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一、野分。 (のわき。夏の終わりの頃、雨とともに吹く暴風。台風)
(一)
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「今日からこの子はお前の妹だ。仲良くしてやってくれ」
突然どこかへ出かけていた父さんが、突然妹をつれて帰ってきた。
急に、どこに行ってたんだよ。とか。どこに行くかぐらい言い残して行けよ。とか。勝手にいなくなったせいで、仕事がたまってるんですよ。とか。
そういう文句を言いたかったのに。
妹?
ボクの?
この子が?
ちょっと出かけて、めずらしいおみやげを持って帰ってきた、みたいな調子で父さんは紹介したけど。
「この子、翼がない!」
ボロボロのみすぼらしい服。髪もボサボサで肌も汚い。服からのぞく腕も足もガリガリで……って、そこはまあいい。けど。
翼がない。
ガリガリの体だから、翼もちょっぴりで、隠れて見えないとかじゃない。羽根をむしり取られたとか、そういうのでもない。
もとから、その背中には、翼が生えてない。
「当たり前じゃないか。人の子なんだから」
なにをバカなことを言ってるんだ? キョトンとした父さん。
「えっと。ちょっ、待って。人の子が妹って……」
理解が追いつかない。
「父さんは、族長だよね」
「そうだな」
「立派な翼を持つ、鳥人族の長だよね」
「そうだな。というか、〝立派な〟って。照れるね」
「その族長の子がボクだよね」
「そうだな。お前も、なかなかいい翼を持ってるぞ、ハヤブサ」
「そのボクの妹が、翼を持たない〝人の子〟ってどういうことなんですかっ!」
説明! 説明してください、父さん!
「しかたないだろう。森で拾ったんだから」
「拾った?」
思わず、顔をしかめる。
「かわいそうになあ。森でさまよってたんだよ、この子は」
うーんと、父さんがあごに手を当てた。
「人に捨てられたのか、なんなのか。あまりにかわいそうだから、拾ってきたんだよ」
そんな。
森で、巣から落ちたヒナ鳥を拾ってきましたー! みたいなかんじで、軽く言われても。
「なら、人の里に返してくればいいじゃないですか!」
森のものは森に返す。人のものは人に返す。
「薄情だなあ、ハヤブサは。こんなに弱ってるのに、助けてやろうって思わないのかい?」
「助けてやるのと、妹にするのは別の話です! 助けるのなら、ちょっと食べ物を分け与えるだけでいいじゃないですか!」
そうして、無事に人のもとに返してあげれば。妹になんてしなくても。
「母さんや、わが息子はどこで育て方を間違ったんだろうねえ」
大げさにため息をついた父さん。
「こんなかわいい子を、ちょっと食べ物与えただけで、また捨てろって言うんだよ。母さんや、わしがふがいないばかりに、ハヤブサは、こんな冷たい子に育ってしまった。男親一人、仕事にかまかけてたのが、いけなかったのかねえ」
ヨヨヨヨヨ。
父さんの泣き真似。
「かってに、死んだ母さんにすがらないでください、父さん!」
「だってねえ。こんな冷たい息子に育ったことを、母さんにわびなければいけないじゃないか」
「ボクは冷たくもなければ、母さんにわびなきゃいけないような子じゃないです!」
「なら、この子の世話をまかせた」
え?
「わしは族長として、なにかと忙しいからな。やさしいやさしいお前が、この子の世話をしてやってくれ」
ハメられた――!
気づいたときにはもう遅い。
「じゃっ!」と、軽く手を上げ、翼をはばたかせて飛んだ父さん。
残されたのは、ボクと、人の子。
これが妹?
チラリと、盗み見るように、それを見る。
ボサボサの髪、ボロボロの服、ガリガリの体。肌は土で汚れて、目ばっかりギョロギョロしてて。〝土グモの子ども〟って言ったほうが納得できそうな姿。
なにより、その背中には翼がない。人の子ども。
こんなのが妹だなんて。ボクは、絶対認めませんからね、父さん!
突然どこかへ出かけていた父さんが、突然妹をつれて帰ってきた。
急に、どこに行ってたんだよ。とか。どこに行くかぐらい言い残して行けよ。とか。勝手にいなくなったせいで、仕事がたまってるんですよ。とか。
そういう文句を言いたかったのに。
妹?
ボクの?
この子が?
ちょっと出かけて、めずらしいおみやげを持って帰ってきた、みたいな調子で父さんは紹介したけど。
「この子、翼がない!」
ボロボロのみすぼらしい服。髪もボサボサで肌も汚い。服からのぞく腕も足もガリガリで……って、そこはまあいい。けど。
翼がない。
ガリガリの体だから、翼もちょっぴりで、隠れて見えないとかじゃない。羽根をむしり取られたとか、そういうのでもない。
もとから、その背中には、翼が生えてない。
「当たり前じゃないか。人の子なんだから」
なにをバカなことを言ってるんだ? キョトンとした父さん。
「えっと。ちょっ、待って。人の子が妹って……」
理解が追いつかない。
「父さんは、族長だよね」
「そうだな」
「立派な翼を持つ、鳥人族の長だよね」
「そうだな。というか、〝立派な〟って。照れるね」
「その族長の子がボクだよね」
「そうだな。お前も、なかなかいい翼を持ってるぞ、ハヤブサ」
「そのボクの妹が、翼を持たない〝人の子〟ってどういうことなんですかっ!」
説明! 説明してください、父さん!
「しかたないだろう。森で拾ったんだから」
「拾った?」
思わず、顔をしかめる。
「かわいそうになあ。森でさまよってたんだよ、この子は」
うーんと、父さんがあごに手を当てた。
「人に捨てられたのか、なんなのか。あまりにかわいそうだから、拾ってきたんだよ」
そんな。
森で、巣から落ちたヒナ鳥を拾ってきましたー! みたいなかんじで、軽く言われても。
「なら、人の里に返してくればいいじゃないですか!」
森のものは森に返す。人のものは人に返す。
「薄情だなあ、ハヤブサは。こんなに弱ってるのに、助けてやろうって思わないのかい?」
「助けてやるのと、妹にするのは別の話です! 助けるのなら、ちょっと食べ物を分け与えるだけでいいじゃないですか!」
そうして、無事に人のもとに返してあげれば。妹になんてしなくても。
「母さんや、わが息子はどこで育て方を間違ったんだろうねえ」
大げさにため息をついた父さん。
「こんなかわいい子を、ちょっと食べ物与えただけで、また捨てろって言うんだよ。母さんや、わしがふがいないばかりに、ハヤブサは、こんな冷たい子に育ってしまった。男親一人、仕事にかまかけてたのが、いけなかったのかねえ」
ヨヨヨヨヨ。
父さんの泣き真似。
「かってに、死んだ母さんにすがらないでください、父さん!」
「だってねえ。こんな冷たい息子に育ったことを、母さんにわびなければいけないじゃないか」
「ボクは冷たくもなければ、母さんにわびなきゃいけないような子じゃないです!」
「なら、この子の世話をまかせた」
え?
「わしは族長として、なにかと忙しいからな。やさしいやさしいお前が、この子の世話をしてやってくれ」
ハメられた――!
気づいたときにはもう遅い。
「じゃっ!」と、軽く手を上げ、翼をはばたかせて飛んだ父さん。
残されたのは、ボクと、人の子。
これが妹?
チラリと、盗み見るように、それを見る。
ボサボサの髪、ボロボロの服、ガリガリの体。肌は土で汚れて、目ばっかりギョロギョロしてて。〝土グモの子ども〟って言ったほうが納得できそうな姿。
なにより、その背中には翼がない。人の子ども。
こんなのが妹だなんて。ボクは、絶対認めませんからね、父さん!
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