14 / 34
13.何を観るかよりも、誰と観るかだし
しおりを挟む
「映画か水族館か。いいね。どっちも王道デートスポットって感じで、素敵だと思う」
「でもさ、ちょっと心配なんだよね。ちゃんと出来るか……」
唯斗くんが、捨てられた仔犬の顔になった。
まずい、これは、なにかお願い事をしたいときの顔だ。
この数週間でだいぶ唯斗くんのことをわかってきた私は、警戒しながら答える。
「大丈夫だよ、普段通りで。場所がちょっと違うだけ」
「うーん、でもやっぱり心配だなあ」
言いながら唯斗くんは、チラチラと私の方を見る。それから——これは絶対わざとだって断言できるのだけれど——とびきりの可愛い顔を作って言葉を続けた。
「ねえ、恭子ちゃん、一緒に行ってみてくれない?」
うるんだ瞳は、お願い事をする唯斗くんの常套手段だ。けれど、これは流石に聞きいれるわけにはいかない。今までのはただの下校だったけど、映画や水族館は、それはもう本当のデートだ。さすがに、ただの恋愛レッスンで一緒に行くにはハードルが高すぎる。……と思っていたのに。
「仕方がないなあ」
なぜか私の口は、私の考えとは反対の答えを喋っていた。
なにを言っているの私、はやく取り消して。そう思ったけれど次の瞬間、うるんでいた唯斗くんの瞳はキラキラと輝きだし、その後ろであるはずのない尻尾がブンブン振り回されているようにさえ見えだした。
「本当に? ありがとう。約束だよ」
唯斗くんは私が撤回しようとしているのを察知したのか、さっさとそう言って約束を固めてしまった。
こんなに喜んでいるのに、今更取り消すことなんてできない。あくまで、下見だから。練習だから。誰にするわけでもない言い訳を、自分の中でひとりごちる。
「わかった、約束。しっかり下見して、いいデートが出来るようにしなくちゃね」
私の言葉に、唯斗くんがなんとも言えない表情を返す。
「なにその顔、自分から誘ってきたのに」
「ううん。なんでもない。楽しみだなーと思って」
「本当に? 全然そんな顔じゃなかったんだけど」
「気のせいだよ。じゃあ、映画調べたら、連絡するね」
唯斗くんは弾む声でそう言って帰っていった。
家に帰った私は、制服のままベッドに寝っ転がり、スマホで映画をチェックした。
あ、そうだ。『フラッシュ・エッジ』やってるんだった。私の一番好きな少女漫画が原作の、実写映画。原作が好きなのはもちろん、出演する俳優さん女優さんが好きな人たちばっかりで、映画化のニュースが出た時から絶対に観たいと思っていた。
でもなあ、唯斗くん、多分こういう恋愛ものなんて選ばないだろうなあ。勝手なイメージだけど、ハリウッドのアクション超大作とかのほうが好きそう。ドーン、ガシャーン、バーンみたいな大迫力のスクリーンに、キラキラ目を輝かせている様子が目に浮かぶ。まあ、それはそれで面白そうだからいいけどね。
それに、何を観るかよりも、誰と観るかだし。
自然にそんなことを思い浮かべた自分に驚いて、誰もいないのにブンブン首を振った。
誰と観るかだし。じゃないよ、私。ただの下見、ただの練習なのに、なにを浮かれているのだ。
さっきから私、ちょっと変だ。断ろう、と思いながら快諾したり、ただの下見をこんなにも楽しみにしていたり。まるで唯斗くんのことが……。
ぼうっとある結論に達しようとしていた思考気づき、慌てて自分で待ったをかける。
え、唯斗くんのことが何よ、私。ちょっと待て、落ち着こう、一旦落ち着こう。
頭の中に浮かびかけた邪念を振り払うべくベッドでジタバタする。
「でもさ、ちょっと心配なんだよね。ちゃんと出来るか……」
唯斗くんが、捨てられた仔犬の顔になった。
まずい、これは、なにかお願い事をしたいときの顔だ。
この数週間でだいぶ唯斗くんのことをわかってきた私は、警戒しながら答える。
「大丈夫だよ、普段通りで。場所がちょっと違うだけ」
「うーん、でもやっぱり心配だなあ」
言いながら唯斗くんは、チラチラと私の方を見る。それから——これは絶対わざとだって断言できるのだけれど——とびきりの可愛い顔を作って言葉を続けた。
「ねえ、恭子ちゃん、一緒に行ってみてくれない?」
うるんだ瞳は、お願い事をする唯斗くんの常套手段だ。けれど、これは流石に聞きいれるわけにはいかない。今までのはただの下校だったけど、映画や水族館は、それはもう本当のデートだ。さすがに、ただの恋愛レッスンで一緒に行くにはハードルが高すぎる。……と思っていたのに。
「仕方がないなあ」
なぜか私の口は、私の考えとは反対の答えを喋っていた。
なにを言っているの私、はやく取り消して。そう思ったけれど次の瞬間、うるんでいた唯斗くんの瞳はキラキラと輝きだし、その後ろであるはずのない尻尾がブンブン振り回されているようにさえ見えだした。
「本当に? ありがとう。約束だよ」
唯斗くんは私が撤回しようとしているのを察知したのか、さっさとそう言って約束を固めてしまった。
こんなに喜んでいるのに、今更取り消すことなんてできない。あくまで、下見だから。練習だから。誰にするわけでもない言い訳を、自分の中でひとりごちる。
「わかった、約束。しっかり下見して、いいデートが出来るようにしなくちゃね」
私の言葉に、唯斗くんがなんとも言えない表情を返す。
「なにその顔、自分から誘ってきたのに」
「ううん。なんでもない。楽しみだなーと思って」
「本当に? 全然そんな顔じゃなかったんだけど」
「気のせいだよ。じゃあ、映画調べたら、連絡するね」
唯斗くんは弾む声でそう言って帰っていった。
家に帰った私は、制服のままベッドに寝っ転がり、スマホで映画をチェックした。
あ、そうだ。『フラッシュ・エッジ』やってるんだった。私の一番好きな少女漫画が原作の、実写映画。原作が好きなのはもちろん、出演する俳優さん女優さんが好きな人たちばっかりで、映画化のニュースが出た時から絶対に観たいと思っていた。
でもなあ、唯斗くん、多分こういう恋愛ものなんて選ばないだろうなあ。勝手なイメージだけど、ハリウッドのアクション超大作とかのほうが好きそう。ドーン、ガシャーン、バーンみたいな大迫力のスクリーンに、キラキラ目を輝かせている様子が目に浮かぶ。まあ、それはそれで面白そうだからいいけどね。
それに、何を観るかよりも、誰と観るかだし。
自然にそんなことを思い浮かべた自分に驚いて、誰もいないのにブンブン首を振った。
誰と観るかだし。じゃないよ、私。ただの下見、ただの練習なのに、なにを浮かれているのだ。
さっきから私、ちょっと変だ。断ろう、と思いながら快諾したり、ただの下見をこんなにも楽しみにしていたり。まるで唯斗くんのことが……。
ぼうっとある結論に達しようとしていた思考気づき、慌てて自分で待ったをかける。
え、唯斗くんのことが何よ、私。ちょっと待て、落ち着こう、一旦落ち着こう。
頭の中に浮かびかけた邪念を振り払うべくベッドでジタバタする。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
平安学園〜春の寮〜 お兄ちゃん奮闘記
葉月百合
児童書・童話
小学上級、中学から。十二歳まで離れて育った双子の兄妹、光(ひかる)と桃代(ももよ)。
舞台は未来の日本。最先端の科学の中で、科学より自然なくらしが身近だった古い時代たちひとつひとつのよいところを大切にしている平安学園。そんな全寮制の寄宿学校へ入学することになった二人。
兄の光が学校になれたころ、妹の桃代がいじめにあって・・・。
相部屋の先輩に振り回されちゃう妹思いのお兄ちゃんが奮闘する、ハートフル×美味しいものが織りなすグルメファンタジー和風学園寮物語。
小学上級、中学から。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
泣き虫な君を、主人公に任命します!
成木沢ヨウ
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』
小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。
そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。
ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。
演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。
葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。
怪談掃除のハナコさん
灰色サレナ
児童書・童話
小学校最後の夏休み……皆が遊びに勉強に全力を注ぐ中。
警察官の両親を持つしっかり者の男の子、小学6年生のユウキはいつでも一緒の幼馴染であるカコを巻き込んで二人は夏休みの自由研究のため、学校の不思議を調べ始める。
学校でも有名なコンビである二人はいつもと変わらずはしゃぎながら自由研究を楽しむ……しかし、すすり泣くプール、踊る人体模型、赤い警備員……長い学校の歴史の裏で形を変える不思議は……何にも関係ないはずの座敷童の家鳴夜音、二次動画配信者として名を馳せる八尺様を巻き込んで、本物の不思議を体験することになった。
学校の担任や校長先生をはじめとする地域の大人が作り上げた創作不思議、今の世に発祥した新しい怪異、それを解明する間にユウキとカコは学校の最後のにして最初の不思議『怪談掃除のハナコさん』へと至る。
学校の不思議を舞台に紡がれるホラーコメディ!
この夏の自由研究(読書感想文)にどうですか?
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
(2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
佐藤さんの四重奏
makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――?
弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。
第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。
釣りガールレッドブルマ(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる