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それからのこと。
番外編2 あこがれ騎士さまの妻も大変です。
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これは、――媚薬?
家に運び込んだリリーが見せる症状。
寝台の上に横たわる彼女は、ハアハアと浅い息をくり返し、時折身体をヒクヒクと震わせる。モジモジと膝をすり合わせ、なにかを我慢するような仕草をくり返す。
開いた口元に近づき、その甘すぎる呼気から、媚薬を盛られていることを確信する。
――でも、誰が?
一瞬浮かんだ疑問は、即座に答えを得る。
――王妃殿下だ。
私が妃殿下の元を訪れた時、リリーは出された茶を飲んでいた。
数年ぶりに帰ってきた侍女に茶をふるまう。歓談の場に茶が出される。そのことに違和感はないが、あの妃殿下がなにもしないわけがなかったのだ。
なんたって、私とリリーが両想いなことを知って、命令で結婚させるようなお人だからな。
私達の気持ちを知っていたのなら、結婚を命じるより先に、そのことを伝えてくれればよかったのに、黙って私達の反応を楽しんでいらした。人の恋路を応援するつもりがないわけではないのだろうが、少し意地が悪い。
まあ、妃殿下の性格は、乳兄妹の私が一番存じ上げていることだが。
あのイタズラ好きな性格。
今まで私だけでなく、婚約者であった国王陛下も散々ふりまわされてきた。王妃となり、国母となって少しは落ち着いたかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
王子殿下の友だちがほしいとおっしゃっていたが、だからといって、リリーに媚薬を盛って良いことにはならない。
いや、殿下の友だちは建前で、本音は媚薬でどうしようもなくなったリリーを前に慌てる私を楽しみたいと思っていらっしゃるのだろう。友だちは、あわよくば身ごもればいい程度で、本心は私達の関係をからかって遊びたいのだろう。
いくら主君とはいえ、さすがにこれはお諌めしなくては。
結婚もそうだが、こんな私的な部分までもてあそばれるいわれはない。
乳兄妹として、一番身近で育った者として、度が過ぎるイタズラには毅然と抗議しなくては。
――いや。
軽く額を押さえ、首をふる。
今考えるべきは、妃殿下のその性格をどう諫めるべきかではなく、その性格によってもたらされた結果をどう処理するべきか、だ。
寝台の上で、苦しそうな息を漏らすリリーをそのままにしておけない。
まったく余計なことを。
「リリー……」
彼女の服をゆるめ、熱く火照った身体に触れる。
「エ、エディルさ、ま……」
甘い吐息に混じって呼ばれた名前。
理性も何もかも吹き飛びそうだ。
* * * *
カラダ……なんか、ヘン。
さっきから熱くて熱くて。
身体の奥のほうが疼いて仕方ない。
頭はボーッとしてくるし、どうしようもなく――欲しい。我慢がきかない。
エディルさまにたくさん愛していただければ、この疼きも熱も治まる。そう本能が告げてる。
いっぱいいっぱい愛していただければ……。
(って、ダメ!! ダメよ、ダメッ!! そんな恥ずかしいこと、絶対言えないっ!!)
いくら結婚してるからって、そんなこと求めたら、きっと呆れられちゃう。ううん。それどころか、軽蔑され嫌われちゃう。
浅い息だけくり返し、なんとか冷静に戻れるように、新鮮な空気を取り入れる。
このまま一晩休んだら、あるいは時間が経てば、この疼きも治まる?
「……苦しいのですか?」
遠慮がちに伸ばされたエディルさまの手。
「だっ、大丈夫です、から……!!」
お願い。触らないで。放って置いて。
でないと、わたし……。
「あっ、あぁん……!!」
かするように触れたエディルさまの指。それだけで、自分でも信じられないほど甘ったるい声がこぼれた。身体が弓なりにしなる。頬に触れられただけなのに、ゾクゾクッとした快感が身体の奥底から駆け上がってくる。
「リリー?」
「だ、大丈夫ですからっ、放って置いて、あっ、はぁん……!!」
「ダメですよ。こんな状態のアナタを放ってなんて置けません」
わたしの吐息をふさぐように重ねられた口づけ。
もうそれだけで、身体がビクビクッと震え上がる。エディルさまを求めて身体の奥がとろけだす。
「妃殿下の罠にもてあそばれるのは不本意ですが……。今は、リリー、アナタを助けることが大事ですから」
王妃さまの罠?
ナニ……ソレ。
ボーッとする頭では深く考えられない。
「アナタを癒やすために、いつもより激しくしますが……。許してください」
「え? あっ、あぁん……!! んあっ、ひっ……!!」
エディルさまの口づけが、唇から首筋、鎖骨へと緩やかに滑り落ちていく。同時にシュルシュルッと脱がされてく、わたしの服。あらわになった肌に、エディルさまの熱くて大きい手が触れる。
「あっ、うん、ひぃあっ、あっ……!!」
「リリー、辛いでしょうが、がんばってください。アナタを癒やすにはこれしかないのです」
触れられるたび、身体が大きくのけ反る。その身体を抑えるように続けられるエディルさまの愛撫。
頭の中真っ白どころか、時折わけわかんなくなって、ポーンッと自分がどこかに消えちゃうんだけど、すぐに、エディルさまの手に口づけに現実へと引き戻される。
「リリー、愛してます、リリー」
途切れ途切れになる意識の合間に聞こえる、エディルさまの声。
うれしいとか気持ちいいとか、もうそんなのもまったくわかんなくって。ただひたすら必死にエディルさまにすがりついて喘ぎ続ける。
今がいつなのか、どれだけ愛され続けてるのか。もうそんなこともどうでもよくって。
重ね合わせた肌、絡まる吐息、匂い、熱、音。
エディルさまを受け止めることで精一杯で。エディルさまで、わたしのなかが満たされて。わたしのすべてがエディルさまに染め上げられていくような感覚。
もう、ダメ。わたし、わたし……っ!!
「――――ッ!! ああっ!!」
何度目かの熱が身体のなかで弾ける。そのしびれるような甘くとろけるような衝撃が、頭のてっぺんから、つま先までビリビリと伝わって、身体を大きく反らし、ビクビクッと身体を震わせ硬直させる。
(もう……ダメ……)
力とともに、意識が身体から抜け落ちていく。クニャンとなった身体を、エディルさまが受け止めてくださった。
「リリー? しっかりしてください、リリーッ!!」
すみません、エディルさま。わたし、もう限界です……。
* * * *
「――え? リリーが気絶した? 嘘?」
「本当です。――彼女は、リリーはそれでなくても感じやすい性質たちなのです」
今日、彼女が仕事を休む理由を妃殿下にお伝えしに来たのだが――、苛立った物言いになってしまっているのは自分でも自覚している。
妃殿下があんなことをしなければ。彼女に媚薬など盛られなければ。
「ってことは、もしかして、そういうことヤッてない……の?」
私の顔色を窺うように上目使いでこちらを見る妃殿下。その後ろで侍女頭殿が盛大な咳払いをした。
「私的なことなので、くわしくはお答えできかねますが。彼女は、子を孕んでおりません」
「嘘!! っていうか今までにも、そういうこと、してないの?」
侍女頭殿の連続咳払い。
「――彼女は、まだ乙女です」
これは、洗いざらい話すまで止めないつもりだな。
長年のつき合いから観念して、夫婦の秘め事を話す。
「妻はまだ幼くて、私を受け止めきれないんですよ。精一杯努力してくれますが、すぐに気を失ってしまうんです」
あの村での結婚式の後。
当然ながらというか、村人たちに冷やかされながらというか、祝宴の後、夫婦としての営みを試みている。
仮とはいえ、神の御前で誓いあった夫婦。両思いであることも確かめあった仲なのだから、そういうことをしてもなんら問題ない。
誠心誠意彼女を愛そうと思ったのだが。
予想に反してというか、想定外というのか。
彼女は感じやすい性質なのか、私の愛撫に耐えきれず、何度も気を失う事態となっていた。口づけや抱擁ぐらいならまだなんとかなるが、その先となると、クタッと意識を失くす。最初は緊張しているからそうなるのかと思ったが、王都に戻る道中、何度試しても彼女は感じすぎるあまり営みの途中で気を失っていた。
私との睦事に感じてない、嫌々肌を重ねようとしてるわけじゃないのは、目を覚ました時の彼女の申し訳無さそうな顔を見れば明らかだった。いつも、「申し訳ありません」とか、「今度こそ、頑張ります」とか謝罪してくる。
頑張ってもらってすることでもないしな。
むしろ、そこまで感じさせてしまってるこちらが罪悪感を覚える。泣きそうな、萎びた花のような顔を見ていると、申し訳なくなってくる。
自然に、互いに愛し合って感じ合うことができれば。
急がなくてもいい。夫婦になったのだから、おいおい、ゆっくりと愛を育んでゆけば。少しずつ、夫婦として愛し合い方を模索していければ。
そう思っていたのに、媚薬で苦しむ彼女を見て、癒やしてあげたいという建前と、甘くとろけた彼女を抱きたいという本音のもと、忘我のうちに彼女を愛撫してしまった。
そうでなくても媚薬のせいで異常に敏感になっていた彼女が、私の欲望に耐えられるはずもなく、最終的に行為に至る寸前で彼女は完全に意識を失ってしまった。
当然、気を失った彼女を抱くことは出来ず――現在に至る。
普段以上に感じすぎたせいで、未だに彼女は寝台でグッタリと横たわっている。おそらく、今日一日、彼女が動くことは難しだろう。
「……まさか、そんなことになってるなんて。――ゴメンナサイ」
しおらしく、妃殿下が謝罪の弁を述べる。
イタズラ好きではあるが、謝るべきところはキチンとわきまえていらっしゃるらしい。
「にしても、リリーがそんな性質だなんて。アナタも苦労するわねえ、エディル」
頬に手を当て、ため息交じりに同情的な視線を送ってくる妃殿下。「余計なお世話だ」という言葉が喉の奥まで出かかる。
「それでは、私はこれで。妻の看病がございますので。失礼いたします」
クルリときびすを返し、足早に退出する。
リリーの容態が、少しでも回復していればいいが。
朝、出かける時に見た様子だと、おそらく、今日一日口づけすら厳しいかもしれない。
愛おしい相手の媚態だけ見せられて、それ以上のことをしてはならぬとは。拷問にも等しい行為だな。
耐えられるのか? いや、耐えねばならぬのだろう。彼女を愛すればこそ、己の欲望を封じ込めねばなるまい。誤解から生まれたすれ違いのせいで彼女を失いかけ、探し求めて旅した時のことを思えば、それぐらい容易いことだ。
いつかきっと彼女と愛し合い、身も心も真の夫婦となる。
そんなことを考えながら、王宮の庭園に立ち寄ると、懇意にしてる年配の庭師から、少しだけ花を分けてもらう。
庭園で咲き誇るバラに寄り添うように小さく咲く薄青色の花。トゥイーディア。
この花を贈るぐらいなら、許されるだろうか。
申し訳なく思ってるだろう彼女を、少しでも笑顔にできるだろうか。
トゥイーディアの花言葉は、「幸福な愛」「信じあう心」。
花に意味があることは承知している。今まで彼女に贈ってきた花は、すべて意味をわかった上での贈り物だ。彼女がそのことに気づいているかどうかは知らないが、花師である彼女なら、その意味を汲み取って喜んでくれると期待している。
幸福な愛。信じる心。
その言葉に勇気づけられるように、薄青色の花束を抱え、彼女の元へと家路を急いだ。
家に運び込んだリリーが見せる症状。
寝台の上に横たわる彼女は、ハアハアと浅い息をくり返し、時折身体をヒクヒクと震わせる。モジモジと膝をすり合わせ、なにかを我慢するような仕草をくり返す。
開いた口元に近づき、その甘すぎる呼気から、媚薬を盛られていることを確信する。
――でも、誰が?
一瞬浮かんだ疑問は、即座に答えを得る。
――王妃殿下だ。
私が妃殿下の元を訪れた時、リリーは出された茶を飲んでいた。
数年ぶりに帰ってきた侍女に茶をふるまう。歓談の場に茶が出される。そのことに違和感はないが、あの妃殿下がなにもしないわけがなかったのだ。
なんたって、私とリリーが両想いなことを知って、命令で結婚させるようなお人だからな。
私達の気持ちを知っていたのなら、結婚を命じるより先に、そのことを伝えてくれればよかったのに、黙って私達の反応を楽しんでいらした。人の恋路を応援するつもりがないわけではないのだろうが、少し意地が悪い。
まあ、妃殿下の性格は、乳兄妹の私が一番存じ上げていることだが。
あのイタズラ好きな性格。
今まで私だけでなく、婚約者であった国王陛下も散々ふりまわされてきた。王妃となり、国母となって少しは落ち着いたかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
王子殿下の友だちがほしいとおっしゃっていたが、だからといって、リリーに媚薬を盛って良いことにはならない。
いや、殿下の友だちは建前で、本音は媚薬でどうしようもなくなったリリーを前に慌てる私を楽しみたいと思っていらっしゃるのだろう。友だちは、あわよくば身ごもればいい程度で、本心は私達の関係をからかって遊びたいのだろう。
いくら主君とはいえ、さすがにこれはお諌めしなくては。
結婚もそうだが、こんな私的な部分までもてあそばれるいわれはない。
乳兄妹として、一番身近で育った者として、度が過ぎるイタズラには毅然と抗議しなくては。
――いや。
軽く額を押さえ、首をふる。
今考えるべきは、妃殿下のその性格をどう諫めるべきかではなく、その性格によってもたらされた結果をどう処理するべきか、だ。
寝台の上で、苦しそうな息を漏らすリリーをそのままにしておけない。
まったく余計なことを。
「リリー……」
彼女の服をゆるめ、熱く火照った身体に触れる。
「エ、エディルさ、ま……」
甘い吐息に混じって呼ばれた名前。
理性も何もかも吹き飛びそうだ。
* * * *
カラダ……なんか、ヘン。
さっきから熱くて熱くて。
身体の奥のほうが疼いて仕方ない。
頭はボーッとしてくるし、どうしようもなく――欲しい。我慢がきかない。
エディルさまにたくさん愛していただければ、この疼きも熱も治まる。そう本能が告げてる。
いっぱいいっぱい愛していただければ……。
(って、ダメ!! ダメよ、ダメッ!! そんな恥ずかしいこと、絶対言えないっ!!)
いくら結婚してるからって、そんなこと求めたら、きっと呆れられちゃう。ううん。それどころか、軽蔑され嫌われちゃう。
浅い息だけくり返し、なんとか冷静に戻れるように、新鮮な空気を取り入れる。
このまま一晩休んだら、あるいは時間が経てば、この疼きも治まる?
「……苦しいのですか?」
遠慮がちに伸ばされたエディルさまの手。
「だっ、大丈夫です、から……!!」
お願い。触らないで。放って置いて。
でないと、わたし……。
「あっ、あぁん……!!」
かするように触れたエディルさまの指。それだけで、自分でも信じられないほど甘ったるい声がこぼれた。身体が弓なりにしなる。頬に触れられただけなのに、ゾクゾクッとした快感が身体の奥底から駆け上がってくる。
「リリー?」
「だ、大丈夫ですからっ、放って置いて、あっ、はぁん……!!」
「ダメですよ。こんな状態のアナタを放ってなんて置けません」
わたしの吐息をふさぐように重ねられた口づけ。
もうそれだけで、身体がビクビクッと震え上がる。エディルさまを求めて身体の奥がとろけだす。
「妃殿下の罠にもてあそばれるのは不本意ですが……。今は、リリー、アナタを助けることが大事ですから」
王妃さまの罠?
ナニ……ソレ。
ボーッとする頭では深く考えられない。
「アナタを癒やすために、いつもより激しくしますが……。許してください」
「え? あっ、あぁん……!! んあっ、ひっ……!!」
エディルさまの口づけが、唇から首筋、鎖骨へと緩やかに滑り落ちていく。同時にシュルシュルッと脱がされてく、わたしの服。あらわになった肌に、エディルさまの熱くて大きい手が触れる。
「あっ、うん、ひぃあっ、あっ……!!」
「リリー、辛いでしょうが、がんばってください。アナタを癒やすにはこれしかないのです」
触れられるたび、身体が大きくのけ反る。その身体を抑えるように続けられるエディルさまの愛撫。
頭の中真っ白どころか、時折わけわかんなくなって、ポーンッと自分がどこかに消えちゃうんだけど、すぐに、エディルさまの手に口づけに現実へと引き戻される。
「リリー、愛してます、リリー」
途切れ途切れになる意識の合間に聞こえる、エディルさまの声。
うれしいとか気持ちいいとか、もうそんなのもまったくわかんなくって。ただひたすら必死にエディルさまにすがりついて喘ぎ続ける。
今がいつなのか、どれだけ愛され続けてるのか。もうそんなこともどうでもよくって。
重ね合わせた肌、絡まる吐息、匂い、熱、音。
エディルさまを受け止めることで精一杯で。エディルさまで、わたしのなかが満たされて。わたしのすべてがエディルさまに染め上げられていくような感覚。
もう、ダメ。わたし、わたし……っ!!
「――――ッ!! ああっ!!」
何度目かの熱が身体のなかで弾ける。そのしびれるような甘くとろけるような衝撃が、頭のてっぺんから、つま先までビリビリと伝わって、身体を大きく反らし、ビクビクッと身体を震わせ硬直させる。
(もう……ダメ……)
力とともに、意識が身体から抜け落ちていく。クニャンとなった身体を、エディルさまが受け止めてくださった。
「リリー? しっかりしてください、リリーッ!!」
すみません、エディルさま。わたし、もう限界です……。
* * * *
「――え? リリーが気絶した? 嘘?」
「本当です。――彼女は、リリーはそれでなくても感じやすい性質たちなのです」
今日、彼女が仕事を休む理由を妃殿下にお伝えしに来たのだが――、苛立った物言いになってしまっているのは自分でも自覚している。
妃殿下があんなことをしなければ。彼女に媚薬など盛られなければ。
「ってことは、もしかして、そういうことヤッてない……の?」
私の顔色を窺うように上目使いでこちらを見る妃殿下。その後ろで侍女頭殿が盛大な咳払いをした。
「私的なことなので、くわしくはお答えできかねますが。彼女は、子を孕んでおりません」
「嘘!! っていうか今までにも、そういうこと、してないの?」
侍女頭殿の連続咳払い。
「――彼女は、まだ乙女です」
これは、洗いざらい話すまで止めないつもりだな。
長年のつき合いから観念して、夫婦の秘め事を話す。
「妻はまだ幼くて、私を受け止めきれないんですよ。精一杯努力してくれますが、すぐに気を失ってしまうんです」
あの村での結婚式の後。
当然ながらというか、村人たちに冷やかされながらというか、祝宴の後、夫婦としての営みを試みている。
仮とはいえ、神の御前で誓いあった夫婦。両思いであることも確かめあった仲なのだから、そういうことをしてもなんら問題ない。
誠心誠意彼女を愛そうと思ったのだが。
予想に反してというか、想定外というのか。
彼女は感じやすい性質なのか、私の愛撫に耐えきれず、何度も気を失う事態となっていた。口づけや抱擁ぐらいならまだなんとかなるが、その先となると、クタッと意識を失くす。最初は緊張しているからそうなるのかと思ったが、王都に戻る道中、何度試しても彼女は感じすぎるあまり営みの途中で気を失っていた。
私との睦事に感じてない、嫌々肌を重ねようとしてるわけじゃないのは、目を覚ました時の彼女の申し訳無さそうな顔を見れば明らかだった。いつも、「申し訳ありません」とか、「今度こそ、頑張ります」とか謝罪してくる。
頑張ってもらってすることでもないしな。
むしろ、そこまで感じさせてしまってるこちらが罪悪感を覚える。泣きそうな、萎びた花のような顔を見ていると、申し訳なくなってくる。
自然に、互いに愛し合って感じ合うことができれば。
急がなくてもいい。夫婦になったのだから、おいおい、ゆっくりと愛を育んでゆけば。少しずつ、夫婦として愛し合い方を模索していければ。
そう思っていたのに、媚薬で苦しむ彼女を見て、癒やしてあげたいという建前と、甘くとろけた彼女を抱きたいという本音のもと、忘我のうちに彼女を愛撫してしまった。
そうでなくても媚薬のせいで異常に敏感になっていた彼女が、私の欲望に耐えられるはずもなく、最終的に行為に至る寸前で彼女は完全に意識を失ってしまった。
当然、気を失った彼女を抱くことは出来ず――現在に至る。
普段以上に感じすぎたせいで、未だに彼女は寝台でグッタリと横たわっている。おそらく、今日一日、彼女が動くことは難しだろう。
「……まさか、そんなことになってるなんて。――ゴメンナサイ」
しおらしく、妃殿下が謝罪の弁を述べる。
イタズラ好きではあるが、謝るべきところはキチンとわきまえていらっしゃるらしい。
「にしても、リリーがそんな性質だなんて。アナタも苦労するわねえ、エディル」
頬に手を当て、ため息交じりに同情的な視線を送ってくる妃殿下。「余計なお世話だ」という言葉が喉の奥まで出かかる。
「それでは、私はこれで。妻の看病がございますので。失礼いたします」
クルリときびすを返し、足早に退出する。
リリーの容態が、少しでも回復していればいいが。
朝、出かける時に見た様子だと、おそらく、今日一日口づけすら厳しいかもしれない。
愛おしい相手の媚態だけ見せられて、それ以上のことをしてはならぬとは。拷問にも等しい行為だな。
耐えられるのか? いや、耐えねばならぬのだろう。彼女を愛すればこそ、己の欲望を封じ込めねばなるまい。誤解から生まれたすれ違いのせいで彼女を失いかけ、探し求めて旅した時のことを思えば、それぐらい容易いことだ。
いつかきっと彼女と愛し合い、身も心も真の夫婦となる。
そんなことを考えながら、王宮の庭園に立ち寄ると、懇意にしてる年配の庭師から、少しだけ花を分けてもらう。
庭園で咲き誇るバラに寄り添うように小さく咲く薄青色の花。トゥイーディア。
この花を贈るぐらいなら、許されるだろうか。
申し訳なく思ってるだろう彼女を、少しでも笑顔にできるだろうか。
トゥイーディアの花言葉は、「幸福な愛」「信じあう心」。
花に意味があることは承知している。今まで彼女に贈ってきた花は、すべて意味をわかった上での贈り物だ。彼女がそのことに気づいているかどうかは知らないが、花師である彼女なら、その意味を汲み取って喜んでくれると期待している。
幸福な愛。信じる心。
その言葉に勇気づけられるように、薄青色の花束を抱え、彼女の元へと家路を急いだ。
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記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
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ニッコリしていただけてヨカッタれす。
お読みいただき、ありがとうございました!!
とっても面白かったです。
リリーが可愛くって可愛くって!
エディルは前半のあまりのヘタレぶりにイライラしました。
しかし後半めちゃくちゃ苦労してる。
2年も探しまわり、ようやく会えたのに相手にしてもらえず、今度は両想いになれたのになかなかコトにおよべない。
エディルのせいでこじれたのでリリーが出奔したときはざまぁと思ったてど、最後まだいたせてないのを読んでさすがに気の毒になってきた。
ぜひ番外編でなんとかしてあげてほしいです。
感想、ありがとうございます。
ヘタレエディル……。
わたし的には、「恋愛に慣れてなくて、残念な不器用さん」のイメージだったんですが、まあ、「ヘタレ」ですよね、彼。(否定はしない)
最後まで致せてないのは、まあ……その……。「R18」になだれこんで、リリーに「あ♡あ♡」とか言わせてもいいけど、それは……まあ、ね。読者さんの中には未成年の方もいらっしゃるかもしれないので、番外編のあれが精一杯です。ごめんなさい。許せ、エディル。
お読みいただき、ありがとうございました!!
私も!イッキ読みさせていただきました!
パッと開いて興味を引かれ…あとは怒涛のように(^_^)v
何故にリリーを避けるのか、そこでまずモヤモヤしお互い言葉足らずやらすれ違いにモヤモヤし。
でもリリーの気持ちもよく分かり。
そしてエディルの実はリリー大好きで、わぁ❗と1人悶絶し(^^;
若返りたい衝動に駆られました。
まだ、続きます、よね?
本当にまだ読みたいのです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
感想、ありがとうございます。
イッキ読み……。(*´ω`*) うれしいです。でも、お目々、大丈夫ですか?
あの番外編の二つでこの物語は終わりになります。これ以上は、う~~~~ん、ひねり出せない。
まあ、あの後は、きっとリリーもエディルを受け入れられるようになって(言い方!!)、子どもをポコンと産んじゃうと思います。愛妻家なだけじゃなく、子煩悩ちちになるエディル。
王妃さまの生んだ王子(日本語、ヘン)と、同性同士で主従関係になるのもよし、女の子で王子に溺愛されるもよし。(そして王宮の柱の陰から悶々とその様子を眺めるエディル。オモロ)
お読みいただき、ありがとうございました!!