じであった。昨夜の行為で自分はこのお姉さんにすっかり夢中になってしまったのだ。
あの快楽をもう一度味わいたい……!白狐はそう思って、彼女にぎゅっと抱きついていた。
「お姉さん、お名前は?」
白狐は上目遣いになり、侍女に尋ねた。
「えっ……!わ、私ですか?私は……キヌと申しますが……」
突然の質問に戸惑いつつも、侍女はそう答えた。白狐はそれを聞くと彼女の膝に座り尻尾をゆらゆらと揺らして、彼女の胸に擦り寄る。
白狐の仕草に、侍女は一瞬ドキッとする。あまりにも歳が離れすぎているが、それでも好意を向けられるというのは嬉しいものだ。
しかし同時に戸惑いもある。こんな小さな男の子に好かれるというのは彼女にとって初めての経験であった。
いや、小さい云々以前に男にこのように甘えられた事のある女など殆どいないだろう。
白狐はそんな侍女の複雑な心情など露知らず、甘えた声で彼女にお願いをした。
「キヌさん……僕おしっこしたくなっちゃったんだけど……」
その言葉に、侍女は顔を真っ赤にした。確かにおしっこなら厠に行けばいいだけの話だが、男の子が自分にこんな甘えた声でお願いをしているのだ。
それが可愛らしくて仕方ないのである。
同時に尿意を訴えてきたという事は、つまりそういう事なのだろう……と、彼女は考えた。
「わ、分かりました……♡」
白狐の意図を察した侍女は顔を赤らめながらそう答えると白狐を立たせ、いそいそと彼のズボンを下ろした。
「ふぇ!?」
白狐はキヌの行動に驚き、目を丸くしている。
今の発言はただ単純にトイレの場所を教えてくれという意味であり、淫靡な意味は全く含まれていない。
狼狽える白狐を余所に、キヌは白狐の下着を下ろすと、そこから現れた幼いものに侍女は目を輝かせる。
その小さな男の子の象徴を見て、彼女は思わず喉を鳴らした。
「(あぁ……♡なんて可愛らしい♡)」
キヌの目にはハートマークが浮かんでおり、完全に発情してしまっていた。
そして何やら覚悟を決めたように、白狐の
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
キヌ「流石にそれはしません」(指でバッテン)
白狐くんだったもの「―――」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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キヌがいなくなり、一人になった白狐。
尿意も無くなったので白狐は惰眠を貪る事にした。
こうして気持ち良くお昼寝が出来るのも、信根を救ったからだろうか?白狐は自分で自分を褒めて上げたい気分になっていた。
「(う~ん、なんか甘いものが食べたいなぁ……)」
ふと、うとうとしながら白狐はそう思った。ポテチやジュースを飲み食いしながら値落ちするという至高の娯楽は、この世界に産まれ落ちてから経験していない。
故に白狐はこの御城ならばその経験が出来るのではないか?と考えたのだ。
何と言っても御城である。それも前線基地のような色気のない無骨な城ではなく、大名の住む豪華な御城なのである。
ならばそのような事も可能だと、白狐はそう思ったのだ。
勿論ポテチやジュースがこの世界にある訳がないので和菓子やお茶になるだろうが、それでも充分至福だろう。
「(キヌさんにお願いして、お饅頭とか持ってきて貰おうかなぁ)」
なにせ自分は信根を救った忍者なのだ。姫の命を救った人物となれば少しくらいわがまま言っても許されるだろう。
いや、もしかしたら要求すればキヌさんのような自由に性欲を発散出来る女性をもっと充てがってくれるかもしれない……
白狐の欲望は留まることを知らなかった。
無垢で純白なキツネは何処にいったのか、今の白狐はピンクでドス黒い欲望をその幼い身体に溜め込んでいたのであった。
「美味しいものも食べたいし、いっぱい寝たいし、エッチな事ももっとしたいにゃあ……♡」
そんな事を考えニヤニヤと笑いながら、白狐は布団の中で尻尾をもぞもぞと動かすのであった。
そんな時であった。
不意に、部屋の襖が勢いよく開かれた。
白狐は布団に包まりながら反対の方向を向いていたので、誰が入ってきたかは分からなかった。
しかしキヌさんが来てくれたと思い、そのままの体勢で甘えきった声を出す。
「キヌさぁん♡僕お腹空いちゃった……♡なんかお菓子とか欲しいなぁ……♡」
キヌさんなら自分の言う事をなんでも聞いてくれるだろう……そう思って顔も見ずに白狐は言葉を発したが反応がない?
はて、何故なにも答えがないのだろう。不思議に思い、白狐は布団からキツネ耳と頭を出しチラリと襖の方を見る。
「!?」
そこにいたのは柔和な笑みを浮かべたキヌさん……では無かった。
「……」
そこにいたのは……そう、そこにいたのは無表情で自分を見下ろしている信葉の姿があった。
「(な、なんでここに!?)」
白狐は驚きのあまり、布団から飛び起きる。そしてそのまま後ずさるようにして、壁へと身体を押しつけた。
「お、お疲れ様ですっ!く、曲者ではないのです!信根様を……織波のお姫様を救った事により僕は少しくらいワガママ言ってもいい立場になりましてですねっ!」
自分でも何を言っているかよく分からないが、兎に角言い訳をしよう……と白狐は必至で喋った。
だがそれはなんの意味も為さなかったようで、信葉はゴミを見るような目で白狐を見つつ、一歩ずつゆっくりと近づいて来た。
「ふぅん。アンタ、こんなところにいたのね」
底冷えするような声が信葉から発せられた。白狐は冷や汗を流しながら、全身の毛を逆立てる。
「(な、なんなのこの威圧感……!ぼ、僕は何も悪い事はしてないのにっ!)」
まるで蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまう白狐。
そんな白狐を気にする事無く、信葉は続けた。
「アンタ、私になんの許可もなく信根の護衛をしてたみたいじゃない」
信根様の護衛……?
確かにしたが、それは白狐の意思ではなく命令されたからしたのであり、断じて自分から出た意思ではないのだ。
だがそんな事を言ったところで信葉は聞く耳を持たないだろう。白狐はこの状況をどうにかする術など持ち合わせていなかった。
「で、戦の後に姿を見せないと思ったらこんなところで一人で食っちゃ寝してた、と。ふぅん」
淡々と言葉を発する彼女の目は、完全に人を殺せる程の冷たさと鋭さを持っていた。そしてその口調もまた、氷のように冷たい。
「(こ、殺されるっ……!)」
白狐の本能がそう告げていた。今まで感じたことのない程の威圧感に、白狐は震えが止まらなかった。
これは……この娘は本当に人なのだろうか?そう思ってしまう程であった。
そんな怯える白狐をよそに、信葉は少しずつ近づいてくる。
そしてついに信葉は、壁についている白狐の手前まで接近したかと思うと次の瞬間その拳を握り締めた。
「お腹空いたって言ったわね。じゃあ腹一杯食らわしてやるわ。私の……拳をね!」
そう言って信葉は白狐の腹部へと、拳をめり込ませた。
かつてない衝撃と激痛が白狐を襲い、胃液が逆流し、口から溢れ出す。そのまま白狐は壁伝いにずるずると倒れ込み、呻き声を上げながら蹲った。
「ふ、ふぎぃ……!!こぽぉ……」
英傑の力で生み出された剛腕から繰り出される拳は、白狐の胃と内臓を激しく損傷させていた。
信葉はそんな哀れな少年を見下ろして、溜息を吐いていた。
視界が暗くなってくる……朦朧とする意識の中、白狐は信葉を視界に収める。
戦装束ではなく、美麗な着物を纏うお姫様のような少女。その姿を見て、白狐は綺麗だなぁ、と場違いな事を考えていた。
「はぁ、心配して損したわ……」
気を失う直前に、信葉のそんな声を聞いたような気がした……
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