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第43話 それからのこと。これからのこと。

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 あれから。

 殿下は、お嬢さまとの婚約を正式に破棄された。
 嫌いになったとか、断罪とかそういうのじゃなく、円満に、平和的に婚約を解消されたのだ。
 と同時に、お嬢さまはイェルセンさまと婚約を発表された。
 これには、学園のお嬢さま方はかなり驚かれていたけど、「それもアリですわぁ」とウットリされる方もいたのは事実。お嬢さまと執事の禁断の愛!? 的な。皆さま、懐が広いです。
 公爵さまも、今回の魔法具の不正取引の件でイェルセンさまの活躍を見て、お二人の仲をお認めになったらしい。と言うのが建前。
 実際は、娘にデレッデレな公爵さまがお嬢さまに反対するなんてことはなく、二つ返事で認めたんだとか。イェルセンさまを養子に迎えることで、お嬢さまが家に留まることになるんだし。うん、あの公爵さまならそうだろうな。反対する理由もないもんね。
 国王陛下をはじめ王室の方々も、帝国の謀略を未然に防いだ行賞として、公爵家を断罪することなく、婚約破棄に応じたんだそうだ。当の本人である殿下が文句を言わないんだもん。それ以上のことは口を挟めなかったようだ。

 そのもう一方で、ミサキさまも、電撃的に婚約を発表された。
 お相手はもちろん、ライネルさん。
 実は、後になってわかったんだけど、ミサキさまのご実家、伯爵家も不正取引に関わっていたらしい。取り引きの場を公爵家の領地にしたのは、この伯爵の入れ知恵。バレたときに、罪を公爵さまになすりつけるつもりだったんだって。サイテー。
 ミサキさまご自身は知らなかったとはいえ、伯爵家はお取り潰し、身分は平民へと落とされた。ただ、聖女であることは間違いないから、この先も、人々の癒しを続けることを条件づけられた。もちろん、ミサキさまは了承されている。
 ライネルさんの雇われ先の店、主である老夫婦が引退を考えているらしくって、その店をライネルさんが継ぐことになり、結婚後は、城下で二人、雑貨店を営みながらの聖女活動となるらしい。
 愛する人と、二人でお店を。
 なんだろ、ちょっとだけ憧れる。

 それと、もう一つ重大発表。
 神殿のことなんだけど、あの事件で神官長が行方不明となったことで、オーウェンさまが神官長に抜擢された。
 なんでも、ミサキさまからの強い推薦があったとかで。この先、新たな乙女のために、オーウェンさまがその地位に就いていらしたほうが都合がいいのだとか。

 …………新たな乙女。

 って、あたしのことだ。
 あれから、あたしの生活は少し変わった。
 お嬢さまのお世話は元通りなんだけど、それ以外に、神殿でオーウェンさまにさまざまな歌を学ぶようになった。
 すべては二年後の帝国侵略に備えて。少しでもやれることはやっておいた方がいい。そういうことらしく、庶民のくせに、神殿の最奥まで入らせていただいてる。

*     *     *     *

 「少し、休憩いたしましょうか」

 神殿の中庭。
 オーウェンさまのお言葉に、あたしは歌うのをやめた。
 目を開けてみれば、木々はいつも通りの姿で、風に枝葉をそよがせている。この間のように歌のせいでイキナリ成長っ!! ってことになってなくて、少しだけホッとする。
 実はあれ以来、歌うのがちょっとだけ怖いというか。下手なことをしてまた何かを成長させたらどうしようって思うと、好きに歌うのが難しくって。

 「お茶、淹れますね」

 あたしのために竪琴を弾いてくださったオーウェンさまのために、お茶の用意をする。

 「お茶か」

 ノソリと、守護獣さまが起き上がる。あたしが歌ってる間、ずっと守護獣姿で寝そべっていたのだ。あたしが歌うことで、魔力が満ちるらしく元の姿に戻れるらしい。

 「火をお願いできますか?」

 答えるより前に、軽くポットセットに火が灯る。ホント、こういうとき、魔法って便利ね。

 「我の分も用意せよ、乙女」

 ポンッと軽妙な音を立てて、今度は人型になった。うーん、変幻自在。
 オーウェンさまも苦笑しながら、席に着く。
 お二人と、自分の分を用意してあたしも席に着く。今日は、ルッカさま直伝のカモミールティー。少し甘いリンゴのような香りに癒される。

 「魔力が安定してきましたね、リュリ」

 「えっ!? 本当ですか!?」

 「ええ。無秩序に草花が成長しなくなりましたから」

 ほら、と、オーウェンさまが花壇を指さされた。そこにあったのは、小さな紫の花。え!? でもあれ、スミレ……。後ろにあるバラと一緒に咲いちゃってるけど、あれ、どっちも季節が違うような……。

 「……、まだまだだな」

 お茶をすすりながらセルヴェスティが言った。
 うん。その通りだと思います。

*     *     *     *
 
 神殿からの帰りは、セルヴェスティの背中に乗って、ビューンと空を飛ぶ。
 高いところは、正直得意じゃないし、恐れ多いから歩いて帰ると言ったのだけど、これは、殿下やアウリウスさまからも反対された。
 またいつドルティニア帝国が狙ってくるかわからないからダメなんだそうだ。
 下手に歩いて帰るって言おうものなら、それこそ騎士団一つぐらい護衛につける。そう脅された。実際、こうやって神殿に訪れるのに、アウリウスさまは、護衛に着くと最後まで譲らなかったぐらいだし。まあ、セルヴェスティの「男を乗せる趣味はない」の一言で却下されたけど。

 「あ、そうだ。今日は、このまま学園に飛んでもらってもよろしいですか!?」

 背中から声をかける。

 「どうした!? 何かあるのか?」

 「今日なんですよ、卒業パーティ」

 本来なら、朝からお嬢さまの準備をお手伝いをしたかったのだけど、「リュリは、やることをやってきなさい」と追い出されたのだ。
 今からでもお支度の手伝いは間に合うだろうから、このまま学園に向かいたい。

 「わかった。しっかりつかまっていろ」

 そう言うと、ギューンと方向転換される。

 あわわわわっ。
 慣れないあたしは、必死にしがみつくしかない。

*     *     *     *

 「先生!? お邪魔しますね」

 一言かけてから、窓からの侵入。セルヴェスティで訪れる場合、いつもここからお邪魔させてもらっている。他の場所だと目立ちすぎて、あたしが恥ずかしい。

 「ああ、リュリか」

 あたしの言葉に反応するように、奥からレヴィル先生が顔を出した。ネクタイと格闘しているのか、手はずっと首元に持って行ったままだ。

 「……お手伝いしましょうか?」

 「ああ、すまないな。首元など自分で見ることが出来ないから、なかなか難しい」

 ンッと軽く胸を突き出される。
 ゴツイ先生なのに、こういうところは少しカワイイ。

 「出来ましたよ」

 「んっ、すまないな」

 軽く首を動かして、礼を言われた。

 「ところで、リュリ。お前、卒業パーティに参加するために来たのか?」

 「うえっ!? まさか。お嬢さまのお手伝いをするためですよ」

 どうして、あたしが参加する話になってるの!?
 レヴィル先生が顎で扉を指し示す。
 不思議に思っていると、廊下のあたりが急に騒がしくなった。

 「こちらですわねっ!! 失礼しますっ!!」

 声と同時に勢いよく扉が開け放たれる。

 「ああ、やはりこちらにいらっしゃいましたわっ!!」

 「もう時間がありませんわっ!! お急ぎくださいな」

 ……って、なに、なに、ナニッ!?

 あたしを連行していく、学園のご令嬢たち。知らない部屋に放りこまれ、そこにいたのは、ドレスだのコルセットだのを持ってあたしを待ち構えていたメイドさんたち。

 「殿下からのご指示よ。さあ、今夜の主役らしく仕立ててあげてちょうだいっ!!」

 その言葉を合図に、次々にあたしのドレスや下着は剥ぎ取られていった。

 ギャーッ!! エッチィッ!!
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