38 / 44
第38話 いざ、決戦っ!!
しおりを挟む
夜明けとともに、動き出す。
まだ眠い!? もう少しだけ!?
そんなこと言ってる余裕はない。
目を覚ますと、簡単に身だしなみを整える。といってもいつも通りの藍色のドレスに、いつも通りのおだんご頭。お嬢さまみたいなクリノリンはつけてない。重ねるペチコートは最小限。見た目より、動きやすさ重視。
あたしに何が出来るかわからない。この先、何が起きるかわからない。
女神の娘だなんて言われたけど、本当にそうなのかなんてわからない。
わからないことだらけ。
不安もある。怖いとも思う。
だけど、逃げ出したってどうにもならない。
ミサキさまを取り戻して、お嬢さまにかけられた冤罪を晴らして。
お嬢さまを、「お帰りなさいませ」とお迎えするまでは、あたしは頑張らなくっちゃいけない。それが身代わりの務め。
幸い、あたしは一人じゃない。
皆さまが協力してくれる。助けてくれる。
だから、あたしは前へ進む。
「うおっしゃあああぁっ!!」
気合いだけは一人前。
* * * *
あたしが部屋から出ると、皆さま、すでに準備を終えられていた。
アウリウスさまだけでなく、殿下やルッカさま、ライネルさんまで佩剣なさってる。
オーウェンさまは、いつものように竪琴。レヴィル先生は、指輪など、魔法具を身に着けていらっしゃった。
いよいよなんだ。
皆さまの出で立ちに、ゴクリと唾を飲み込む。
「あー、やっぱ慣れねえな、こういうもんは」
腰に下げた剣を気にしながら、ライネルさんが近づいてきた。剣と言っても、ライネルさんの場合は、長剣ではなく、短剣。
「でも、なんだかさ、ガキのころにやったチャンバラごっこを思い出して、少しワクワクする」
あー、確かに。「お姫さまをお救いせよ!!」的な。大抵、その場合のお姫さまは、村の一番カワイイ子で、あたしは、勇者についてく忠犬的な立場だったけど。ワオン。
「まあ、あんたは小っちゃいんだから、ムリすんなよ」
またクシャッて上から頭を撫でられた。
完全なる妹扱い。でも、ライネルさん、お兄さんっぽいから許せちゃう。
「12、3歳ぐらいだろ、あんた。そんなおチビちゃんに無茶はさせられねえよ」
……おっ、おチビッ!! 12、3さっ……!!
ブッと、誰かが吹き出す音が聞こえた。
あ、アウリウスさまっ!! 肩揺れてるっ!! 殿下も、どこ向いちゃってるですかあっ!!
「…………15です。これでも」
声が震えた。
「えっ!? ウソだろ!?」
正解を求めるかのように、ライネルさんが辺りを見回す。
その様子にこらえきれなかったように、ルッカさまが爆笑した。続いてレヴィル先生も。
オーウェンさんは笑わなかったけど、別に優しいからというのではなく、ライネルさん同様、あたしが15だってことに驚いてるから笑わなかっただけ。
爆笑組と、そうでない組に別れたけど、そうでない組は、ただあたしの年齢に驚いている。
「や、すまない、リュリ」
目じりをこすりながら殿下が近づいてきた。
「ライネルの言う通りだ。きみに無茶はさせない」
笑いを収めながら言われても。
……って、えっ!?
手を取られて、スッと殿下が片膝をついた。そしてそのまま手の甲にキスッ!!
戸惑うあたしを見上げて、柔らかく微笑まれる。
「きみは、僕たちの大切なお姫さまだからね。何があっても、僕たちが守るよ」
それは、まるでおとぎ話の王子さまのようで。いや、実際、殿下は王子だけど。
その夢のような状況に、思わずポーッとなってしまう。
「……リュリ?」
「あ、はい。すみません。ありがとうございます」
いけない、いけない。殿下に見とれてる場合じゃないのよ。
あたしたちは、これから囚われの姫君を救出しなくちゃいけない。暗黒竜に囚われた聖女。うん。これぞまさしく騎士道物語的ヒロイック展開!!
いざ行かん、魔王のもとへ!!
あたしの肩に、ピョンとセルヴェが飛び乗った。
それを合図に、扉に手をかける。
さあ、冒険はここからだ!!
* * * *
学園を出た馬車は、神殿を目指す。
聖獣さまがおっしゃるには、そこに一番闇の魔力が溜まっているのだいう。
「……神殿の者たちは、大丈夫なのでしょうか」
心配そうにオーウェンさまが問うた。
「あの魔力に気づいておれば、あの地からは離れておるだろう」
「はい」
「あれだけの魔力だ。よほどのことがない限り、気づかぬことはない」
その言葉に、窓から神殿を見上げる。
あたしの目でも見えるぐらい、そこは黒い靄のようなものを発していた。こんな状況でもなかったら、多分近づきたくないと思ったに違いない。
乗ってきた馬車も、御者さんと馬のことを考えて、早々に引き返してもらった。何が起きるかわかんないしね。
(さて……)
肩からピョンと降りたセルヴェが守護獣姿に変身する。ここからは、魔力の節約だのなんだと言ってられないということだ。
自然と、口元がギュッと引き締まる。心臓がバクバクする。
守護獣の姿となったセルヴェには、どこに向かえばいいのか、察知することが出来るらしい。
「こっちだ」
短く告げて、皆を先導する。
そこは、昨日あたしが異端審問にかけられた場所。
半分瓦礫と化した大きな空間。
そして。
「やあ、よく来たね、女神の娘」
闇に浮かぶ子どもの姿。
まだ眠い!? もう少しだけ!?
そんなこと言ってる余裕はない。
目を覚ますと、簡単に身だしなみを整える。といってもいつも通りの藍色のドレスに、いつも通りのおだんご頭。お嬢さまみたいなクリノリンはつけてない。重ねるペチコートは最小限。見た目より、動きやすさ重視。
あたしに何が出来るかわからない。この先、何が起きるかわからない。
女神の娘だなんて言われたけど、本当にそうなのかなんてわからない。
わからないことだらけ。
不安もある。怖いとも思う。
だけど、逃げ出したってどうにもならない。
ミサキさまを取り戻して、お嬢さまにかけられた冤罪を晴らして。
お嬢さまを、「お帰りなさいませ」とお迎えするまでは、あたしは頑張らなくっちゃいけない。それが身代わりの務め。
幸い、あたしは一人じゃない。
皆さまが協力してくれる。助けてくれる。
だから、あたしは前へ進む。
「うおっしゃあああぁっ!!」
気合いだけは一人前。
* * * *
あたしが部屋から出ると、皆さま、すでに準備を終えられていた。
アウリウスさまだけでなく、殿下やルッカさま、ライネルさんまで佩剣なさってる。
オーウェンさまは、いつものように竪琴。レヴィル先生は、指輪など、魔法具を身に着けていらっしゃった。
いよいよなんだ。
皆さまの出で立ちに、ゴクリと唾を飲み込む。
「あー、やっぱ慣れねえな、こういうもんは」
腰に下げた剣を気にしながら、ライネルさんが近づいてきた。剣と言っても、ライネルさんの場合は、長剣ではなく、短剣。
「でも、なんだかさ、ガキのころにやったチャンバラごっこを思い出して、少しワクワクする」
あー、確かに。「お姫さまをお救いせよ!!」的な。大抵、その場合のお姫さまは、村の一番カワイイ子で、あたしは、勇者についてく忠犬的な立場だったけど。ワオン。
「まあ、あんたは小っちゃいんだから、ムリすんなよ」
またクシャッて上から頭を撫でられた。
完全なる妹扱い。でも、ライネルさん、お兄さんっぽいから許せちゃう。
「12、3歳ぐらいだろ、あんた。そんなおチビちゃんに無茶はさせられねえよ」
……おっ、おチビッ!! 12、3さっ……!!
ブッと、誰かが吹き出す音が聞こえた。
あ、アウリウスさまっ!! 肩揺れてるっ!! 殿下も、どこ向いちゃってるですかあっ!!
「…………15です。これでも」
声が震えた。
「えっ!? ウソだろ!?」
正解を求めるかのように、ライネルさんが辺りを見回す。
その様子にこらえきれなかったように、ルッカさまが爆笑した。続いてレヴィル先生も。
オーウェンさんは笑わなかったけど、別に優しいからというのではなく、ライネルさん同様、あたしが15だってことに驚いてるから笑わなかっただけ。
爆笑組と、そうでない組に別れたけど、そうでない組は、ただあたしの年齢に驚いている。
「や、すまない、リュリ」
目じりをこすりながら殿下が近づいてきた。
「ライネルの言う通りだ。きみに無茶はさせない」
笑いを収めながら言われても。
……って、えっ!?
手を取られて、スッと殿下が片膝をついた。そしてそのまま手の甲にキスッ!!
戸惑うあたしを見上げて、柔らかく微笑まれる。
「きみは、僕たちの大切なお姫さまだからね。何があっても、僕たちが守るよ」
それは、まるでおとぎ話の王子さまのようで。いや、実際、殿下は王子だけど。
その夢のような状況に、思わずポーッとなってしまう。
「……リュリ?」
「あ、はい。すみません。ありがとうございます」
いけない、いけない。殿下に見とれてる場合じゃないのよ。
あたしたちは、これから囚われの姫君を救出しなくちゃいけない。暗黒竜に囚われた聖女。うん。これぞまさしく騎士道物語的ヒロイック展開!!
いざ行かん、魔王のもとへ!!
あたしの肩に、ピョンとセルヴェが飛び乗った。
それを合図に、扉に手をかける。
さあ、冒険はここからだ!!
* * * *
学園を出た馬車は、神殿を目指す。
聖獣さまがおっしゃるには、そこに一番闇の魔力が溜まっているのだいう。
「……神殿の者たちは、大丈夫なのでしょうか」
心配そうにオーウェンさまが問うた。
「あの魔力に気づいておれば、あの地からは離れておるだろう」
「はい」
「あれだけの魔力だ。よほどのことがない限り、気づかぬことはない」
その言葉に、窓から神殿を見上げる。
あたしの目でも見えるぐらい、そこは黒い靄のようなものを発していた。こんな状況でもなかったら、多分近づきたくないと思ったに違いない。
乗ってきた馬車も、御者さんと馬のことを考えて、早々に引き返してもらった。何が起きるかわかんないしね。
(さて……)
肩からピョンと降りたセルヴェが守護獣姿に変身する。ここからは、魔力の節約だのなんだと言ってられないということだ。
自然と、口元がギュッと引き締まる。心臓がバクバクする。
守護獣の姿となったセルヴェには、どこに向かえばいいのか、察知することが出来るらしい。
「こっちだ」
短く告げて、皆を先導する。
そこは、昨日あたしが異端審問にかけられた場所。
半分瓦礫と化した大きな空間。
そして。
「やあ、よく来たね、女神の娘」
闇に浮かぶ子どもの姿。
0
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる